コニカミノルタ株式会社 PROJECT

オープンコミュニティとともに、自社事業のDNAを駆動させる。
コニカミノルタが挑んだ共創型の未来洞察

ロフトワークでは、2022年9月から2023年の8月の約1年間にわたって、コニカミノルタの新価値事業創出プラットフォームである envisioning studioと共に、未来の「みたい」を探求するMITAI VISIONプロジェクトを行ってきました。

創業150周年を迎えたコニカミノルタがどのような「みたい」(未来のニーズ)に応えていくべきなのか。価値創出の羅針盤を生み出すことを目標に、本プロジェクトでは、コミュニティを起点とした事業デザインが得意なLAYOUTユニットがプロジェクトデザインを行いました。

また、LAYOUTユニットが運営し、コニカミノルタが会員として入会する問いを起点とした会員制共創施設 SHIBUYA QWSの場所・会員も巻き込み、いかに多様でオープンな形で未来洞察を行ったかをお伝えします。

執筆:加藤 翼/株式会社ロフトワーク LAYOUT Unit ディレクター
編集:岩崎 諒子/Loftwork.com 編集部

未来の「みたい」とは?

コニカミノルタの祖業は写真事業です。1873年に小西屋六兵衛店から始まったコニカと1928年に日独写真機商店から始まったミノルタの歴史が重なり、現在に至ります。世界で初めて宇宙から地球を写したカメラとなったミノルタハイマッチクを生み出すなど、様々な世界初の技術で世界を驚かせてきました。コニカミノルタの事業は常に、人々の「みたい」というニーズに応えることで成長を遂げてきたのです。

一方、社会の技術と人々のニーズの変化は移り変わるもの。やがて複写機・複合機などの情報機器がコア事業となり、2007年にコニカミノルタは写真事業を終了しています。そしてCOVID-19を経験し様々な当たり前が大きく変わった2023年。私たちは未来に如何なる「みたい」を欲するのでしょうか?

AIによる画像生成、NFTやブロックチェーンなど、複製技術が大きく変わりつつある時代の潮目の今だからこそ、人類に投げかけられた命題として、多様な人々と共に改めて未来の「みたい」を問い直す。オープンなコミュニティによるアプローチを通じて、個社の取り組みだけでは辿り着けない視座を獲得し、より高い解像度で「未来のみたい」を見通すことに取り組みました。

また本プロジェクトでは、描いたビジョンを妄想で終わらせずに、いかに社内の様々な部門で活用してもらえるかも重要な点でした。そこで、私たちが大切にしたのは「歴史」です。コニカミノルタが150年をかけてきた歴史こそが、人々に物語のリアリティを創造するのではないか。リアリティはビジョンの解像度を高め、コニカミノルタ社員一人ひとりの内側に秘めた祖業のDNAに火が灯る時、外在化していた「みたい」ビジョンはイメージとなって内在化し、あらたなイマジネーションの源泉と変わるはず。ビジョンとは静的でなく、常に運動体の中で作られていくべきであり、革新は多様でオープンな場から生まれていくと私たちは信じています。

「写真」の周縁の探索者

本プロジェクトにおいて、未来の「みたい」はニーズリサーチの帰結として現れると想定していました。通常のデザインリサーチのアプローチを取るならば、特定の「みたい」領域を絞り込み、仮説形成とインタビューを通じて、インサイトをまとめていきます。

しかし、今回探索する未来の「みたい」とは今の私たちが認知していない、あるいは言語化できていない領域にあります。そのため、直接的なコミュニケーションでは知り得ないという課題に直面しました。仮説形成に未来予測レポートや統計データを使っていくと「ありがちな未来」に落ち着いてしまう。さぁ、どうしよう?

そこで、本プロジェクトでは「未来のみたい」を旗印に、多様なイノベーターたちとのコミュニティ構築からスタートしました。その中で、共通言語として「写真」を中心に据え、一方で「写真」自体に焦点を当てるのではなく、写真の周縁を探求していくことから、まだ見ぬ「みたい」の輪郭を浮かび上がらせるアプローチを取りました。

具体的には3ヶ月間のワークショップを通してビジョンプロトタイピングを実施しました。手を動かし、時にシャッターを押し、時に他人のレンズを借りながら、「みたい」と「みえた(みえたかもしれない)」の反復と他者との対話を通じて、まだ見ぬ「みたい」の現像を目指しました。

コニカミノルタ社内からは、「未来のみたい」という、わかりにくいテーマで集まる人なんているのだろうか?という、不安の声もありました。私たちは、コニカミノルタとして旗を振る限り大丈夫だと、自社の150年間に自信を持って欲しいと伝え、理解・納得を得ました。

コミュニティの参加メンバー公募は、年末の慌ただしい時期にたった2週間という非常に短い期間の中で行われました。プロジェクトチームの心配をよそに、結果として30名の多様な参加者が集まり、3ヶ月間の未来探索プログラム「f∞ studio program(フースタジプログラム)」がスタートしました。意思あるメッセージを発すれば、例え少人数でも必ず呼応してくれる仲間がいる。コミュニティはいつも、小さいけれども強い灯火から始まります。

f∞ studio program

f∞ studio program(以下、f∞ studio)は、「写真」の周縁の探索を起点に「未来のみたい」に挑戦する、制作型・ビジョンプロトタイピングワークショップです。当初の想定を超えてアウトプットが良く、参加者によって制作されたプロトタイプを「みたいの未来展」という形で、6日間、渋谷・道玄坂にあるデジタルものづくりカフェ FabCafe Tokyo(ファブカフェトウキョウ)で展示を行いました。

