ローンチへの熱い決意
“仲間”として共に取り組んだマイナビ 「hin+(ヒンタス)」を振り返る
ロフトワークが伴走してカタチとなった、株式会社マイナビのビジネスパーソン向け新サービス「hin+(ヒンタス)」。
ローンチから2ヶ月が経ち、マイナビでプロジェクトの舵とりを担った寺下知哉さんとロフトワークで本プロジェクトを担当した浅見和彦と高井勇輝が当時を振り返りました。
左から
株式会社ロフトワーク シニアディレクター 高井勇輝
株式会社マイナビ 転職サイト運営戦略部 部長 寺下知哉様
株式会社ロフトワーク プロデューサー 浅見和彦
ユーザーへの共感を高めた結果、目指す方向を転換
ーーまずは、プロジェクトの始まりのお話から聞かせてください。ロフトワークに最初にお問い合わせいただいたのは17年9月でした。どういう経緯でお声掛けいただきましたか?
マイナビ 寺下知哉様(以下、寺下):当時、新しいタイプの転職サービスが次々とリリースされていました。私たちも「転職に対する捉え方が変わってきている」ことはなんとなく把握しており、求人情報を提供するだけではユーザーとのコミュニケーション領域に限界があると感じていました。
そんな中、現場のメンバーから転職潜在層向けの新サービスを立ち上げたいという声が上がり、僕はマネタイズの方向性を考える立場で協力することになりました。社内でサービスアイデアをプレゼンしたところ、上層部も同じように課題認識を持っており、プロジェクト化して新サービスの検討を進めることになりましたが、「想定している機能」や「提供する価値」の有効性を検証できておらず、サービスアイデア自体に反対意見もありました。
そこで紹介されたのがロフトワークだったんです。初回の打ち合わせでは、すでに作っていたプロトタイプを用いてやりたいことを説明するところから始めました。
ーーすでにプロトタイプまで作られていたのですね。そこからロフトワークがご一緒させていただくことになり、どのように進めていったのでしょうか?
ロフトワーク 高井勇輝(以下、高井):元々のプロトタイプはいったん置いておき、インサイトを探るところから始めましょうというのが最初のフェーズでした。そこから3~4ヶ月で仮説立案を行いました。
ロフトワーク 浅見和彦(以下、浅見):転職するトリガーがあるはずだという仮説を立て、それを探るためにインタビューを実施しました。しかし、検証した結果、分かりやすい一つのトリガーがあるわけではないことが分かりました。
転職を考えているもののまだ具体的な求職活動は行っていないひとを転職潜在層といいますが、彼らの転職意欲が高まるきっかけをリサーチした結果、誰もが転職潜在層であることに気付きました。何か特定のきっかけがあって転職を考えるのではなく、ライフスタイルを考える延長線上に転職という選択肢が出てくることもあるのだなと。
高井:元々は転職潜在層のためのサービスをつくりたいというのが与件でしたが、リサーチを進める中で、すべてのビジネスパーソンが使えるサービスを作ろうという発想に変わっていきました。
寺下:結果的には、元々のプロトタイプの原型はなくなりましたが、ユーザー像やインサイトを言語化しながら方向性をブラッシュアップしていったので、形が変わっていくことに抵抗はありませんでしたね。
ーーそもそもマイナビさんは、転職に関するデータを数多くお持ちだと思います。データでは転職潜在層の実態に気づけなかったのでしょうか?
寺下:普段の業務では、統計的な分析やアンケートからユーザー分析をしています。定性調査をするとしても、事前に「確認したいこと」と「こうだろう」というのが頭にあって、自分たちの都合のいい方に誘導してしまいがちなんですよね。
今回実施したインタビューは、トリガーを探りつつも誘導尋問をせず、事実だけを淡々と聞いていく方式で、インタビューの後で「あの話の裏側にはこういうことがあるよね」とインサイトを抽出していきました。初めての体験でしたが、たくさんの気付きや発見がありました。
ーー転職潜在層が本人も気づかない心の内を把握したところで、次に「メンタルモデル」を設定しましたね。ペルソナとの違いなど、しっくりきましたか?
寺下:転職についてはペルソナよりメンタルモデルの方が合っていると思いました。ペルソナだと年齢や居住エリア、職種などを決めがちですが、メンタルモデルはライフイベントや環境の変化からくる感情がベースになっているので、誰にでも当てはまる点がしっくりきました。
“使命感”を燃料に、プロジェクトを推進
ーー新しいサービスをゼロから立ち上げるには、大変な労力が必要かと思います。リリースまで、どんなことが支えとなりましたか?
