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横山 暁子 2022.10.01

企画とは「最高の時代EDIT」を考えること。
クリエイティブ・ディレクター福田敏也に聞く、企画脳の鍛え方

こんにちは、マーケティングDivの横山です。私の主な業務はイベントや記事コンテンツを活用したコンテンツマーケティングです。その業務の起点は「企画」。
かつて化粧品会社で営業をしていた私は、販売会社のおばちゃんとの濃厚なコミュニケーションを積み重ねることが日課でした。そんな私にとっては、ビジネスにおける「企画」や「クリエイティブ」は無縁の世界。縁あってロフトワークに入社後、企画とは何なのか、企画力はどうやったら身につくのか、その術が全くわからず思い悩んだものです。
3年ほど経ち、なんとなく企画ができるようになった頃に出会ったのが、福田敏也さん(以下、敏也さん)が実施する企画の学び場「777塾(トリプルセブン塾)」。敏也さんは、博報堂出身、カンヌ広告祭でアジア初の金賞受賞など数々の受賞歴を持つ超一流のクリエイティブ・ディレクターです。ロフトワークが運営するFabCafeの共同設立者でもあります。

そんな敏也さんは2022年6月、新書『科学者じゃない僕たちは 想像力と妄想力と企画力とデザイン力で世界の未来と関わっていく』を出版。777塾という学び場を通じ磨き上げた企画のメソッドが詰まった一冊です。

企画やクリエイティブを仕事にしたいけど、何から始めて良いか分からない。
企画力をもっと高めるには、何をすべきなのかーー?

今回は私のように企画に悩んでいる方々に向けて、福田敏也流、企画力を高めるための脳みその鍛え方をご紹介します。

執筆:北埜 航太
企画・聞き手:横山 暁子(loftwork.com編集部)
撮影:小島 和人(loftwork)

左から

話し手:福田 敏也さん株式会社トリプルセブン・クリエイティブストラテジーズ代表取締役・大阪芸術大学 デザイン学科 教授)
聞き手:横山 暁子(ロフトワーク マーケティング)

クリエイティブの意味がわからなかった新人時代

横山 クリエイティブの世界の第一線で活躍されてきた敏也さんは、やっぱりもともと企画やクリエイティブは得意だったんですか?

福田 実は、広告会社の新人時代は暗黒時代でした。クリエイティブが好きだったから博報堂に入社したわけだけど、企画をつくってもつくってもぜんぜん通らない。

横山 そうだったんですか!

福田 そうそう(笑)。あのときは、良い広告、良いクリエイティブは何なのか? ということがまったくわかってなくて、世の中で評価されているすごい広告っぽいものをつくるのが広告だって、そんな呪縛に縛られていたんです。

横山 敏也さんにも誰かの企画を真似るみたいな時代があったんですね。

福田 本来はクライアントの課題が先にあって、それを解決するためにどんなクリエイティブが良いかって考えるわけなんだけど、勝手なアウトプットイメージありきになってしまっていたわけです。最初から咲かせる花を決めちゃってる感じ。そんなんだから一向に企画が通らなくて。「先輩はちっとも自分のことを分かってくれない」って拗ねてしまうこともあったくらい(笑)。

横山 転機は何だったんですか?

福田 ラジオCMのコピーをエライ先輩に見てもらったときに、「福ちゃん、こんなこと普通いう?リアルな会話になってないよね。頭で考えてない?」って指摘されたんです。会話を理屈と都合で組み立ててるから、全くリアリティがないものになっていたんですね。それから少しずつ、自分の企画が本質的じゃないことに気づくようになって、それから徐々にまともになっていった。

あと、博報堂の伝説的なクリエイティブディレクターの企画書をたくさん見せてもらったことも転機になったな。クリエイティブアイデアだけじゃなく、企画書もものすごくリアリティがあって精緻で。「ああそうか、こうやってつくるんだな」ということがわかったんです。美しい花をいきなり示すのではなく、その着地に至るリーズンワイ(reason why)が緻密にできてないといけないと思えた瞬間でした。

横山 着地に至る「リーズンワイ」ですか。

福田 そう。最初はその先輩の作法を模倣してたんだが、だんだん自分なりの感覚が掴めてきて企画書も書けるようになってきた。そうして仕事を任されるようになったのが入社して3年目くらいかな。

すべては自分の「ものさし」を育てることから

横山 最初は真似てばかりでうまくいかなかった敏也さんが、自分なりの着地のさせ方を掴んで企画ができるようになったということですが、企画を自分の手でつくれるようになる上で、最大のコツは何だと思われますか?

