100BANCHのアートディレクター小田雄太さんと、ロフトワーク寺井の対談 100BANCH プロジェクトメンバー対談
──逆流のデザインが未来をつくる

100BANCHのアートディレクター小田雄太さんと、
ロフトワークのシニアディレクター・寺井に「デザインする」行為についてインタビュー

デザインする、というのは、つまりどんな行動なんだろう。

WebのUIやプロダクト、空間やサービスといった仕組みなど、有形無形のデザインを行うロフトワークの周りでは、毎日本当にたくさんの「デザインする」行為が繰り広げられています。

今回、2017年夏にオープンした100BANCH(*)のアートディレクターを務めた小田雄太さん(COMPOUND)と、ロフトワークのシニアディレクター・寺井翔茉の対談から、「デザインする」とはどんなことを考えながら何をするのかを探りました。

(*)100BANCH

(聞き手・執筆:原口さとみ)

アイデンティティを変える前に、活動を変える

既に気づいている「なんとかしないといけない」課題があるパターンと、課題設定はなく0→1で新たにプロジェクトを組み立てていくパターン。多様なデザインワークを手がける小田雄太さんは、どんなデザインプロジェクトも大凡この2つの方向性に分けられると言います。どちらでもプロジェクトに伴う「活動」の在り方を大事にしたい、というふたりのやりとりから、クライアントワークの時代性や、これからのデザインワークの基軸が見えてきました。

小田さん(以後、敬称略):
僕、デザインプロジェクトのフィニッシュワークは現場の人たちがやったほうがいい、ってずっと思ってるんですよ。「みなさんが必要とするデザインはこちらです。こんな時はこれを、その場合はあれを使って……」って、実際に使う人たちの余白のない提示の仕方はしたくなくて。きっかけとルールと素材を整えたら、それらの組み合わせは使い手に委ねます。

寺井翔茉(以後、寺井):
プラモデルじゃなくて、レゴを渡すイメージ?

小田:
そうそう。プラモデルだとしても完成品は渡さない。ランナー(*1)がついてる状態で、超いいニッパーと解説書添えて渡す感じ(笑)。
以前、ディスクユニオン社のリブランディング(*2)を行ったんですが、社長から依頼があった時に、ロゴのリニューアルを前提としないリブランディングプロジェクトを提案しました。ロゴは、組織の思想を表す冠です。それを変えることは一見インパクトがあるように見えても、頭を挿げ替えても体が変わらなければ意味がない。結果的に、ロゴの形状比率を変えてタグラインをいれるというアウトプットになりましたが、1年近くかかりました。その間、社内にプロジェクトチームを作り、上意下達にしないための言わば「組織文化を耕す」施策も進めていたからです。「DIVE INTO MUSIC」という新しいタグラインに一番実感を覚えているのは、社員の皆さんだと思います。
上意下達で誰かを排除するような限定的なものにしない、というのはデザインする時に大事にしています。

(*1)プラモデルの部品をつなぐ枠の部分。ニッパーなどで切り離して組み立てる
(*2)レコードチェーン「diskunion」リブランディング

小田雄太
デザイナー/アートディレクター。COMPOUND inc.代表/まちづクリエイティブ取締役。多摩美術大学非常勤講師。 ’04年多摩美術大学GD科卒業後にアートユニット明和電機 宣伝部、その後デザイン会社数社を経て’11年COMPOUNDinc.設立。’13年に(株)まちづクリエイティブ取締役に就任、MADcityプロジェクトを始めとしたエリアブランディングに携わる。最近の主な仕事として「NewsPicks」UI/CI開発、diskunion「DIVE INTO MUSIC」、COMME des GARÇONS「noir kei ninomiya」デザインワーク、「BIBLIOPHILIC」ブランディング、「100BANCH」VI・サイン計画など。http://compoundinc.jp/

寺井:
テクノロジーの発展然り、プロジェクトやチームのつくり方然り、組織の活動はここ数年でも昔より随分社外に見えやすくなってきていますよね。プロジェクトに社外の人が入ることも随分増えた。言ってしまえば、小田さんのいう「冠」は変わっていなくても活動が変わることでブランドの認知も変わる時代です。ロゴデザインに関わる場合も、活動の範囲まで関わりをもたざるを得ないというのが実状でしょうね。

