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岩崎 諒子, 宮崎 真衣, 後閑 裕太朗 2023.05.01

「変革期にある企業」の発信を考える。“愛される会社”になるために
「Loftwork is...」がしてきたこと【編集チーム座談会】

ロフトワークの多様な“クリエイティビティ”を探索するインタビューシリーズ「Loftwork is…」を始めて、約1年が経ちました。

連載がスタートした背景には、ロフトワークが組織の体制を変えたことがあります。

2022年4月をもって共同創業者の林千晶さんが会長を退任し、その年の春には「エグゼクティブ制度」が新たに設置され、3名がExecutiveに就任。新コーポレートメッセージ「We believe in Creativity within all」が掲げられました。

変化の真っ只中で立ち上がった連載は、ロフトワークと私たち(くいしん株式会社を中心とした)外部の編集チームが力をあわせる形で、走り出しました。

全10回にわたった連載の前半では、ロフトワークのリーダーたちの価値観に迫り、クリエイターではないロフトワークの人たちが語りえる「クリエイティビティ」への多様な解釈を探索。

後半では、様々な領域で活躍するロフトワークのメンバーに、ローカルやものづくり、FabCafe、チームデザインなどの「これから」について話を聞き、ロフトワークが発揮している“クリエイティビティ”をより具体的に理解できる連載を目指しました。

企業が大きな変化を迎えるとき、社内はもちろん社外からも動向が注目され、不安や期待が募るものだと思います。ロフトワークは「Loftwork is…」を通じて何を目指し、社内外にどんなことを発信できたのだろう?

記事制作を担ってきた編集チームで、私たちの1年を振り返る座談会を行いました。

Loftwork is...の編集チーム5名。Loftwork.comの岩崎諒子さん、宮崎真衣さん、後閑裕太朗さん、くいしん株式会社の小山内彩希、くいしん

座談会を通じて見えてきたのは、連載企画の根本には、「企業として大きく変化するタイミングだからこそ、より愛される存在になることを目指したい」という想いが強くあったこと。

そのために連載を通じて、「企業の価値観ではなく個人の価値観」「企業が変革したあとも残したい価値」を見せ、今後は、「無機質になりがちな企業の価値発信を、人間味と共に語ること」に取り組んでいきたいと考えていることまで言語化されていきました。

私たちの1年間が、自分たちの今後だけでなく、世の中で「変化の時期」を迎えつつある多くの企業にとっても何かのヒントとなれるかもしれない。そんな思いで、座談会の様子をお届けしたいと思います。

 

取材・執筆:小山内 彩希
撮影:村上 大輔
企画・取材・編集:くいしん

変革後、「愛される企業」を目指して始まった連載

岩崎諒子(以下、岩崎) 「Loftwork is…」の連載が始まったきっかけは、2022年4月から大きく会社の体制が変わったことでした。

創業者のひとりである林千晶が会長を退任し、執行役員としてのエグゼクティブ制度を導入して、3名が就任。

Loftwork.com編集チーム・岩崎諒子

岩崎 会社が大きく変革する中、「社内の人たちにも社外の方々にも、これからのロフトワークに安心してほしいし、期待もしてほしい」という気持ちが、コーポレートサイト「Loftwork.com」を運営する編集チームにも、エグゼクティブのひとりであるCulture Executiveの岩沢エリさんにもありました。

何かをやらなければいけないという想いに突き動かされるように、企画が定まりきっていない段階から、くいしんさんにご相談させていただいたんですよね。

くいしん もともとはエグゼクティブを含め、「ロフトワークの新しいリーダーを紹介する」ということだけ決まっていたんでしたっけ。

くいしん株式会社代表・くいしん

岩崎 そうですね。というのも、これまで「“ロフトワークの顔”と言ったら、千晶さん」という側面が大きかったんです。社内外から圧倒的に愛される人でした。だから千晶さんが退任したあと、誰がロフトワークを通じて愛されるのか?ということを考える必要があった。そうなったときに、まずはロフトワークの新しいリーダーたちの顔を見せていきたいという話になったんです。

くいしん ロフトワークに訪れた大きな変化は、“We believe in Creativity within all”というコーポレートメッセージが新たに掲げられたこともでしたね。

岩崎 コーポレートメッセージの中の「クリエイティビティ」という言葉を、リーダーたちが多様に解釈していく形になったのは、そもそもクリエイターではない私たち自身が発するメッセージの扱いかたに悩んでいたから。

とはいえ、私たちは、様々なプロジェクトを通じて、関わる人々の創造性を引き出すことをしてきました。そうしたこれまでの歩みも踏まえ、クリエイティビティを切り口に語れることがあるはずだと感じていたんです。

