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伊藤 望 2022.12.14

変革のデザイン ー ありたい未来の景色(インパクト)を描くための
ワークショップ 開催レポート

ロフトワークでは、毎年1度、ビジネスパーソンに向けた大型カンファレンスとワークショップを開催しています。本年のテーマは「変革のデザイン」。2022年11月18日と25日に、「変革のデザイン ーサステナブルな未来を共創する準備をしよう」というカンファレンス&ワークショップを開催しました。

変革のデザイン ーサステナブルな未来を共創する準備をしよう

「変革のデザイン(transition Design)」をコンセプトに2日間のカンファレンス&ワークショップを111825日に開催。「HOMEHUMANITYETHICAL」の3テーマから、サステナブルな未来を想像するための補助線を、実践者・研究者との対話を通じて可視化していきました。

共催:株式会社ロフトワーク、 SHIBUYA QWS(渋谷キューズ) 
協力:英治出版、IDEAS FOR GOOD

18日に実施したオンライン視聴型のトークセッションでは、馬田隆明さん(東京大学 FoundX ディレクター)によるKeynoteで、次の時代への変遷をデザインしていくために必要な要素と実現に向けたステップを紹介。つづいて、これからの働き方や暮らし方の可能性を考える「HOME」、ウェルビーイングを切り口とした人とテクノロジーの協働の可能性「HUMANITY」、日本の地域や企業ならではの循環型社会とものづくりの可能性「ETHICAL」、この3つのテーマを題材に、それぞれの未来の景色を発見するインプットセッションをオンラインでご視聴いただきました。

そして25日は、ロフトワークとSHIBUYA QWSと共催で、企業の枠を越えた様々な立場の当事者と共創するワークショップをQWSで実施しました。述べ84人が参加し、持続可能な未来への変革をリードしていくために、事業構想のための新しいものさしを発見すること。そして、ありたい未来の景色(インパクト)を描くための実践を体験いただきました。

変革はひとりで実現することはできません。複雑に絡み合い山積する地球規模の厄介な問題をいかに解決し、持続可能な未来へ移行することで、社会や組織の変革を実現できるのか。その“はじめ方”に気づくことができたワークショップの様子をお届けします。

執筆:宮崎 真衣 (株式会社ロフトワーク)
写真:川島彩水

「夢」を描くためのメソッドとは?

次の時代への変遷をデザインしていくためには、基盤の一つとなる「インパクト」からはじめることが重要である。インパクトとは事業の先にある理想の社会像にあり、このあるべき社会像(インパクト)を提示する力が、今後大切になってくるだろうと馬田さんは言います。

馬田隆明さんのトークセッションスライドより引用

馬田さんの著書『未来を実装する』は、数々の事例とソーシャルセクターの実践から見出した「社会実装」(新しい技術を社会に普及させること)を成功させる方法が紹介され、デジタル時代の新規事業担当者やスタートアップ必読の1冊です。

予測しきれない時代においては、誰かの約束や決めごとに振り回されず、自ら未来を思い描く力が必要です。それはまさに「夢を描く力」とも言えますが、日本では、ビジョン型リーダーシップが圧倒的に苦手と言われており、組織内のリーダシップについての調査では、中国やインドといった新興国よりも低いといった結果が出ているそうです。

そして、インパクトを描いてから実現するまでのステップは大きく分けて3つありますが、今回のワークショップでは一つ目のパート、とりわけ、日本人が苦手と言われている“描く”ことをワークショップで体験していただきました。

馬田隆明さんのトークセッションスライドより引用

今回のワークショップは、未来構想視点と生活者視点から企業の新たな機会領域探索や新規事業開発支援を数多く手がけている、ロフトワーク シニアディレクターの伊藤望が設計を担当。まずは、インパクトを描くために、ワーク内でどんな問いを立てるのか?そして、どんなメソッドを活用するのか?を説明しました。

VUCA時代を生きる私たちは、この先どうなるのか予測することは困難であり、誰も確かな答えをもっているわけではありません。一人ひとりの試行錯誤により未来を形づくっていく上で大事なことは、社会の観察から理想的な未来を夢想し、手を動かし続けることであると言われています。(伊藤)

ー「夢」を描くこと。
ただ未来を妄想するのではなく、その地域の歴史や文化、培ってきた知恵や技術、慣習や風習といった、過去から現在までの時間軸と地続きの未来を描くことが重要になってきます。

夢を描くために、ScanningDreaming・Provo-typing」という3つのメソッドで導き出していく、これが今回のワークショップです。

メソッド1 : Scanning 兆しを集め未来の仮説を立てる(個人夢編)

まずは、20年前に既に起きていることをイメージボードを見ながら回想し、未来の兆候を社会の観察を通じて読み取っていきます。20年前はどんな世界だったのか、印象的な変化は何か、今後20年で起きそうな変化は何かを、参加者同士で共有する中で、一つの課題が他の課題にも影響し合い、互いに複雑に繋がっていることが見えてきました。

イベント1日目のトークセッションで語られたキーワードやインスピレーションが貼られたボード

各チームのファシリテーターはロフトワークのメンバーが務め、参加者からの発言を素早く付箋に書き留め、張り出していきます。そして、参加者の中には企業人や官公庁関係者に混じって若い起業家たちの姿も。彼女・彼らは会場となったQWSを拠点に活動している、次世代を担う10代〜30代の次世代リーダーたちです。そんな多様なバックグランドを持った人々で、互いの「兆し」を共有しながら、未来のイメージをどんどん膨らませていきます。

