連載「コミュニティ運営の “中の人”が語る〜人財マネジメント術〜」
#3 教育ではなく共育のススメ
こんにちは。ロフトワークLayout Unit ディレクターの小菅です。
2019年6月に入社し、SHIBUYA QWSという共創施設のコミュニティマネージャーとして、入社してから今に至るまで施設で働くスタッフの採用と教育を担当しています。しかし、人事系の仕事は全くの初心者。前職は、ぬいぐるみデザイナー見習いや社会人向けWebデザイナーの学校スタッフと畑違い。「共創施設とはなにか?」「コミュニティとは何か?」「人を育てるとは何か?」右も左も分からないなかで試行錯誤しながら、運営や人材マネジメントに対するナレッジを溜めてきました。このたび、共創施設の運営を言語化をしてみたいと考え、連載記事を書くことにしました。タイトルは、ズバリ「コミュニティ運営の“中の人”が語る〜人財マネジメント術〜」です。
第3回目は「共育」についてです。
教育ではなく「共育」という言葉を選んだのは、数年間、施設スタッフをマネジメントする中で誰かに教える「教育」ではなく、指導を行う側と受ける側が一緒に成長しながら施設を回している感覚が強かったからです。
共育の意味:親・教師・学校など教育権を持つ主体だけでなく、多様な立場や領域の人や組織が連携して教育を担うこと、あるいは教育・養育・指導を行う側と受ける側がともに学び成長すること、などを意味する造語。
goo国語辞書より引用
ぜひ、共創施設で働くスタッフのマネジメントをする立場の方に読んでいただき、何か少しでもお役に立てれば嬉しいです。
SHIUBYA QWSについて
2019年11月、渋谷駅直結・直上の大規模複合施設「渋谷スクランブルスクエア」の15階に開業した、多様な人たちが交差交流し、社会価値につながる種を生み出す会員制の共創施設「SHIUBYA QWS(以下、QWS)」。
コミュニティコンセプトを「スクランブルソサエティ」とし、多種多様な人が集うコミュニティでの交流や領域横断の取り組みから化学反応が生まれ、未来に向けた価値創造を生み出す新拠点として注目を集め続けています。
渋谷スクランブルスクエア株式会社とロフトワークは、QWSから持続的に新たな社会価値を生み出し続けるために共同の運営プロジェクトチームを発足し、開業準備フェーズから活動を開始。QWSの共創コミュニティを活性化させるべく、会員向けプログラムの設計、施設スタッフ採用・育成のほか、アカデミア(大学)やベンチャーキャピタル、NPOといった多彩なパートナーとのプログラム連携を進めています。
「しくじり」から気づいた管理教育から脱する重要性
突然ですが、私のマネジメントしくじり談を2つお話します。
しくじり1: 指示待ちスタッフ増加編
開業1年目。施設スタッフを採用しオペレーションも整い、いざ会員さんを迎え入れた時のこと。スタッフ全員のモチベーションも高く、意気込んでいました。しかし、実際に運営がスタートすると、運営直後によくある対応(視察、入会対応、施設内の不具合など)やオペレーション業務の改善に対する優先度が高くなってしまい、コミュニティ醸成につながる施策までなかなか手がまわりません。
コミュニケーター(QWSでは、スタッフをこのように呼んでます)は、何かやりたくてうずうずしてしまいましたが、どうしても社員の確認と指示をもらってから動くことが増えました。
その結果、段々とコミュニケーターのモチベーションが削がれていき、指示待ちになる人が増えていきました。
「あれ?」
個性あふれるスタッフを採用してきたのに、個性を発揮できる場面を作ることができず、さらにはスタッフはやりたいことができずにストレスを抱えている状態に陥っていました。
しくじり2: 個人のやりたいとチームミッションのすれ違い編
オペレーションが整い始めた開業2年目。「どうしたら施設スタッフの個性を生かしながら良い施設をつくれるか」を考え、やりたいことを思う存分できるように業務を広げることにしました。「会員さんを紹介するコンテンツ企画がやりたい」と声を挙げてくれるスタッフがおり、会員交流促進のため、チャレンジしてもらうことになりました。しかし、数ヶ月経つと、他スタッフから「コンテンツづくりばかりして、オペレーション業務をしてくれない」と不満の声が挙がってきました。
