東急株式会社, 株式会社Psychic VR Lab PROJECT

XRで、都市空間に“あたらしい体験”を描く。「渋谷空想水族館」

東急株式会社と株式会社Psychic VR Labは、2022年3月〜4月の1ヶ月間、AR(拡張現実)を用いた水族館コンテンツ「渋谷空想水族館 powerd by XRscape*」を、さまざまなクリエイティビティが集い、新しいアイデアやビジネスを誘発する複合施設「SHIBUYA CAST.(渋谷キャスト)」にて展開。ロフトワークは、本コンテンツの企画・クリエイティブディレクションを支援しました。

「渋谷空想水族館 powerd by XRscape」は、「渋谷の街中に出現するAR水族館」というコンセプトのもと、XRクリエイティブプラットフォーム「STYLY」を用いて都市空間をハックすることで、渋谷キャストの実在の地形を活かした没入感の高いAR体験を提供しました。

都市空間とAR、そして水族館のイメージをクロスオーバーさせ、新しい都市体験を実現したポイントはどこにあったのでしょうか。コンテンツの制作を担当したインタラクティブエンジニアの渡邉清峻(kiyo)さんと、クリエイティブディレクションを担当したロフトワーク クリエイティブディレクター 皆川凌大との対談から、企画・制作のポイントを探ります。

執筆:岩崎 諒子
聞き手・編集:後閑 裕太朗
(いずれも、loftowrk.com編集部)

「渋谷空想水族館」イメージムービー

*「XRscape」は、株式会社Psychic VR LabがKDDI株式会社と共に開発した、都市空間を活用しAR/MRコンテンツを配信する空間メディアサービスです。

話した人

左から、
渡邉清峻(kiyo)さん/インタラクティブエンジニア
皆川凌大/ロフトワーク クリエイティブディレクター

取材は、「渋谷空想水族館」の会場となった、渋谷キャストの中庭(GARDEN)で行いました。(特別に許可を得て撮影しています。)

「テラリウム」から、都市と水族館のイメージを融合させる

――まず、プロジェクトの背景と、ロフトワークが参画した経緯を教えてください

皆川凌大(以下、皆川) Psychic VR Labさんが、「STYLY」というXRプラットフォームを提供しているのですが、これを活かして都市空間にARコンテンツを配信できる新しいサービス「XRscape」をローンチしました。今回、そのフラッグシップコンテンツとして、「水族館」をテーマにした体験を渋谷キャストの広場で展開したいということで、ロフトワークはARコンテンツのクリエイティブディレクションや、関連するプロモーションコンテンツの制作を担当させていただきました。

――今回、kiyoさんを起用した理由は何だったのでしょうか?

皆川 制作期間がわずか1ヶ月と短期間だったので、過去にSTYLYを使ってクオリティの高いARコンテンツを制作したことがあるクリエイターであることは要件としてありました。また、この場所はファミリー層や若者の往来が多いので、彼らに楽しんでもらえて、SNSでも映えるようなコンテンツをつくれる方と考えたときに、まずkiyoさんの名前が浮かびました。

kiyoさんのAR作品「See there / ここに見る」。ARという、拡張された「ものの見方」そのものを表現し、新たな「見方」を体験者に提案する作品となっている。

皆川 去年のNEWVIEW AWARDでkiyoさんが受賞された「See there / ここに見る」という作品があって、この雰囲気が今回の作りたいもののイメージに近い気がしたんです。経歴としても、プロジェクションマッピングなどの体験デザインを含むお仕事を手がけている。それに、kiyoさんが作ったAR作品は、SNS上でしばしば話題になっていて。まさに、ジャストフィットでしたね。

――kiyoさんは、「水族館」というテーマでARコンテンツを制作してほしいと聞いたとき、どのように感じましたか?