プログラムはオンラインのコミュニティ活動と5回のオフラインのワークショップで開催されました。メンターとして、京都芸術大学 大学院芸術研究科 非常勤講師で現代写真家の北桂樹さんにご協力いただき、DAY3のワークショップには武蔵野美術大学の山﨑和彦教授の協力のもとco-visionのメソッドを活用したチームビルディングを実施。最終的に8つのチームが活動に取り組みました。

コミュニティが活力を与えるビジョニング

f∞ studioを運営していて何よりも驚かされたのが、参加者のモチベーションの高さでした。期間限定のプログラムにおいてオンラインのコミュニケーションスペースが用意されることはよくあることです。しかし、大抵は事務局からの連絡やプロジェクト遂行に必要なコミュニケーションが行われるのみで、参加者同士のやり取りが自然に盛り上がることは稀です。

しかしf∞ studioでは、事務局が提示したシンプルなテーマ「#これも写真?」をきっかけに、毎日のように誰かが それぞれの写真性を表現し、スレッドが自然と連なる対話が生まれていました。その議論も、誰かが誰かを否定するのではなく、日々の生活の中から得た「写真」を起点とした気づきを自由に披露している。

コミュニティを活性化させるには、いかに日常の中でコミュニティを想起させる瞬間をデザインできるかが大切ですが、f∞ studioでは、参加者それぞれに「#これも写真?」という非物理的なカメラを渡すことで、日常に眼差しを向けてもらうことに成功しました。

もちろんコミュニティマネジメントの手法として、事務局側も、参加者同士のリアクションを誘発するオリジナルの絵文字スタンプを用意したり、毎回のワークショップの場で面白い投稿を拾い上げて、活発な議論を引き出すなどの活動はデザインしています。しかし、それ以上に参加者の皆さんのコミットと期待値の高さが助けとなり、毎回のワーク自体もブラッシュアップされ、事務局自体のクリエイティブジャンプを産むことができました。

デザイン思考が生むブレイクスルー

ワークショップ設計の中で最も印象的だったのが、DAY2の課題でした。DAY2のワークショップでは、あらかじめ参加者に自身がギリギリ「写真」であると思うものを考えて持ち寄ってもらい、お互いのアウトプットを通して「写真」の輪郭を問い直してもらいたいという目論見がありました。

課題の設計で悩んだことは、「写真」が二次元平面の印刷物であるという一般的な認識からいかに逸脱し、自由な発想に辿り着けるか。そして、当日のワーク内で議論を行うために、どうやって参加者のアウトプットに一定の共通性を持たせることができるか。課題の中で、この2つのアプローチを両立させることでした。「例えば、○○のような」など、具体的な例示をするのも一案でしたが、そうすると参加者の思考が例示したものに引っ張られてしまい、発想が広がりにくくなってしまいます。

その時、プロジェクトメンバーである、コニカミノルタのデザイナー 長田さんが「(課題として)箱を渡したらいいんじゃないですか?」とポンとアイデアを出してくれました。それだ!とみんながハッとした瞬間です。箱の中身を埋めることをイメージすると、人間の思考は自然に二次元から三次元へと拡張される。そして、箱を開けて閉めるというプロセスは開けるまで他社の「写真」を知覚できず、1対1で向き合う個人的経験となって、自己の写真性を揺さぶってくれます。長田さんのアイデアは、人の行動や発想の変容を促す、デザイナーならではの発想でした。

この大発明の結果、私たちの想像以上に多様で、考え抜かれた多様な「写真」が箱の中で誕生することになりました。(余談ですが、運営チームは「その辺で拾った石ころを入れてくるんじゃないか」とか、「何も入れずに空気という時間が入っている、と言い張る人がいるんじゃないか」などと予想していました(笑))

妄想を構想に変える

3ヶ月のワークショップを経て、8つのビジョンプロトタイピングが完成した上で、私たちはコニカミノルタ社内の事業開発に活用可能な形を目指した「MITAI VISION」の策定に取り組んでいます。

デザインやアートの手法を使ったアウトプットを「面白いね」で終わらせずに、経営陣が参照するものに昇華するにはどうしたら良いか。今まさに、f∞ studionメンバーと4名の専門家と共にワークショップを重ねています。この続報を楽しみにお待ちください。

加藤 翼

Author加藤 翼(Layout シニアディレクター)

早稲田大学文学部で哲学を専攻後、社会科学部へ転部。Boston Universityへの留学を挟んで卒業したのち、新卒で外資系コンサルティングファームに就職。アメリカ、タイなど海外プロジェクトでの業務改革に携わる。働きながら通信制美大に通い空間デザインを専攻後、100BANCHの空間設計などに興味を持ち、ロフトワークに入社。100BANCHのコミュニティーマネジャーを担当。食べることより知識を得ることが生きがい。

Profile

関連記事:コニカミノルタが実践。未来の“みたい”を探るビジョンデザイン

f∞ studio program(フースタジオプログラム)」は、コニカミノルタenvisioning studioとロフトワークが運営する、これからの社会において人々がどんな「みたい」を実現したいのかを探索するプロジェクト。さまざまなプレーヤーを巻き込みながら、未来のニーズのヒントとなり得る「写真の周縁」を探りました。 

本記事では、f∞ studio programのプロジェクトチームにインタビュー。前編となる本記事では、コニカミノルタ内でこのプログラムが立ち上がるまでの経緯を聞きました。

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