寺下:「絶対リリースしてやる!」という使命感みたいなものかもしれませんね。全員がメイン業務の空いた時間でこのプロジェクトに関わっていたので、以前決定したことで議論が再燃したり、途中からメンバーが追加されたこともあり、認識が異なったりと、なかなか進まない時は心が折れそうになりました(笑)
その度に「なんとしてもリリースするぞ!」という強い思いをもって、少し強引に進めたこともあったように思います。
高井:それはすごく大事なことで、担当者がそういう熱い思いを持っていなかったら、新しいサービスを作ることはできません。もちろん成功のために僕らがベストを尽くしてサポートしますが、担当者の「本気でやる!」という気概がないと、いいサービスでもローンチできないことを今回のプロジェクトで改めて実感しました。外部のパートナーとして、気持ちの火を大きくすることはできるけれど、そもそもの火を起こすことはできませんから。
浅見:プロデューサーとして様々なプロジェクトを見てきて思うのは、サービスアイデアをカタチにするには、熱意や責任感が必要だということです。「このプロジェクトを届けたい!」という熱い気持ちがないと、いいアイデアを具現化できないし、売れるものも売れません。
寺下:新しいサービスを作るのは初めての経験でしたが、「いい物を作りたい」という強い思いを持っていました。ただ、アイデアを膨らませすぎても上手くいかないし、その攻防でしたね。自分の意志を貫くだけでは進まないので、後半は「自分がやりたいこと」を押し通すよりも「どうやったらうまく進むか」にシフトして、その過程でサービスの機能を削っていきました。
迷ったら、過去の資料を振り返って”現在地”を確かめる
ーーコンセプト策定から開発、そして現在まで、どのフェーズが一番大変でしたか?
高井:方向性が定まり、プロダクトに落とし込む時です。迷走し、途中、全然違うサービスになりかけました。
寺下:あの時は本当に無理かもと思いました。打ち合わせの途中で、3分間くらい無言になったこともありましたよね(笑)。
ーーすべてが順風満帆に進んだわけではなかったのですね。どのようにして難所を乗り越えることができたのでしょうか?
寺下:過去の資料を全部見返し、どういう過程を経て今があるのかを主要メンバーに説明しました。たどってきた過程を振り返り、全体を俯瞰して今はここを悩んでいるんだということを確認しました。
議事録は財産です。開発フェーズでシステム担当者に過去の経緯を説明する際にも重宝しました。「これ見てください」と言えるので。議事録って決まったことだけを書くことが多いですが、ロフトワークの議事録は話題が発展したストーリーが会話形式で残っていて、小説みたいでした。
高井:新サービスは議論が二転三転しがちですが、なぜ変わったのかを残しておくことが大切です。そうしないと、やっている僕らも分からなくなってしまうことがあります。
プロジェクトを“共謀”
ーー先ほど社内調整が大変だったという話がありましたが、どのように進められたのでしょうか?
寺下:僕自身、このプロジェクトの他に社内で大きなキャンペーンを2つ抱えていて、外部パートナーがいなかったら成立していませんでした。非常に心強かったですし、社内の人間が言うとどうしても上下関係や声が大きい人の意見が優先されることがありますが、外部の人に代弁してもらうことで進めることができました。
浅見:上手な人ほど、外部パートナーを代弁者っぽく使ってくださいます。
寺下:ロフトワークさんと相性が良かったこともあると思います。ワークショップなども「こうやってアイデアを出していくのか」と勉強になりました。元々のプロトタイプに一度も戻らなかったのも良かったですね。ユーザーやトレンドを知り、検証を重ねたうえで納得して進めることができました。いい意味で忖度がなくて、一緒に仕事しやすかったです。
高井:ミーティングで週に1回、詰めの時は週に数回お会いして、本当に仲間みたいでしたよね。
浅見:通常プロデューサーはプロジェクトの中に入ることはあまりないのですが、このプロジェクトは打ち合わせにも入らせてもらって、毎回本当に楽しくて。プロジェクトって、杓子定規ではダメなんです。僕たちはこう思うって、腹を割って話せることが大切です。
ハブになるサービスに育てる
ーーマイナビにとって、若手ビジネスパーソン同士が関わり合うようなコミュニティのサービスは初めてですよね。実際にリリースされてみて、感触はいかがでしょうか?
寺下:現在のヒンタスはフェーズ1で、まだまだやるべきことがある段階です。サービスを使い続ける先に進みたい道が見えて、行動したくなるようなきっかけを作っていきたいと思っています。
こうしたコミュニティのサービスは、転職だけでなく就職や独立、結婚などにも展開していけると考えています。マイナビとしてハブになるサービスにしていきたいですね。
高井:これからがスタートですね。
浅見:転職以外のカテゴリーにも広がっていきそうですし、ヒンタスは可能性しかないですよね。転職に関してはユーザー側の感覚として「エントリーシート面倒くさい説」があって、ヒンタスはその説に対する一つのアンサーになるのではないでしょうか。採用する側も今まではスペックで判断していたけれど、これからは定性的に判断した方が面白いと思いますし、それをやっているのはマイナビさんだけです。
寺下:リリースしてしまったら、あとは良くしていくしかないですね。
浅見:子供が生まれたら一生懸命育てるしかないのと同じですね(笑)。
member
寺下 知哉
株式会社マイナビ
浅見 和彦
株式会社ロフトワーク
シニアプロデューサー
高井 勇輝
株式会社ロフトワーク
クリエイティブDiv. シニアディレクター