忠泰建築文化芸術基金会 PROJECT

台北の旧市街から、地域の“遊びかた”をリデザイン
生活者の人生にヒントを得た新感覚ツアー開発

台湾・台北市の歴史ある繁華街「萬華(ワンホワ)」。台湾最古の寺院や伝統的な市場文化があり、観光地としても有名なこのエリアで、NPO組織「U-mkt」は地方創生のための活動を行っています。今回、U-mktとロフトワーク台湾は、萬華のまだ見ぬ魅力と、組織としての次期事業リソースを見出すためのプロジェクトを実施しました。フィールドリサーチを通して、多様な生活者15名のストーリーを紐解きながら、この地域の固有性を「五感で体験する」プログラムをデザイン。日本と台湾のクリエイター4組とともに、企画展示とツアーを開催しました。

執筆:堤 大樹/ロフトワーク台湾 シニアディレクター、
許 孟慈/ロフトワーク クリエイティブディレクター
編集:後閑 裕太朗/Loftwork.com 編集部

Background

「地方創生」という言葉が盛んに使われるようになり、早くも10年近くが経過しようとしています。その中で、各自治体やNPOは積極的に産業や文化を掘り起こし、また外部から人が訪れる仕掛けをつくることで、地域の活性化を目指してきました。

たくさんの成功事例が取りざたされる一方で、そのアプローチが他地域の事例と似通ったものになったり、実施したものの継続的な活動につながらず打ち上げ花火的に終わってしまう取り組みも少なくありません。その結果、「その土地ならではの産業を活かした、その地域ならではの暮らし方」を新しく打ち立てるはずが、むしろ画一的な都市の発展のアプローチに寄ってしまい、地域の魅力や独自性が伝わらないという課題は世界のどの地域でもよく聞く話です。

そんな中、台湾大手のデベロッパーである忠泰(ジョンタイ)の傘下に属する、忠泰集團(JUT Group/以下、JUT)は一風変わった「地方創生」に取り組んでいます。JUTが活動の拠点としているのは、台北市内の歴史ある繁華街「萬華」というエリア。

このエリアは、高齢化や産業の衰退など多くの課題を抱えるものの、台北で最古の廟(寺院)があり、日本統治時代には繁華街として栄えた、台北に住む人ならほぼ知っているような伝統と歴史のある街です。しかも、台北駅から地下鉄で2駅とアクセスがよいこともあり、「創生」をする以前より、既に十分ポピュラーで、観光客も足を運ぶくらいには一般的に思いつくような文化の掘り起こしは終わっているとも言えます。日本でいえば浅草を思い浮かべると、イメージが近いのかもしれません。

そんな地域で、JUTが立ち上げたNPO組織「U-mkt」は9年間ほど活動を行ってきました。主に「地域のリサーチ」や「ワークショップ」を行い、近隣の市場や、古くからの薬草のお店などとの関係性を温めてきたのです。近年は、拠点を構える旧・統治時代の市場をリノベーションした文化複合施設〈新富町文化市場〉に、昼飲みの酒屋をオープンするなど、これまで萬華に足を運ばなかった若年層へのPRにも成功しています。

しかし、〈新富町文化市場〉は政府所有の場所であり、契約を今後も更新していくために、今後のU-mktとしての活動をより発展させるために「NPOの活動に留まらない事業の開発」を行う必要にも迫られていました。

Outline

こうした課題を解決することを目的に、U-mktは、2022年度よりロフトワーク台湾と、市場内にある展示スペースを活用したリサーチ・展示プロジェクトを2回行いました。その目的は、プロセスを通じて「まだ光の当たっていなかった、萬華の魅力、つまり今後のU-mktの事業リソースとなり得るものを発見すること」です。

初年度である2022年度は、テーマを「未来からの舶来品」として、日本・台湾のクリエイター計9名による「クリエイター・イン・レジデンス」をパンデミックの影響が強く残るなかで実施。さまざまな得意分野を持ったクリエイターと近隣の市場を探索し、そのエッセンスをプロダクトに落とし込むことで、市場内のまだ見ぬリソースの発見に取り組みました。

2年目となる2023年度は、そこからさらに「誰しもが萬華と聞いて思い浮かべる “らしさ”」、「そこから導き出される“よくあるアイデア”」からの脱却を目指したプロジェクトを行う必要に迫られました。なぜなら、9年間の活動のなかで目に見えるほとんどのリソースや、ユニークなポイントは、すでに発見し、取り上げたことがあったためです。

