企業と学生で社会課題解決へのきっかけをつくる
お茶の水女子大学 女性活躍促進連携講座
Outline
お茶の水女子大学は、国立の最も歴史ある女性高等教育機関として、創設以来女性の社会的活躍に寄与し続けてきました。高い専門性を持つ女性人材の育成や、女性が活躍できる領域の開拓といったアプローチで、広く社会に貢献しています。こうした背景のもと、同大学では2019年から女性活躍推進をテーマとした産学連携の取り組み、「女性活躍促進連携講座」を実施しています。
ロフトワークは、2020年度の同講座のうち、6回にわたる参加企業と学生間のグループワークショップを設計し、その運営を担当。学生と企業からの参加者がともに意識変容のきっかけとなるワークショップを設計・実施しました。結果として企業・学生の双方にとって、参加する意義が高いと感じられる講座となりました。
プロジェクト概要
- プロジェクト期間:2020年9月〜2021年2月(6ヶ月)
- 体制:
- クライアント:国立大学法人お茶の水女子大学
- PD:新澤 理緒、浦田 文恭(株式会社ロフトワーク)
- PM・CD:岩倉 慧(株式会社ロフトワーク)
- CD:近藤 理恵、髙 恒奈(株式会社ロフトワーク)
- アドバイザー:棚橋 弘季(株式会社ロフトワーク)
- 講師・連携パートナー:合田 文(株式会社TIEWA・代表取締役)
- 講師・協力:ぴーちゃん( 漫画家・イラストレーター)
- コンテンツ提供:palettalk編集部(株式会社TIEWA)
*肩書きはプロジェクト実施当時
執筆・編集:後閑裕太朗(loftwork.com編集部)
Challenge
立場を超えて、課題の本質と向き合うための場を設計
女性活躍の推進は、企業が取り組むべき課題として、いっそうその重要度を増しています。内閣府男女共同参画局は企業に向け、女性の役職登用の目標値を提示。これに対し多くの企業が取り組みを実施していますが、一方で「目標値を達成すること」を重視した改革が、行き詰まりを見せるケースも少なくありません。
お茶の水女子大学の女性活躍促進連携講座は、このような課題感を抱える企業と大学との連携強化と同時に、学生の学びの機会として開講。これまでは、企業が自社の女性活躍の取り組みを紹介する形式や、学生と企業がともに専門家の授業を受講する形式で実施されてきました。
一方で、講座を企画する同大学のリエゾン・URAセンターでは、SNSを中心に広がる#Me Too運動をはじめとした海外における動きや、国内におけるフェミニズム意識の高まりなどを背景に、ジェンダーという複雑な社会課題に対して従来の講座のような一方向的な学びだけでは不十分なのではないかという課題感がありました。また参加企業からも、学生との対話によって発見できる学びがあるのではないか、と期待する声が上がっていました。
参加企業と学生との議論や交流を通じたアクティブな学びこそが、あるべき企業の姿や働き方の実現に向けた新たな気づきや学びを生み出すのではないか。そのような学びの場を実現するため、講座の新たな方向性を探るパートナーとして、ロフトワークを選定しました。
ロフトワークのプロジェクトチームは、企業からの参加者と学生とがフラットにコミュニケーションできるよう、両者に「共通言語」を生み出すことを目指し、ワークショップのテーマを「女性活躍」から「ダイバーシティ」に再設定し、より広い視点へとシフト。企業、学生を問わず、参加者全員がマイノリティとマジョリティの視点を行き来しながら、ジェンダーやダイバーシティなどの社会課題を「自分ごと」として捉えられる場をデザインしました。
さらに、講座に参加する企業、学生、大学の三者にとってのゴールを、それぞれ以下のように設定。
- 企業のゴール:社内に持ち帰る学びがあり、個人・組織の変化のきっかけづくりができる
- 学生のゴール:新たな学びやキャリアプランを考える機会が得られる
- 大学のゴール:産学連携強化と人材育成につながる
それぞれが的確にゴールにたどり着けるよう、プログラムのプロセスを設計しました。そのうえで、ワークショップに参加した全員が個人レベルで意識変容のきっかけを得られる場づくりを目指しました。
