東大One Earth Guardians
「共生型新産業創出コロキウム」講座
微細藻類を基点に新しい産業をつくるワークショップ
Outline
東京大学の「One Earth Guardians育成プログラム(以下OEGs)」は、100年後の地球のことを考え、行動する科学者たち「地球医」を育てる“場”として、大学院農学生命科学研究科・農学部で実施されています。ロフトワークは、2025年8月、OEGsが主催する学生・社会人を対象とした「新産業創出コロキウム」講座において産業創出に向けた視野を養う3日間のワークショップを企画・実施しました。
ニーズ・技術・個人の衝動を繋いで次代の産業を考える3日間のワークショップ
「共生型新産業創出コロキウム」では、学生と社会人が受講者としてまじり合い、微細藻類を基点に、環境調和的であると同時に人々のwell-beingも叶える新たな産業の創出にむけて活動に取り組んでいます。自らのアイデアを産業と接続させるためには、単なる技術の応用や新規事業の創出に留まらず、個人の“衝動”(偏愛)と社会の変容をつなぎ、未来に向けた視点を携えながら、環境とも調和し共生する産業のかたちを構想することが求められます。そこで、いま活用が期待されている微細藻類を基点とし、未来に向けてどのような産業をつくり得るかというテーマを設定し、社会のニーズと受講者の技術や知識、そして、個人のモチベーションを接続させるワークショップを企画・実施しました。
本ワークショップの目的と目標
目的
- 共生型新産業創出を射程に置いたアクションを企画するために、社会や産業、人々のくらしを広い視野で、ダイナミックに捉える素地を獲得する
目標
- 社会変化や既存産業への洞察から自身のビジネス企画の糸口を得る
- 社会変化から新たな市場の萌芽の気配をつかむ
- 他者との関係性や長期的な射程の中で事業を構想する視点を得る
Output
微細藻類を起点とした産業を3ステップで考えるワーク
3日間のプログラムを通じて、参加者は「2035年までの社会と人の変化を洞察する(Day 1)」、「既存産業の構造を見つめ直し、ときほぐす(Day 2)」、そして最終的に「あなたの企画を立て、共有する(Day 3)」という段階を踏んで、微細藻類を活用した新産業のアイデア創出に取り組みました。最終日のDay 3では、Day 1とDay 2の洞察を踏まえ、参加者それぞれ自身が挑戦したい事業などのアクションプランをアイデアシートに記入し、ストーリーボードを作成、最終アウトプットとして、アクションプランの企画・提案が行われました。
参加者は、提案するビジネスについて、What(何をするか)、Why(どんな社会変化が背景にあるか)、for What(何を解決するか)、How(微細藻類をどう活用するか)といった骨子をデザインしました。また、その事業の実現のために、誰と、誰のためにやるかという「関係性のデザイン」や、いつまでに、どうなるかという「時間軸のデザイン」も考慮に入れました。
Process
社会の変化と個人の意思を先に言語化し、最後に技術や知識と繋げる
本ワークショップは、未来の産業のストーリーをうち出すために、以下の3つのステップで構成されました。
Day 1:2035年までの社会と人の変化を洞察する
Day 1の目的は、技術そのものありきではなく、大きな流れの中で世の中や人がどうなるのかを捉えるまなざしを獲得することでした。見立てやファクトを大事にしながら洞察を深めました。
- WORK 0:あなたのオリジンを探す(偏愛の言語化)
- 参加者の「キャラクターにつながる原体験、突き動かす衝動や偏愛、内燃させる内なる動機」をオリジンと捉え、それらをペアインタビューを通じて言語化しました。
- WORK 1-1:10年後の社会の変化を考える
- 2035年までに起こる社会の変化(規制の強化/緩和、市場の誕生/伸縮、技術革新など)をリサーチし、その変化の裏付けとなるソースやファクトを収集しました。
- WORK 1-2:10年後の人の変化を考える
- 社会の変化から読み取れる、人々のニーズや価値観、文化、制度などの変化を考察しました。特に、その変化の背景にある「あなたなりの洞察」を深掘りしました。

Day 2:既存産業の構造を見つめ直し、ときほぐす
