MESH IDEA AWARD ユーザーと生み出す未来
新規事業で生まれたプロダクト「MESH」。ユーザーとの橋渡しを目的にアイデアコンテストを開催。ユーザーと共にMESHでつくる未来を描きました。
プロジェクト概要
ソニー株式会社の新規事業創出プログラムから生まれた「MESH(メッシュ)」。一つひとつに異なる機能を備えたブロック形状の電子タグをアプリ上でつなげて、人々の“あったらいいな”を形にする新しいツールです。
2015年7月にMESHを発売した同社は、その活用アイデアを一般に広く募るため、ロフトワークのクリエイターコミュニティサイト「loftwork.com」上で「MESH IDEA AWARD」を開催。ロフトワークは、Web上での公募ページの作成と、審査員による応募作品の審査工程も含むアワード全体の運営を担当しました。
- 課題
プロダクトを誰でも使えるツールにしていくためには、一般に広く周知する手段が必要
子供から大人まで幅広くユーザーを増やし、活用例を広め、MESHの普及を図る
アイデアを公募する上で必要な集客力および運営ノウハウがない - 目標
多種多様な活用アイデアをシェアすることでMESHの魅力を伝播させる
ユーザーとメーカーによるオープンなコ・クリエーションの機会を創出する - 成果
アワードの敷居を下げる工夫が功を奏し、子どもから大人まで幅広い層から79作品が集結
クリエイター以外からの応募も多数集まり、MESHへの関心の高さと可能性の広がりを実感
応募作品を通して、年齢に関係なくみんなで楽しめるところにMESHの価値があることを再確認
ハードウェアをハックするMESHの誕生は、目覚まし時計がきっかけ
石川(ロフトワーク): まずはMESHについて簡単にご紹介ください。
萩原(ソニー):電子工作やプログラミングの知識がなくても、LEDやセンサーなど、機能別に分かれたモジュールを組み合わせることで、誰でも簡単に“あったらいいな”を実現できるツールです。子供から大人まで、それこそ部屋のレイアウトを変えるような感覚で、いろんなことができるようになります。
そもそものスタートは、目覚まし時計のストップボタンだけ洗面所にあったらいいのに・・・と思ったのが一番のきっかけです。自分に合う目覚まし時計はなかなかないもので、探してみてもやっぱり見つかりませんでした。それなら自分で作れるようなものを考えようと、会社や上司からの指示ではなく、社内のソフトウェアエンジニアと二人で自主的に取り組み始めたのです。
石川:社内でプロダクト化していく上でご苦労はありましたか?
萩原:最初は何も形がないため、コンセプトを説明しても理解されませんでした。ランディングページを作ってみたり、紙でプロトタイプを作ってみたりもしましたが、やはり実際に使ってもらわないことには難しい。そこでプロトタイプを作り、お子さんがいる家に行って触ってもらったり、ワークショップを実施したりしながら、そこで得たフィードバックをもとに、現在のコンセプト、形状にたどりつきました。
クリエイターネットワークloftwork.com上でMESHの活用アイデアを公募
石川:萩原さんとロフトワークとの出会いは、拡張現実アプリのセカイカメラのリリースや、グラス型デバイスのテレパシー発表で話題となった、井口尊仁さんからのご紹介がきっかけだったようですね。
萩原:はい。井口さんは2014年秋頃にMESHを見に来られ、文字通り「椅子から転げ落ちそう」になりながら本気で感動してくださいました。その井口さんに、「MESHはつないで楽しく遊べるけど、ちょっと真似してみたくなるようなアイデアはそう簡単には出てこないよ」と言われ、そこにロフトワークの力を借りてはどうかとアドバイスをいただいたのです。
それまで、ロフトワークと言えばFabCafeのイメージしかありませんでした。FabCafeは打ち合わせやワークショップなどでずいぶん活用させてもらい、いろんな方との出会いもありました。
石川:MESHのアイデアアワード企画が持ち上がったのはその約1年後ですね。
萩原:はい。2015年7月にMESHを発売しましたが、その活用方法をもっと広められないかと感じていました。ユーザーが増えないと活用例も増えませんし、活用例が増えないとMESHの魅力も伝わっていきません。そこでコンテスト形式で進めてみてはどうかという話になったのですが、集客力と運営ノウハウもあり、クリエイティブな方々が集まるロフトワークに依頼することにしたのです。