全6回のワークショップは、新型コロナウイルス感染症対策のため1度の対面実施の他は全てオンラインで実施。そのような状況下においても、参加企業と学生の間での意見交換が活性化し、双方の高い満足度に繋がりました。
Story
女性活躍から誰もが生きやすい社会の実現へ、視野を広げる
「女性活躍」についての議論は、多くの組織において制度改革や数値目標に論点が集中してしまう傾向があります。これに対し、学生の視点ではこれらの問題について具体的に想像することが難しく、自分ごと化しづらいという状況がありました。そこでプロジェクトチームは、講座の全体設計における工夫として、テーマを「女性活躍」に限定せず「ダイバーシティ」へと拡大しました。
ダイバーシティをめぐる問題には、マニュアル的な正解はありません。本講座では参加者がさまざまな当事者の話を聞き、「ラベルではなく個として見ること」や「わかりあえなさ」について率直に議論。自分ごととして捉えることで、他者の受け止め方の再考と課題解決のきっかけづくりを目指しました。
さらに、プログラムをリードする有識者として、若者世代のオピニオンリーダーであり、ジェンダーやダイバーシティについて漫画で伝えるWEBメディア『漫画でわかるLGBTQ+/パレットーク』を運営する、合田文さん(株式会社TIEWA 代表取締役)に協力を依頼。
合田さんは、自身が経営者であり、経営的視点を持ちながら、一方で学生たちから見ても威厳的でなく、そのフラットな人柄からカジュアルに接することができる存在でした。つまり企業と学生、その両者にとって「等身大」な人物であるといえます。よって講座の「対等に接する」という目的とも親和性が高く、プロジェクトパートナーとして伴走いただきました。
共通言語で対話するためのワークショップ設計
テーマ設定に加え、全6回のワークショップ設計においても、参加者がダイバーシティについて「他者と意見を交わし、実際に行動を変える」ことを目指しました。なお、ワーク内では「ダイバーシティ」という抽象度の高い言葉をあえて用いず、「人々の多様なあり方を尊重すること」へと表現を統一し、より具体的な行動につなげやすくしています。
第1回は当事者の体験談によるインプットトークを通して、参加者が自身の立場にかかわらず「いち個人」としてダイバーシティに向き合うためのマインドセットを整えました。
第2〜5回はそれぞれ「就活」「キャリアアップ」「子育て」「LGBTQ+と職場」という議題のもとディスカッションを実施。ライフステージやシチュエーションごとに、ジェンダーやマイノリティ性ゆえに生じるハードルや抑圧への違和感について、「自分だったらどうするか」という視点をもとに言語化し、お互いの意見を交わしました。さらにディスカッション終了後には、参加者は「Next action」として、ワークショップで認識した課題に対し自身がこれからどのような行動をとるか、具体的に考えました。
クロージングとなる第6回では、参加者同士が講座で得た気づきをお互いに言語化し、「人々の多様なあり方を尊重し、大切にする環境」の必要性について改めて意見を述べました。そのうえで、まとめとして課題解決のために自身ができるアクションを考え、これを宣言しました。
各回の事前課題として使用したのが、合田さんが編集長を務めるメディア『漫画でわかるLGBTQ+/パレットーク』です。漫画を読んで自身が気づいたことや考えたことを、ブレインストーミングツール「miro」で整理する個人ワークを、参加者各自が事前に行いました。
『パレットーク』の漫画は、社会課題をテーマとしながら、日常会話で生じる「モヤっとした経験」や「違和感」などを、身近かつ具体的なエピソードで取り上げています。結果として自分自身に問題を引きつけて考えることができます。
たとえば、「子育てしながら働くこと」は学生たちにとってはイメージしづらいテーマですが、漫画のエピソードによって「自分だったらどうするか」と想像しやすくなり、スムーズに意見を出せます。また、漫画を教材とした事前課題は、企業からの参加者にとって準備の負担が少なく、本業が忙しい人でも無理なく受講する助けとなりました。
真摯に、かつ安心して意見表明ができる場づくり