コーポレートサイトで「個人の価値観」を掘り下げる良さ

後閑裕太朗(以下、後閑) 「ロフトワークにとってのクリエイティビティについて語る」のではなく、あくまで「個人の価値観でクリエイティビティを語る」という形になったのは、連載第一弾の原さんの取材が終わってから決まったことでしたね。

Loftwork.com編集チーム・後閑裕太朗

後閑 一人ひとりのクリエイティビティへの考え方を見せていくことによって、結果としてロフトワークの考えるクリエイティビティが多面的に見えてくる。そういう帰納法的な順序で、CIの根幹にもなっている企業のメッセージを発信できるんだと気づけたことが、連載の前半で得たおもしろい発見でした。

小山内彩希(以下、小山内) 「創造性は誰にでもある」という前提がある上で、その発動条件ではないですけど、「ではどうしたらクリエイティビティが発露され、発揮できるのか?」というアプローチにまで迫れたことで、自分にも応用できる視点を与えてもらえたのがとてもよかったなと感じています。

原さんとエリさんは「どんな環境をつくるか」や「どんな働きかけをしていくか」がクリエイティビティを発揮できるか否かに影響することを実体験ベースで教えてくれましたし、麗音さんやケルシーさんからは、「“ふつう”を疑うことや、覆そうとすること」がクリエイティビティを発露するファーストステップだと伝えてもらえた気がしています。

くいしん株式会社の編集者/ライター・小山内彩希

岩崎 私は、北尾くんの、「この世で生き残っているすべてのものは、AかBの2択ではない、何かを探した果てに見つけた創造性によって存在している」という話が強く印象に残っています。クリエイティビティが生存戦略のひとつであるという解釈に触れて、私自身の視野が広がったと感じます。

くいしん たくさんインプットがありましたよね。僕は、連載の前半から「似た人がいない会社」というのが、ロフトワークのおもしろい特徴だなと感じていました。IT企業やクリエイティブな事業をしている企業って似たカラーの人が集まりがちだけど、ロフトワークはそうじゃない印象が強くて。バラバラの価値観や興味関心をひとつにまとめているのが、クリエイティビティというワードだったのかもしれない、とも思っています。

連載の途中からロフトワークに入社し、記事制作にも関わってこられた宮崎さんはどう振り返りますか?

宮崎真衣(以下、宮崎) 私が広報としてキャリアを積みたいと次の職場を考えていたとき、「Loftwork is…」は連載5回目までの記事が公開されていました。働く企業を考える上で、誰と一緒に働くのか? というのは自分にとって大事な要素だったので、入社前から読んでいたんです。

それまでロフトワークが手がけていることは、事例記事などで大まかに掴むことはできていたけれど、点で追ってる感覚で。組織としての具体的な姿までは見えてこなかったんです。

ロフトワーク広報・宮崎真衣

宮崎 でもこの連載を通じて、クリエイティビティというキーワードを頼りに、個人がどのようにチームワーク形成に働きかけているのかや、個人のクリエイティビティをどのようにプロジェクトに開いているのかといったことが見えてきて、ロフトワークという企業の人格が立ち上がったような瞬間がありました

この連載は採用コンテンツではないけれど、ロフトワークの人たちの考え方や組織のあり方を知る上でヒントになると感じています。

岩崎 たしかに、「求人応募者から『連載記事を読みました』という声が多い」といううれしい話を採用担当者から聞いていました。連載後半は、「ロフトワークの人たちが向き合う、“○○のこれから”」に趣を変え、様々な領域で活躍する人たちの活動からロフトワークのクリエティビティが見えてくる形を目指しました。会社が変化しても残したいロフトワークの価値を伝える記事をつくりたかったんです。

ロフトワークで脈々と受け継がれ進化してきた価値は、他者と調和できる対話力、じゃないかと思っています。他者との調和、そして、対話しながら新しい価値を共創していくことができるのがロフトワークの残したい価値だと、「ロフトワーク×地域共創」をテーマにした明里ちゃんの話からも改めて実感できました。企業同士でのプロジェクトと、地域とクリエイターのプロジェクトって、後者のほうが多様な人たちが関係するぶん複雑になりがち。そこをハッピーにまとめるために明里ちゃんがどんな工夫をしているのかを紹介できたんじゃないかと思います。

