有機的役割分担が生んだ、未来を照らすデザインツール
NANDA会受賞者インタビューvol.6「クリエイティブ・デパート賞」
『NTTレゾナント goo “未来ヒント”』プロジェクト
2020年で創業20周年を迎えたロフトワーク。節目を迎え「ロフトワークのクリエイティブってなんなんだ」を考える「NANDA会」を、オンライン上で実施しました。今回は、全25プロジェクトがエントリー。そのうち受賞した6プロジェクトの実施担当者にインタビューし、クリエイティブを創るマインドと姿勢を探るシリーズです。
今回ご紹介するのは、「クリエイティブ・デパート賞」を受賞した「NTTレゾナント goo “未来ヒント”」プロジェクトです。プロジェクトを担当したメンバーに話を聞きました。
聞き手:ロフトワーク シニアクリエイティブディレクター 高井 勇輝
ロフトワーク クリエイティブディレクター 長島 絵未
執筆: 北川 由依
編集:loftwork.com 編集部
全てのプロセスに新しい「トライ」を入れ込んだ
高井:成果物として作ったレポート「goo“未来ヒント”社会とユーザー変化を考える6つの未来」は、素晴らしい仕上がりだったね。ドキュメントのクオリティの高さや、デザインの美しさがNANDA会でも高い評価を得ていた。
伊藤:レポートは、ロフトワークがリサーチエージェンシーとして一方的に提案をしたわけではなく、クライアントとディスカッションを重ねた上で生まれたものなんです。作り方から一緒に作っていったからこそ、議論が深まったんだと思います。
山田:僕はプロジェクトが始まる時に、自分の存在意義を考えたんですよね。PMという立場だったけど、実質、主な進行は望くん(伊藤)に任せていたし、正直、僕がいなくても納品はできたと思うんです。じゃあ、「僕がいる意味って何だろう?」って。
出た答えが、ひとつひとつのプロセスをこのプロジェクトならではの「オリジナル」にすることだったんです。リサーチをするとかワークショップをするとか、工程ごとにそれぞれ色々なフレームワークがあるけど、それぞれに対して、このプロジェクトならではのトライを入れ込むことに注力しようって。
でもオリジナルなやり方だから過去事例もないし、ゴールイメージも共有できない。必然的に、クライアントと共にやり方から一緒に作るチャレンジをする形になりました。
漫画家と編集者のような有機的役割分担
高井:今回のレポートは望くんが主に書いたんだよね。このボリュームだと外部のライターをアサインすることも多いと思うけど、自分で書くことにしたのはどうして?
山田:実はあえてそうしたというよりは、インタビューの量が膨大だったのと、どう編集・構成するかも複雑だったので、自分たちで書きながら考えるしかなかったんです。
最終的に人を動かす力のある言葉が必要な「6つの未来ヒント」はコピーライターの方にお願いしましたが、内容のテキストのほとんどはロフトワーク、クライアント、ライターが何度も議論をしながら作りました。
未来にどんなことができそうかを示す「gooの未来を考えよう!」は、クライアントに書いていただいた箇所ももちろんありますが、ほとんどは望くんがさながら作家のように書いていました。クライアントと一緒に作っているのだけれど、その作り方は、漫画で言えば、クライアントが編集者で、望くんが漫画家のような関係でした。
長島:普段ロフトワークは、ビジョンを語るクライアントに対して、編集者ポジションから関わることが多いから、反転したのは珍しいよね。
高井:最初からそう意図して設計したわけじゃないけど、結果的に、これまでの役割から一歩踏み込んで、望くんが自分の言葉でレポートを書き上げられるくらい深く考えて最後まで書ききったってこと自体が、新しい挑戦で、このプロジェクトの強さなのかもしれないね。
浅見:そうだね。そこに、サポートできる山田くんがいたからこそ、有機的に役割分担しながらプロジェクトを進められたし、クライアントとの思いが詰まった成果物に仕上がったんだと思う。
伊藤:苦しさは別になく楽しみながら「こうなったらいいな」を書けた感じはあります。クライアントのやりたいことと、自分のやりたいことの接点がうまく見つかったというのもあるかもしれませんが、浅見さんと麗音さん(山田)が舞台を整えてくれて、あとは思いっきりバット振るだけの状態にしてくれていたからだと思います。
山田:僕はこのプロジェクトでは望くんのための舞台を作る役割だと思っていたから。「あとは思いっきり振れ」って打席に立ってもらったら、書き上がったものを見て、「こんなスイング持っていたんだ」って僕も驚いた(笑)。
高井:主観や意思とも言い換えられる、望くんと麗音くんの茶目っけがあったからこそできたプロジェクトなのかもしれませんね。NANDA会の賞名の候補にも「置きにいかないで賞」など、ユニークさを評価するものがあった。「クリエイティブ・デパート賞」を選んだのはなぜ?
