執筆:Kassy Cho
企画・編集:Christine Yeh

翻訳:杉田 真理子

ファッションからパフォーミング・アーツ、映像、展覧会、包装材料ショップのプロデュースまで―ジャンルを横断しながら、多彩なクリエイティビティを持つ人々とともに次々とチャレンジングなプロジェクトを仕掛けるプロデューサー/クリエイティブディレクター・金森香。

編集者にチンドン屋、そして起業家と一風変わった経歴を持つ金森は、現在、クリエイティビティと世界のプロジェクトをつなぐプラットフォーム『AWRD(アワード)』の編集長として、あたらしい挑戦をはじめています―Loftwork Global Teamが、その素顔に迫りました。

* 英語の記事はこちら

ハイライトブリーチした髪に、ファッションブランド・THEATRE PRODUCTS(シアター・プロダクツ)の色鮮やかな服。「出る杭は打たれる」という諺よろしく、「個人は目立たないほうが良い」という空気感がいまだ根強くある日本にあって、ディレクター・金森香の個性的なファッションは、どこへ行っても目を引きます。

1990年代、女性が型破りなキャリアを歩むことに対して、まだ社会的な理解や支持を得にくかった時代から、金森は起業家・プロデューサーとして波乱の多い道のりを歩んできました。

「表現者が、制度や慣例にしばられず、失望しないで生き延びられるような世界であってほしい」

このような思いから、金森はさまざまな領域で経験を積んできました。出版社で働きながらチンドン屋として街頭でパフォーマンスし、あたらしいファッションブランドを立ち上げ、若い才能を後押しするNPOを結成し、ファッションやアートの展覧会やイベントを数多く手がける―これらの活動を通じて、常に挑戦を続けてきました。

ロンドン留学時代に得たインスピレーション

金森の活動の原点は、ロンドンの美術大学、セントラル・セント・マーチンズに留学していた頃に遡ります。反抗的かつ起業家精神に溢れるダミアン・ハーストやジュリアン・オピーなどのイギリス人アーティストが、アート界で最前線を走っていた時代です。

「セントラル・セント・マーチンズに在学していた頃、アーティストは社会の偉大な批評家である一方で、社会の末端にいて誤解されやすく、脆弱な存在でもあるということに気づきました。
それ以降、アーティストと社会をつなぐ手助けをしたいと考えはじめました。

イギリスから帰国後、金森は出版社で働き始めました。同じ時期、仲間と共にチンドン屋として、アコーディオンとサクソフォンの演奏を始めました。

「楽器を演奏して楽しむことよりも、ストリートでの猥雑なコミュニケーションや、創造活動そのものに興味がありました。ギャラリーやミュージアムの中からでなく、ストリートという誰もが参加できるオープンな場で、若い才能が社会に認知される機会を作ってみたかったんです。」

ファッションブランド「THEATRE PRODUCTS」立ち上げ

篠山紀信写真集『Tokyo Addict』で紹介されたTHEATRE PRODUCTSの3人。武内昭さん(左)、金森香(中央)中西妙佳さん(右)。創業時のマンションの一室。

“この世は舞台、身体と衣服はみな役者”

ストリートで演奏をしていた頃、金森はデザイナーの武内昭氏、中西妙佳氏との運命的な出会いを果たしました。2001年、3人は共同でファッションブランド『THEATRE PRODUCTS』を立ち上げました。

「彼らは、”ファッションブランドの会社を展示する”企画をしたい、と私に話してくれたんです。それがきっかけで、なぜか一緒に会社を立ち上げることになってしまいました」
そのエピソードは今振り返っても可笑しいと、金森は笑いながら振り返ります。

金森は、セントラル・セント・マーチンズで過ごした日々を通じて「衣服を着ることは自己表現の一種であり、身体に関わることだ」と感じていました。当初はファッション業界に参入するつもりは全くなかったものの、「建物や戯曲のない『劇場』を身体一つで作り出し、観客の日常に詩を忍び込ませたい」という自身の思いを、ファッションが体現していることに気づいたのです。

「ファッションがあれば、世界は舞台になる」というコンセプトで始動したTHEATRE PRODUCTS。金森はプレス担当兼プロデューサーという形で経営に関わり、デザイナーのつくる衣服、そして広い意味での「劇場」を、多くの人に届けてきました。THEATRE PRODUCTSの服は衣料品でありながら、多くのメッセージを込めた「メディア」でもありました。

ビジネスとクリエイティビティを両立する難しさ

しかし、会社を経営することは簡単ではありませんでした。起業してからの17年間には、自身が予想だにしなかった数々の出来事が待ち受けていました。金森は、その経験から多くのことを学んだと言います。

「クリエイティビティを保ったまま誰かを雇用し、商品を製造して、ビジネスを成立させるのは大変でした。ただ、『創造力があれば、少しだけ社会を変えられる』と信じられる瞬間が1%でもあれば、大抵のことは乗り越えられました。たとえ、残りの99%の時間で、その他のことに追われていたとしても。