一方で、金岡くんらがFabCafe Tokyoを通じて、R&D的な立ち位置でアーティストやエンジニア、サステナビリティ領域のプレーヤーの方たちと自主プロジェクトを通じてユニークなコミュニティを広げていたり、木下くんはものづくりをしている人たちと真摯に向き合って社会の構造に化学反応を起こそうとしていたりする。FabCafeを動かすメンバーの好奇心と創造性がドライブして、リアルの場を介して社会やクリエイターとの多面的なつながりと活動が生まれていることを紹介できたのは、FabCafeコミュニティの可能性を表現する上で大切な過程だったと思います。

ロフトワークはプロジェクトを通じて、人、空間、コミュニティなどの未来の可能性を開いてきたことが、Aboutページ「Unlock potential(ポテンシャルをアンロックする)」に記されている

岩崎 上ノ薗くんがより健やかなチームづくりのためにみんなの経済性と働きがいの両方を切り捨てない方法を模索する姿は、今まさにロフトワークという組織が社内で対話を繰り返しながら取り組んでいることでしたが、そこに共感してくれる人たちが必ずいるはずという感覚を強く持っていました。

だから地域共創、ものづくり、チームデザイン、FabCafe、といったテーマで企画をしてきましたが、必ずしも「ロフトワークがこの領域が強い」ということだけを言いたかったわけではなく、あくまで一人ひとりが持っている対話する力や、他者への想像力をどうやって見せていけるかという問いに向き合った結果だったんです。

テキストコミュニケーションで意識した「外部性と余白」

岩崎 あとはやっぱり、くいしんさんはじめ社外の編集者・ライターさんに、私たちが伝えたいことを引き出してもらったというのが、いい連載になれた理由として大きいなと感じています。

後閑 コーポレートサイトの運営は、社内の編集チームだけで賄うケースが多いかもしれませんが、社内の人同士で取材を実施し、読み応えあるインタビュー記事をつくろうとすると、どこかで限界を迎えるのかなと思いますね。自分たちが想像できる範囲以上の言葉が出てこないというか。僕自身もコーポレートサイトの記事を日々つくりながら、会社に慣れてくるほど、社内の人の言葉を引き出す難しさを感じています。

岩崎 うん、わかる。社内の人だけだと話す側もきっと、安心しきっちゃうところがあるんだろうね。安心しきると、どうしても言葉や思考が磨かれない。外部性がないと、読み手が共感できるポイントも内側に閉じたものになっちゃって、それが伝わりづらさ、あるいは「愛されにくさ」につながってしまうのかも。

くいしん そう聞くと、今回の編集チームはいいバランス感だったなと思いますね。

記事のつくりかたや見せ方の話で言うと、僕は、諒子さんが企画段階で言っていた「喋りながら迷っていい。探索してる様子をそのまま見せたほうがいい。解釈のさまで遊べるほうがいい。ぼんやりしたものであるほうがいい」というメモを大事にしていて。「曖昧なものを曖昧なまま残す」ということを全部の記事制作で意識していました。

くいしん テキストで何かを発信することの価値って、本質的にはいかにして余白をつくるかという話だと思うんですよね。その余白の部分に人は想像力を働かせるし、想像から新しい世界が広がっていく。

小説にしても、「小説をわかりやすくしよう」と突き詰めていったら、映画やドラマなどの映像、もっと言うと究極、「TikTokにしたほうがいい!」となると思うんです。

小山内 私としては、曖昧なものを曖昧なまま残す=読む人の“思考が入り込む隙”を残すと解釈して、思考が入り込む隙がなくなっていないか自分自身に問いかけながら連載の各記事を執筆しました。

「ここはもっと読者と一緒に考えたい」という話に対しては、断定的な表現を避けたり、飛びつきやすい正解に見えていないか気にしたりして、曖昧さと明瞭さのバランスをふりわけていました。

宮崎 例えば、課題に対して、「こうあるべき」という“べき論”のように、正しさや合理性が前面に押し出されたものって、「その通りなんだけど、ちょっと息苦しい」という印象を与えてしまうことがあります。ケースによっては必要なアプローチだけど、ロフトワークが発信する事例記事のようなものにも、じつはもっと余白があっていいのかもしれないですよね。

無機質な内容になりがちなものに人間味を持たせる

岩崎 今回、この座談会で連載を終わろうと思ったのは、ロフトワークにいる個人にフォーカスする記事について、ある程度やりたかったことはやり切ったな、という達成感のようなものが編集チームにあったから。その達成感の正体はなんだろうというのを、改めて言語化しておきたいと思っての、座談会企画だったんです。

この連載で得た経験を踏まえて、今後は、ロフトワークのプロジェクトで挑戦していることであったり、新事業創出を目指す「ユニット」が見据えている未来であったりを、人の魅力と絡ませながら伝えていけるんじゃないかと思っていて。人ひとりだけに焦点を当てるのではなくて、プロジェクトやユニットの活動にも焦点を当て、その魅力や価値を伝えていきたいと考えています。

