筑波大学 PROJECT

研究成果を世界に伝えよ。筑波大学URAの挑戦
情報発信力強化を目指した、4日間の超集中ワーク

Background

研究者2000人。グローバルな研究成果の発信と大学のプレゼンス向上をどう支援するか?

複雑化する社会課題に対し最先端の知と多様な文化で、イノベーションの創出や課題解決に貢献する筑波大学。新構想大学として設立された同学は、新しい大学の仕組みを率先して実現し、グローバルにプレゼンスを示す大学を目指し、率先して新しい仕組みを導入したり従来の大学の枠組みを超えた挑戦をするなど、日本の研究界をリードする役割を求められています。

重要なのは研究成果を、世界の隅々まで届けること。学界だけではなく社会にインパクトを与えること。学術的意義と社会的意義をアピールすべきとの問題意識がありました。

そんな研究者を支援するために、筑波大学では研究戦略立案・資金獲得などをサポートする目的で、URA(University Research Administrator)を設置されています。

しかし学内に研究者は2000人。対してURAはその2%に満たない人数です。多角化・グローバル化し、高度化する研究の発信をどう効果的にサポートできるかが課題となっていました。

そこで筑波大学では、ロフトワークとのプロジェクトを始動。研究者の意識改革とURAによる組織的な発信力強化支援策を検討し、社会的意義の高い研究成果を広く世界に届けるための取り組みを行いました。本記事ではプロジェクトに参加したメンバーの言葉も交えプロジェクトを振り返ります。

プロジェクトメンバー

加藤 英之 : 筑波大学 URA研究戦略推進室 チーフリサーチアドミニストレーター
萩原 友希江 : 筑波大学 URA研究戦略推進室 リサーチ・アドミニストレーター
栗原 翔吾 : 筑波大学 URA研究戦略推進室 リサーチ・アドミニストレーター
山本 洋平先生 : 筑波大学 数理物理系教授
礪波 亜希先生 : 筑波大学 ビジネスサイエンス系 准教授
佐野 幸恵先生 : 筑波大学 システム情報系社会工学域助教
新保 奈穂美先生 : 筑波大学 生命環境系助教
矢代 真也 : 元『WIRED』日本語版編集者

Approach

研究者とURAの相互理解と、研究成果の社会的価値訴求を4日間で探る

研究内容をどのように発信し、学術的・社会的価値を印象づけていくのか。まずは研究者とURA双方の現状把握から課題発見のプロセスを提案。研究者・URAの双方の理解を促進し、最適な研究者支援体制を検討することからプロジェクトを始動しました。

設計したのは4日間のワークショップ。すでに積極的に情報発信を実践している研究者にも参加いただき、具体的なケーススタディからヒントを探りました。

外部有識者も含めたワークグループで研究を社会的価値として実装するための道筋を考える

情報発信の強化には、「届ける」プロフェッショナルとの協働が欠かせません。4日間のワークには、編集者やアントレプレナー、プランナー、PRエージェンシーなど、外部有識者をプロジェクトのメンバーに招聘。内部だけで議論するのではなく、当初より外部の知見を加え、社会的価値として実装するための道筋を含めて、情報発信力が強化された先を考えました。

「論文の引用数がその研究の学術的価値の高さに見合っているか?」

外部から参加した元『WIRED』日本語版編集者の矢代さんは、アカデミアという閉鎖的な世界で情報発信を重視する際の懸念点を参加者に投げかけました。さらに矢代さんは

例えば、コンテンツの評価基準について。多くのページビューを獲得するコンテンツが良い記事かどうかという点については、Webメディア編集の界隈でもしばしば議論の的となります。この問題は、社会に価値のある研究成果であればなおさらで、情報発信の質をどう定義するかが課題でした。

とメディアに携わる立場ならではの視点で問いを投げかけました。

ビジネスグロースのフレームワークで情報を整理する

ワークは、筑波大学の研究者の研究目的や活動、そして情報発信における課題について、ビジネスモデルキャンバスを使って整理するところからスタート。

研究内容ごとに、ターゲットやチャネル、目的が異なるため、それぞれに応じた情報発信方法の必要性を確認。加えて、大学側からも研究者および、研究内容の情報を戦略的に発信し、大学の価値向上につなげていくことも議論されました。

矢代さんはワークを振り返って次のように語ります。

研究が他人に伝わる最後の一手を「情報発信」とし、ご協力いただいた研究者の方々のお話しを聞きながら、最適なチャネルに載せる情報の交通整理をさせていただきました。壁打ち役として、刺激的な研究に熱意を注ぐ先生方と編集者という立場でご一緒でき、とても光栄でした。

情報発信により大きなレバレッジのチャンスが得られるという気付き

Day1とDay2のワークで明らかになった研究者と支援者の現状と課題を元に理想的な情報発信を考察。研究者のロールモデルから誰に向けた情報発信が必要なのか。その際に適切なチャネルはどれか。議論を深めていきました。

