パナソニック デバイスSUNX株式会社 PROJECT

"だって人間だもの"?
「安全装置」のビジネスチャンスを探るデザインリサーチ

日夜、工場で生産される数々の製品。それらを生み出す設備・機器が安全に稼働し、使う人もまた安全であるために、試行錯誤を続ける人々がいます。それがセンサー/FA機器製造メーカーであるパナソニック デバイスSUNX株式会社です。今回ロフトワークは、より安全な作業環境へ改善するための安全装置を作り、普及させていくためのヒントを探すリサーチプロジェクトに取り組みました。

パナソニック デバイスSUNX センシング事業部 商品企画部 商品企画担当課長 山下勲さん、ロフトワークのプロジェクトマネージャー国広信哉、クリエイティブディレクターの堤大樹が語る、プロジェクトの全容と狙いとは。

テキスト:北川由依
写真:桑原雷太

マルチアングルから課題を浮き彫りにする

愛知県春日井市に本社を置くパナソニック デバイスSUNXは、1969年創業。世界に先駆けてLEDを用いた反射型光電センサを開発するなど、独創的なアイデアと開発力で成長を続けてきました。現在はパナソニックグループの一員となり、光電センサからレーザー機器、PLC、省エネ支援機器まで幅広い商品を扱う制御機器の総合メーカーとして、日本のものづくりを支えています。

山下 工場で起こる設備災害をゼロに近づけるため、安全装置の新製品開発をすることになりました。しかし企画・開発側の視点だけでは、従来の方法や価値観に縛られてしまい、新しい製品アイデアや商流を見つけられないのではと危惧する声が出たんですね。そこでロフトワークに、お客さんの意見やアイデアを掘り起こしてもらいたいと考え、リサーチを依頼させていただきました。

パナソニック デバイスSUNX センシング事業部 商品企画部 商品企画担当課長 山下勲さん

国広 最初に会社の現状をヒアリングする中で、新製品を開発したとしても、それを普及させていくために乗り越える壁や、ブラックボックス化している課題が多く存在していそうなことが分かりました。そのため、今回のプロジェクトでは新製品開発に焦点を当てるのではなく、安全装置を取り巻く状況から調査し、そこに潜む課題を洗い出す。そして、その課題を解決するためのアイデアをつくる、という道筋を立てました。

 まずは工場見学や関連資料の読み込みなどを通じて、社会背景や業界、安全装置についての理解を深めていきました。その中で安全装置を取り巻く状況を把握するために、欠かせない登場人物を、製造管理、現場、営業、安全管理、海外工場、先端工場の人たちの視点と定めました。

クリエイティブディレクター 国広信哉

国広 先に挙げた、異なる視点をもつ18人の方たちへ、いくつかのキークエスチョンを投げかけながら、課題を探っていきました。NHKの「アナザーストーリーズ」という、歴史上の出来事をいろんな登場人物の視点で再構成しながら真相に迫る番組があるのですが、そんなイメージで安全装置を取り巻く状況をマルチアングルで捉えていきました。そうすることで、重なり合う共通点や、認識の食い違いなどを立体的に浮き彫りにしていくことができました。

山下 部署も役職も異なる方にインタビューをする中でだんだん話が繋がっていき、今後取り組むべきことが自然に立ち現れていったのが興味深かったです。

リサーチでは海外の工場にも赴き、日本の工場との差異を考察した。

“人間だもの”を見越した安全設計の重要性

18人へのインタビューを通じて得られた結果を、チームメンバー全員で統合し、リサーチを横断する気づきをまとめました。リサーチから見えてきたことは、それぞれの立場によって異なる事情を理解した上で、使う人のリテラシーを高め、運用方法を設計する必要性でした。

 特徴的だったのは、工場や部署を横断する複合的な事象が多く、1点だけ改善すれば良いようなシンプルな話が無いこと。例えば安全装置を開発する部門と、それを利用する部門があります。本来、それぞれの部署に共通した安全評価基準があるべきですが、必ずしも同じ基準で評価されていないということがわかりました。また、これらは開発側と使用側それぞれの事情が複合的に関係して生まれたギャップです。いくつかの改善点を継続的に調整していく必要があるということが分かりました。

クリエイティブディレクター 堤大樹

山下 「安全基準の文脈の伝わり方」というトピックもありました。国で定めた憲法が市町村の条例になるまでに解釈が変わってしまうように、組織の上で決めた物事が現場に降りてくるまでに解釈が変わっていく様子が、今回の調査で明らかになりました。本当は「なぜやるのか?」「安全装置とはなにか?」と考えることが大切ですが、その文脈がカットされ、マニュアルになっていたりします。しかし、現場責任者が自分の工場へ最適化したり、作業効率を鑑みてチェックリストにしたりと、良かれと思って実施していることも多いのです。