岩崎(ロフトワーク):わたしたちは、これまでにもloftwork.com上で数々の公募プロジェクトを手がけてきました。loftwork.comはロフトワークの設立と同時に、クリエイティブを求めている人とクリエイターを直接つなげるサービスとしてスタートしたものです。15年を経て、現在2万5千人ものクリエイターが登録していますが、メーカーとクリエイターがつながって新しいモノが生まれるような、さらに広がりのあるコミュニティを目指して進化しつつあります。そのタイミングでのご相談だったこともあり、ふたつ返事でお引き受けしました。
絵に自信がなくても応募できるアワードに。 幅広い層から多様なアイデアが集結
岩崎:実は、9/15までの公募終了まで、私自身は一切MESHを触らなかったんです。応募者の半分はMESHをアワードを通じて初めて知る人であってほしいという思いがあり、情報発信するうえで敢えて知らない感覚を大事にしようと考えたからです。公募のトップページにのスケッチサンプルにプロではなく社内のディレクターが描いた絵を載せたのも、絵に自信がないひとでもアイデアがあれば応募できるアワードであることを伝えるのが狙いでした。
萩原:その対応は本当にすばらしかったと思います。
岩崎:どのアワードでもそうですが、最後の一週間に応募が集中します。ですから、そこに向けてできるだけ多くのタッチポイントを作るべく、新たな記事コンテンツを追加したり公募のTopページの構成をみなおしたりもしました。結果、会員向けのSNS、メールマガジンからの反応も上々でした。
最終的に集まったのは79作品。loftwork.comでガジェットをテーマにした公募を実施するのは初めてだったので不安もありましたが、予想を上回る数の応募が集まりました。応募者を大きく分けると、クリエイター層の方、MESHに関心があって今回初めてタッチポイントを持った方、すでにMESHのコミュニティに参加していた方の3つ。クリエイターではない方の応募がかなりありました。
石川:私は審査員として審査に関わりましたが、クリエイターではない方やお子さんまで、MESHの特性をきちんと理解した上で考えてくださった方が多かった気がします。結果としてさまざまなアイデア集まり、実現性の高いものも数多くありました。萩原さんの印象はどうでしたか?
萩原:今回はアイデア勝負なので、選ばれた作品を見ると絵のクオリティもバラバラ。普段のロフトワークのアワードには絶対に出てこないような絵でも、楽しそうな活用シーンが目に浮かんだりするわけです。そこがまた面白かったですね。”誰でも楽しめるものにしたい”という我々の思いが伝わったことがうれしかったです。
また、今までなかったようなアイデアに触れ、MESHは学びと遊びの接点となって、親子、家族、友達、あるいは職場でも、年齢に関係なくみんなで楽しめるところに価値があるのだと改めて気づかされました。たとえば、”毎日使う家電製品を時間帯で切り替えてくれる「スイッチ」”にはハッとさせられましたし、”リアルな料理に非現実的な音を組み合わせることで料理を楽しくする「合いの手まな板」”などはその発想に惹かれました。
武藤 康司《ザ・スイッチ》
受賞者からのコメント
特に朝のルーチンワークをカンタンにしたい!という想いからこのアイデアは生まれました。起きたら部屋が暖まっていて、洗濯機がスタートしていてついでにコーヒーまで入っていたら最高ですよね。早く「ザ・スイッチ」が実用化しないかなぁと思っています。
橋本 崇宏《メッセージ弁当》
受賞者からのコメント
モノではなくキモチが豊かな生活を、MESHは実現してくれる、そんな日常のスパイス的な存在だと感じました。色々な楽しさ、快適さを自分で創り出せる面白さもあるので、創るから使うまで、楽しい体験ができると思いました。
西村 和真 (abird)《オフィス×IoT×Happy ~お土産・差し入れへのお礼からはじまるコミュニケーション~》
受賞者からのコメント
この度は、作品賞という光栄な賞をいただきありがとうございました。MESH IDEA AWARDへの参加で、アイデアをカタチにするという貴重なトライアルをすることができ非常に楽しかったです。MESHの進化に伴い、今後のアワードも進化拡大していくものと思いますので楽しみにしています! またチャレンジさせてください!