── となると、経営企画・戦略の領域に踏み込むわけですね。

寺井:
例えば醤油屋さんのロゴをつくるとなった時、創業何年、◯◯家伝承、という具合に過去を顧みることが多い。もちろん代々の思いや哲学は大切なものだけれど、過去や今に焦点を当てていても、そのロゴを見る側との時間軸が合わなくなる。デザインワークは、5年10年100年と先を見た時にどうなりたいかを考える、ある種予言めいた作業だと思います。僕は新規事業や新製品のようなゼロから始まるタイプのプロジェクトロゴをディレクションすることが多いのですが、今後そのデザインはどんな活動シーンでどう愛され機能するのかを物凄く考えます。

小田:
大きな視点でみると、バブル期に培われたスキームが機能しなくなりつつあると思うんです。インターネットが出てきてコミュニケーションの仕方が変わったのも要因のひとつ。会いたければメールをし、情報を広げたければSNSで拡散し、デザインのサンプル画像はどんどんリサーチして収集できる。きちんと組織の文化を耕すところに着目するのは、刻々とスピードが早くなって競争が激しくなるなかでそうせざるを得ない、オルタナティブな生き残り方という側面もあるでしょう。

寺井翔茉
立命館大学卒業後、2008年ロフトワークへ入社。2012年に最年少でシニアディレクターとなり、ロゴやプロダクト、コンテンツ、展示のディレクション、デザインコンペティションの運営など様々なクリエイティブを手掛けながら、大型のCMS導入やWebディレクションも行うなど、幅広く豊富な制作実績をもつ。

文化の対流を起こし、活動が生まれる土壌をつくる

「組織の文化を耕す」。それは、コーチングのように対話によって行動を促すようなこともあれば、秩序の保たれた組織のなかにあそびをもたせて、メンバー間のコミュニケーションを変えるといった仕掛けづくりもあるでしょう。今回の取材で幾度と繰り返された「上意下達」を生まない環境づくりについて、さらに話は深まります。

小田:
100BANCHのVIで、主に色と角度についてのガイドラインをつくりました。基本は白と黒のストライプ。色を使う時は光の三原色をモチーフにしたものを使う、使用するラインは120°の交点をもつ、というものです。100BANCHの中に、GARAGEプログラム(*3)に参加するチームのサインを掲示する「プロジェクトボード」と呼ばれる壁があるんですが、今レイアウトされているデザインは僕らがフィニッシュワークに関与していなくて、いい意味で公開初日からルールが破られたものがありました(笑)

寺井:
ルールに則って、各チームごとに自分たちらしいラインを貼ってください、と言ってカラーテープを渡したら、ひとつだけ120°のルールを無視しているチームがいて。彼らは、ふんどしを新たな表現ツールとして提案するプロジェクト(*4)を行っているんですが、赤のテープを90°に交差させていて、そこにあるのは見事にふんどし。これは、全部デザインしつくしたら出てこない表現だなぁと思いましたね。

小田:
最初は「早速破りやがって……」って思ったけど(笑)、ハックしてくれて嬉しかった。僕は逆流の文化をつくることに興味があるんです。課題解決を順流とするなら、0→1で何かを生みフィニッシュワークを誰かに託すことは逆流。基本的に、文化は逆流することでしかつくられないと思っています。音楽やファッションも、“いつもの流れ”に抗って生まれたものが多い。誰かのハッキングによってルールが改変された時、そこで初めてノイズがどう育っていくかが見え始める。逆流をつくる生態系を設計して、ノイズのゆくえが見たいんです。でこぼこを平らにするんじゃなく、違うでこぼこをつくりたいですね。

(*3)GARAGEプログラム
(*4)FFF〜Fundoshi Fashion Festival

より本質に近づき、オリジナルであるために

100BANCHのデザインプロジェクトでは、「100BANCH(ひゃくばんち)」というネーミング、サイン計画や100BANCHでなされる活動の設計が主に行われましたが、デザインワークの最初のアクションは「文脈・地脈を探る」だったとか。エリアマネジメントを行う「まちづクリエイティブ」(*5)のクリエイティブディレクターも務める小田さんと、小田さんから今回「編集属性のディレクター」とも呼ばれた寺井が、これから取り組もうとしているデザインについて語ります。

(*5)株式会社まちづクリエイティブ

小田:
渋谷の街って、“偶像”を必要としないんですよ。ハチ公や109、スクランブル交差点があるじゃないかと言われそうですけど、それらが「渋谷」を表しているか?と言われると、ちょっと断片的で違う。さらにこの街は246と明治通りで区切ると、うまくエリアの特徴がマトリクス状に区分けできるんです。センター街や宇田川町はカルチャー・若者文化、表参道方面は商業・ファッション、道玄坂は食やビジネス。では100BANCHのある南街区エリアはどうかというと、ここはまだこれといった色がついていない。偶像を必要としない街のまだ色がないエリアをどう表現するか、というところからリサーチを進めました。