メソッド2 : Dreaming 一人で夢を描き他者と共有していく(共有夢編)

「20年前の回想」と「20年後の兆し」を共有したところで、いよいよ描く(Dreaming)ワークに移っていきます。より具体的な未来を描けるように活用したのが、このシチュエーションカード。「学校」「会社」「公園」「山」といった場面を想定しながら、各自が「Scanning」で感じた未来をトレーシングペーパーに描いていきます。

今回のワークショップでは、「HOME」「HUMANITY」「ETHICAL」という3つのテーマを設け、参加者自身が興味のあるセクションにわかれています。そして、各セクションに紐づいた未来をより描きやすいように、それぞれ3つの「問い」を用意しました。

「HOME」セクションに与えられた「問い」

各セクションにおける「問い」とシチュエーションカードを組み合わせて、「こうあって欲しい」と思う未来社会の1シーンを描いていきます。ここで大事なことは、ロジカルになりすぎないこと。

各自で考えた未来社会をチームで共有しながら、さらに、他の参加者のアウトプットを重ねたり混ぜたりしながら、理想的な未来をすり合わせていきます。重要だと感じたり、「常識や価値が変わった!」という気づきがあれば、その都度ディスカッションをしていきます。これを繰り返していくことで、徐々にチーム内で「ありたい未来」が擦りあっていきました。

スケッチに感想やキーワードを書いた付箋を貼り、実現してほしいアイデアにシールを貼っていく。

メソッド3 : Provo-typing 共有したい夢を手触りのある形に変えていく(社会夢編)

通常のワークショップでは、前述したメソッド2までのように、ホワイトボードや黒板などにアイデアをどんどん付箋に書いて貼っていく手法がよくとられます。その後、分類やラベル付けをすることで課題を抽出し整理することができます。

今回は、ここからさらに、メソッド3のprovotyping (プロトタイピング=試作)を用いて、文章で「物語を書くこと」と、AI作画を用いて「絵を描くこと」で、より具体的な未来の風景を出力することに挑戦しました。

Provotypeとは、アイデアを目にみえる形にし価値検証することの「Prototype(試作する)」に、「provocative(誘発する)」を合わせた造語。プロトタイプがデザインの検証に使われるのに対して、Provotypeはデザインプロセスのより初期段階で、どのエリアにデザインの可能性があるのか議論を誘発することによって探る方法。

まずは、メソッド2で見えてきた「ありたい未来」を、AI画像生成ツールの「Midjourney(ミッドジャーニー)」を使って、イメージを出力していきます。手書きの絵に寄り添った言葉を捻り出すのに一苦労。それでも、何度か試行錯誤を重ねた結果、想像を超えるようなイメージが生成されると、「おぉぉぉ〜」「いいじゃん!」「これだよね!」という声が各チームで上がっていました。

AI画像生成ツール「Midjourney」を使っている様子

「Midjourney」で絵を描くのと同時に、その絵に添える物語を文章に起こしていきます。同テーマであっても、チームによって立ち現れてくる物語はさまざまです。まるで叙情詩のように、ある主人公の内面的な感情を表現した詩があるかと思えば、1日の出来事が客観的にナレーション仕立てになっていたり。

ワークショップがはじまる前は、「絵を描く自信がない」「想像力が低くて」と心配する参加者も、いつしか前のめりになりながら、皆でアイデアを出し合う楽しさに没頭していました。完成したチームの作品はホワイトボードに張り出していきます。

出力した画像と物語を各チームごとに掲出していく

ワークショップを通して実感できたことは?

各チームの成果物が出揃ったところで、他のチームの作品もぐるっと周り、各自よいと思った作品にシールで票を投じていきます。ファンタジー色全開で思わず「ふふっ」と笑みがこぼれる絵や、ドキュメンタリーを観ているかのような胸にグッとくる物語。イベント開始から6時間以上経っていましたが、参加者が他のチームの作品を眺める眼差しは真剣そのもの。

投票後に各セクションで最も票を集めたチームの作品が発表されましたが、最も優れた作品を選出することが目的ではなく、より共感を集めた作品をシェアする時間となりました。

印象的だったのは、投票後の参加者の顔つき。一喜一憂することなく、満足そうでなんだか誇らしげな様子だったのは、「あまり票が集まらなかったけれど、自分たちの絵が一番だよね!」「写真とって壁紙にしよう!」といった声が上がっていたことからも、自分たちの作品(=自分たちで描いた未来)に愛着を持てたからなのかもしれません。

おわりに

インパクトは、ありたい未来の景色を思い描くことからはじまる

持続可能な社会を想像するとき、目の前に積み上がっている社会問題や環境問題があまりにも複雑で大きすぎるため、私たちが解決できる道筋があるのか、悲観的な気持ちになることがあります。

個人で解決することが難しくても、企業や自治体や市民といった、さまざまな立場の人々が一緒に「こんな社会にしたい( しよう)!)」と、同じ未来を目指すことができたら、まだまだやれることが見つかるのかもしれません。

社会変革を起こすためには、「インパクトからはじめる」というフレーズが、参加者の頭の片隅に刻まれたのでした。

Midjourneyで描いた作品を背景に集合写真を撮影

未来予測に振り回されず、「ありたい未来」を想像することが、もう一つの「社会」へ舵をきる動力源になる。参加いただいた方々とのワークを通して、そんな手応えを感じた1日でした。

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複雑な世界で未来をかたちづくるために。
いま、デザインリサーチに求められる「切実さ」を問い直す