
クリエイターとの共創で導いた5つの別解
ロフトワークの2024年のプロジェクトを振り返る
2024年、ロフトワークは、さまざまなプロジェクトやイベントを通じて、みなさんと共にさまざまな「問い」について考えてきました。
事業の経済・社会的価値をいかに両立するのか。生物多様性の回復に向けて何ができるのか。共創のための場をどうつくるのか、次世代との対話・協働の可能性とは何かなど、どれも簡単に答えが見つかるものではありません。
世の中において「問い」がいっそう複雑化する今こそ、常識にとらわれない「クリエイティブ」の力が重要だと、私たちは考えています。それは既存の枠組みを越えて未来を切り拓く、「別解」を導くための力であるとも言えます。
この記事では、メディアアーティストや歌人、映像作家といった多彩なクリエイターたちとの共創で「別解」を生み出し、課題解決や価値提案に取り組んだ5つのプロジェクトをご紹介します。昨年のロフトワークの実践を振り返りながら、2025年、さらにはその先の未来の可能性を広げるヒントとなれば幸いです。
クリエイターと「別解」を導いた、5つのプロジェクト
- 自社技術の再解釈を、異分野と試行するプログラム
- 歌人と世界観を紡ぐことから始めるブランディング
- 地元をロケ地に、市民と一緒につくる動画共創プログラム
- 環境課題の複雑性を、アート体験で紐解く展示
- 都市システムの「分解可能性」を問う企画展示
コア技術とアーティストを掛け合わせ、新拠点を活性化 マクセル株式会社「クセがあるアワード:混」

BtoB事業を中心とする電機メーカー、マクセル株式会社が未来の存在意義を探るため、京都府大山崎町にオープンした新拠点「クセがあるスタジオ」。若年層への認知度やブランディングに課題を抱えていた同社が、この場を活用して次世代や異業種との接点をつくり、新しい価値創造へ挑戦できるかが焦点となっていました。
別解のポイント:自社技術を再解釈したテーマで作品を募る

マクセルが大切にするアナログコア技術の一つ、「まぜる」を、新たな価値を生む概念として捉え直し、「アートとテクノロジーの融合」をテーマに作品公募・展示プログラムを実施。次世代のクリエイターやイノベーターを後押ししながら、彼らとの交流を通じて、中長期的にアートの文脈と視点を社内に取り入れていくきっかけを提供しました。
共創したクリエイター
メディアアーティスト、プロダクトデザイナー、サウンドエンジニアなど、多彩なクリエイターたちが、それぞれの視点で独自の作品を応募しました。
歌人・映像作家とともに若年層との接点創出
創業110年の老舗酒屋「桜本商店」のブランディング支援

1910年創業、札幌の老舗酒屋「桜本商店」は、長年蔵元とお客様の双方に寄り添う丁寧なコミュニケーションを重ねてきました。しかし、インターネット販売の普及や若年層のアルコール離れに伴い、国内の酒類小売業は厳しい状況にあります。こうしたなか、若年層のファン化と来店促進を目指し、従来の酒屋のイメージを刷新する必要がありました。
別解のポイント:歌人と世界観を紡ぐことから始める

長年続けてきた商いの価値を新たな形で伝えるため、プロジェクトの初期段階で歌人をアサイン。現地リサーチで得られた内容をもとに、まずキャッチコピーを制作し、ターゲットである若年層に訴求できる世界観を明確化しました。この世界観を軸に「物語性」や「温かみ」を感じさせるWebサイトやブランドムービーを制作。桜本商店ならではの魅力を視覚的に伝えています。
共創したクリエイター
歌人、映像作家、サウンドクリエイター、Webデザイナーと連携し、幅広いアプローチから桜本商店のブランド再構築を支援しました。
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エンタメ不足の地域を「市民とつくるショート動画」で活性化
総再生数2000万回超えの反響を呼んだ「コネクリ延岡」

