「想像力」と「責任感」で無関心の壁を壊す。
NANDA会 受賞者インタビュー vol.4
ネオロフトワーク賞受賞、「仮設マガジン構築」プロジェクト。
2020年で創業20周年を迎えたロフトワーク。節目を迎え「ロフトワークのクリエイティブってなんなんだ」を考える「NANDA会」を、オンライン上で実施しました。今回は、全25プロジェクトがエントリー。そのうち受賞した6プロジェクトの実施担当者にインタビューし、クリエイティブを創るマインドと姿勢を探るシリーズです。
今回は、「ネオ・ロフトワーク賞」を受賞した「株式会社ASNOVA 仮設マガジン<POP UP SOCIETY>構築プロジェクト」を担当したクリエイティブディレクターの国広信哉とプロデューサーの小島和人、NANDA会にファシリテーターとして参加した伊藤望に話を聞きました。
聞き手:ロフトワーク シニアクリエイティブディレクター 高井 勇輝
ロフトワーク クリエイティブディレクター 長島 絵未
執筆: 北川 由依
編集:loftwork.com 編集部
受賞プロジェクトのレポートはこちらをご覧ください。
仮設足場のレンタル企業が挑戦したメディア事業 新規事業担当者の“不安”をいかに“ワクワク”に変えたのか CSV経営のスタート地点 若手人材と足場業界をつなぐメディア構築
「無関心の壁」を壊すアイデアを一から考える
高井:まずはASNOVA仮設マガジン<POP UP SOCIETY>構築プロジェクトの出発点から教えてもらえますか?
国広:仮設足場関連の業界は、リフォーム市場の好況を受けて、売上は伸び続けている一方、現場を支える人材は減少傾向にあり、特に現場を支える若い人材はますます減少する未来が見えています。このPJのテーマを見ると、若い人材に目を向けてもらって足場業界で働く人を増やしたいよねってところから始まりました。
リサーチをする中で、足場は町中で見かける機会が多いけど自分事ではない遠い世界の話にであって、そこには「無関心の壁」があることが見えてきました。じゃあ、無関心の壁を一歩でも超えて、少しでも興味をを持ってもらえるところを目指したいよねって、プロジェクトをデザインしました。
高井:プロジェクトの初期段階で、人材不足の解決にいきなりアプローチするのではない方法を提案していたんですね。
小島:そうですね。最初は足場レンタルの本業を生かした新規事業の話だったんですけど、お題を問い直して、「そもそもやるべきことは何なのでしょう」とイチからプロジェクトを考えていきました。
国広:いきなりメディアサイトの話になったわけではなくて、クライアントとディスカッションしながらお題を作って行った感じですね。ハモさん(小島)がクライアントと継続的にコミュニケーションをとり、関係性を作っていたから、当初のお題に対して問いだてから見直した提案にも納得してもらえたのは大きかったと思う。
「共創」を超えるための「越境」
高井:一番のクリエイティブのポイントは何ですか?
国広:やっぱり「越境」です。特に足場業界以外の人達に届けるためには、色々なジャンルの結節点を作ることが大切だと思っていて。一般の人達が読んでも、「おもろいやん」ってなり日常から足場業界を新たに知る機会を作れるかを意識していました。次に熱量。コラボレーターの人達が参加したい気持ちになるよう盛り上げましたし、クリエイターさんにも「参加してよかった」と思ってほしいしいので、「あなたじゃないとダメな理由」を伝えていました。
高井:なるほど。
国広:クリエイターと関わるだけの「共創」を超えていくには、プロジェクトの意義に外部の人達が共感しれくれるかや、関わる人が自分の能力や得意領域じゃないところへのチャレンジがあるかが重要です。
高井:それで、コラボレーターやクリエイターさんにも「越境」してもらえるよう動いていたんですね。
ロフトワークっぽさは、ある?ない?
伊藤:「ネオロフトワーク賞」という賞名は、ロフトワークが大切にしてきたプロジェクトマネジメントの歴史を尊重し、そこからジャンプする意味から名付けられました。PMの基礎があるからこそ「破」や「離」ができるんだろうと、当日は盛り上がりましたね。
あと、「ロフトワークっぽくない」という意見もあって。それは「ロフトワークらしさがない」とイコールではなくて、日頃から抱いていた「僕らってこういうもの作りたかったんだっけ……」というモヤモヤを、理想として突き抜けた感じがありました。
国広:今回作ったメディアは、「ここでしか読めない」というコンテンツがないと誰も読まないだろうなって「どこにもない情報を出したろ」ってことは決めてたんですよ。ネットで探せば大抵の情報は出てくるし、テーマを絞っても新しいジャンルがでてきたねで終わってしまう。
参考にしたのは、移行や移民かをひと括りにしたときに、社会でどういうインパクトがあるのかを様々な人が寄稿しているとして雑誌「マイグランドジャーナル」この新しい価値観を提示する雑誌のムーブメントとお題がマッチしたので、敢えて「見たことがないものを作ったろ」とチャレンジしました。
高井:「ロフトワークらしさ」の話が出ていましたが、国広さんはNANDA会を踏まえてどう思いました?