渡邉清峻さん(以下、kiyo) ご相談を頂いた時は、「都市」と「水族館」にあまり近い印象がなく、どんなものができるか想像できないという点で面白そうだなと感じました。ただ、水族館は水槽など「囲われた場所」の中で展開するイメージがある一方、今回の実施場所だった渋谷キャストの中庭は、空間的に開けた場所だったんです。だから、一般的な水族館のイメージだけで体験を作ろうとすると、場所のイメージからは少し逸れたものができてしまうという懸念もありました。

――たしかに、一般的に水族館は屋内のイメージですよね。

kiyo そうなんです。魚たちが泳ぐというモチーフがあるにしても、「水族館」として見せるにはどうしたらいいかを探ろうと考えました。

最初にお話を頂いた週の土日に、家が近いということもあり実際に渋谷キャストを訪れてみました。現場の雰囲気を探ると、人工的な建物と植物が共存しているような空間、というのが特徴だと感じたんです。そこから人工物と共に植物や魚を一つの小さな水槽で育てる、いわゆる「テラリウム」のようなものを連想しました。この場所をひとつの巨大なテラリウムに見立てると、水族館らしさを表現しつつ、場所の雰囲気を活かせるんじゃないかなと。それで、翌週には「テラリウム」をコンセプトに企画を提案させていただいたんです。

皆川 もともと、kiyoさんに事前に現場に足を運んでいただく予定はなかったんです。でも、依頼のご相談をした翌週、kiyoさんは既に現場に足を運んでいて、企画書まで用意してくれていたので、驚きました。こちらでもベースとなる企画書は用意してはいましたが、そこからすぐに具体的なアイデアにつながったのは、kiyoさんのこうしたアーティストとしての行動力のおかげです。

リアルの空間を「素材」として捉える

「渋谷空想水族館」の実施場所となった渋谷キャストは、ARを「活かしやすい場所」だった?

――コンセプトをもとに、渋谷キャストという場所をどのように活かしていったのでしょうか。

kiyo やっぱり、第一印象としてビルの存在感が強いですよね。建物を活かした演出をするには、大きな建物と同じだけのインパクトを魚たちにも持たせることが有効です。ビルのうえからクジラが降りてきたり、ビルの横をクジラがぐるぐる回ったりと、建物に負けないクジラという大きな対象物を置くことによって、空間を作っていきました。

一方で、より地上に近い部分として、植物が生い茂っている丸い椅子も特徴的だと思って。それを活かしつつ、コンテンツとしてパッと目を引く、印象的な要素を何か入れたいなと思いました。そこで、丸い椅子から大きな木が生えてくる演出をメインとして、そこから生い茂った植物と魚たちがともに生息している、という演出を考えました。

皆川 渋谷キャストはARが活かしやすい空間でしたよね。ただ大きいビルがあるだけでなくて、手前のビルとの高低差があるし、広場として開けている場所もある。白い椅子のところは、広いステージのなかの小道具のように機能していますから。

kiyo 褒め言葉になっているかどうかはわかりませんが、「ARの素材」としてすごく最適な場所でしたね。

――空間を素材として再解釈する、ということでしょうか。

kiyo そうですね。ARは空間を素材としてうまく再解釈しつつ、そこに新たなモノや世界観を加える表現だと考えています。その点で、ここは活かし甲斐がある、いい場所だったと思います。

都市空間のAR体験は、現場でつくり上げていく

――渋谷キャストを訪れる幅広い方がAR体験を楽しめるように、工夫したところを教えてください。

kiyo 当初は、ユーザーが画面に触れることで進行していくコンテンツを中心に考えていたんです。けれど、検証していく中で、人によってはAR内の「触るギミック」に気づけないことがわかってきて。皆川さんに体験とフィードバックをしてもらいながら、何度も調整しました。

皆川さんと検討の末、全体の大きな変化は、見ているだけで進む自動の演出として入れて、同時にさらに楽しみたい方や操作にすぐ慣れた方向けに、いろんな場所にギミックを配置しました。ユーザーがARに理解があるかどうかに関わらず、誰でも最後まで楽しめるし、同時に自由に楽しめるような幅も持たせた、というのが工夫したポイントですね。

ーーARによる「驚きのある体験」としては、どのような演出をしましたか?

皆川 導入の部分で、いきなり地面がパカっと割れて、噴水が湧き出てくるといつの間にかあたり一面が水に囲まれる、という演出があって。最初から水に囲まれているわけではなく、ARの中でこの空間自体を徐々に変化させるという、kiyoさんがもともと持っていた、ARで地面が割れるギミックを活用してもらったんです。

