京都精華大学のプロジェクト授業として2020年4月21日(火)からスタートした「インタラクティブデザイン」。メインの講師は美術家のやんツーさんとエンジニアの中農稔さんの2人で、半年間に渡って毎週開催されます。FabCafe Kyotoはこの授業のパートナーとして参加しています。授業のテーマは「ポストパンデミック時代のデザイン/クリエイション」。一昨年は成果発表、昨年は授業の学外会場&展示会場の場として協力してきたFabCafe Kyoto。今年は講師チームとしても授業にも参加し、ポストコロナの時代における展示のあり方を学生たちと模索します。

非接触の展示のあり方を考える

「インタラクティブデザイン」は、デザイン学部ビジュアルデザイン学科3年生向けの授業。プロジェクト型授業として、一昨年度から毎年開催しています。昨年までのテーマは「メディアアート」でしたが、今年はより問題解決的な思考やプロセスに取り組みます。

授業は毎週月曜と火曜のそれぞれ13:00〜17:50という、学生たちにとってもかなりの時間を使って取り組むもの。月曜日は中農さんから映像、ビジュアル制作のためのプログラミングの授業が行われ、火曜日はやんツーさんからArduinoを用いたハードウェアのプログラミングや、メディアアートの文脈に沿ったインプットとアイディエーションが行われます。例年と同様、期末には何らかの成果発表会を予定していますが、今年は三密を避けた展示の方法はもとより、展示自体のあり方も考え直す必要があります。そこで、FabCafe Kyotoは、講師チームの一員として授業に参加。やんツーさんや中農さん、学生たちとともに、展示のあり方を模索します。

昨年のテーマは「ハッキング/公共圏に介入する」。受講生たちは、各々の視点から、カフェ店内における既存の機能や「場」そのものに対し、テクノロジーを用いた作品をもって介入していくことを試みました。
作品の多くははFabCafeの工作機械も用いて作られました。
たった一つのLEDで普通の飲み水を神々しく光らせることで、神社の山奥から溢れ出ているような感覚を呼び起こそうとした作品。
タグの「どこの誰のものか示す」という役割に着目し、オリジナルのタグをカフェのあらゆるものに付けることで、介入を試みた作品。

ポストパンデミック時代のデザイン/クリエイションを模索

授業のテーマは「ポストパンデミック時代のデザイン/クリエイション」。ユーザーとコンテンツ(対象、他者)との関係性やコミュニケーションのためのデザインを、思考と実践の両方から取り組みます。講師のやんツーさんは、授業の意図を、美術評論家の椹木野衣さんの言葉を引用しながら、学生たちに以下のように投げかけました。

新型コロナ・ウイルスは人と人とを隔て、あらゆるところに壁を立て、人類の活動をグローバリズム以前の世界へと引き戻そうとしている。仮に今回のパンデミックが早期の収束を見たとしても、世界は、社会がいつ崩壊してもおかしくないほどのリスクが厳然として存在することを知ってしまった。喉元を過ぎたからといって、すっきりもとの通りに戻れるというのは、考えが甘すぎるだろう。今回のようなパンデミックは、人類がその生き方を根本から変えない限り、今後も十分に発生しうる。

美術の展覧会に至っては、モノとしての保護を第一とする文化財なら、そもそもがヒトを敬遠するはずのものだった。他方、ヒトを必要としない情報の通信速度はますます飛躍的に進んでいく。遠からずそれは、同時性や固有の場所という概念そのものを刷新してしまうだろう。ポストパンデミック時代の新しい体験性とはなにか。私たちは、かつてない性質の時の猶予を得た今、「ポス・パン」の世界像とその可能性について、新たな思索と模索を始めなければならない。

自らの手を動かし何かを作り出すことによって、社会に関わる方法や考え方を教えるのが芸術大学なのだとしたら、コロナウィルスのような新たな課題についても、考え、実験する場であるべき、とやんツーさんは学生たちに伝えます。学生たちの普段の制作や生活と現在の問題を結びつけて考え、クリエイティブな発想で未来を切り開いていく方法を共に思考し、実践する授業になっていく予定です。

