FINDING 小川 敦子, 浦野 奈美 2021.09.13

横山禎徳氏に聞く、真の組織変革をもたらす組織デザインの極意とは

変化が激しく先行きの見えない今の時代に、中小企業はどう生き残っていけばよいのでしょうか。新規事業の創出に向けて、抜本的な組織変革を行いたいと考える経営者が増えています。

組織変革とは、組織図を書き直すことではありません。経営者の意思を社内に浸透させ、人々の行動を変える「組織デザイン」をすることです。

今回は、そんな組織デザインの勘所を探るべく、『組織 「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー』(ダイヤモンド社)の著者であり、元マッキンゼー東京支社長、現在は県立広島大学専門職大学院経営管理研究科(HBMS)研究科長を務める横山禎徳さんにお話を伺いました。

執筆:野本 纏花
イラスト:野中 聡紀

企画・編集:浦野 奈美(ロフトワーク編集部)

組織には行動変容を引き出すためのOSSが必要だ

「組織は、ハードウェアである『箱=部門・チーム』と、ソフトウエアである『人を動かす仕組み=OSS(オペレーティング・システム・ソフトウエア)』から成っており、このOSSをデザインすることが組織変革である」と横山さんは説きます。メーラーやブラウザなどのソフトウエアがなければ、パソコンはただの箱であり、何もできないのと同様に、組織も人を動かす仕組みがなければ、何も機能しないということです。そもそも横山さんが組織のOSSに着目されるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

HBMS 横山禎徳さん(以下、横山 社名・敬称略) マッキンゼーにいた頃に、コンサルタントとして戦略をつくっていたのですが、その戦略を実施するのはクライアント企業の方々です。ところが、これがなかなかうまくいかない。どんなに大きな組織変革をして、組織の箱を増やしたり減らしたりしても、中の人々が行動を変えなければ、結局、何も変わらないのです。

「組織は人なり」と言いますが、「この人がこのポジションに来てくれたらいいんだけど」と思うことは、多々ありました。でもコンサルタントは人事に口出しできない。これがコンサルタントの限界だと感じたところです。人の数が少ない中小企業であればなおのこと、「誰をどこに配置するか」は、かなり重要なテーマになってきます。 

人々には非合理的な側面が存在します。出世欲や権力欲、競争心、嫉妬心、虚栄心といった感情を持っているのが当たり前です。これらを無視して、「人々は合理的な判断をする」という誤った前提で組織デザインをしても、非現実的なものにしかならない。だからこそ「感情を持った人間をいかに動かすか」を考え、工夫し、仕掛けをつくることが、組織のOSSをデザインする意義なのです。

その事実に気がつくには時間がかかります。なぜなら、効率や効果の悪い組織であっても、人間という柔軟で最高なOSSがなんとなくうまく対応してしまうから。ダメな組織だとわかっていても、ついそのままになってしまう理由は、そうしたところにあるんですね。

横山さん(左)と、インタビューを行ったアートディレクターの小川(右)

『組織 「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー』(ダイヤモンド社)

50にのぼるグローバル企業、公的組織、大学、ベンチャー、NPOなど国内外の組織に関わった元マッキンゼー東京支社長の横山禎徳さんによる著書。差別化が限界に達した現代の組織の本質を、28のキーワードで語っている。組織が機能するためのシステムをどのようにデザインすべきか?大企業はもちろん、中堅・中小企業のマネジメント層にとってもヒントとなる知恵や知識を、本書をベースに横山さんに解説いただいた。

組織は時間の流れとともに変わり続けるものである

「自社の組織が時代にマッチしなくなっていると感じていても、ゴールが見えなければ変えようがない」と、途方に暮れる経営者も多いと思います。組織に“絶対解”というものは、あるのでしょうか。

横山 組織を取り巻く環境は時間の流れとともに常に変化しているのですから、「永遠に優れた組織」というものは存在しません。過去、現在、未来を通じて、ずっと「正しい」組織なんてあり得ない。また、いかに優れた組織をつくったとしても、組織は時間とともに風化するものです。組織内の行動にさまざまなタブーや不文律が生まれ、「That’s the way we do things here.(昔からこうやってきたんだから)」と心地よい思考停止に入ってしまうわけです。

さらに言えば、不満が上がってこないからと言って、良い組織だとは限りません。処遇への満足度が高いと、外界の変化に興味がなくなり、鋭敏さを欠くことになるからです。それから、どんな組織にもあって、組織変革の阻害要因となるのが、「小さな幸せグループ」と呼ぶべき人たちです。出世に興味を持たず、単調な毎日にそれぞれの小さな楽しみを見つけ、自分のやり方やペースで仕事をこなすことに執着する人たちが、みなさんの会社にもいるのではないでしょうか。 

