
世代を超えて共助の関係を編み直す
品川区の防災訓練プログラム
Outline
コレクティブな協働で、地域防災のあり方を更新する
品川区では、地域の防災協議会、消防署、消防団、警察署などと連携しながら、自助・共助向上のための防災訓練を実施し、災害の発生に備えています。一方で、防災訓練に関わる地域住民の高齢化が進み、居住年数が比較的短いファミリー層などの若い世代を新たに巻き込むことが課題となっていました。

そこで、本プロジェクトでは、品川区で暮らすファミリー層をはじめとした若い世代に向けて防災訓練への参加を促すために、外部のクリエイターとのコラボレーションを通して、新しい防災訓練プログラムを開発しました。
さらに企業とのコラボレーションとして、尾西食品株式会社の協力のもと、長期保存が可能な備蓄用のカレーライスを試食できるキッチンカーをプロデュース。クリエイターや企業というコラボレーターが持つ新しい視点を加えることで、これまでの防災訓練のあたりまえを更新するきっかけを提供しました。

Project Overview
クライアント:品川区役所
実施年:2024年
プロジェクトチーム:
PM・クリエイティブディレクション: 吉田 真貴
クリエイティブディレクション: 根元 緑, 平井 真奈
プロデューサー: 日髙 拓海
アートディレクション:増田 圭吾(MA design)
ダンス制作(音楽・歌詞制作・振り付け):三原 勇気
キッチンカー協力:尾西食品株式会社
アドバイザー: 二本栁 友彦, 山田 麗音, 室 諭志, 伊達 善行
アシスタント・サポート:大里 薫、荻野 香凜、篠原 彩音、園田 亮、高橋 聖、筑間 拓実、手塚 太地、松本 モモヨ、山本 夏寧、吉田 日菜子
Output
ダンス・食・ゲームを通して、防災をもっと日常に
本プロジェクトのチャレンジとして、食やダンス、ゲームといった日常的な体験の中に、防災の所作や非常時の避難行動などの要素を組み込みながら、「災害への備え」を気軽に、かつフィジカルに学べるプログラムを開発。
新たな防災訓練プログラムは、9月から11月までに品川区内で行われた品川区総合防災訓練のうち、5か所で実施。60代から80代の高齢者だけでなく、通りがかりのファミリー層も参加できる地域イベントとしてその機会と場をひらきました。さらに、子どもたちから高齢者まで、多世代がともに防災訓練プログラムを楽しみ、交流しながら、共助への意識を育む場をつくりました。
防災ダンス

ダンスを通して、防災への備えや避難のための行動、そして共助の大切さを伝える「防災ダンス」は、品川区の防災ハンドブックを元に制作。オリジナルでつくられた音楽、歌詞、振り付けには、子どもから大人まで、誰もが楽しんで踊れるような工夫が凝らされています。


コミュニケーションツール、防災ゲーム
今回のプログラムでは、リーフレットをはじめ、案内看板、のぼりなどのコミュニケーションツールを制作しました。デザインにあたって、品川区章のカラーである“ブルーバイオレット”と、防災を伝えるカラーとして“黄色”をキーカラーに設定。品川区の防災キャラクター「ジージョくん」も活かしながら、人々の印象に残るよう統一性を持たせました。


さらに、新しい防災プログラムとしての防災ゲーム「アレアレバ」や、「避難所ゲーム」でもこのキーカラーを踏襲。コミュニケーションデザインとプログラム体験のビジュアルを一貫させることで、若い世代から地元の防災訓練に対して親しみやすさや愛着を感じてもらうことを目指しています。

防災キッチンカー(提供:尾西食品株式会社)

尾西食品株式会社の提供により実現した、防災キッチンカー。CoCo壱番屋と同社が共同開発したアルファ米を使った備蓄用カレーライスの試食を、訓練参加者に提供しました。
地域の人々に温かいカレーライスのおいしさを実感してもらうことで、食糧備蓄への啓蒙を図りました。また、キッチンカーの存在感は防災訓練のオープンな雰囲気づくりにも寄与しています。



Approach
防災をもっと日常に。チームの想いから生まれた防災プログラム
ロフトワークが本プロジェクトに参画するきっかけになったのは、元 自治体職員だった、プロデューサー・日髙の存在です。在職時代に防災にまつわる業務を担当していた経験があり、当時から防災訓練をより広い世代が参加したくなる取り組みにできるのではないかという強い想いがありました。
ロフトワーク入社後、品川区が防災プログラムの委託先を公募したことから、日髙は「クリエイティブカンパニーとして新しいチャレンジができるはず」とプロポーザルに参加。プロジェクトが決定してからは、クリエイティブディレクターの吉田、根本、平井が日髙の想いと構想を受け取りながらプログラム開発を推進しました。
制作期間はおよそ3ヶ月。プログラム開発パートナーとなった、MA designの増田圭吾さん、ダンサーの三原勇気さん、尾西食品株式会社もまた、元々抱えていた防災に対する課題意識から本プロジェクトに参加。主体的にアイデアを提案しながら、短い期間の中で、品川区ならではのコミュニケーションデザインやプログラムを形にしました。

Outlook
防災訓練をひらくことで、多世代にとって“また参加したい”体験が生まれた
今回開発した訓練プログラムは、ファミリー層や子どもたちをメインターゲットにしていました。一方で企画の過程では、さまざまな外部のプレーヤーを巻き込むプログラムに対して、従来の防災訓練を知る人から「本当に変える必要があるの?」「変えた後に問題は起こらない?」など、変化を不安視する声も。
しかし実際にやってみた結果、ファミリー層だけではなく高齢者の方々からも、「楽しかった」「もっとやりたい」「来年もやってほしい」という声が数多く寄せられました。


日常と非日常の境界線を溶かし、地域防災のあたりまえを更新するには?
長く続いてきた「あたりまえ」を変えるには、さまざまなハードルがあります。地域防災のような公共性を含む活動であれば、なおさらです。
より良い未来に向け、新しいアイデアを人々に理解してもらうには、まずそのアイデアを実際に体験できるよう素早く形にすることが大切です。そこから、ありたい未来像に共感する人々を着実に増やしていくことが、長期的な変化のきっかけとなります。


今回のプログラムが生んだ変化は、決して大きなものではないかも知れません。しかし、この小さな変化を、地域防災への意識や取り組みのあり方を変えていくための一歩にしたい。非日常に備えることが日常になる未来に向けて、地域防災をいかにデザインしていくか? わたしたちは、これからも模索を続けます。

執筆:岩崎 諒子/ロフトワーク ゆえん マーケティング・編集
編集:乾 隼人
写真:村上 大輔
ゆえん unit

地域の価値共創に向け、協働的な関係をデザインする
絶えず変化する時代、人口減少社会がすでに始まっている日本。地域の経済・産業の成長を長期展望からうながす仕組みづくりは、喫緊の課題です。
ゆえんunitは、地域の産業、文化、人、自然といった「今ある資源」を活かしながら、産業振興、関係人口回復、文化振興、未来のビジョニング、持続可能な地域づくりなどの領域に取り組んでいます。成果を生み出す創造的なプロジェクトを設計し、地域のみなさんと共に価値づくりを実践します。
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