宮崎 人の姿が見えづらいプロジェクトの成果を、これまでと同じ事例記事とは違うやり方で、どういう見せ方ができるのかということは、ぜひ考えてみたいですね。

岩崎 そうそう。やっぱり、愛される会社にしたいから。この会社の人たちに愛される要素がたくさんあることを、連載を通して「自分の仕事にも参考になる視点をもらえた」「これからも才能を発揮してほしい」といった声を社内外からもいただいて、再確認できたんですよね。だからもっと、人間らしい部分が見える発信ができたらいいなと思っていて。

岩崎 ロフトワークが手がけるいろんなプロジェクトを通してよく感じるのが、関わった人たちのいろんな節目に立ち会うことが多いということ。関わった人たちが、プロジェクトがきっかけでジョブチェンジや会社設立をしたり、プロジェクトのアウトプットで「国際的なアワードの賞を取った」といううれしい話も聞けたり。

それって、いろんな人生の特異点をつくるきっかけにロフトワークとして立ち会えた、ということじゃないかと思うんです。そして、特異点が生まれるってすごくドラマ性があること。「プロジェクトを通してこんなことができて、こんなふうにビジネスに使えます」と発信するだけじゃ、その面白さが伝わらないしもったいない。もっとその周辺の、温度感や人間味のある物語を伝えていきたいし、そのほうが生身の人間に発信するメッセージとして届くんじゃないかと思ったりします。

小山内 情報を受け取る側からしても、自分とは関係なさそうと思える無機質なものでもそこに人のストーリーが見えることで、共感できる部分を見つけられて、見る目が変わることって、たしかにありますよね。

後閑 プロジェクトの事例紹介は、ビジネス的な観点で捉えてもらえるかというところも大事にしないと、会社の売り上げにも影響する。

だからと言って、語り口までビジネスコミュニケーションの型にはめていれば良いのかというと、そうではないはずで。ビジネスのレンズを持って記事を読む人に対して、「一緒にレンズを覗く」ような、ドラマ性や共感性とともにプロジェクトの力を感じてもらえることが理想かもしれない。

くいしん 僕としてはSDGsの取材も数多くしている中で、経済合理性“だけ”を優先して数字を追いかけている企業って、「サステナブルでない」と思っているし、実際にそういう声もよく聞きます。だから愛される会社を目指す過程にあるものを、個人でもプロジェクト単位でも見せたほうが、今の時代は共感されるし、経済的にも潤うんじゃないかと。

宮崎 私たちが何かを選択するときの指標自体が、今までの常識には収まらなくなってきていますよね。企業であれば、売り上げ、実績、グローバル拠点の数、成長を見込めるのか……といったことだけでは選んでもらえない時代になってきている。

そういう前提に立った上で、経済性や合理性だけで測れないような価値をどのようにつくって発信していけばいいか、考えていく必要があるんだと思います。

おわりに

「やっぱり、愛される会社にしたい」

諒子さんが口にしていた言葉はロフトワークに限った想いではなく、自分の所属する会社に共感しながら働く人の多くが、少なからず抱く気持ちではないかと思います。

Loftwork is…は、連載を通じて、個人のクリエイティブに対する想いにフォーカスしてきました。諒子さんは「個人の価値観に迫ることが、企業の価値を伝えることにつながるのか?」という葛藤もあったといいます。

それでも私たちがこの形にこだわったのは、「愛されるものの多くは、その背景にいる人の顔が見えるもの」と信じているからです。

だからこそ、個々人が会社のビジョンや価値観をそのまま受け入れるだけではなく、個人の価値観を踏まえ自分なりに咀嚼して語れる必要があるのではないか?と考えました。

そう思えたのは、「We believe in Creativity within all」が、多様な価値観を許容する言葉だったからなのかもしれません。

現代は、不確実性が高く将来の予測が困難なVUCA(ブーカ)の時代。

テクノロジーの進化とそれに伴い次々と起こるイノベーション、気候変動やパンデミック、グローバリゼーションが文化や価値観にもたらした複雑性などが、同時代に存在する時代です。

だからこそ、これからの企業は、トップダウンの「管理型組織」ではなく、個人が自らの行動を決定する「自立分散型組織」であるべきではないかという議論がなされています。自立分散型組織は環境変化に強く、より素早く効率的な価値創造を可能にするためです。

連載を終えた今、ロフトワークを形づくる人たちの顔を思い出してもらうことで、ロフトワークという企業の温度感をより感じてもらえたら、という想いです。

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