そこで、前年度取り組んだ「クリエイターとのアイディエーションと、その実装」の前段階のステップとして、「萬華という地域での人々の暮らしぶり」をより密に把握するためのフィールドリサーチを実施。

そこで得られた「より生に近い素材」をもとに、日本・台湾のクリエイターと協力しながら、展示や萬華の体験ツアーを制作したのです。こうして、地域内外の人々を巻き込みながら、U-mktの今後の具体的な事業のタネを発見し、体験ツアーという形でプロトタイピングしました。

体験ツアーの一つ「SMELL TOUR」の開発プロセス・実施内容
制作:混ぜるな危険/Yusuke Yamada

Process

本プロジェクトは、生活者15人を対象としたフィールドリサーチ(フェーズ1)、新たな体験アイデアをクリエイターと共に考えるワークショップ(フェーズ2)、それらの素材やアイデアを軸にした展示の制作・開催(フェーズ3)と、サービスプロトタイプとしてのツアーの実施(フェーズ4)という、4つのフェーズに分かれています。

以下では、それぞれのフェーズで目指したゴールと、実施内容について紹介します。

プロジェクトの全体像とその成果

<フェーズ1> 地域の固まったイメージを解きほぐす、フィールドリサーチ

このフェーズでは、「生活者の生のエピソードの収集」を通じて、「プロジェクトメンバーの中にある萬華への固定化されたイメージを少しずつ融解すること」を目的に、フィールドリサーチを行いました。

フィールドリサーチでは、萬華に住まう生活者15名に焦点を当て、彼らがどのようにこの街で暮らし、また街の人びとと関わり、生業を行っているのかを聞き取りしました。また、聞き取りの前準備として、リサーチの専門家を招聘し、おおよそ2週間にわたって「リサーチの設計・実演」を実施しています。

今回のリサーチでは、「地域づくりとケア」の視点が重要であったこと、そして台湾国内の視点にとどまらない広い視点が必要だったことから、多様な国のリサーチを経験している、Deep Care Labの川地真史さんを招へいしました。こうして、専門家とともにインタビューの型を事前に制作することで、本番のリサーチでもロフトワークや、U-mktのメンバーが実際に生活者一人ひとりとじっくり対話する時間を得ました。

最終的には、15名の生活者の聞き取りから、いくつかの印象的なエピソードを抜き出し、計30個のエピソードとしてまとめています。これらの要素を「フェーズ2のアイディエーション、フェーズ3の展示」の素材としています。

リサーチ対象となった、15名の生活者

(写真左上から)

  1. 王柏諺(〈老濟安 Healing Herbar〉薬草店3代目経営者)
  2. 李政道(〈萬華世界下午酒場オーナー)
  3. 李清耀&陳筱筠(萬華生活者の李氏夫婦)
  4. 林珊宇(〈一肥仔麵店4代目経営者
  5. 林珮羽(〈艋舺龍山文創B2〉経営者
  6. 張智豪(〈協興蛋業玉子屋3代目経営者)
  7. 陳世平(〈金好吃純正花枝羹〉飲食店3代目経営者
  8. 陳誠(保険営業)
  9. 辜凱玲(〈涼粉伯〉飲食店3代目経営者)
  10. 黃蓉(5代目萬華生活者/〈Smells of Taipei〉創設者
  11. 楊昆翰(〈思沐咖啡〉珈琲屋オーナー)
  12. 劉盈孜(編集者/コミュニティ活動家)
  13. 鄭靖騰(〈艋舺大豐魚丸店〉飲食店3代目)
  14. 蔡佩玲(〈暇瑕寫字工作室デザイナー)
  15. 魏子鈞(南萬華生活者/コミュニティ活動家)

<フェーズ2> クリエイターの視点から、新たな体験を探るワークショップ

このフェーズで目指したのは、「リサーチで得た生のエピソードに価値を見出し、萬華における新しい体験に転換していくこと」です。

フィールドリサーチでまとめ直したエピソードをヒントに、日本と台湾の4組のクリエイターとともに、この街でどのような「新しい体験」をつくることができるのかアイディエーションを行いました。ワークは一泊二日で行われ、5組のチームがそれぞれ2つのアイデアを発表。人間の感性や感覚にフォーカスし、街を今までと違った角度から解釈できるような、それぞれのクリエイターの特色を生かした新たな体験ツアーを考案しました。

