パナソニック株式会社 オートモーティブ社 PROJECT

感性的なアプローチで「聴点」をふやす
音響の価値を問い直すリサーチプロジェクト

Outline

パナソニック株式会社 オートモーティブ社(以下、パナソニック)が開発中の(全く)新しい車載用サウンドシステム。今回、消費者への訴求方法を探るべくスタートした本プロジェクトですが、多くの人にとっては未知の音響体験。そこで、パナソニックとロフトワークは、一般消費者向けのマスマーケティングではなく、感性的なアプローチで2つのリサーチを行うことで、サウンドシステムの魅力を言語化し、技術を活用したサービスアイデアを考えました。

第1フェーズでは、各分野で活躍する多様なクリエーターの言葉を通じて、音の体験を「言語化」し、価値を多角度から考察。第2フェーズでは、第1フェーズで言語化された価値や可能性を具体的なユースケースのアイデアに発展させるため、将来クリエイティブの世界を担っていく、芸術大学の音楽専攻およびメディアデザイン専攻の学生を巻き込むことで、この技術が生み出しうる未来の音生活のアイデアを広げました。

プロジェクト概要

  • 支援内容
    要件定義
    ワークショップ設計
    レポート作成
  • プロジェクト期間
    2018年9月〜2018年11月(第1フェーズ)
    2018年1月〜2019年2月(第2フェーズ)
  • プロジェクトメンバー
    クライアント:パナソニック株式会社 オートモーティブ社
    プロデューサー:篠田 栞
    プロジェクトマネージャー:国広 信哉(第1フェーズ) 、飯田 隼矢(第2フェーズ)
    撮影:岡安いつ美(第1フェーズ)、北村渉(第2フェーズ)
    第1フェーズパートナー:高木正勝(音楽家/映像作家)、 谷竜一(演劇作家/詩人)、 石神夏希(劇作家/演出家)、 林宗一郎(能楽師)、 柳沢英輔(音文化研究/録音作家)、 土門蘭(小説家/ライター)、 陶々舎・天江大陸(茶人)、 空間現代・山田英晶(音楽家/ライブハウス運営)、 Ally Mobbs(サウンドデザイナー) 
    第2フェーズパートナー:長江 和哉(名古屋芸術大学 音楽領域 サウンドメディア・コンポジションコース准教授)、大歳芽里(ダンサー)、名古屋芸術大学サウンドメディア・コンポジションコース、音楽総合コース及びデザイン領域メディアデザインコースの学生のみなさん

Process

9名の専門家から84のインサイトを抽出し、音の体験を拡張

第1フェーズでは、さまざまな領域で活躍するクリエイター9名に、実際にサウンドシステムを体験してもらい、感じたことを84のキーワードに抽出。キーワードを元に以下の流れでレポートを作成しました。

  • 実験したい音やコンテンツ案のアイデア
  • 従来の音技術との比較
  • 創作上避けたいことなどつくり手の意見
  • 世の中への伝え方や普及後に考えておくべきこと
  • 社会へ接続するための検討材料

「文化人」の視点から身体的・感性的な価値を見出す

第1フェーズでは、音によって「没入感」や「音の情景」といった身体的・感性的な価値を世の中に訴求できるよう、以下の基準でクリエイターに協力いただきました。

  • 言葉の表現が豊かである。
  • 品性・詩美性を伴う世界観を持っている。
  • 音楽という狭い範囲でなく、音 × ◯◯と広く捉えられる視点を持っている。
  • 感性が若く柔軟である。
  • 今後の展開に応じて協業できる可能性がある。

音響技術に詳しい専門家だけではなく、日本的な文化や感性の言語化に長けた「文化人」を中心に採用したことも今回のポイントです。理由のひとつは音響技術に携わっていないからこそ得られる新たな発見や視点を多方面から得るため。もうひとつは、日本的な感性で捉えたサウンドシステムの魅力を説得力のある言葉で伝えるためです。

高木正勝さん (音楽家/映像作家)
谷竜一さん (演劇作家/詩人)
石神夏希さん (劇作家/演出家)
林宗一郎さん (能楽師)
柳沢英輔さん (音文化研究/録音作家)
土門蘭さん (小説家/ライター)
陶々舎・天江大陸さん (茶人)
空間現代・山田英晶さん (音楽家/ライブハウス運営)
Ally Mobbsさん (サウンドデザイナー)