寺井:
最初は名前を決めました。でも、このプロジェクトは母体があるものの新事業でもないし、ステートメントもきちんと決まっていない、本当に0→1のものだった。あるのは、複数社の大勢の関係者の熱い思いです。そういうまだ見えないものに、何という言葉を与えるとどんな文脈が生まれるか。これから人が出入りして何かが生まれる場になることは分かっていたので、名前によって何かを制限することがないように、可能性の幅を広げようと膨大なリファレンスを集めながら、決めつけすぎない瀬戸際の言葉選びをしましたね。

── 定めきれない気持ち悪さ、みたいなものはかなりあったのでは。

寺井:
言ってしまえば……そうですね。でも、デザインリサーチのプロセス(*6)と同じようなことだと思います。
専門家へのインタビューやフィールドリサーチなど様々な調査から沢山のナマの情報を得た後、そこから何が見えるかというインサイトを言語化するプロセス。空欄の答え合わせをするのではなく、自分というフィルターを経て出てくる言葉にはリアリティ・温度感が付随します。ロフトワークのクリエイティブチームには、ここ1-2年でデザインリサーチのメソッドが浸透しつつあるのですが、僕たちはこういった「まだ名前のないものを模索しながら解釈し、新たな言葉を与える」ことをやっているんだと思います。

(*6)デザインリサーチ

小田:
リファレンスの量といったら物凄かったけど、その瀬戸際で色々やりあうなかで感じたのは寺井さんの編集者“的な”ディレクション。編集者ではないのがミソで(笑)、編集者って良くも悪くもその人の色があるけれど寺井さんはそれがなくて、常に全体の構造を見ながらあれこれ合わせていく「ロジックと直感のバランス」にブレがない。

寺井:
そのお題の先にある活動の本質的なところまで入り込めたら、という気持ちがあります。普段、色んな企業や大学のWeb制作をすることも多いんですが、たとえば大学なら、「授業名は『◯◯論 A』でいいの?」「もっとオープンキャンパスはリアリティあるものにできない?」と思うこともあって。冒頭の「頭を挿げ替えても体が変わらなければ意味がない」の話じゃないですが、活動をドライブさせる仕組みづくりの仕事がしたいですね。

── 編集と近い言葉で、小田さんが「設計」という表現でデザインについて話すのをCOMPOUNDのサイトや記事(*7)でよく拝見します。

小田:
発端は、SF映画『ブレードランナー』でのある台詞(*8)に響いたことからなんですけど、設計とデザインは同じだと思っています。デザイナーは自分の文脈をもつべきだ、というのが自論にあって、その話をすると建築っぽいですねと言われることがあります。でも、「設計」に携わる人は大体同じことをやっていると思うんです。時代や土地の文脈と思想を交差させるというか。

そうやっていくと、デザイン・建築といった境界がどんどん曖昧になっていく。僕は、こういう境界をどんどん曖昧にしていきたいんです。そのためにはお金に対する眼差しも必要だし、コミュニティに対してどうコミュニケーションするかも大切で、それらをどうまとめてプロジェクトに絞り上げるかも大事。イギリスにComedy Carpet(*9)という都市づくり・建築・アート・デザイン・文化政策……ひとつのカテゴリに収まりきらないプロジェクトがあるんですよ。こういうのをいつかやりたいと思っています。

(*7)DOTPLACE連載「デザインの魂のゆくえ」
(*8)作中の台詞“I am your designer.”の邦訳がエディションによって「設計者・父・創造主」等異なる表現になっている
(*9)Comedy Carpet

 

「デザイン」という言葉がもつ意味はあまりに十人十色で、その一色一色がユニークです。正解はなくとも、デザインのプロフェッショナルたちの眼差しを辿って、デザインの先に広がる未来の新しい景色を見たい。 そんな思いで臨んだ今回の対談で見えてきたのは、デザインには文化と文化を対流させ、逆流を生み、新しい文化を生むことができる、ということ。

たとえば、100BANCHのデザインを初めて見た時、初めて空間に足を踏み入れた時、私は確かに「新しさ」を感じました。単なるイマドキ感や未来っぽさといったそれではなく、「何かが始まりそう」な新しさです。
こうした情緒はこれだけ細やかで、挑戦的な「設計」から生まれているものだったとは。
皆さんもぜひ100BANCHで、ふたりが取り組んだ「デザイン」の奥深さを体感してみて下さい。

プロジェクトの詳細

パナソニック株式会社 未来をつくる実験区 渋谷100BANCH

詳細