自分の意見を提示しやすい「場」を生み出すため、全体設計だけでなく、ディテールにおいても工夫を試みています。
オフラインで開催された講座第1回では、さまざまな当事者の声として、自叙伝漫画『ぴーちゃんは人間じゃない? ADHDでうつのわたし、働きづらいけどなんとかやってます』の著者である「ぴーちゃん」さんや、日本とオーストラリアで育ち、国籍は韓国の、サードカルチャーキッズである髙 恒奈さんが自身の体験談を語りました。このように多様な立場の当事者の話をインプットワークとして傾聴することで、マジョリティとマイノリティの複雑性や自身に内在するバイアスを自覚し、一人一人が改めてダイバーシティについて真摯に学ぶ姿勢を再確認しました。
さらに、ディスカッションパートでは独自のルールとして「セーフティーゾーン」を導入。このルールにより、ディスカッションの間、参加者それぞれの意見をあくまで「個人の意見」として尊重し、それらが否定されないという前提を作り、意見や質問を発するうえでのハードルをとり払うことをねらいとしました。
たとえば、学生と企業側の立場の違いから、学生が思ったことを口に出しにくく感じたり、あるいは企業側から学生に対して「それ知らなかった、教えて」と尋ねることに抵抗感が生じたりすることがあります。また、繊細なテーマを扱うため「これを言ったら誰かを傷つけてしまうのではないか」という不安も生じやすい。そこで、セーフティーゾーンという前提によってこれらの抵抗感や不安を緩和し、自分の意見を発しやすい環境を実現しました。
Outcom
「対話の風土」も含めて「現場に活かしたい」という声
講座実施後のアンケート調査では、ワークショップ全体の満足度について、回答者の全員が「非常に良かった」もしくは「良かった」と回答しました。なかでも、座学形式の講座ではなく、双方向的なコミュニケーションによって「自分自身で考える」経験ができ、新しい気づきを得られた、といった意見が多く寄せられました。
また、「現場へのフィードバックを得られるものがあったか」という問いに対しては、プロジェクトの目的であった、「WSで得た新たな知識を現場に反映させたい」という意見が多く見られました。さらには、セーフティーゾーンをはじめとした、ワークショップにおける「対話の風土づくり」そのものを社内で検討したいとの声も寄せられました。
Member
メンバーズボイス
“ひとは集まれば対話でき、共感できるわけではなく、その場の場づくりがとても重要だということをあらためて感じさせていただきました。今回ご一緒できた経験を足掛かりに、「女性活躍」が女性のためだけの志向や取り組みに留まらず、女性や男性やその他大なり小なりの「ひととは違うこと」を抱えた多くの人のための働きかけになり、組織や社会の課題解決につながっていくように、今後も大学と企業との取り組みを深めていきたいです。”
国立大学法人お茶の水女子大学 リエゾン・URAセンター 副センター長 北岡 タマ子 様
“さまざまなシチュエーションについてみなさんと学習することができました。回を重ねるごとにさまざまな課題に出会っていきましたが、それに対して毎回コミュニケーションを通じて共通点を見出したり、自分ならどうするか?と考えたり…実生活につながるこたえを持ち帰っていただけたなら幸いです。この講座が、これからの皆様にとって何かのヒントになりますように。”
株式会社TIEWA 代表取締役 合田 文 様
“初回の講義で、講義の時間をすぎてもなお話が止まらない参加者のみなさんをみて、自分の意見を言葉にして出してみること、そしてそれを共有するということが、簡単なように見えて難しく、いかに大切なことなのかを改めて感じる瞬間がありました。
今回のこの小さな取り組みが、少しずつ大きなことにつながっていくきっかけになれたのであればこれ以嬉しいことはありません!
この講義を通して、私自身も多くの気付きや大切な言葉をもらうことができました。”
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 岩倉 慧
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