議論を踏まえて、例えば能楽師である林宗一郎さんは「能楽へ向かう道中で演目の理解を深めるための前座」としての可能性があると語り、里山の自然の中でピアノを奏でる高木正勝さんは「奏者の耳で聴く音の響きを共有できる体験装置」と語るなど、多様なアイデアの断片が生まれました。

しかし単なるアイデアだけではなく、「車とはどのような空間なのか?例えば他人との繋がりを作るための空間として捉えられるかも?」「リアリティとは何か?受け手の日常にフィットし共感できる状態のこと?」など、前提を疑うような問いがいくつも生まれたことがもっとも収穫でした。それは、妥当なアイデアに頼ってしまわずに、新たな価値を生むためにアイデアの研磨剤となる重要な存在だからです。

9名のプロフェッショナルへのインタビューから、84の示唆に富んだインサイトが得られた

自分ごと化する仕掛けで言葉を引き出す

サウンドシステムを実際に体感したクリエイターが、それぞれの体験や経験を踏まえて、自らの言葉で体験を語るために用意したのが、それぞれのクリエイターにカスタマイズしたイントロダクションカード。各々のバックグラウンドに応じて、その人が自分ごと化してサウンドシステムの技術に興味を持ち、思考を広げるための視点を与えるためのものです。

また、感想が抽象化されすぎないよう、今後プロジェクトに参加するイメージや、それぞれのクリエイターの活動に関わる具体的な話をする中から、各々の領域から音についての深い対話を促しました。

芸術大学の学生たちと音体験のアイディエーション

第1フェーズの結果を踏まえ、第2フェーズでは名古屋芸術大学 サウンドメディア・コンポジションコース、音楽総合コース及びデザイン領域メディアデザインコースの学生たちと、「車載」という制限を取り外し、自由な発想で具体的な音体験のアイディエーションを開催。ワークショップは主催者であるパナソニックの田中秀和氏の開会の挨拶からスタートしました。

「若いクリエイティブなみなさんの感性で、新しい技術を活用して世の中を面白くするアイデアを自由にディスカッションさせていただければと思います。」

1日を通じて、パナソニック社員3名も、学生のアイデアにアドバイスをしつつ、アイディエーションに混じり、クリエイティブな視点とエンジニアリングの視点が交錯する場となりました。

パナソニック株式会社 オートモーティブ社 田中秀和氏

3つの異なった音の体験ブースを用意するとともに、ダンサーの大歳芽里さんを迎えて身体全体を使うことで、五感を研ぎ澄ませるワークショップを実施。普段音楽を学んでいる学生が「音=音楽」ではなく、聴覚以外の感覚を使って音を捉え、アイデアを広げられるようワークを設計しました。

音と視覚、身体、空間をとりまく感覚を広げる

第1フェーズのインタビューの結果、より深めるべき課題としてあらわれてきたことは音をとりまく環境や体験のアイデアを広げるということ。そこで第2フェーズでは、未来の音のデザインを担うであろう、名古屋芸術大学の音楽専攻及びデザイン専攻の学生のみなさんと「車載」という制限を外してアイディエーションを行いました。テーマは「サウンドシステムを使った未来の音空間のアイデアを考える」。そこで、彼らがより自由に発想するための準備として用意したのが、ダンサーとのワークショップ。身体を開き、五感で音を捉えるワークショップを2種類行い、音に対する感覚を広げました。

1つ目のワークは「ブラインドワーク」。視覚を閉ざし、聴覚に集中して、呼吸音、機械の音、普段意識しない音に神経を研ぎ澄ませることで、音を受信する感覚を拡げました。目隠しする人と、まわりで物音を立てたり言葉を呟いたりする人に分かれ、気づきをシェアしました。

2つ目は「あなたと私とカメラ」というワーク。音を聴きながら動く被写体と、周囲に耳をすませながら被写体を撮影する役に分かれます。撮影中、お互いにどのような音が気になったかをシェアした後、カメラの映像を確認。互いの視点とカメラの視点で捉えた音の違いについて議論する中で、普段意識しない音を認識したり、聞こえ方が異なることに気づくことができました。このワークは、聞こえる音や聞こえ方を増やすという点で、視点ならぬ、新たな「聴点」を得ることを目的に行いました。

クリエイティブな発想を生む「制限」

アイディエーションのワークショップでは「制限」をデザインすることが大切。第2フェーズのアイディエーションでは、個人的な音の体験と、音楽と縁のなさそうな場所を掛け合わせることで、新しい音体験のアイデア発想を促しました。

