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小川 敦子 2021.03.12

これからの組織のあり方を共に考える。共に創る。
vol.4 企業の「らしさ」を追求する、インナーブランディング

「これからの組織のあり方を共に考える。共に創る。」をテーマに、全6回に渡りお届けするシリーズ「めぐるめぐる」。インナーブランディングの具体的な方法について、お伝えしています。vol.4は小川が担当し、コーポレート・ブランディングのプロセスをご紹介します。

Illustration:サン

めぐる めぐる

“もし、私たちが、人間性にあふれた世界に存在することができれば、一体何を実現できるだろう。”

(『ティール組織』フレデリック・ラルー著, マーガレット・ウィートリー&マイロン・ケルナー=ロジャーズ「もっとシンプルな方法」より著者抜粋, 鈴木立哉訳, 栄治出版社, 2018年)

連載企画「めぐるめぐる」について

この連載は、「これからの組織のあり方を共に考える。共に創る。」をテーマに、全6回に渡りお届けいたします。連載を担当するのは、ロフトワーク京都のプロデューサー小島和人とアートディレクター小川敦子です。それぞれが中小企業を中心に、ブランディング、新規事業立案、イノベーション改革という命題に応え、クライアント企業と共に並走してきた2人です。

変化はチャンスと捉え、ぜひ、私たちロフトワークと共に、これからの新しい組織ブランディングーインナーブランディングについて考えてみませんか。

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小川 敦子

Author小川 敦子(アートディレクター)

ロフトワーク京都 アートディレクター。1978年生まれ。百貨店勤務を経て、生活雑貨メーカーにて企画・広報業務に従事。総合不動産会社にて広報部門の立ち上げに参画。デザインと経営を結びつける総合ディレクションを行う。その後、フリーランスのアートディレクターとして、医療機関など様々な事業領域のブランディングディレクションを手掛ける。そこにしかない世界観をクライアントと共に創り出し、女性目線で調和させることをモットーにしている。2020年ロフトワーク入社。主に、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を軸としたコーポレートブランディングを得意領域とし、2021年より経産省中部経済産業局、大垣共立銀行が中心となりスタートした、東海圏における循環経済・循環社会を描く「東海サーキュラープロジェクト」のプロジェクトマネージャーを担当。

Profile

原点に立ち返り、「らしさ」を追求する

社会に対して、何が提供できるのか、どのような価値を提供できるのか、企業の理念や商品・サービスの持つ強みから、中核となる価値「らしさ」を定めることが、企業のブランド価値を構築するコーポレート・ブランディングの本質です。

この「らしさ」を社内で追求し、ビジョンを共有し合い、足並みを揃え、社内からモノ・コトが生まれてくる仕組みを創る「インナーブランンディング」から、コーポレート・ブランディングをスタートさせることをロフトワーク京都では、現在、推奨しています。

「らしさ」を明確にするために、原点=ルーツに立ち返って、自分たちが大切にしてきたこと、大事にし続けたいことは何なのかをインタビューによって明文化し、さらに、ワークショップやディスカッションを通じて、とことん社内で追求し合い、「気づき」を得ること。この過程こそが何よりも重要になります。

社内からモノ・コトが生まれてくる仕組みー「生み出す」のではなく「生まれてくる状態」を創ること。生態系のように内側から変化が生まれてくる状態を創ることがデザイン経営の本質であり、ロフトワークが手掛けるインナーブランディングは「生まれてくる状態」そのものを生み出すための方法でもあります。これを総称して「エコシステムの創造」と表現しています。

存在目的・存在意義がブランディングの中核になる

経済活動による利益の追従のみを目的とした事業戦略、ビジョンや目標の設定だけでは、社内・社外の共感を得ることはできません。今、社会が求める企業像とは、自社の利益追求のためのあり方ではなく、社会との共存共栄やより良い未来の創造のために存在するアイデンティティを持つことです。

社会のために、企業ができることは何か。何のために自分たちが存在しているのかー存在目的や存在意義に基づいたアイデンティティをコーポレートアイデンティティ CI =中核となる価値に据えることが、ブランディングの意義です。

また、この中核となる価値=コアバリューに向かって、あらゆる経営戦略に一貫性をもたせることが重要です。事業戦略(短期・中期・長期事業計画)、財務戦略といった経済活動としての戦略だけでなく、人事戦略も重要な経営戦略として一貫性をもって進めていく。

社内での「総合体験」として、人材育成、昇格評価制度、新規採用制度、給与設定といった人事制度をデザインする。どのような人材が企業にとって望ましいのか。そのために、どのように人材に育成するのか、人事を戦略的に構築することによって「生まれてくる状態」そのものを創り出していくことが可能となります。

これが、インナーブランディングを実施する最大のメリットです。

A brand is a “Name,term,design,symbol,or another feature that identifies one seller’s good or service as distinct from those of other sellers .”     