2004年、THEATRE PRODUCTSは渋谷に第一号店をオープンさせ、同時に六本木にもショールームを作りました。それ以来、表参道や新宿をはじめに、大阪や名古屋などの主要都市でもショップをオープンしました。その活動は、『VOGUE』『NYLON』『装苑』などのファッション誌から、新聞、経済誌、テレビのニュース番組など多くのメディアから注目を集めました。さらに、「UNIQLO」、映画「スター・ウォーズ」、スニーカーの「Reebok」、メガネの「Zoff」、80年代に一斉を風靡した「PINKHOUSE」など、多くの有名ブランドとのコラボレーションを果たしました。

「身体は自己表現のための媒体であり、生活風景に詩をもたらすもの」(金森)

領域を横断し、多様な才能を巻き込みながら進んでいく

若き才能と社会をつなぐ「NPO法人ドリフターズ・インターナショナル」

金森は、THEATRE PRODUCTSでの仕事と並行して、舞台プロデューサーの中村茜氏、建築家の藤原徹平氏と共に、NPO法人ドリフターズ・インターナショナルを立ち上げました。

ドリフターズ・インターナショナルは、若き才能を社会とをつなぐことを目指し、建築、パフォーマンス、ファッション、アートなど、さまざまな分野の若手クリエイターとともに、プロジェクトを通じて多様なカルチャーシーンを作り上げています。年に1度開催されたサマースクールでは、美術やファッション、建築などを学ぶ学生たちが3ヶ月間共に活動を行い、ひとつの分野に規定されないアート作品を生み出しました。

老いも若きも、多様なウォーキングが重なり合う「オールライトファッションショー」

アイデアやクリエイティビティの多様さはもちろん、人間の多様性もまた、金森が大切にしているもののひとつです。2017年に岡山で開催された『オールライトファッションショー』では、車椅子生活を送る人や高齢者をモデルに起用。社会の中でハンディキャップを抱える人々を積極的に巻き込み、インクルーシブかつ多様性のあるファッションショーを実現しました

岡山で開催された『オールライトファッションショー』。車椅子で登場するモデルたち。

天才・異才たちの挑戦を支え、遺すこと

金森は、さまざまなアートプロジェクトにも関わってきました。2017年に急逝した演出家・危口統之が主宰する劇団『悪魔のしるし』もその一つです。劇団の人気演目である『搬入プロジェクト』―大きな構造物を小さな空間に持ち込み、そこから舞台を作る、という内容―に、立ち上げ時点からプロデューサーとして関わっており、現在もアーカイビングプロジェクトに携わっています。

さらに、26歳で亡くなった早熟の作曲家・パフォーマー、本田祐也の没後12年を契機としたアーカイビングプロジェクトも行なっています。

大きな構造物で小さな空間を占領する、『搬入プロジェクト』

AWRDで次世代のクリエイティブコミュニティを醸成する

2018年、ロフトワークのメンバーに加わった金森。インハウスのサービスプラットフォーム・AWRDのディレクターとして、ここでもまた、世の中に埋もれている才能たちに光を当てる仕事をしています。

奈良県にある「たんぽぽの家」が作成した、障害のあるアーティストによるTシャツを着る金森。ロフトワークの東京オフィスにて。

「既に知名度があり価値を認められている存在以上に、まだ知られてない未知の才能を発掘することに関心があるんです。そういった意味で、『ディスカバ流(る)アワード』は、AWRDでやってきたプロジェクトのなかでも特にお気に入りです。」

AWRDとディスカバリー・ジャパン株式会社とのコラボレーションで実現した『ディスカバ流アワード』では、地球上のおもしろい人間を撮影した動画にスポットをあてています。日本中のフィルムメーカーによる応募作品を、AWRDのグローバルなネットワークを生かした審査員たちが評価しました。受賞作品は、ディスカバリーチャンネルにて放映予定です。

金森はプロジェクトチームと共に、コンセプトデザインから作品募集、授賞式のセレモニーまでを企画・実施しました。このプロジェクトによって、新進気鋭のフィルムメーカーたちが作品を発表する場がうまれ、ディスカバリー・ジャパンにとっては新しい才能とクリエイティブなコンテンツを発掘することができたと、金森は語ります。

「まだ見ぬ才能を、世界とつなぐ」という金森の挑戦は、AWRDでも形になりつつあります。現在、AWRDには世界中から25,000人以上もの若手クリエイターがアカウントを登録し、自身の作品を発表しています。

いま、金森がさらなる挑戦として情熱を注いでいるのが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにむけて、ダイバーシティ&インクルージョンの実現を目指すパフォーミング・アーツの芸術祭「True Colors Festival -超ダイバーシティ芸術祭-」です。

金森はフェスティバル・ディレクターの一人として、プロジェクト全体のディレクションから、キャンペーン企画、ファッションプロジェクトなどを担当しています。

「このプロジェクトをきっかけに、世の中に変化の兆しを生み出せれば」

あらゆる領域を縦横無尽に横断しながら、金森の挑戦は続きます。(2019年4月時点)

クリエイティブプラットフォーム『AWRD』について

「AWRD(アワード)」は、世界規模のクリエイティブアワードや、1日のハッカソンまで、誰でも公募型プロジェクトを実施できるオンラインのプラットフォーム。AWRDを使えば、オンライン上で公募の告知から運営までをかんたんに・ワンストップで行えます。
https://awrd.com/myawrd/start

Keywords

Next Contents

昨年度滞在制作作品が多数の映画祭で入賞。
延岡発、縦型ショートムービーに特化した映像祭の第2回を開催!