#12 飛騨の森でクマは踊るか
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)
ヒダクマのはじまり
「最近は、林業に夢中になっています」——2019年、そんな自己紹介をするようになった。岐阜県飛騨市に、「株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)」を設立して4年。ロフトワークが林業に関わる仕事をするなんて、以前は想像もしていなかった。
ヒダクマ設立のきっかけが生まれたのは、2013年。奥多摩で実施した合宿で、株式会社トビムシの松本剛さんたちと出会った。トビムシは岡山の西粟倉や東京の奥多摩などをはじめ、日本各地で林業と地域を再生するための事業を行なっていた。飛騨もその中の一つだった。
「ぜひ、飛騨に来てください」と誘われたけれど、一度は断ってしまった。何しろ東京から片道4時間かかるのだ。当時の私は時間の使い方に頭を悩ませていて、正直にいえば、飛騨にも林業にもそこまで興味をもっていなかったから。
「それでも、一度でいいから来てみてください」松本さんはあきらめない。そこまで言うならと、家族旅行で訪れることにした。
冬の飛騨に、家族で訪問
結論からいうと、私はその一度の滞在で、すっかり飛騨に魅せられてしまった。
冷え込む季節に訪れた宿でいただいた、温かい野草茶や山菜の煮物。雪深い飛騨の山では、春から夏にかけてとれた山菜を冷凍保存しておいて、冬の間に少しずつ調理して大事に食べるそうだ。
季節の移り変わりを自然に受け入れ、さまざまな工夫をこらした生活。日本の四季をリアルに感じられるような、時間の流れ方が心地よかった。
東京に戻ってから、一緒に飛騨を訪れた母が、宿でいただいてきた山菜の煮物を食べながら言った。
「千晶、飛騨の人たちに何かしてあげられないの?」
その言葉を受けて、私の心も決まった。
飛騨の木材を面白がってくれるクリエイターと共に
岐阜県飛騨市は、市の面積の93%を森林が占めている。そのうちの7割は、広葉樹林だ。人の手が入った森は、定期的に間伐を行ってメンテナンスをする必要がある。
間伐によって生まれる木材を、「うまく使う」仕組みをつくること。それが、私たちのミッションだった。
私たちはまず、事業リサーチも兼ねたクリエイターキャンプを開くことにした。
どんなクリエイターを招いたら、飛騨の木材を面白く使ってくれるだろう? ロフトワークのクリエイティビティは、クリエイターのアサインから発揮される。
建築家の大野友資さん、家具や空間のデザインを手がける岩沢兄弟、デザインとアートを融合させていくTakt Projectの吉泉聡さんーーそこから、ヒダクマを支える大勢のクリエイターとのプロジェクトが生まれていく。
そして2015年4月、飛騨市とトビムシ、ロフトワークの合資会社として、「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を設立。日本ではじめて、市有林を現物出資する形での官民共同事業がスタートした。
いくつもの企業に、飛騨の木材をふんだんに使ったオフィス家具が導入されていく。ユニークなプロダクト開発も進み、オリジナルの高級キャットタワー(100万円!)は世界の富裕層に売れている。
100年以上の歴史をもつ古民家には、FabCafe Hidaをつくった。FABマシンや木工機械を揃え、地元の人たちをはじめ、地域の木工職人、世界中の建築家、デザイナー、旅人など、ものづくりを楽しみたい人たちが交流できる場となっている。
建築家やクリエイターを対象としたデザイナー・イン・レジデンス プログラムにも力をいれている。毎年、海外から多くの人が参加してくれるようになった。
実績を重ね、会社の売上も確実に伸びている。これからも飛騨の森からどんなクリエイティブが生まれていくか、本当に楽しみだ。
【連載目次】「ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー」
- #00 はじめに
- #01 デザインとクリエイティブ
- #02 付箋と民主主義
- #03 デザインは、量より質?
- #04 「わからない」が面白い
- #05 場が働き方をつくる
- #06 折り紙付き採用
- #07 合宿のススメ
- #08 その人にしかできない仕事を
- #09 きっかけは他者にある
- #10 FabCafeのつくり方
- #11 FabCafe Globalの育て方
- #12 飛騨の森でクマは踊るか
- #13 2020年代を生きるということ
- #14 ロフトワークの未来、どうしていこう?
- #15 ダイバーシティとどう向き合う?
- #16 「プロジェクトマネジメント」の技術をどう伝える?
- #17 「人とのつながり」をどうつくる?
- #18 おわりに
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