国広:「ロフトワークらしいプロセスを踏まないといけない」って檻の中にいる人が割といるのが意外でしたね。例えば、バリュープロポーションやカスタマージャーニーマップって、お題に対しての一つの整理方法でしかない。にも関わらず、それらを「使わなければならない」みたいな先入観があるのかなって。一方、今回のプロジェクトでは、フレームワークを一切使っていない。NANDA会で「こういうのもありなんだ」って反応を見て、ロフトワーカーの固定概念を少し壊すことに貢献はできたのかなって思った。
小島:僕らは、クライアントが前に進むためにやるべきことをやるだけ。だからプロセスや手法は問いませんでしたね。
国広:極端に言えば、「私はロフトワークに染まらない」と主張する人もいるよね。それほど「ロフトワークらしさ」みたいなものがあるのかな……。あるっぽく見えるけど、「それが何かはよくわからん」から警戒しちゃう人もいる気がするんですけど。
高井:あるかないかもわからない「ロフトワークらしさ」に囚われてしまっている、と。
国広:一部の人は「ロフトワークらしさ」の答えや正解を探すけど、まず僕は「そんなんないっすよ」って言いたい(笑)。手ぶらでやるんじゃなくて、PMなどの地道な勉強は必要だけど、あるかないかわかならい「らしさ」に囚われる必要はないんじゃないかな。
小島:「らしさ」に囚われる必要はないけど、僕は「視点を先に置いておく」ことは必要だろうなと思っていて。クライアントが1年後を考えるなら僕は3年後を考えるし、クライアントが10年後を考えるなら僕は20年後を考える。常に未来を妄想・推測することで新しい取り組みや意図を生み出すことができるんじゃないかと考えています。
人間臭さこそがオープンコラボレーションを生む
国広:色々言ったけど、なんだかんだ人間臭いところが一番大切やなって思ってて。歪み合うのはいいんすけど、お互い冷めているのはダメ。「プロジェクト期間中は一緒にやろうぜ」っていう人間臭さが、クライアントやクリエイターも含めて大切で、それがないと何もできないよね。
小島:うん。新規事業担当者は、社内での風当たりが悪くなりやすい。だから僕らがクライアントの拠り所をつくるべきで。ワクワクや楽しみの拠り所になれたら、1年〜2年後に効いてくるんですよ。
国広:個人は歪さや偏りがあるもの。完璧な人なんていない。だからその歪さをチームで分かり合える状態がまずはスタートな気がして。クリエイター含めたチーム全体で、「この人はこれが得意だけど、これはできないからサポートしよう」と見えてきたら、一体感が出るよね。このプロセスをすっ飛ばすと、PMできないんじゃない?
「ロフトワークらしさ」が仮になかったとしても、多様性を認め合うチームをどう作るかみんなが考えているのは逆にロフトワークらしいよね。オープンコラボレーションってよく言ってるし。ただ仲良くやろうと言うよりも、歪さや偏りの認め合いと衝突がポイントかなって気はする。
伊藤:たしかに他のプロジェクトでも、意見や対立によってAかBの議論だったところにCという選択肢が生まれて、納得することもある。
高井:Cの選択肢が生まれるためには、両者がプロジェクトの成功や社会のための価値づくりの視点を持っていることが条件だよね。
国広:あとは、前例や答えのない物事を考えるのを楽しめる能力も必要かな。プロセスのデザインとも言えるかもしれないけど、半年後納品のプロジェクトのWBSを作るのってかなり想像力が求められるから。
高井:正解があると思ってWBSを作ると、「ここをこうしたら、もっと面白くなるんじゃないか」ってことが入らないですよね。納品に向けて抜け漏れないWBSを作れるかもしれないけど、そもそもWBSに沿ってやれば大丈夫なんて絶対ないから。
ディレクターに求められる「想像力」と「責任感」
国広:正解を探してしまう話に近いけど、「最初から全部成功させよう」ってスタンスは違う気がして。自分で工夫してダメだったのはいいけど、全部平均的にやろうとはしない方がいいですね。あとは、学び続ける力。
高井:素直じゃないと、学び続けられないですよね。
国広:「なんとなく」にしない質問力も必要かもしれないですね。「本当にこうなって、こういう要件になっているんですか?」みたいな。腹落ちしないと進まない。
高井:PMに正解はないから、言ってしまえば「決め」の問題じゃないですか。その「決め」を自分がすべきだと信じ切れるのか、背負えるか。信じ切るためには、そう言えるだけのインプットをしないといけない。
松永:「クライアントがこう言っているし、予算もスケジュールも……」と言い訳を考えていた時期が僕にもあったけど、振り返るとすごいつまんないことやっていたなって。「全部自分で背追い込むし、責任の範囲でやれることはやろう」となった瞬間、プロジェクトデザインが初めてできるようになった実感は今でも覚えています。クライアントの言うことを鵜呑みにしないし、クライアントの言ったことを言い訳にしない。
国広:結局、僕たちの仕事は情報の編集なんだよね。あるものとあるものを組み合わせることをベースに、プロジェクトを進めていく。だから、日頃から何を見て、どんな本を読んで、どんな人と会っているのかが最も大切だと思うんです。好奇心とも言えるかな。
高井:本当にそうですね。僕は「ロフトワークのディレクターに求められる要素を2つ挙げよ」と言われたら、「想像力」と「責任感」だと思っているんですよ。もし自分にスキルセットや知識がなくても、プロジェクトの成功や価値創出のためにどうすべきかは想像できるじゃないですか。そこに「責任感」があれば、実現のためにどんな手段を使ってでも成し遂げるんじゃないかなって。
国広:あー、たしかに、言い当てている感じはありますね。
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