「少しでも研究時間を確保することが最優先で、情報発信は、いい研究をしていれば自ずとついてくると思っていました。」

と語るのはワークに参加した筑波大学システム情報系社会工学域助教の佐野幸恵先生。佐野先生はさらに続けます。

学内(URAや研究者)・学外の方々とお話しする中で、少し情報発信に時間をかけることが、次の研究へつながったりと、大きなレバレッジのチャンスであることが分かりました。
ワークショップ後、ちょうど論文が出版されたので、解説する記事を論文紹介サイトに投稿しました。すると1ヶ月で閲覧回数が2200もあり、自分でも驚きました。ただ、論文を出版するだけでは、おそらく得られない数値です。研究モチベーションもぐっと上がりました。

新たな気付きの実践が、目に見える数値でフィードバックされたことで、発見やモチベーションとして繋がりを見せています。

研究者と支援者の現状と課題の整理を経て、Day3、Day4では研究者支援策の具体化に着手。若手や中堅と研究者の属性ごとの全体施策及び個別施策を検討しました。実施にあたってのプロセスをアクションプランとロードマップという2つの尺度で具体化し、外部から参画しているメンバーのフィードバックを得て社会的価値を訴求するための精度を高めています。

外部の識者に学ぶ。情報発信力の強化を考える学内セミナー

研究が世界を変えるために、知識が羽ばたくためのエコシステムを

ワークグループの活動を通じて得られた視点をもとに、研究情報発信の意識付けとURAの活動の学内認知拡大を図ることを目的としたイベントを実施しました。潜在利用者に知られることが、URA活動成功の第一歩です。

イベントタイトルは、「研究者のためのターゲティング・ストラテジー:4人の専門家と『価値』を伝える情報発信を考える」。学外の識者と共に、グローバルに向けた戦略的な研究情報の発信について考える開かれた場を作るねらいがありました。

イベントを企画・実施したURAの加藤さんはイベントを次のように振り返ります。

イベントがひっきりなしに開かれている大学で、研究者を情報発信に関するセミナーへ向かわせるのは困難必至でした。挑発的なタイトル“「届かない研究成果」に価値はないのか?”はある意味実験でしたが、ふたを開けると満員御礼の札がかかったこと自体、情報発信の威力の実例と思えました。研究情報発信意識の高揚を目指す取り組みの第一歩でしかありませんが、仕掛ける側として情報発信の威力を確信しました。

Result

研究者/URA双方に向けた情報発信ガイドライン

研究者がどのように自らの研究を世界に発信するのか、そしてURAはどのような支援が可能なのか。それぞれに全体と個別の粒度の異なる施策案にまとめました。研究者に対しては、届けたい対象別にアプローチするメディアや方向を策定。個人WebサイトやSNS、論文投稿サイトなど、研究成果を世界に届けるための道筋を例示しています。

URAでもそんな研究者を支援すべく、研究成果発信力向上サービスの素案を策定。活動やメンバーの見える化はもちろん、トレーニングなどスキルの向上、外部とのイベント開催など具体的なアクションプランも含め、少人数でも確実に研究価値を社会に問うための大枠をまとめました。

URAによる研究成果発信力向上サービス(案)

URAによる研究成果発信力向上サービス(案)

URA活動内容の見える化(案)

URA活動内容の見える化(案)

URAの加藤さんは次のように振り返ります。

大学は、研究資金を得て学問価値を生み出す個人事業主の集まりです。しかし大学本部は、誰が価値生産するかにばかり気を取られ「価値が必要な人々に届いているか」に対して無頓着すぎたのかも知れません。 今回の大きな収穫は、様々な研究者が集まる本学の中から、独自の哲学や戦略で「学問価値を届ける事」に知恵を絞る研究者を見出せたことです。それら研究者が、多様な「届ける」スキルの専門家と議論を戦わす場面はおそらくオンリーワンであり、臨席した我々はエナジーの高揚を感じました。「届ける」ビジネスの多様さを知り、それが大学で活きていない事に、研究価値の伝達力を向上する大きなチャンスを感じています。

研究成果を世界へ伝え、社会の価値としていく取り組みははじまったばかりです。情報発信ガイドラインに沿った、筑波大学URAの取り組みをロフトワークでも注目していきます。

Member

加藤 英之

加藤 英之

筑波大学
URA研究戦略推進室 チーフリサーチアドミニストレーター

萩原 友希江

萩原 友希江

筑波大学
URA研究戦略推進室 リサーチ・アドミニストレーター

栗原 翔吾

栗原 翔吾

筑波大学
URA研究戦略推進室 リサーチ・アドミニストレーター

山本 洋平

山本 洋平

筑波大学
数理物理系 教授

砺波 亜希

砺波 亜希

筑波大学
ビジネスサイエンス系 准教授

佐野 幸恵

佐野 幸恵

筑波大学
システム情報系 助教授

新保 奈保美

新保 奈保美

筑波大学
生命環境系 助教授

矢代 真也

矢代 真也

飛ぶ教室

脇水 美千子

脇水 美千子

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

川井 敏昌

川井 敏昌

株式会社ロフトワーク/FabCafe LLP
FabCafe LLP COO

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発見と学び、産学連携の新しい場づくり