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諏訪 光洋, 関井 遼平, 松田 絵里 2026.02.03

企業の可能性を世界に「ひらく」、ロフトワークが「公募」
プロジェクトにこだわり続ける理由

ロフトワークは、公募を企業の可能性を世界にひらく共創の手法として位置づけ、オンライン公募プラットフォームAWRDを活用しながら、多様なプレイヤーとの協働を通じて企業の課題解決と新たな価値創出に伴走してきました。

オープンイノベーションの推進や共創スペースの開設など、企業が自らを「ひらく」ことで積極的にコラボレーションに取り組む動きが、近年ますます活発になってきています。社外のプレイヤーとの接点をつくり、新しい視点の獲得や新規事業につなげるさまざまなプロジェクトにおいて、これまでロフトワークは多様な領域の企業との伴走を続けてきました。

なかでも特徴的なアプローチとして、ロフトワーク自らが運営するオンライン公募プラットフォーム「AWRD(アワード)」を活用した、「公募プロジェクト」が挙げられます。

一般的に公募は、作品を応募するクリエイターにとって、その後のキャリアを切りひらくきっかけを提供する場として知られています。その一方で、作品を募集する企業にとっての価値は十分に共有されてきたとは言えません。本記事では、企業を課題解決に導く手段としての公募に、ロフトワークが見出してきた価値と手応えを紹介します。

循環型経済をテーマにしたグローバルアワード「crQlr Awards」の展示の様子

創業時から続くロフトワークの「ひらく」精神

課題に直面する企業やクリエイターの可能性を「ひらく」ことは、ロフトワークが創業以前から大切にしてきた姿勢です。 1990年代のニューヨーク・ブルックリンに集まっていたクリエイター/アーティストは自らの拠点を外にひらき、出会いやコラボレーションを生む文化が広がっていました。そうした環境に身を置いていた代表の諏訪にとって、その光景はロフトワーク創業につながる最大のインスピレーションとなったのです。

その後、2000年に「クリエイティブの流通」をミッションに株式会社ロフトワークを設立。同時に、「クリエイターの仕事が世界に循環するプラットフォームを作りたい」という思いで誕生したのが、ポートフォリオサイト「loftwork.com」でした。

インターネットバブルの直前でもあったその頃、インターネットはこれまで繋がっていなかったさまざまなモノ/コトを繋げはじめていました。ロフトワーク当初はイラストレーターのオンラインコミュニティとなり、ゲームやTシャツのコンテンツを数多くのイラストレーターとつくるプロジェクトがうまれました。その後は大規模なサイトや空間をエンジニア,デザイナー,建築家など複雑な技能を持つクリエイターとつくる形にプロジェクトは進化しましたが、その過程では公募的なプロジェクトが数多く存在し、新人や若手の才能と共にロフトワークは発展してきました。

「YouFab Global Creative Awards」が切りひらいた公募の可能性

2012年には、クリエイターコミュニティとしてデジタルものづくりカフェ「FabCafe Tokyo」が設立されました。同時にスタートしたのが、FabCafe発の公募であるグローバルクリエイティブアワード「YouFab Global Creative Awards」です。

YouFab Global Creative Awards(2012–2021)第10回までのメインビジュアル

デジタルものづくりの認知向上や、クリエイター発掘、業界活性を目指し立ち上げられたYouFabは、やがて回を重ねるごとにさまざまな企業とのコラボレーションが生まれるグローバルなプラットフォームとして活動の幅を広げていきます。

2016年の第5回開催時には、協賛企業のヤマハ株式会社とグランプリ受賞者とのコラボレーションが実現。同社の開発チームと受賞者が共創し、プロトタイプの開発および展示に取り組むプロジェクトへと発展していきました。

YouFab Global Creative Awards 2016 ヤマハ賞 OTON GLASS — 読字が困難な方のためのスマートグラス

2012年の初回時から2021年の第10回目まで、ロフトワークは10年に渡るYouFab運営を通じて、クリエイターと企業を「ひらく」アプローチとしての公募に、確かな手ごたえを感じるようになっていました。