宮崎県延岡市を拠点とする株式会社ケーブルメディアワイワイは、地域密着型のメディア企業として地元で愛されてきました。しかし多くの地方都市と同様、延岡市では人口減少と少子高齢化が進行。さらに、地域の「エンタメ不足」が若年層の流出を加速させています。こうした状況を打開し、延岡の認知拡大と交流人口の増加に向けて新しい仕組みが求められていました。
別解のポイント:地元をロケ地に、市民と一緒につくる

映像作家を招いたアーティスト・イン・レジデンスを実施。「映像のまち延岡」としての魅力を発信するべく、地域の人々もエンタメの作り手として参加し、市内のあらゆる場所で撮影が行われました。TikTokでの公開動画は総再生数2000万回を突破。集大成となった映像祭にも、多くの観客や視聴者が集まりました。
共創したクリエイター
12組の映像作家に加え、地域の人々も作品づくりに参加。また、コピーライター、グラフィックデザイナーとも手を組み、プログラムの魅力を高めました。
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専門的な環境課題をアート体験で伝える
総合地球環境学研究所「怪談と窒素」展

総合地球環境学研究所の林健太郎教授が解決に挑む「窒素問題」。窒素は肥料の原料として活用される一方で、環境への漏出によってさまざまな問題を引き起こす要因となっています。しかし、窒素問題はその複雑さゆえに、未だ一般に広く認識されていません。窒素問題の理解を人々に促すには、どんなアプローチが有効なのでしょうか。
別解のポイント:窒素の複雑性を「怪談」でひらく

プロジェクトでは、窒素問題の関係人口を増やすボトムアップ型のアプローチを模索しました。専門知識を「怪談」という意外性のあるテーマと結びつけ、アート体験型の展示を展開。異分野のクリエイターとコラボレーションし「窒素問題」を感性的に伝える、新しい場を創出しました。
共創したクリエイター
怪談師、サウンドアーティスト、バーテンダーと研究者が手を組み、それぞれの専門性を活かして、感性にアプローチする展示体験を構築しました。
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生産・消費に偏る都市に「分解」の視点を
新たなシステムを探る巡回展「分解可能性都市」

気候変動やヒートアイランド現象などの環境問題が深刻化するなか、大量生産・大量消費を基盤とした従来の都市システムのあり方が問われています。私たちの暮らしにおける「当たり前」を更新し、自然と共生する循環型の都市システムを実現するために、どんな視点が求められるのでしょうか。
別解のポイント:隔離された「分解」の視点から都市を捉え直す

物質の本来的な循環に欠かせない一方で、都市システムから隔離されてきた「分解」の視点。本展示では、そんな分解可能性に着目し、「土に還る」仕組みのデザインや、食品ざんさ・端材の活用などの先駆的な作品やプロジェクトを展示。ロフトワークの自主企画として、全国4都市をめぐる巡回展を開催しています。
共創したクリエイター
循環型社会や生物多様性への取り組み・表現に挑む、職人やアーティスト、スタートアップ・大企業などの実践者による取り組みをキュレーションしました。
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2025年も、創造性を信じて、新たな価値を探るために
いずれのプロジェクトも、クライアントやクリエイターはもちろん、多くの人々の協力や支援があって成り立つものです。普段よりプロジェクトに協力いただいている方々、ロフトワークのイベントやコンテンツを楽しんでいただいている皆さんにも、心より感謝をお伝えします。
2025年、ロフトワークは25周年を迎えます。次の一年は、どのような未来が待っているのでしょうか?先が見えないからこそ、多彩な創造性が力を発揮できるはず。
私たちの活動の原点は、「すべての人のうちにある創造性を信じる」ことです。2今年もさまざまな創造性と出会えることを楽しみにしながら、まだ見ぬ価値と明日の可能性を探っていきます。
(本記事は、2024年12月26日配信「Loftwork magazine Vol.555」の内容を一部調整し、転載したものです)
執筆:後閑 裕太朗(Loftwork.com編集部)
編集:岩沢 エリ, 岩崎 諒子, 横山 暁子(Loftwork.com編集部)
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