Day 2では、Day 1で得た社会変化の洞察を踏まえ、既存産業の構造を理解し、現代のエラー(課題)を特定し、微細藻類による更新の可能性を探りました。
- WORK 2-1:既存産業を分解する
- ある産業の全体像を把握し、それがどのように成り立っているか、川上から川下までのバリューチェーンを書き出しました。そして、そのバリューチェーンの中に潜む課題や機会を探索しました。
- WORK 2-2:既存産業を藻類で更新する
- 前段で特定した産業のバリューチェーンにおける課題や機会に対し、微細藻類がどのような活用可能性を持つかを考え、産業の更新アイデアを発想しました。また、微細藻類に必ずしも関わらなくても、類似性や関連性のある先行事例を調査しました。

Day 3:あなたの企画を立て、共有する
最終日では、Day 1とDay 2で蓄積した洞察を基に、具体的なアクションプランを策定し、未来のストーリーとして共有しました。
- WORK 3-1:ビジネスを企画する
- 事業の骨子(What/Why/for What/How)を明確にするとともに、「関係性のデザイン」(誰と、誰のためにやるか)と「時間軸のデザイン」(いつまでに、どうなるか)の視点を取り入れながら企画を練り上げました。時間軸のデザインにおいては、リソース、アウトプット、アウトカムを扱うロジックモデルの考え方をベースにしました。
- WORK 3-2:ストーリーボードをつくる
- 企画が社会にもたらす変容について、共感を生むためのストーリーボードを4コマ形式で描写しました。
- プレゼンテーション(+レビュー)
- 一人5分までの発表と、最大4分程度の質疑応答・コメント(レビュー)を実施しました。

Points
技術や知識から考えるのではなく、社会や個人から考える
今回のワークでポイントになったのは、参加者が専門としている研究や事業の内容が出発点となって「できること」が絞り込まれてしまわないよう、社会の動きや産業そのものから考えていくというプロセスです。そのために、以下の点を軸に設計しました。
- 「新規事業」ではなく「産業創出」を射程に
単に微細藻類そのものを販売するビジネスに限定せず、微細藻類が基盤や起点になっているようなビジネスも含めて幅広く、新しい「産業」全体を考えるきっかけとすることが重視されました。 - 現在から積み上げる「フォアキャスト」ではなく「バックキャスト」思考
現在の状況から未来を地続きで想像するフォアキャスト(順算)ではなく、未来の理想の姿から現在までを逆算するバックキャスト(逆算)の形で、産業や事業の可能性を思考することが意図されました。 - 「社会変化」から「アクション」へつなぐ思考の流れ
発想の順序として、社会の変化を洞察し(Day 1)、そこから産業の変化や創出を考え(Day 2)、最後に自身が取るべきアクション(事業など)を決定する、という流れが促されました。 - 個人の「オリジン(偏愛)」の導入
事業構想の核として、個人の「衝動や偏愛」をオリジンとしてDay 1の冒頭で言語化するプロセスが組み込まれました。これにより、ニーズや技術だけでなく、個人の強い動機と社会の変容を結びつける、よりパーソナルで持続可能なアクションプランの創出を狙いました。
各領域を広げる多彩なゲストのアサイン
参加者の視野を広げるために、各フェーズにおいて、領域の実践者を招き、リアリティを持ったインプットトークを実施しました。
Day1ゲスト:小田一枝氏(株式会社オシンテック, RuleWatcherシソーラス総責任者 国際動向インテリジェンス専任講師
)
未来の産業を考えるためには、技術ありきで課題解決を考えるのではなく、大きな流れの中で世の中や人がどう変化しうるのかを予測・見立てる観察眼が必要です。Day1でお呼びしたのは、「RuleWatcher」という世界各国の政策データを検索できるツールを開発し、環境問題や社会問題に対する新たな仮説やアクション、検証ができるよう、社会全体の底上げをしようと活動しているオシンテックの小田さん。幅広い知識と社会課題を見つめる視点をもつ彼女に、どのような視点でファクトを見つめるかという視点をインプットいただきました。
Day2ゲスト:カラヤ・コヴィドビシット氏(FabCafeバンコク共同創立者)