クリエイターとのアイディエーションの様子

クリエイターとのアイディエーションの様子

クリエイターとのアイディエーションの様子

クリエイターとのアイディエーションの様子

アイディエーション参加クリエイター

  1. for Cities(日本)
    東京・京都・アムステルダムに活動拠点を持つ都市体験のデザインスタジオ

  2. 蔡瑋德 Nick Tsai(台湾) 
    サウンドアーティスト、プロダクトデザイナー
  3. 台北是隻長頸鹿・Taipei is a giraffe(コロンビア/台湾)
    面白い「問題」を起点に、人々が自分たちの都市を新しい視点で捉える活動を支援するデザインチーム
  4. 混ぜるな危険(日本)
    「香り」と接続してこなかった「何か」を繋げていくことで、香りで新たな価値や世界を提案するコレクティブチーム

<フェーズ3> クリエイティブの力で、生活者のストーリーを体感可能なものにする展示

このフェーズのゴールは、展示を通じて「プロジェクトのプロセスを開示」し、「フェーズ1,2で得たエピソードや、アイデアを訪問者が追体験できる形に落とし込むこと」です。

展示は、大きく3つのゾーンで構成しています。それぞれフィールドリサーチ・エピソードの抽出・クリエイターとのアイディエーションの中で生まれたアウトプットが展示され、まだ可視化、言葉にされていない生活者の暮らしに潜む「萬華の価値・魅力」を立体的に感じ取れるような空間設計を目指しました。

  • ゾーン1:リサーチを行った15名の生活者の等身大サイズのポートレートを、彼らのプロフィールと併せて展示
  • ゾーン2:リサーチから抜粋した計16個のエピソードと、それを表現するミニチュアのジオラマとともに展示
  • ゾーン3:クリエイターとのアイディエーションで考案した、五感にフォーカスしたツアーの一部を、体験可能な形で紹介

ゾーン1:リサーチ対象となった、萬華に住む生活者とそのプロフィール

ゾーン2:段ボールを覗きエピソードを垣間見る仕掛け

ゾーン2:段ボールを覗きエピソードを垣間見る仕掛け

ゾーン2:段ボールを覗きエピソードを垣間見る仕掛け

ゾーン3:アイディエーションを行ったクリエイターの紹介と、これから行われる新しい体験ツアーの一端にふれられる展示のしかけ

ゾーン3:アイディエーションを行ったクリエイターの紹介と、これから行われる新しい体験ツアーの一端にふれられる展示のしかけ

加えて、15名の生活者のライフヒストリーをまとめた小冊子や、エピソードに関するアイテムが飛び出すARの展示、アイディエーションで考えたボツ案もパンフレットで紹介するなど、技術やアイデアをうまく活用しながら、プロジェクトのプロセスで生まれた副産物を生かすための遊びも用意しています。

AR技術を活用し、生活者の物語に深くかかわるアイテムが表示される展示

15名のライフヒストリーをまとめた小冊子

15名のライフヒストリーをまとめた小冊子

<フェーズ4> 感覚を活かした、プロトタイプ体験ツアーの実施

このフェーズのゴールは、「展示を見て、興味をもった訪問者が実際に萬華の街に足を踏み出すための機会を提供すること」です。そのために、展示と併せて、これまでの街歩き的なガイドツアーとは違った要素を持つ、新たな萬華の体験ツアーを用意しました。

およそ1.5ヶ月の展示期間のなかで、「集客をリブートする機会を増やすこと」、そして「展示を見て終わりにしない、生で萬華を体験する機会の創出」を行うため、フェーズ2で生まれた体験ツアーのアイデアのうち3つを、プロトタイプとして実施しました。「既存の知識に頼らず、身体的な感覚を生かして街を捉え直す」ために、「味覚・嗅覚・聴覚」を活かしたテーマのもと、体験ツアーを開催しています。

体験ツアーの内容

  1. 一期一会食堂
    ・今日しか出会えない、食材(市場での買い物)、メニュー(食の組み合わせ)、食卓(食を一緒に囲む人)をテーマに、ジャム作りとコーヒーの試飲会
  2. SMELL TOUR
    ・香りを感じるための街歩きと、プロジェクトでリサーチに協力してくれた生活者3人と、萬華をテーマにしたルームフレグランス作り
  3. SOUND SPOT in 萬華
    ・音を見つける街歩きと、萬華でのフィールドレコーディング