これまで比較的安定した雇用環境の中で仲間意識が醸成されてきた日本企業では、「再現性」が重視されてきました。組織体制はピラミッド構造で、厳格な職務権限規定がある「業務遂行型組織」では、「昨日できたことが、今日もでき、明日もほぼ確実に同じことができる」ことが正義でした。しかし、これでは革新的な発想や行動は生まれにくい。時代の変化に目を向け、高度な能力で顧客の要望に適宜応えられる組織にするには、「戦略遂行型組織」へと変えていく必要があります

戦略遂行型組織では、組織構造は自由です。権限付与も臨機応変に行い、非再現性を許容します。そして何よりも重要なのが、「外界との接点」を大切にすることです。「たとえ組織内がぐちゃぐちゃで、経理や総務がカンカンに怒っていたとしても、外界との接点がうまくいってさえいれば、それでいい」という価値観に変わらなければなりません。

「あちらを立てればこちらが立たず」の状況になったなら、どちらかを立てて他方は犠牲にする覚悟を持ちましょう。数年後に頃合いを見計らって、今度は逆にすればいいだけのことですから。最初に選択した方にも慣性が残りますから、元の木阿弥にはなりません。これを繰り返すことで組織全体の底上げが図られ、長期的な成長・発展を遂げられるのです。

組織デザインとは組織図を書くことではない

組織図を書き換えるだけではなく、実体をともなった組織変革にするためには、組織デザインが重要であることがよくわかりました。その上で、具体的に組織デザインを進めていくには、どうすればよいのでしょうか。

横山 まず言及しておかなければならないのが、「組織デザインと組織論は違う」ということです。組織論は「学問」であり、教科書もたくさんあります。一方、組織デザインはプロフェッショナルな高度スキルです。自転車の乗り方を覚えるのと同様に、組織デザインは訓練を通じて、頭だけではなく、体で覚える必要があります。教科書を読んだだけでは身につきません

加えて、「組織は組織図では表現しきれない」と十分に理解しておくことも大切です。組織図=組織ではない。仮にまったく同じ組織図の企業があったとして、同じパフォーマンスをするかと言えば、そうではありません。組織図はあくまでも組織の一要素である組織構造を大雑把に可視化したものに過ぎず、意思決定や人材能力、行動様式といったシステムを読み解くことはできないからです。

私が過去に見てきた多くの企業では、企画スタッフが組織デザインをやっていました。けれども先に述べた通り、組織デザインは高度スキルです。いかに企画スタッフが優秀であろうと、組織デザインの訓練と経験を積んでいなければ、組織変革なんてできるはずがない。それなのにやろうとするから、組織図の箱を組み換えるだけの素人仕事に終わってしまうんですね。

繰り返しになりますが、組織変革の目的は、人の行動を変えることです。それであれば、「行動の背景にある動機づけをいかに工夫するか」が肝要であることはおわかりでしょう。単に評価体系や人事考課を見直すだけでなく、「駆り立てる仕組み」をはじめとする、さまざまな「動機づけの仕掛け」をデザインすることが、本当の意味での組織を変えることにつながるのです。

変わりたくない人たちを動かすための動機づけとは?

組織変革は、組織構造という枠組みを変えるだけではなく、人の心理も含めた行動に着目するところから始める必要があるのですね。とはいえ、先ほど「小さな幸せグループ」のお話もありましたが、変化を嫌う人たちも少なからずいる中で、人が動きたくなる動機づけを仕掛けるヒントを教えていただけますでしょうか。

横山 人は慣れてくると堕落しやすくなり、望ましい行動ばかりをし続けるのは容易くありません。「人その性善なるも、その性怠惰なり」という「性怠惰説」に基づいて、誰かがお尻を叩いてあげるべきなのです。

これを比喩的に言えば、「座り心地の悪い椅子をつくればよい」ということになります。自分の椅子にふんぞり返っていても思い通りに事が運ばないよう、意図的な権限移譲によって重要な情報が入って来ないようにするわけです。そうすれば、自席に座っているより、社内外を動き回っていたほうがまだ居心地がいいので、自ら情報を取りに行くようになる。これでひとつ行動が変わりましたよね。