体験の冒頭、地面が割れて水が噴き出すシーンから始まる。

kiyo 自分でもお気に入りのギミックなので「入れたいな」と思ってました。

皆川 あれは、みんな驚いていましたね〜。驚きという点で言うと、ある隠し球を壊すと、上からすごい大きいクジラが落ちてくるっていうギミックが印象的で。

これは、kiyoさんが考えてくれた「空想の種」というのが体験のポイントになっていて。種を割ると、シーンが一気に切り替わるというギミックなんです。インタラクティブ性があってどんどん世界観が変わっていく。

kiyo 皆川さんからのご相談のなかで、ユーザーが体験の中に入っていくなかで生まれる「物語性」を入れたいと伺っていました。そこで、ユーザーがギミックを触ることによって魚が出てきたり、泡の色が変わったりと、自分の好きなように空間を変えられるような要素を入れました。

ーーコンテンツをつくるうえで、苦労した点はありますか?

kiyo 現場で検証しないとわからないことが多い、という難しさはありました。ビルからクジラが降りてくる演出に関しても、まず開発画面上で「だいたいこういう角度で降りてくるのがいいだろう」というのをシミュレーションしていて。でも、現場で見てみると、視界に対してクジラが大きすぎたり、降りてくるときに、思った以上に見上げないといけなかったり。その場所でARとして見てみて初めてわかることがありました。

ビルの周りを回遊する巨大なクジラ。

皆川 当初は、建物の3Dモデルに合わせてコンテンツを制作すれば、毎回クリエイターが現場に来なくても問題ないのではないか、と想定していたんです。しかし、実際のところkiyoさんに現場に直接来て調整してもらえたことが、素早く開発できた大きなポイントでした。

kiyo 場所に依存した演出だからこそ、実際に場所を訪れて、「ユーザーがどのように体験するか」を確かめてみると、想定とは異なる部分がたくさん出てきてしまう。ですから、自分だけでも何回も現場での検証を繰り返して。その調整は大変だった点ですね。

まちの「イメージ」を、軽やかに拡張する

ーーARには、まだ見ぬ魅力や活用の可能性がたくさんあると思います。これから都市や施設の空間を活かしたARのコンテンツを実装するとしたら、どんなことをやってみたいですか? お二人の野望や妄想など教えてください。

kiyo AR技術の面白さって、一から世界を作るというよりは、場所を素材として活用し、そこに新しい世界や物語を付与できることにあるなと思っていて。今回の空想水族館であれば、「テラリウム」のイメージや世界観をこの場所に「被せる」ように作りましたが、他の場所でも、その場所に付随する情報やイメージを可視化して、現実のイメージに被せてあげることができるんじゃないかと思っています。

「街」や「場所」には、それぞれ個性や人々が何となく抱いているイメージがある。それは歴史的背景や、利用する人の多さなどさまざまですが、そういったイメージや雰囲気を再解釈しながら、ARとして体験可能なコンテンツに拡張できると面白いんじゃないかなと考えています。

皆川 僕は、まちづくりの文脈でARを活かしたいですね。kiyoさんの考えとも近いのですが、場所の文脈や構造とARを併せた表現ができると面白いかなと思っていて。まちづくりや地域開発では、数十年のスパンをかけて初めて「見えるもの」ができるけれど、ARだと「こういうエリアをつくりたい」というイメージを、現実の風景に重ね合わせながらどんどん作り変えることができる。カラフルな街を作りたいなら、AR上でカラフルに塗り替えられる。パソコンとスマートフォン1台あればそういうものを作れるし、スマートフォンを持っている人なら誰もが体験できる。

プロトタイプ的に「街の将来が、こうなったらいいよね」というイメージを、どんどんみんなに見せていけると面白いですよね。いろんな場所で実験できるんじゃないかな。その時はまたkiyoさんにも入ってもらって、その土地の雰囲気を拡張してもらいたいです。

kiyo そうですね。ぜひやりましょう。

ーー二人の野望が実現するのが楽しみです。今日は、ありがとうございました!

プロジェクト概要

プロジェクト名:渋谷空想水族館  powerd by XRscape
クライアント:東急株式会社, 株式会社Psychic VR Lab
制作体制

  • プロデューサー:浅見 和彦(株式会社Psychic VR Lab), 井上 龍貴(株式会社ロフトワーク)
  • クリエイティブディレクション:皆川 凌大、山田 麗音(株式会社ロフトワーク)
  • ARコンテンツ制作:kiyo
  • テクニカルサポート:松岡 湧紀(株式会社Psychic VR Lab)
  • ロゴデザイン:キギ
  • プロモーション映像制作:Shun Mayama

協力

  • KDDI株式会社
  • 株式会社Psychic VR Lab
  • 渋谷キャスト

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