食事との出会いをテーマにした「一期一会食堂」の様子

食事との出会いをテーマにした「一期一会食堂」の様子

街や人と、そこにある香りをテーマにした、「SMELL TOUR」の様子

街や人と、そこにある香りをテーマにした、「SMELL TOUR」の様子

街における音の発見をテーマにした「SOUND SPOT in 萬華」

街における音の発見をテーマにした「SOUND SPOT in 萬華」

Challenge

地域の既存のイメージや、そこから生まれるありがちなアイデアを脱却し、人々の暮らしの中にあるまだ見ぬ魅力や価値を伝えること。そして、それをプロジェクトのなかで実践し、U-mktの事業のタネを発見するために、本プロジェクトでは、以下の3つを工夫しています。

1. 展示を軸に設計することで、フィールドリサーチからアウトプットまで着実に実施

JUTが来年度以降も施設を継続して借りていくために、施設のリソースを生かした「展示の設計・実践」はプロジェクトの必須要件。しかし、U-mktが抱えている課題や、実現したいことは多岐にわたり、そのすべてを一度の展示で回収できるわけではありません。そうした観点から、リサーチやアイディエーションの道中で課題解決を図りながら、全てのプロセスのアウトプットをそのまま展示に活用し、来訪者に伝えることができるようなプロジェクト設計をしました。

2. 知識や固定観念を刷新するための、生のエピソード収集と表現

萬華は台湾において非常に有名な地域であり、すでに多くのメディアで取り上げられています。こうした、既にある強力な固定観念や “らしさ” から脱却し、新しい価値を見つけることは容易ではありません。そうした思い込みを刷新するために、フィールドリサーチではあくまで「この街に暮らす個人のエピソードと、街の結びつき」という、個人的で、形のないものにフォーカス。その小さなエピソードを集め、クリエイターとともにこれまで「語り尽くされたストーリーとは違う物語」として編み直しています。

3. 展示後にも「収益源」にできるようなプロダクト・サービスのタネを開発

萬華の歴史や名所を紹介する街歩きガイドは、既に生業として成立しています。もし、U-mktが今後本当に事業の一環として体験ツアーを提供していくのであれば、新たなアプローチを行っていく必要があります。

そこで今回ツアーの設計の軸としたのは、「知識に頼らない、五感を生かした体験」。こうした体験は、観光客へのサービス提供はもちろん、地域住民自身が、これまで当たり前に見過ごしてきた街のことを捉え直す機会や、教育の機会としても機能します。加えて、各ツアーでは、「ジャム」、「ルームフレグランス」、「音源」など実際に販売が可能な「萬華由来のプロダクト」をアウトプット。これらは、JUTが手掛ける百貨店でのオリジナル商品として販売を見据えています。

Outcome

「地域に根付く、形のない魅力や価値を発見・発信すること」を目指した本プロジェクト。実際にリサーチと展示、体験ツアーを実施して、U-mktや萬華地域に、どのような変化が生まれつつあるのでしょうか。本プロジェクトで、プロジェクトマネジメント/クリエイティブディレクションを担った、ディレクターの許 孟慈(キョ・モンツー)が紹介します。

許 孟慈

許 孟慈(クリエイティブディレクター)

台北生まれ、台北育ち。東京→ロンドン→ニューヨークを移動して、現在は京都在住。前職は台湾大手の富邦銀行のアートファンデーションに勤務し、壁のない美術館を目指すプロジェクト『Very Fun Park』に参加。同時に、文化イベント『富邦講堂』の開催や情報誌の編集に関するディレクションを経験する。その後、デザイン思考に出会い、学びの旅にでた。慶應義塾大学大学院、iU 情報経営イノベーション専門職大学で研究員としてデザインリサーチの活動を経て、2021年にロフトワークにジョイン。国を横断するプロジェクトに多数携わる。趣味はダイビングで、水泳の息継ぎが苦手だが30メートルまで潜れる。