福田 まず重要なのは、幅広く多様に考えるクセをつけて頭を強制的に広げること。それができるようになったら、自分の「ものさし」を育てること。「最高の時代EDIT(編集)」をすることが企画の本質、幅広いネタのソースを独自の時代目線で最適に編集するっていう、「広げる」と「狭める」の2つをすべての仕事において高度に実現できるよう意識することが大切だね。

横山 「広げる」と「狭める」、ですか。

福田 そうそう。アイデアって、どうしても突飛な飛んだアイデアを考えるイメージがあるんですが、飛んだアイデアになることは「最高の時代EDIT」のひとつの形であって目的ではない。重要なのは、それぞれの業務ごとに最適にEDITすること。初期段階ではいろいろぶっ飛ばして可能性を広げながら、「狭める」フェーズでは自身が育てた自身の「ものさし」を軸に大胆に切り捨てていく。複雑な時代ですから、いろんな人がいろんな立場でいろんなことを言って迷わせる。いろんな人の言うことを聞いているとアイデアがぐちゃぐちゃになってしまう。そこで重要になるのが、今の時代を、今の世界を、自分なりの目線で見る力、自身の「ものさしの力」なんですね。

横山 世のあらゆることに自分なりの見解を持つことが、ポイントになるんですね。

敏也さんが実施するロフトワークメンバー向けの企画塾(業務高度化FUKUDA塾)のスライドより

「なぜ」の積み重ねが面白い企画をつくる糧になる

横山 「企画は日々の筋トレが大事だ」と777塾でも敏也さんはおっしゃっています。自分なりのものさしを育てるという点について、敏也さんなりの筋トレ方法ってありますか。

福田 僕、日常的に「なぜ?」を自問自答することを習慣にしてるね。十分な大人になった今でも、です。うちの家族とか、僕が投げかける「なぜ」に迷惑してるかも、ってぐらい日常的に投げ続けてる(笑)。みんな子どものときは「なぜ?」って連発してたじゃないですか。あれってきっと、人間が生きる上で必要なことだからだと思うんですよね。なぜを問うことで危険を未然に回避できたり、世界をより深く理解できたり、生き残る確率があがったり、っていう。

横山 自分の身の回りで起きているすべてのことへの「なぜ」を深めていくことが企画をつくる上でも大切だということですね。

福田 そうそう。逆になんとなく企画をつくってしまってるときって、「なぜその企画にしたの?」と聞かれても明確に理由を答えられない

横山 なぜが問えていないから、なんとなく企画をつくってしまうと。

福田 うん。例えば商品も同じで、ここにあるiPhoneも、なぜを突き詰めた結果、シンプルなこのプロダクトになっている。この名品になるにはちゃんとした理由があるわけですよね。それは企画も同じ。すごいクリエイターがつくった企画だから良いって思ったら思考停止してしまう。自分自身がその良さを再現できない。良い企画には必ず良い理由が隠れているから、なぜそれが良いのかを言語化することが大事。

横山 「なぜだろう?」って考えるだけじゃなく、言語化が大事なんですね。

福田 そう、言語化はとても大事。日ごろから「なぜのDiary」っていうのをやっていて、例えば、「あの和菓子屋にはなぜ行列ができているんだろう?」とか「なぜボカロ系のアーチストが流行るんだろう」とか、日々出会った「なぜ」を忘れないように自分にメールで送る習慣があります。疑問に思ったことをメールしておけば、あとで理由を調べるし、ひとつひとつ理由を書き残していけば、それが思考に蓄積する。やっぱり人間は肉体行為に落とし込まないと脳に入ってこないから、「なぜだろう?」って考えるだけじゃなくて、実際に文字に落とすことが大事だと思う。

横山 たしかに、書くことで思考が深まっていく経験はみんな体験していると思います。

福田 博報堂を退社してからは、武蔵美とか多摩美とか大阪芸大とかで広告やデザインの授業を担当しているんですが、その講義を通じて見つめ直す機会を得たことも重要な意味をもっています。毎年更新される自分のメソッドを毎週の講義に向けてアップデートし続けなければいけないわけですから。ある種、修行みたいな辛い作業でもあるんですけど、そうやって見直し熟成させていく時間があるから、思考が整理されていく。自身のトレーニングにもなっているね。

大学講義の蓄積も活かして、クリエイティブ業界でない人にもわかりやすい企画メソッドを紹介する本も執筆されている敏也さん

脳の筋トレメソッド「なぜのDiary」

重要だと感じる「なぜ」は自分が使いやすいメディアに記録し、定期的にアップデートすることで、自分の見解「MY VIEW」が整理されます。習慣化するには手軽にできるメール送信の方法がおすすめです。

  1. メールの件名にその日に発生した「なぜ」を記載します。
    例)なぜのDiary:なぜ〇〇は流行っているのか?
  2. なぜの理由を調べ、メールで送信します。調べ方はWebで調べてもいいし、友人に聞いてもいい。SNSも参考になるでしょう。そうやって調べることで、何かしらヒントが得られます。