既存産業がどのように成り立っているのか、そのどこにエラーがあり、それはどう更新できるのかを考えることを目的にワークを進めたDay2。FabCafeバンコク代表のカラヤ・コヴィドビシットさんは、環境課題と社会課題の接点を見つけ、横断的な調査を行うとともに、地域の方のプロフィットをデザインしながら課題解決をデザインするプロジェクトを多数実施してきました(藻類をテーマにした社会課題解決のプロジェクトもあり)。社会問題に向き合う切り口をどのようにデザインしているのかを共有いただきました。
Day3ゲスト:井口 尊仁氏(Audio Metaverse, Inc. CEO 一般社団法人 Tomorrow Never Knows 代表理事)
Day1、Day2を踏まえ、ステークホルダーの棚卸しと、その産業を生むまでのマイルストン設計。さらに、共感を生むためのストーリーボードを生成し、企画をシェアした3日目。ゲストには、数々の事業を興してきた連続起業家の井口さんをお迎えしました。井口さんには、現在進行形で進めている移動という体験を更新するAIナビゲーションアプリ「timespace」の事例を紹介いただきながら、社会の課題や要請からではなく自分自身のパーソナルな特性を出発点にしたサービスやプロダクトの企画や、そこに共感を生み出し、仲間をつくるためのプロセスについて、起業家としてのこれまでの経験からお話しいただいたほか、参加者のプレゼンテーションへのレビューにも参加いただきました。

Outcome
今回のフレームワークに沿って、各受講者が具体提案を設計
参加者は、3日間のワークの後、ワークショップでのフレームワークと各者のアイデアの入り口をベースにしながら、特に産業を形作る関係性のデザインを掘り下げてさらに深く検討を進め、最終プレゼンに向けて具体的な企画案を作成しました。そう遠くない未来に、受講者が描いた新たな産業が社会の中で少しずつ具体的な形を帯びていくかもしれません。
プロジェクト基本情報
- クライアント:東京大学One Earth Guardians育成機構
- プロジェクト期間:2025年6月〜2025年9月(ワークショップ基本設計〜詳細設計・ゲストアサイン〜実施〜ダイジェストムービー制作)
- 支援スコープ:3日間のワークショップ設計、外部ゲストの検討とアサイン、フレームワークの制作、ダイジェストムービー撮影・編集
体制
- ロフトワーク
- プロジェクトマネジメント:太田 佳孝
- クリエイティブディレクション:許 孟慈
- プロデュース:浅見 和彦
- 制作パートナー
- 撮影(ムービー/スチール):堀田 啓太
*所属および肩書きはプロジェクト実施当時のもの
Voice
メンバーズボイス
“環境や社会といった広いスコープでものを考えると、つい「自分」が不在になりがちです。今回のワークショップでは、参加者それぞれのなかにある「オリジン」を掘り起こし、内発的な動機に根ざした提案が生み出される流れづくりを心がけました。最終的には新たな「産業」という大きな単位で考えるチャレンジングなワークショップでしたが、ロフトワークの皆さんには丁寧に話し合いを重ねながら企画いただき、講座のその後につながる素地ができたように思います。参加者どうしの関係性もより深いものになりました。”
中西 もも(東京大学 One Earth Guardians育成機構 准教授, アドミニストレーター)
“どんなステップで思考を積み重ねていくと「産業」という大きな単位を考えるに至るのか、ロフトワークさんと緻密な打ち合わせを何度も行いワークショップを設計しました。今振り返りるとそれは、私自身が「産業」に関する解像度を上げるプロセスでもあったように思います。受講者のためであり、私自身のためでもあった、有意義な経験をご一緒できたことを嬉しく思っています。”
岩﨑 茜(東京大学 One Earth Guardians育成機構)
“新しい産業を生み出す思考のステップを3日間に凝縮させたワークショップとなりました。ロフトワークさんには企画段階からプログラムの狙いに基づいた様々なご提案を頂き、リード頂きまして大変感謝しています。 ”
前沢 夕夏(東京大学 One Earth Guardians育成機構)