Profile

1.地域に対する「自分たちの固定観念」から再定義するリサーチ

本プロジェクトで重要だったのは、萬華という地域に対する固定観念をどのように払拭するか、ということでした。

それは観光客の視点からだけでなく、プロジェクトメンバーの視点に関しても同じこと。JUTは9年間にわたり萬華で活動を続けています。長い時間をかけて彼らが蓄積した経験は、良くも悪くも「地域に対し、すでに知っている物語やステレオタイプのイメージに結びつけて物事を考える」状態を引き起こしていました。その結果、地域のオリジナリティが見えなくなっていたり、制作するコンテンツが年々コモディティ化していくといった課題に直面していました。

こうした状況を脱却するために、欧州や日本など多くの国でのリサーチ経験を持つDeep Care Labのリサーチャー川地真史さんを招いて、フィールドリサーチを実施しました。バックグラウンドの異なる「外の視点」、しかも多様な地域文化の知見に長けた人がリサーチャーとなることで、語り尽くされたエピソードに別の角度から光をあてたり、これまで見落としていた物事を再評価する機会を与えてくれます。

実際、フィールドリサーチを経て、プロジェクトメンバーは萬華を表す代名詞となっている「三流」(「流鶯(性風俗従事者)・流浪漢(ホームレス)・流氓(不良者)」という三つの「流」を総称する俗語)という言葉のイメージを、猥雑で危険な場所という印象から、多様性やインクルーシブさ、安全性を備えたコミュニティの姿として捉え直すことができたのです。

2.「生活者の物語」を中心に、地域コミュニティを結集し、活気を生み出す

展示の制作・実施において最も手応えを感じたのは、「地域住民と共創できたこと」と、「地域社会の活性化に寄与できたこと」です。これまでの地域におけるPRは、萬華にいる著名な方や名物的な人物を「萬華を代表する存在」として扱うことが一般的でした。しかし、今年のプロジェクトでは地域の中のごく一般的な生活者に焦点を当てることで、彼ら一人ひとりの物語が「萬華という地域の輪廓を構築するうえで、不可欠な要素であること」を提示しました。

また、フィールドインタビューや展示の準備など、プロジェクトにおけるさまざまな場面で、こうした生活者からプロジェクトに対する関心を集め、多大な支援を受けてきました。彼らはプロジェクトチームに激励の言葉をかけてくれたり、親しい友人や家族を連れてきたりと、さまざまな形で調査や制作に日々協力してくれたのです。

このように、生活者の視点を大切にして地域住民と連帯できたこと、活動自体が人から人へとつながって、地域に新しい活力を生むための力を結集できたことは、今年のプロジェクトで最も特筆すべき大きな意義だと感じています。

3. 視覚に依存しない観光体験と、地域内外からの反響

萬華に限らず言えることですが、多くの観光地は主に目に見える情報(=視覚情報)に依存しています。旅行の思い出が、ほぼ写真を通じて人々の間で記憶されている、というのがわかりやすい例です。

今回のリサーチでは、「生活者の身体経験と、それに基づく都市の記憶」に注目し、またクリエイターと共に嗅覚・聴覚・味覚を通じて、それを感じ取る方法を探りました。展示や体験ツアーの参加者は、このように多様な感覚にアプローチしてくる体験を通じて、メディアの情報や「視覚」だけで捉えていたステレオタイプから脱却して、「萬華の新しい魅力」に触れることができたのです。

実際、参加者からのフィードバックには「萬華のことを、いろんな切り口からもっと知りたくなった」「自分自身の記憶が想起された」というような声がありました。また、複数のメディアに取材いただいたり、Facebookの投稿でも1500以上の「いいね」を獲得するなど、プロジェクトへの反響が定量的な数値にも現れています。

このような地域住民の「経験と記憶」を起点とした「新しい体験」のデザインは、「名所や美味しい食べ物」や「インスタ映えスポット」を紹介するような、検討しつくされた地方創生や観光施策とは根本からその質が異なります。地域内外ともに、より身体的・感情的な結びつきを通じてつながり、価値を見出す。それが地域の魅力発見や、組織の役割の再定義、サービスやプロダクト開発のヒントにもつながっていくのではないでしょうか。

Member

堤 大樹

堤 大樹

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

許 孟慈

ロフトワーク
クリエイティブディレクター

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Tim Wong

株式会社ロフトワーク
FabCafe Taipei / Loftwork Taiwan co-founder

Profile

Paul Yeh

株式会社ロフトワーク
FabCafe Taipei / Fab Director

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“うめきた再開発”の一手。グラングリーン大阪「JAM BASE」
地域と共に歩むためのブランド策定・コミュニティ醸成