YouFab Global Creative Awards 2017 授賞式の様子

多くのプレイヤーにとって公募は、自身の可能性を世界に問い、その後の活躍につながるチャンスを獲得する絶好の機会となります。同時に企業にとって公募とは、これまで接点のなかった多様なプレイヤーと出会い、固定観念にとらわれない自由な発想に触れることで、オープンイノベーションにつなげる絶好の機会です。公募はプレイヤーにチャンスを与え、企業を課題解決に導く。両者にとって未来を「ひらく」ツールとなり得るのではないか。その可能性への期待は、のちにロフトワークが取り組むあらゆる公募プロジェクトの原動力となりました。

公募を通じて企業を「ひらく」、ロフトワークの実践

それでは、これまでロフトワークが公募というアプローチでどのように企業の課題解決に取り組んできたのか、実践例を通して紹介していきます。コーポレートメッセージの発信や社内外へのブランディング、新たなプロジェクトへの発展など、それぞれの成果からは、企業を「ひらく」ツールとしての公募の可能性が感じられます。

コーポレートメッセージの多様な解釈を示し、社会に浸透させる ー 日産自動車株式会社「身近な発明チャレンジ」

日産自動車株式会社が主催し、ロフトワークが企画運営を担った「身近な発明チャレンジ」は、同社のブランドプロミス「Innovation for Excitement / 新たな発想でワクワクを」を発信する共創プロジェクト「DRIVE MYSELF PROJECT」の一環として実施されたものです。同プロジェクトでは、Z世代を中心とした若年層へのアプローチに課題意識を持つ同社が、ブランドプロミスへの共感の輪を広げるために、アイデアソン・プロトタイピング・アワード(公募)の3つの施策を実施。「身近な発明チャレンジ」においては、ブランドプロミスと関連の深い概念である「ブリコラージュ」をテーマに作品を募集し、世界21ヶ国から200点もの応募が寄せられました。

身近な発明チャレンジの受賞作品

応募者独自の視点で表現された作品が集まることで、ブランドプロミスの「多様な解釈のあり方」が可視化されると同時に、作品を通じてコーポレートメッセージが社会に浸透していく、新たなコミュニケーションの可能性を感じさせるプロジェクトでもありました。

新しい領域を社会に問い、ムーヴメントにつなげる ー JST ACCEL 身体性メディアプロジェクト「HAPTIC DESIGN AWARD」

国立研究開発法人科学技術新興機構が推進する研究開発支援プログラム「JST ACCEL 身体性メディアプロジェクト」が主体となり、ロフトワークが企画運営として参加した「HAPTIC DESIGN AWARD」では、「触覚」にフォーカスした作品やプロジェクトを募集する、日本初の試みとして公募を実施。2017年の第2回開催時には20カ国から117作品が集まり、新たな分野としてのHAPTIC DESIGNの可能性を社会に提示する機会となりました。

HAPTIC DESIGN AWARD — 新たなHAPTIC DESIGNERを発掘・発表する受賞の様子

本公募の開催は、アカデミアの領域を社会に「ひらく」ことで、デザイナーやクリエイターといった新たなプレイヤーが参画するきっかけをつくり、ムーヴメントとして盛り上げていくことを意図していました。公募に寄せられた作品はアカデミアに新たな視点をもたらし、多様なプレイヤーや企業を巻き込んだ新たなプロジェクトへと発展。研究を社会実装につなげる、さらなる挑戦が生まれていきました。

クリエイターとの出会いを創出し、さらなるプロジェクトが生まれる可能性をつくる ー マクセル株式会社「クセのあるアワード」

マクセル株式会社と取り組んでいる「クセのあるアワード」は、アートとテクノロジーの視点がかけ合わされたユニークで先端的な作品を募集する公募プロジェクトです。同じくロフトワークがプロデュースを手がけた、京都・大山崎に位置する同社のオープンイノベーション拠点「クセのあるスタジオ」のプログラムとして企画したものであり、ファイナリストに選出された作品は、同スタジオ内で開催されたグループ作品展にて展示されました。

京都・大山崎のATVK内「クセのあるスタジオ」にて、ファイナリスト作品を展示

本公募は、オープンイノベーションの拠点としてスタジオを活性化させるためだけではなく、社員とクリエイターとの交流の場を設けることで、長期的な行動変容を促すことも目的に掲げていました。公募を通じて社内・社外にもたらされたクリエイターの視点は、BtoB領域で培われた同社の技術を「ひらく」ことにつながりました。