伊藤:「デパート」って言葉がいいなって思ったんですよね。デパートって、単一のものを扱う専門店ではなく、目利きが日本中・世界中のいいものを取り揃えている百貨店じゃないですか。プロジェクトメンバーがこれまで培ってきた興味や知識、能力をうまく合わせてこれができたって意味では、「クリエイティブ・デパート」だなって思って決めました。
長島:なるほどね。「クリエイティブ」なものを揃えている、まさしく渋谷・道玄坂のデパートだね(笑)
”好き”が滲み出るアウトプットこそが関係性と信頼をつくっていた
山田:一生懸命に時間をかけることだけが正解ではないし、プロジェクトの成功を保証するわけではないけど、このプロジェクトは、望くんがかけた時間と頑張りが、全部クライアントの皆さんに届いている実感がありました。
高井:どのプロジェクトも一生懸命がんばるけれど、必ずしもその頑張りがクライアントに伝わるとは限らないじゃない? 今回それが全部伝わったのはどうしてだろう?
山田:漫画家と編集者の関係ができていたことが大きいですね。顔の見えないライター、ではなくて望くんが魂込めて書いている姿をクライアントも見ていてくれたのではないでしょうか。クライアントもそれに応えて1文字1文字細かく校正するくらいコミットしてくださったし、信頼に繋がったんだと思います。
浅見:望くんがこのプロジェクトの分野を「好き」だったことも大きいんじゃないかな。正しいことを何度言っても伝わらなくて、血が通っていないと意味がない。今回は望くんのフィルターを通して「俺はこれが好きなんです!」「これがいいと思います!」っていう血の通ったアウトプットが出てきたていた。クライアントが最後に「プロジェクトを終わらせるのが寂しい」とまで言ってくださったのが、それを証明していると思う。
山田:このプロジェクトではうまくできていたけれど、実際のところ、有機的な役割分担を行うのってすごく難しいですよね。「望くんがこの領域は全部持った方がクオリティを担保できそう」とか、「その分、僕は違う部分で貢献しよう」とか、作業量できれいに線を引いた役割分担ではない方法を、ひたすら考えたプロジェクトでした。
長島:それは麗音さんと望くんがお互いのことを知って、理解しようとしたからこそだと思うんだよね。「山田麗音」と「伊藤望」としてではなく、ただの「同僚のディレクター」として見ていたら、そういう役割分担はできなかったはず。
山田:望くんがブレイクスルーする瞬間を目の当たりにして、他のプロジェクトでもプロジェクトメンバーが輝けるポイントを考えるようになったな。
高井:ロフトワークのメンバーでも、クライアントでも、クリエイターでも、大事にしている価値観や評価されるポイント、個々が輝ける部分をしっかり把握することが、いいプロジェクトに繋がるってことだね。
これからの挑戦
長島:じゃあ最後に、今後チャレンジしていきたいことを教えてください。
伊藤:僕は毎月違うことをリサーチしながら、自分なりの強いテーマを見つけていきたい。「NEWVIEW」ってプロジェクトがすごいなって思っていて。
アウトプットもすごいけど、最初スタートアップで始まり資金調達をして、伴走するうちにサービスも大きくなっていって、それをずっと並走して関わっているのが羨ましい。僕はどんなプロジェクト楽しいのだけれど、その分、短期のものは終わった後にちょっと寂しくなってしまう。一貫したテーマを持ってこれからはプロジェクトに取り組めればいいなと思います。その一方で、いろんな分野を知っておくと、追求したいテーマにも生かせるから、どちらもやっていけたら最高だなと。
山田:僕の良いところは「0.5コンバート力」と自負していて。「コンバート」ってサッカーとかでポジションを転向させることなんだけど、「0.5」は全く違うポジションにガラッと変えるんじゃなくて、得意領域から半歩踏み出すような投げかけをして、ちょっとだけ領域を広げさせたいって気持ちを表していて。
今回のプロジェクトでいうと、望くんにリサーチをしてもらいつつも、その中でレポート執筆というクリエイティブなこともしてもらった。これを僕はクリエイターにもやってて。「あなたのこの仕事を見て、これをお願いします」ではなくて、「こんなのできたら楽しくない?」って僕もクリエイターも知らない、新しいことに挑戦してもらっている。
それを今後はクライアントにも、どんどん提案していきたい。意味や価値を広げるとか引き上げるところで、活躍できると思うから、今後もたくさんのプロジェクトに関わって、いろんなプロジェクトを「0.5コンバート」していけるといいなって企んでます。
Next Contents