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2023.12.09

The KYOTO Shinbun’s Reportage #1
京都新聞論説委員が見る京都ルポ「人口減少と京都の景観」

ロフトワークは「令和5年度カルチャープレナーの創造活動促進事業〜カルチャープレナー等の交流・コミュニティ創出、副題《文化と経済の好循環を創出する京都市都市戦略》」を京都市より、株式会社ロフトワークが正式受託し、全体のプロジェクトデザインと進行を現在担当しています。

本プロジェクトでは、2025年に策定される「京都市グランドビジョン」の策定に向け、京都市の未来にとって有益な価値を生み出すための新たな価値観の創造を提唱するべく、内外のさまざまなステークホルダーとの議論『ラウンドテーブル』を開催しています。

本記事は京都新聞社にご協力をいただき、論説委員 澤田亮英さんに寄稿いただきました。人口減少と京都の景観から「文化と経済の好循環」を考えます。

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  #京都市都市戦略

人口減少と京都の景観から考える「文化と経済の好循環」

まちの三方を囲う山々を背景に、建物の高さを抑えた街並みが広がる。京都を象徴する文化の一つである「景観」を手がかりに、文化と経済の関係を考えてみたい。

2022年、京都市の人口(外国人を除く)が前年から約1万1300人減った。減少数は全国の市町村で3年連続最多だった。
課題として、子育て世代が離れている現状がある。ホテル用地の獲得競争で観光地周辺や中心部の地価が一時は全国一の水準で高騰し、購入しやすい価格の住宅が減ったことで、近隣の自治体へ流出しているとみられている。

原因の一つが、2007年に京都市が導入した景観政策による厳しい高さ規制である。最も高い区域でも幹線道路沿いの31メートルまで。マンションなら10階程度が限度である。
東京や大阪のようなタワーマンションは建たない。高さが低く抑えられて、入る戸数が減れば、1戸当たりの価格は高くなる。「億」を超える物件も珍しくない。
 
グローバルな資本主義が絡む動きに、地方自治体で対処できることは限られる。ただ、京都市の場合は、行政が長年重点を置いてきた景観行政が関係しているのが悩ましい。
景観という文化が、経済と切っても切れない関係にあり、保全のための規制が市民にとってマイナスに働く一面を物語っている。

人口減少は国全体の課題であり、どう適応するかが問われている。単に子育て世代が増えればよいという目標にとどまらず、景観政策全体の検証から都市の将来像を考え直す議論が必要ではないだろうか。

都市の方向性としての景観を考えたとき、別の重要な問題があると感じている。規制に沿ったスマートな建築が目立つ現状である。

1960年代にできた京都タワー、90年代に建て替えられた京都駅ビルは、景観を破壊する、しないと大論争になった。有名寺院の反対運動も起きた。
 数十年がたち、これらは京都の代表的な建築となっている。当時の論争は地域の分断を招いた面もあったようだが、街並みについて市民が考え、論じた末に生まれた建築は、都市に新たな価値を創造したといえる。

景観政策の導入以降はどうだろう。

今の制度でも、特例的に審査して規制を超える建築物を許可する仕組みはある。ところが、論争を起こすような計画は登場していない。急増したホテルのデザインもグレー系の外壁と格子をあしらった窓が目立つ。

一方で、完成した当時は画期的だったと思われる明治以降のモダンな洋館が姿を消しており、大きな戦災を免れた都市史のつながりを損なっているように感じる。

ほぼ30年に1度を景観論争のサイクルと考えると、ちょうと今の時期が当てはまる。ただ激しい賛否が巻き起こればよいわけではないが、都市の価値を考えたとき、斬新な建築を創造する土壌が京都に残っているのか、政策の面からも見直すべきではないだろうか。

景観の問題から考えても、文化と経済の「好循環」は容易ではない。しかし、好循環とは何かを考え、理念がないままでは、時勢に振り回される懸念がある。

ラウンドテーブルの初回に参加した。渋澤さんが「現状維持とサステナブルは違う。常に新しい変化、クリエイティビティが必要」と語り、住田さんが「壁を打ち破って新たな価値観を生みだすことに可能性がある」と提示されたのは、景観に対する問題意識にも響く言葉だった。

広井さんが「若い世代の支援が最大の課題。将来世代を考えることがサステナビリティの肝」と指摘したのは、人口減少対策を数だけの問題とみてはいけないという重要な提起だと受け止めた。

「文化と経済の好循環」から京都市の都市戦略を考える動きは始まったばかりである。目線を遠くに置きつつ、地に足をつけた議論を続けたい。

『文化と経済の好循環を創出する京都市都市戦略Round Table1』の様子。ディスカッションには、住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長/住友商事(株)常務執行役員兼任 住田孝之氏、京都大学 人と社会の未来研究院 教授 広井良典氏シブサワ・アンド・カンパニー(株)代表取締役 / コモンズ投信(株) 取締役会長 渋澤健氏が登壇。
澤田 亮英

Author澤田 亮英(論説委員)

1997年京都新聞社入社。記者として京都、滋賀の政治・行政を計16年、宗教を3年担当した。北部総局(京都府福知山市)のデスクなどを経て、2023年10月から論説委員。

【関連記事】ラウンドテーブル1 のレポートはこちら

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