企業の思いやコーポレートメッセージを体現する ー ぺんてる株式会社「100点のアートクレヨン画展」

ぺんてる株式会社が2025年にAWRDプラットフォームを活用して企画・運営した「100点のアートクレヨン画展」は、画家・美術系YouTuberの柴崎春通氏と同社が共同開発した「アートクレヨン」を使用した作品を公募するプロジェクトです。日本全国から2,300点もの作品が寄せられ、応募作品の中から選出された100点を展示する展覧会を「日比谷OKUROJI」にて開催しました。

左から審査員の山田五郎氏、柴崎春通氏、石垣淳一社長

本公募は、アートクレヨンを使用した作品を募集することで同製品の魅力を広く伝えるだけではなく、開発の背景となった「大人が自由に描く豊かさを取り戻す」といった思いを、より多くの方々に感じていただくための取り組みでもありました。日比谷OKUROJIでの展示期間中、会場は応募者を含む数多くの来場者で賑わっており、AWRD上で公開されている100点の作品のカラフルな色使いと生き生きとしたタッチからは、ぺんてるが掲げる「表現するよろこびをはぐくむ。」というコーポレートメッセージが体現された様子を見て取ることができます。

競争ではなく、共創を生むアプローチとして

公募による「ひらく」アプローチが、企業にどのような変化の兆しをもたらしうるのか、4つの実践例を通して紹介してきました。これらの公募では、いずれも審査員やキュレーターによる応募作品の選定がおこなわれ、評価・受賞・顕彰の機会が設けられます。なかには受賞をきっかけに、その後の活躍につながるチャンスを掴んだ応募者もいるはずです。

ここで注目しておきたいのは、一般的な公募が優れた作品とその応募者を顕彰することを目的に実施されている一方で、ロフトワークが企画・運営する公募は、かならずしもそうではないということです。

ロフトワークでは、公募プロジェクトを「賞や名誉を与えるため」だけではなく、作品群の中から新たな価値の輪郭を見出すことや、対話やつながりの創出など、「その先」を見据えた目的のためにも実施します。

優劣を競い、応募者の高い能力や技術力を讃える公募がある一方で、企業が問いかけたテーマのもとに集まった作品を、対話や共創につなげていく公募のあり方。前者に対して後者は企業を「ひらく」アプローチとしてより有効であり、公募の「その先」に、企業とプレイヤーがつながる新たなコミュニティが生まれる可能性を秘めています。

「Open Call」が、企業を世界中のプレイヤーにひらく

crQlr Summit 2025 Tokyo — 2024審査員と受賞者によるトークイベントの様子

複雑さを増し続ける社会において、企業はあらゆる課題に直面することを余儀なくされるようになりました。課題の背景には複雑に絡み合う多数の要因が存在し、解決のアプローチを見つけることは以前にも増して困難になってきています。その時、世界中のプレイヤーの視点や技術、表現と接続することは、企業に突破口を見出すきっかけを提供し、新たな事業創出やイノベーションを成功に導く可能性を秘めています。

だからこそ、企業の技術や価値をどのように、誰に対して「ひらく」のか、あらかじめ設計することが重要です。手段は公募だけでなく、Webサイトでの発信、共創空間の開業、イベントなど多様に存在します。そして、より企業を効果的に「ひらく」ためには、企業の思いや姿勢を表現するプロジェクトのコンセプトと、参加するプレイヤーの好奇心を刺激する企画・コミュニケーションが必要不可欠です。

英語で「Open Call (オープンコール)」と表現される公募は、企業にとってまさに「ひらく」行為そのものとなり、オンラインによる公募は、時間や場所の制約から企業とプレイヤーを解放し、出会いの可能性を最大化します。本記事で紹介してきたように、ロフトワークは公募をきっかけに企業が変化し、新たな挑戦に向き合っていく姿を何度も見届けてきました。予期せぬ出会いを企業にもたらし、予測の難しい時代を切り「ひらく」手段として、これからも公募はさらなる力を発揮していく可能性を秘めています。

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