その後、コンテンツ業務を整理し、日常業務に支障が出ないよう時間のマネジメントをしたところ「自分のやりたいように仕事をさせてくれない」と不満の声が漏れ始めてきました。
「あれ?」何か新しいことを始めると、業務のバランスが崩れ誰かに負担かかってしまう。それを改善しようと業務内容を管理しだすとモチベーションが低下し、やりたいことができなくなってしまう。
どう貢献できるのか自ら考え、動ける人財を育成するにはどうしたら良いのか。
そもそもマネジメントとは、管理ではなく「うまくやりくりしてゴールを目指すこと」。現場で働くスタッフが、施設の目指すゴールを自分ごととしてとらえて、業務に向き合うことはできないのだろうか。
共に学び合うから人も施設も成長する、コミュニティ施設ならではの共育
この2つのしくじり経験以外にもたくさん失敗してきましたが、その全てに学びがありました。まさに、マネジメントをする人も施設やスタッフと一緒に学んでいく必要があり「共育」マインドを持っていることが大事なのではないかと考えています。
現在、心がけているマネジメントの向き合い方を3つご紹介します。
1:信頼関係を築く
まずは、雑談。仕事に対する思いや不満、チーム間の悩み、批判的意見もざっくばらんに話してもらいながら、相手が何を望み、何を期待しているのかを知る時間を積極的につくっています。大事にしているのは、一対一の対話です。話をしている最中は、決して否定せず、ひたすら聞き役側に回るよう心がけています。このおかげで、各々のキャラクターと強みを知ることに繋がりました。
2: チームと個人目標設定
次に、チームと個人の目標を言語化すること。
1人ひとりの能力が高くても、個人でやれることには限界があります。「チームで成果を出す」という考えをチーム全体に浸透させてから、個々の目標と擦り合わせをするようにしています。必ずしもスタッフの目標がチームの目標と一致しているとは限らないので、ここは時間をかけて丁寧に行っています。
<チームの目標設定>
- 施設のミッションからスタッフの役割と業務を言語化
- 毎年、チームで達成する目標を設定
- 半期ごとに成果を振り返り、スタッフ全員でKPTを行う
- 次の年のチーム目標を設定
<個人の目標設定>
- 半期ごとに個人目標を3つのテーマに絞って設定
- 「個人成長」「コミュニティ貢献」「チーム貢献」
- 3ヶ月に1回、1on1を行い進捗の確認とフィードバックを行う
共に施設を作っている仲間として、トップダウンで決めるのではなくチームや個人のやりたいことをファシリテートしながら、施設のミッションを達成できるようにマネジメントすることを心がけています。
3:仕事をしっかり任せること
仕事をお願いするときは、途中で口出しをしないように気をつけています。「あれってどうなっている?」「どうしてこうなったの?」とついつい言ってしまいがちですが、それをやりすぎると結局、社員の手足として動いていると感じさせてしまいます。
気になっても、ぐっと我慢して対話を重ねながら「やりたいこと」を引き出したり、指示を出しすぎずに本人が考える機会や時間を十分に与えます。任せた仕事が終わったら、仕事の大小に関係なく、結果や行動に対してフィードバックや助言を行います。とにかくサポート側を意識してマネジメントをします。
このような機会が増えれば増えるほど、スタッフは組織やチームの目的を考えて、自律的に仕事をこなし、責任をもって働いてくれます。また、それ以上に嬉しいのは、生き生きと楽しく働いている姿を見ることができることです。
働く施設スタッフの意識や行動をより良い方向に変えることは、そうたやすくはないですが、マネジメントをする人たちは失敗を恐れずにトライ&エラーを繰り返しながらチャレンジをしていくことが大事だと思っています。
一緒に働くスタッフのやりたいことを引き出し、仮説と検証を繰り返しながらより良い場を皆で共に作っていく「共育」が新しい価値を生み出していく共創施設にマッチしやすいのではないでしょうか。
以上、
「コミュニティ運営の“中の人”が語る〜人財マネジメント術〜」の第3回目を終えたいと思います。次回は、「評価制度」をテーマにお話をしていきたいと思います。
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