ブランドとは、商品やサービスを競合他社から明確に区別し識別させるための名称・言葉・デザイン・シンボルその他の特徴である。(American Marketing Association:AMA)

コーポレート・ブランディングのプロセスについて

では、ここから、どのようなプロセスでブランディングを進めていくのか。全体の工程をお伝えしていきます。ただし、これが全てでも、絶対ということではなく、その組織の状況や企業が目指していく方向性を加味し、プロジェクトを各企業ごとにアレンジして、オリジナルで設計していきます。プロジェクトをより動的に設計したいときは、いくつかの工程をあえて同時進行で実施することもあります。

コーポレート・ブランディングのプロセス

1)事前ヒアリング・リサーチ・分析 (実施期間:約1ヶ月)
事前のヒアリング、リサーチによって現状分析を実施し、仮説を設計する。   

2)プロジェクトマネジメント 初期プランニング期間:約10日間)
1)の仮説に基づいて、プランニングを設計し、プロジェクト全体のマネジメントを開始する。

3)インナーブランディングプロセス1:社内ステークホルダーインタビュー(実施期間:約1ヶ月)
存在目的=企業理念に基づいて、短期・中期・長期的な事業戦略を打ち立てることができているか、戦略を実行していくための組織体制が整っているのか、組織文化や風土は事業戦略と一致しているのか、時代にあったビジョン・バリュー・ミッションが策定されているか。インタビューによって、企業内の意識解離の原因を根本的に探り、課題の根っこにある本質や文脈を捉え、原点を明文化する。

4)インナーブランディングプロセス2:マネジメント人材の育成/座学編(実施期間:約1ヶ月)
意識改革短期プログラムワークを実施することによって、社内の事業を戦略的かつ効果的に動かしていく、広報、事業企画、組織人事などのマネジメント人材の育成へ将来的に繋げていく。
(デザイン経営・デザイン思考・コーポレートブランディング・プロジェクトマネジメント) *プログラム設計は、事業体や業界によって適宜設計

5)インナーブランディングプロセス3:マネジメント人材の育成/ワークショップ編(実施期間:約1ヶ月)
インタビュー結果を踏まえて、ワークショップを実施する。MI=マインド・アイデンティティ=大切にしたい自分たちの価値観を探り当て、どのように存在目的=企業理念に向けて進んで行くべきか、課題をどのように解決していくのか、B I=ビヘイビア・アイデンティティ=価値観を行動に落とし込むための行動指針設計。

6)インナーブランディングプロセス4: V I・C Iの策定実施期間:約2ヶ月)
何のために自分たちが存在しているのか、存在目的と意義を改めて明文化し、社内の共通のアイデンティティとして、VI=ビジュアル・アイデンティティ、CI=コーポレート・アイデンティティを策定する。

7)インナーブランディングプロセス5:ブランド・コラテラルの策定(実施期間:最低半年間〜)
6の工程を踏まえた上で、CI=ブランドシステムの中核を担うものと位置付け、一貫性をもって、ツールの制作を実施する。内外に向けた、総合体験としてのデザインを構築する。 名刺/封筒/カタログ/サイン/ユニフォーム デザイン制作、広告/ポスター制作(インナーおよびアウター)WEB/SNS制作(インナーおよびアウター)

8)ブランドマネジメント(実施期間:最低半年間〜)
中核となる価値=コアバリューに向かって、あらゆる経営戦略に一貫性をもたせることが重要。経営戦略とは、事業戦略(短期・中期・長期事業計画)、財務戦略といった経済活動としての戦略だけでなく、人事戦略も経営戦略として一貫性をもって進めていく。社内での「総合体験」として、人材育成、昇格評価制度、新規採用制度、給与設定といった人事制度を長期的な目線で構築することによって、「生まれてくる状態」そのものを創り出していく。

9)アウターブランディング(実施期間:最低半年間〜)
デザインリサーチを主体とした新規事業開発、プロダクトブランディング、オープンイノベーション

以上が、コーポレート・ブランディングのプロセスの一例になります。

ブランディングは結果そのものよりも、プロセスそのものを大事にします。それは、プロセスの中に、たくさんの気づきがあり、気づきによって、本質的な変化・変革を組織にもたらすことができるからです。

また、プロジェクトを設計し、パートナーとして並走する私たちにとっても、それぞれの企業の方々から、たくさんの気づきを頂いています。それは、単純に仕事、働き方という領域を超えて、思想、生き方といった「どう生きるか」ということまで及ぶことが多く、非常に学びが多いです。毎回のプロジェクトが、私たちにとって、学び、そのものです。

次回は、「共創」をテーマに据えた、ブランディングプロセスについて、お届けします。

ブランディング事例

沖縄大学

ビジョンを可視化し、偏差値競争からの脱却を目指して行われた、WebサイトリニューアルとVI制作。今後も沖縄大学が選ばれる大学でありつづけていくべく、大学内の意識改革や沖縄の高校生や親世代からの支持を得るためのブランディングプロジェクトを支援しました。

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株式会社ソーキ

株式会社ソーキは、計測機器レンタルのリーディングカンパニーです。既存事業の拡大や新事業を模索するフェーズへと経営方針の転換を図るべく、その第一歩としてリブランディング実施を決定。コーポレートアイデンティティ(CI)の刷新を実践するパートナーとして、ロフトワークを選定しました。

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Member

小川 敦子

株式会社ロフトワーク
アートディレクター

Profile

小島 和人(ハモ)

株式会社ロフトワーク
プロデューサー / FabCafe Osaka(仮)準備室

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The KYOTO Shinbun’s Reportage
京都新聞論説委員が見る京都ルポ「課題の価値」