企業、学生、クリエイターの視点が交わる場のデザイン

第2フェーズのワークショップとアイディエーションでは、名古屋芸術大学の教授や学生にとっても、普段取り組む視点とは異なる場所から音を捉え直す機会となりました。同時に、別の立場の考え方を共有できたこと自体が刺激となったようでした。

学生にとって、新しい技術を生み出すメーカーがどのようなことを考えているのかを世の中に出る前に知れる機会を持てたことは大きい。音楽を学ぶ学生は、得てして他の分野を学ぶ学生との交わりが少なく、ある種固定化した「音楽」にとらわれやすい。人によって異なる音の視点や感性と技術が交わる場所は新しく、刺激的でした。 - 名古屋芸術大学 長江和哉准教授

視点を増やすように「聴点」を増やす

「価値」と言われるものは、すべてが生まれた時点ですぐに価値として評価されるわけではありません。見る視点を変えることで、価値が見出されるものも多くあります。そのため、価値発見には多方面の視点からの言語化が大きな意味をもたらします

今回のプロジェクトは、感性に秀でた多様な人々の感覚を通して音を捉えると同時に、身体のセンサーを増やすことで、視点を増やすように「聴点」を増やしたプロジェクトでした。

エンジニアリングの専門家に加え、文化人、芸術大学の学生が混ざり合いながら体験しディスカッションすることで、 個別の定量リサーチでは得られないような、率直で実感値に基づいたデータを得ることができました。また、 様々な感性が混ざり合う議論が起こるとともに、車載用のビジネス以外の事業領域や利用シーンの発見につながりました。

Member

河野 聡

河野 聡

パナソニック株式会社 オートモーティブ社
サウンド事業推進室 企画課

篠田 栞

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

国広 信哉

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

飯田 隼矢

ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

メンバーズボイス

“学生の皆様の若い感性は、自分たちが昔持っていた感性だけど、社会人(会社人)になって知らず知らずのうちに忘れてしまっている。

今回のワークショップで、アイディエーション活動のみならず、色々な場面で若い感性に触れる(思い出す)ことが出来て、あらためて企画の仕事をしていく上での「感性」というものの大切さを思い知らされた。

今回のワークショップを通して、忘れてしまった感性を取り戻すのは大変だが、新しい感性を磨くことに少しでも時間を割いていきたいと、学生の皆様には、将来社会人になっても、今のすばらしい感性を失わないで欲しいと思いました。”

パナソニック株式会社 オートモーティブ社 サウンド事業推進担当 河野 聡

“今回のイベントでは、若い学生の皆様による新しく柔軟な発想から音の新たな価値観や、使い方、アイデアの原石のようなものに触れることができた。過去から現在に至るまで音響機器は、技術進歩とともに音質や機能を追及する傾向が強かったように思う。この活動を通じ、人の脳が音を聴いていること、脳(心)に訴えかけることの重要さを再認識することができ、参加いただいた皆様にはあらためて大いに感謝したい。”

パナソニック株式会社 オートモーティブ社 サウンド事業推進担当 玉村 雅志

“エンジニアリングの領域に学生さんやクリエーターの「感性」が混ぜ合わさることで、”音の体験”について考える場をデザインできたことが、このプロジェクトのミソだったと思います。人々の生活を音のテクノロジーを通じて豊かにワクワクするものにしていこうとされているパナソニックのご担当のみなさまと、引き続きこのプロジェクトに関わることをご一緒できると嬉しいです。”

ロフトワーク プロデューサー 篠田 栞

“新しいものが生まれるとき、いいも悪いも含め、感じ方は人それぞれだと思います。だから音が生業と強く結びついているクリエイターや、音を学びつつピュアな感性を持つ学生といった多様な立場から正直に言葉にしてもらい、そこから得られたアイデアから音響の価値を読み解いていきました。地道なプロセスではありましたが、ここで得られた発見を、引き続き楽しみながら形づくっていきたいなと思います。”

ロフトワーク クリエイティブディレクター 国広 信哉

“このプロジェクトでは、音の新しい技術を様々な分野のクリエイターと学生の方々に体験してもらい、感じたことを言葉にしてもらうことで、技術が持っている可能性を色々な角度から照らすことが出来たのではないかと思います。その可能性をどう育てて行くかというところも、引き続き考えていければと思います。”

ロフトワーク クリエイティブディレクター 飯田 隼矢

Keywords

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