すぐに調べられない時は、「なぜ?」だけ件名に記載し、メールで送信。後で調べればOKです。あくまでも「なぜ?」を考えることを習慣にすることが目的なので、日々見返す必要はありません。半年に一度くらい見返してみるといい企画のヒントになったりします。

(出典:『なんとなく企画クリエイティブの仕事をしたいと思っている人のなんとなくをなんとなくじゃなくする本』P90~92より一部抜粋)

高度な時代EDITのための手順学習

横山 お話を伺っていると、やっぱり敏也さんは企画脳を育てていくために日ごろからできるユニークな筋トレをたくさん実践されているなあと感じます。他にも、企画が上達するために重要なルーティーンってあるんですか。

福田 777塾では、高度なEDITを実現するための基礎手順みたいなものを早めに提示して、その手順イメージをもってもらうように指導・トレーニングしています。考える際の基礎ルーティーンみたいなことですね。

横山 いい企画をつくるための手順なんてあるんですか。

福田 はい、あるんです。世の中には優秀なクリエイターのユニークな企画上達本がたくさん存在します。福田もいろいろ読みました。それぞれの視座にたった多様な知恵が埋まっていてたいへん勉強になる。ただ、その多くが、卓越したアイデアを生み出すための秘訣や技術を紹介するものが多く、まだ未熟な若者が自分の日常思考にどう取り入れたらいいのかわかりにくいという側面もあって。いいものをつくるには「手順」もとても重要だよね。基礎手順をイメージし身につけた上で、その高度化に日々精進していく。そのための基礎手順の提示が必要だと感じ、新書にもまとめています。

777塾2022のスライドより

横山 なんか、むずかしそうですね。

福田 いえいえ。むずかしくないよ。いいアイデアとは「最高の時代EDIT」であるという前提にたって、その最小工程を分解しているだけです。前半で話した企画を作る際に重要となる「広げる」と「狭める」。広げるのはそんなに手順を意識せずともそれぞれのやり方でやれるんだけど、狭めるのには、技術と経験が必要になる。そこで、経験の浅い若者でもイメージ可能な基礎手順をまず共有し、キャリアとともに技術と経験を積み重ねながら、その高度化に励んでもらおう、というものです。

横山 基礎手順と高度化、ですか。

福田 そうです。未熟な若手も世界で通用するクリエイターもやる手順は同じ。あとは、どう経験を積み多様な見方を手に入れながら、その手順で成果の高度化に挑戦するかなんですね。

横山 その手順、もっと詳しく知りたいなあ。

福田 はは。これを詳細に説明をすると、インタビュー2回分ぐらいになっちゃうので、あとは本で見てもらうしかないかなあ(笑)。

ただ、ポイントだけ話すと、

  • この世界が感覚渦巻く世界だという前提にたっていること。
  • その感覚との向き合いが、クリエイティブの本質であるということ。
  • 変わりゆく世界を敏感にセンシングすることで生まれる仮説を大切にすること。
  • 仮説の論理的パワーを、最後のアウトプット設計の際に再度、感覚的パワーに変換すること。
  • その論理と感覚の統合パワーが強いアイデアを送り出すためのポイントになること。

横山 そんなに大事なことを、まだ読んでいない人に喋っちゃっていいですか。

福田 いいんです。ここまで知ってしまったら、きっと読まずにはいられなくなりますから(笑)。

企画は、「あの人は得意だから」と属人的なものだと諦めてしまいがちです。しかし、敏也さんのお話しを伺うと企画も最小工程まで細かく砕き、ひとつひとつ日々積み上げていくことで精度を高めていけることが見えてきました。

本記事では敏也さんの企画メソッドのごく一部をご紹介しましたが、さらに深いメソッドを学びたい方は、敏也さんが主催する777塾や、新書『科学者じゃない僕たちは 想像力と妄想力と企画力とデザイン力で世界の未来と関わっていく』をのぞいてみてはいかがでしょう。

ロフトワークでも、企画を強化するための研修プログラムを「業務高度化FUKUDA塾」と題して、敏也さんにお願いすることになりました。

そこでのFindings(知見、ナレッジなど)も、また皆さんにご紹介できたらと思います。

企画メソッドをさらに深堀りたい方へ!

科学者じゃない僕たちは 想像力と妄想力と企画力とデザイン力で世界の未来と関わっていく
著者:福田敏也(Kindle)

世界で続く大変革の大波。そして日本経済の長期低迷。今、日本では既存事例や前例にとらわれない大胆でクリエイティブなアイデアを生み出す力が強く強く求められています。

アイデア力。それは、ひらめく力のみによってつくられるものではなく、論理的思考と感覚的思考の統合技術。広告アイデアからサービスアイデア、イノベーションアイデア、経営フィロソフィー設計まで、幅広いアイデアに関わってきた著者が、そのすべてに通底する強く届いていくアイデアの生みだし方を丁寧に&論理的に解説します。

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対話を重ねる、外の世界に触れる。
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