国広 そういう意味では、”人間だもの”というキーワードが興味深かったです。ルールで固めても、人間は面倒がってインチキする生き物だということを実感しました。詳細は語れませんが、安全装置をきちんと運用するためには、ルールを決めるだけではなく”人間だもの”という、人間臭い心理を見越した上で設計することが大切という気づきは、プロジェクトを進展させるいい成果だったかと思います。

山下 今までは新規工場開設のタイミングでしか、安全装置を販売していなかったため、実際のリアルな運用シーンを知る機会がありませんでした。人の安全への意識の違いや、導入当時の基準のまま何十年も安全装置の買い替えをしていない工場があることが、今回のリサーチではじめて分かったこともプロジェクトの大きな成果でしたね。

安全装置のサンプルとしてインタビューに持参いただいた、ライトカーテンとPLC。ライトカーテンは、装置の間の見えないレーザーで物体をセンシングする。工場では、危険なエリアに手が入ったときに機械を自動的に停止させるなどの目的で使われている。

3年後を見据えたアクションを部署横断で創出する

リサーチで明確になった課題。しかしそこからどう解決策を実行し、ビジネスにつなげるかが重要です。そこでプロジェクトの最後に、パナソニック デバイスSUNXの社員と考えるワークショップを開催。営業、商品企画、開発など様々な部署の社員が集まりました。

 気づきを分解した28の機会領域をベースに、今後起こりうる社会動向やテクノロジーといったインスピレーションワードを用意し、ワークに取り組んでいただきました。テーマは、今ある課題に対して3年後までにどのようなアクションを起こすべきか、でしたね。インスピレーションワードをきっかけに、社会背景を踏まえた実現性の高いアイデアを出してもらうことが狙いでした。

機械領域とインスピレーションワードからチームに分かれてアイデアをつくる

山下 商品企画や開発メンバーの参加が多かったので、ワーク前は新商品の開発アイデアが中心になるかと考えていましたが、売り方や営業のサポートの仕方など、部署を横断したアイデアがたくさん出たことに驚きました。体験工場を作って安全をシミュレーションできる場所をつくろうとか、安全基準をつくる時に運用まで考えようとか、今後1〜3年で実現可能性の高いアイデアが出ましたね。

実は今回のように部署を横断して商品企画や今後の方向性を議論することってほとんどありませんでした。普段はどうしても、シェアをあげる方法やコスト削減などの話に偏ってしまう。でも、今回は目先の数字や機能改善に止まらず、社会課題や未来への展望とリンクさせて自分たちの仕事を議論できたので、同じ視点に立ってポジティブに考えることができました

ワークショップで参加メンバーそれぞれが考えたアイデアを共有した。ここで出たアイデアがきっかけで、具体的な施策に繋がっている。

安全かどうか心配せずに機械を使える未来を

山下 今回、リサーチとワークショップを経て、顧客視点が大切だとわかったことが大きいですね。今までは製品ありきで営業してきましたが、ワークショップで出たアイデアのように顧客サポートや体験できる工場などの実現に向けて、部署をつくったり担当者を採用したりしようと動き始めています

 今回の調査は、僕たちにとって「安全」と初めて向き合い理解していく機会だったのですが、客観的に見た視点として、お役に立てたとしたらすごく嬉しいです。

山下 そうですね。僕にとっても、「安全」を再定義する機会になりました。安全装置をただ提供することで工場や使う人が安全になるわけではなく、製品の運用方法までデザインしてようやく本当の「安全」を実現できる。従来の安全に対する価値観をアップデートできたことが大きな成果です。

日本で水を飲む時に、「この水は安全だろうか」と考えてから飲みませんよね。何も気にすることなく水を飲むように、安全かどうか心配することなく機械を使える環境をつくるため、これからも安全装置を提供していきたいです。

本リサーチプロジェクトでは、専門性の高いBtoB領域で、複合的な課題を浮き彫りにしながら、前向きに取り組んでいくアイデアを創出していくことができました。しかし、実行されていかなかれば意味がありません。SUNXのみなさんと一緒に、少しずつでも工場の安全を向上させ、より良い労働環境を作っていきたいと考えています。

左から、ディレクター国広、パナソニック山下さん、ディレクター堤

Member

山下 勲

山下 勲

パナソニック デバイスSUNX株式会社
センシング事業部 商品企画部 商品企画担当課長

国広 信哉

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

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堤 大樹

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

篠田 栞

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

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