ずっと「正しい」組織がないということは、組織には「完成」という概念がないとも言い換えられます。組織は、常に自己調節を行うダイナミック・システムですから、「ベスト」を目指すというスタティックな(静的な)発想を持つのではなく、永遠に成長し続ける「ベター」を目指すべきです。だからこそ、座り心地の悪い椅子をつくるような「くさび」を打ち込んで、行動を変えさせればいい。

そのときに組織間のバランスを取ろうなんて考える必要もありません。一箇所で成果が出れば、その周囲の組織も自己調節機能によって勝手にアジャストしてくれますから。人の行動を変えることにとことん執着して、とにかくやっちゃえばいいんです。

そうは言っても、思いついたことを根拠もなくやればいいというわけでは、もちろんありません。「問題意識」を「危機意識」に昇華させ、重点テーマを見つけることから始めましょう。なぜ問題意識のままではいけないのか。それは問題意識には時間軸がなく、「いつまでに解決しなければならないのか」がはっきりしないからです。「いつまでにやらなければ手遅れになる」という危機意識(Sense of Urgency)を盛り上げることで、具体的な行動が引き起こされるのです。

経営者が一人ひとりをしっかり見ることから組織変革は始まる

多くの企業組織デザインをされてきた横山さんからご覧になって、日本企業に共通する問題として挙げられるものはありますか?また、将来予測が困難な時代において、組織デザインをする上で大切にすべきことは何か、アドバイスがあれば教えてください。

横山 企業組織としての効果を高めるため、人を駆り立てる3つのポイントをお伝えしましょう。

  1. 「よく見てくれているな」と思わせる評価を目指す
    優秀かそうでないかに関わらず、人は誰しも評価を気にするものです。評価は人の行動に直接影響を及ぼします。「よく見てくれているな」と思わせるには、評価体系や報酬の工夫だけでは不十分です。対抗心や競争心といった誰もが持つ自然な感情に刺激を与えたり、小さな達成感を感じられる場面を身近にたくさんつくったり、ピア・プレッシャー(同調圧力)をうまくつくり出す仕掛けをつくったり。社員の働きに感謝までせずとも、何をやってくれたのかをわかって、認めてあげるだけでいいんです。「誰かがちゃんと見てくれているに違いないと」いう感覚を与えることは、どの組織にとっても人を動かす上で極めて重要な要素となります。
  2. 「優しいが実は冷たい」ではなく「厳しいが温かい」企業風土を培う
    企業を取り巻く経営環境が厳しくなっている中で、厳しいが温かい企業風土をつくり出すのは、とても大変なことです。厳しい環境下では、とにかく失敗しない人物のほうがいいように思えてくる。若い頃の小さな失敗が、後になって出世の足枷となるような、優しいが実は冷たい企業が組織変革をすると、往々にして厳しく冷たい企業になってしまいます。絶えず向上心を刺激することで本人も努力し、その結果企業も得をするという良循環をつくり出すために、厳しいが温かい組織を目指しましょう。
  3. 人材育成に十分な時間とお金をかける
    日本企業のトップは「人材が大事」「人材重視」と言う割に、大企業であっても人材育成には1人あたり年間わずか5〜10万円しか使っていません。これでは圧倒的に足りない。さらに大きな問題は、ほとんどの企業が経営層を含めて、どの程度の費用をかければ人材育成ができるのかを実感ベースで知らないことです。人材育成を担う人事部は、人材育成の結果によって評価されることはありませんから、コストをかけて育成の成果を上げようという意識が高くないのです。せっかくの戦略的差別化を図る機会なのですから、他社と横並びにするような安易な基準で予算を決めることはやめましょう。時間とお金をかけて大切に育てた人材は、変革のときにきっと役に立ってくれるはずです。

最後にひとつ。たとえば、年の離れた部下を「若者」という言葉で一括りにしてはいけません。一人ひとり、違う人であり、それぞれ異なる考え方をしているんですから。一定量のジェネレーションギャップはあったとしても、それがすべてではない。マネージャーが「若者の考え方は理解できない」と言っているようではダメです。ちゃんと一人ひとりを見てあげましょう。そこから信頼関係が始まり、組織変革の土台がつくられていくのです。

横山さんのトーク全編はこちら

本記事は2021年7月2日に開催されたイベント「組織変革をデザインするための相談会 ー 元マッキンゼー東京支社長、横山禎徳氏に学ぶ」を再編集したものです。横山さんのトーク全編はこちらからご覧いただけますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

横山さんのセッションは、0:15:00~1:13:00と、1:52:20〜最後の2つに分かれています。

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