fumi (Naofumi HOSOKAWA)《魔法の宝箱》
受賞者からのコメント
やってやったぜ、という興奮を味わいました。今後も、深く深く独りで潜り続ける一日と、広く広くチームで冒険する一日を、行ったり来たりしつつ、「創造的な遊び」を楽しみたいと思います。
ユーザーや企業とのコ・クリエーションで広がる可能性
石川:MESHの今後の展望をお聞かせください。
萩原:今はWebサイトでプロダクトの説明をしていますが、活用アイデアについては我々から発信するのではなく、ユーザーが実際に作ったものをお互いに共有できる環境が必要だと考えます。シェアできるようなサービスを作る、他の企業と連携するなど、具体的にどう実現していくかが今後の課題でしょう。
コラボ事例というほど大きくないですが、たとえば、ワイヤレスで光の色が変えられる電球 Philips hue(ヒュー)はMESHで操作できます。そういったものをどんどん増やしていくことで可能性が広がっていきます。
石川:今後ロフトワークと取り組んでみたいことはありますか?
萩原:2つあります。1つは、ユーザーや企業とのオープンなコ・クリエーション(共創)の橋渡し役を期待します。2つ目は、ユーザーのアイデアをどう見せていけばMESHの魅力が伝わるのか、マーケティング視点で一緒に考え、形にしていけたらと思っています。
石川:ちょうどわたしたちは、クリエイター向けコワーキング施設「MTRL KYOTO(マテリアル京都)」を12月7日にオープン、12月10日に「FabCafe MTRL(ファブカフェマテリアル)」を渋谷のFabCafeの2Fにプレオープンしました。ものづくりのインスピレーションとなる“マテリアル”を収集、展示するスペースもあるのですが、MESHやMESHを使ったアイデアこそが、その“マテリアル”です。京都、渋谷のMTRLにそれぞれMESHを置かせて頂くことが決まりました。この新しい”マテリアル”を使って新しいアイデアを一緒に広げていけると良いですね!
ご紹介者の声
今回は、ご紹介者のDOKIDOKI.inc代表 井口尊仁氏からもコメントをいただきました。
-なぜロフトワークを紹介したのか
MESHは、製品そのものの価値や物語の訴求は懸命に全力でやっているように感じましたが、本当に必要なのは、MESHを使って創造性を発揮するクリエーティブな人たちからの心のこもった声を顕在化することだと思っていました。
これだけ尖った新しい、ユニークな製品をユーザに届けること。その可能性を感じてもらって、創造性のスパークを可視化することは、とても難しいです。よほどの想像力がないと「これ、これ、これだよ!」と、ならないのではないでしょうか。
だからこそ、ロフトワークに期待したのは、MESHとユーザの橋渡し。言語化、視覚化、製品の持つ輝きを捉え、世に伝える「愛ある理解と発話」でした。
-MESHへの期待
MESHそのものの製品としての進化はこのままでもグイグイ進むのだろうと期待していますし、確信しています。今後の課題は、どう世の中をどう巻き込んで、どういう運動を惹起していくのか?だと思います。FabCafeが実店舗と実体験を通じて、ファブすることを世の中に懸命に伝え続けている、その運動するダイナミズム。そのワクワクドキドキ感は、MESHを広めるにも良いロールモデルのように感じます。本物のニューテクノロジーは、やがて社会運動になるものなのだと思います。
プロジェクトメンバー
北尾 一真
株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター
重松 佑
株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター
今回はアイデア勝負なので、選ばれた作品を見ると絵のクオリティもバラバラ。普段のロフトワークのアワードには絶対に出てこないような絵でも、楽しそうな活用シーンが目に浮かんだりするわけです。そこがまた面白かったですね。クリエイターではない方やお子さんも応募されていて、”誰でも楽しめるものにしたい”という我々の思いが伝わったことがうれしかったです。
ソニー株式会社新規事業創出部 MESH project リーダー
萩原 丈博氏
8/1~9/15までの公募期間中、私自身は一切MESHを触りませんでした。応募者の半分はMESHを知らない人であってほしいという思いがあり、敢えて知らない感覚を大事にしようと考えたからです。
パブリックリレーションズ / 『loftwork.com』 編集
岩崎 諒子
私は審査に関わりましたが、MESHの特性をきちんと理解した上で考えてくださった方が多かった気がします。結果としてさまざまなアイデア集まり、実現性の高いものも数多くありました。
パブリックリレーションズ
石川 真弓