オンラインワークショップで学生の思考を深堀り

学生たちは授業の中で、明確な答えのないテーマに対してさまざまなアイデア出しをすることになります。アイデアとはひらめきだけでなく、多くは既存の要素を組み合わせることによって生まれるもの。そのためには、身の回りにあるものを自分自身がどのように認知し、意味を見出し、言語化できるかということが大切。ものごとをひとつひとつ深く考え、根本を問い直す姿勢が必要になります。

そこで、全国的自粛の中でのゴールデンウィークが明けた5月11日(月)、オンライン授業の中で、学生たちに向けて授業に向き合うマインドセットを醸成するためのワークショップを実施しました。ワークショップを企画・ファシリテートしたのは、FabCafe Kyotoを運営するロフトワークの上ノ薗正人木下浩佑。「5Whys」というフレームワークをベースに、「好きなもの」や「授業に参加する理由」といった問いへの回答について、「なぜ」を5段階深掘りするというワークを実施しました。

学生たちはこのワークを通じて、普段いかに「なぜ」を掘り下げていないか、また、いざ掘り下げようと思っても難しいということを実感できたようでした。また、それまで認識できていなかったことを発見したり、連想して関係なさそうなものが繋がっていったりと、これからのアイデアワークに必要な思考を学ぶことができたようでした。

また、ワークショップはZoomでつなぎながらGoogle Slideを使って行いました。同じスライドを使って学生たちがライブで空欄を埋めていくことで、同時に仲間の思考を共有することもでき、Face to Faceで行うワークショップではできない学びもありました。

授業概要「インタラクティブデザイン2020」

学生たちが考えた内容や授業のアウトプットについては、成果発表をもってお知らせします。お楽しみに。

期間: 2020年4月21日(火)〜7月末
講師: やんツー中農 稔、大溝 範子
京都精華大学デザイン学部公式サイト: 
https://www.kyoto-seika.ac.jp/edu/design/
参考: 昨年の授業の様子

講師プロフィール

やんツー(京都精華大学ビジュアルデザイン学科特任講師 / 美術家)
1984年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。美術家。京都精華大学デザイン学部ビジュアルデザイン学科特別任用講師。2009年多摩美術大学大学院デザイン専攻情報デザイン研究領域修了。デジタルメディアを基盤に公共圏における表現にインスパイアされた作品を多く制作している。
http://yang02.com/

中農稔(エンジニア / テクノロジスト)
京都精華大学 非常勤講師、Gs Academy メンター、Landskip テクニカルディレクター。面白法人カヤックにてエンジニア/ディレクターを経て独立。デジタルサイネージ、インタラクティブコンテンツ、インスタレーションを中心に企画と制作を行う。
主な受賞:GUGEN HIRAMEKI 2014 大賞、ArtHackDay 2015 優勝、YouFab 2016 FINALIST、県北芸術祭2016 選出
https://twitter.com/nenjiru

大溝 範子(デザイン学部 ビジュアルデザイン学科教授、創造戦略機構 キャリアデザインセンター長)
京都精華大学美術学部デザイン学科卒業。 ゲームキャラクターのディレクション及びゲーム開発デザイン全般を担当。並行してプロジェクトマネージング、人事採用まで幅広く行ってきた。現在、スマートフォンのゲームアプリのアートディレクション等で活動中。
※ インタラクティブデザインでは授業サポートをしている。

プロジェクトメンバー

木下 浩佑

株式会社ロフトワーク
FabCafe Kyoto ブランドマネージャー

Profile

上ノ薗 正人

株式会社ロフトワーク
京都ブランチ共同事業責任者

Profile

浦野 奈美

株式会社ロフトワーク
マーケティング/ SPCS

Profile

ロフトワークについて

ロフトワークは「すべての人のうちにある創造性を信じる」を合言葉に、クリエイターや企業、地域やアカデミアの人々との共創を通じて、未来の価値を作り出すクリエイティブ・カンパニーです。ものづくりを起点に、その土地ならではの資源やテクノロジーを更新する「FabCafe(ファブカフェ)」、素材と技術開発領域でのイノベーションを目指す「MTRL(マテリアル)」、クリエイターと企業の共創プラットフォーム「AWRD(アワード)」などを運営。目先の利益だけにとらわれず、長い視点で人と企業と社会に向きあい、社会的価値を生み出し続けるビジネスエコシステムを構築します。

株式会社ロフトワーク 広報:pr@loftwork.com

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Layout シニアディレクター宮本明里とバイスMTRLマネージャー長島絵未が登壇