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小菅 奈穂子 2021.09.27

連載「コミュニティ運営の “中の人”が語る〜人財マネジメント術〜」
#1 共創コミュニティにおける「メディエーター(媒介者)」の役割とは?

こんにちは。ロフトワークLayout Unit ディレクターの小菅です。

2019年6月に入社し、SHIBUYA QWSという共創施設のコミュニティマネージャーとして、入社してから今に至るまで主に施設で働くスタッフの採用と教育を担当しています。しかし、人事系の仕事は全くの初心者。前職は、ぬいぐるみデザイナー見習いや社会人向けWebデザイナーの学校スタッフと畑違い。「共創施設とはなにか?」「コミュニティとは何か?」「人を育てるとは何か?」右も左も分からないなかで試行錯誤しながら、運営や人材マネジメントに対するナレッジを溜めてきました。

このたび、共創施設の運営を言語化をしてみたいと考え、連載記事を書くことにしました。タイトルは、ズバリ「コミュニティ運営の“中の人”が語る〜人財マネジメント術〜」です。

あえて「人材」ではなく「人財」を選んだのには、理由があります。

人材  ……才能や素養がある能力を兼ねそろえた「人的資源」の意味を持つ
人財  ……投資を行うことで価値が高まっていく「人的資本」の意味を持つ

共創の場の運営では、施設の成長に合わせて、必要な知見を学び、会員に還元できる力が必要だと考えています。「よりよいコミュニティや施設とはなにか」、施設で働くスタッフ1人1人が、この問いに向き合い、スキルを身につけアップデートしていけば、自然と施設も成長し場の価値があがっていくのではないか、だからこそ人への投資を惜しまずに価値を高める「人財」という言葉を選びました。

将来、共創施設やコミュニティ施設を運営してみたい人や企業のみなさま、既に運営に携わり人財育成に悩んでいる方に、何か一つでもお役に立つことができたら嬉しいです。

小菅 奈穂子

Author小菅 奈穂子(Layout Unit ディレクター / SHIBUYA QWS コミュニティマネージャー)

埼玉県生まれ。女子美術大学院デザイン専攻ヒーリングアート領域修了。アートやデザインを通して、人と関わりたいと考え、モノづくりに関わる仕事を目指す。ぬいぐるみメーカーのデザイナー兼営業事務を2年、Webデザイナーや動画クリエイターを育成する社会人向けのスクールにて4年働き、2019年6月にロフトワークへジョイン。スクール運営や営業経験を生かし、SHIBUYA QWSのコミュニティマネージャーとして場づくりをする仕事に従事。ヒト、モノ、コトをつなげる仕事にワクワクする毎日。

編集:鈴木真理子

「場」に人が集まるだけでは熱量は生まれない。訪れた人が交差、対話するために必要なものは?

2019年11月、渋谷駅直結・直上の大規模複合施設「渋谷スクランブルスクエア」の15階に開業した、多様な人たちが交差交流し、社会価値につながる種を生み出す会員制の共創施設「SHIUBYA QWS(以下、QWS)」。コミュニティコンセプトを「スクランブルソサエティ」とし、多種多様な人が集うコミュニティでの交流や領域横断の取り組みから化学反応が生まれ、未来に向けた価値創造を生み出す新拠点として注目を集め続けています。

渋谷スクランブルスクエア株式会社とロフトワークは、QWSから持続的に新たな社会価値を生み出し続けるために共同の運営プロジェクトチームを発足し、開業準備フェーズから活動を開始。QWSの共創コミュニティを活性化させるべく、会員向けプログラムの設計、施設スタッフ採用・育成のほか、アカデミア(大学)やベンチャーキャピタル、NPOといった多彩なパートナーとのプログラム連携を進めています。

多様な立場の人たちと対話しながら、新しい価値を「共」に「創」り上げていく共創施設では、コミュニティ活性を担う施設スタッフの存在が必要です。場所に複数の人が集まっても、なかなか場の熱量は高まりません。共創空間内を縦横無尽に歩き回り、対話し情報収集をして内外に発信する施設スタッフ=メディエーター(Mediator/媒介者)が鍵になっていきます。

QWS内のメディエーターの役割を担っているのが、「コミュニケーター」と呼ばれる施設スタッフです。2年目を迎える今、コミュニケーターがいるから、会員さんが生き生き活動し、施設を訪れた人が交差、対話し、コミュニティも施設も生き物のように進化し続けています。

それでは、2つの視点からメディエーターの役割をご紹介します。

メディエーターの役割 その1|時に見守り、時に喜びをわかちあえる会員さんの1番のサポーター

施設を運営する中で、「コミュニケーターに会いたくて遊びに来たよ」「雑談できる時間が楽しい」などの言葉をいただく機会が増えました。

ある日、会員さんとの会話のなかでこんなお話をいただきました。

「実は、このコロナ禍で退会するか悩んでいたんです。子ども向けの音楽ワークショップをやりたくて、イベント開催もできそうなQWSに魅力を感じ入会しました。しかし、今のご時世では、まずできない。退会しようか悩んでいた時、私がリリースしたサービスをみて『おめでとうございます!』とコミュニケーターさんに言われたことがあったんです。その後、他の人にも情報をシェアしてくれて、みんなに祝福してもらいました。本当に嬉しかったし、コミュニティに受け入れてもらえたと感じました。イベントは暫くできないかもしれないけど、会員継続を決めました。」

会員さんは起業家のママさんで土日も夜も関係なく、日々遅くまでお仕事をされている方。コミュニケーターは、挨拶や雑談の中で言葉を交わしたり、施設の清掃を通して快適に過ごせる環境作りをして会員さんの様子を見守りながら、陰ながら応援してきました。そして、サービスリリース時に一緒に喜びを分かち合う時間を共有しあったのです。

毎日挨拶し、その日の表情や小さなしぐさから会員さんの調子を察知し、時に雑談をしながら関係を縮めてきたからこそ、豊かな人間関係が生まれたエピソードだと感じています。私たち施設スタッフは、会員さんが取り組むビジネスやプロジェクトには直接力になれないかもしれませんが、頑張っているときに見守り、うまくいったときに喜びをわかちあって応援することができます。

会員さんの1番のサポーターになれる「人」の存在は、共創施設やコミュニティ運営において、とても価値があることだと実感しています。

メディエーターの役割 その2|会員の「困りごと」にアンテナをはり、マッチングを行う

QWSは「Question with sensibility」の頭文字をとっており、日本語に訳すと「問いの感性」です。個人個人が日常の中で感じる、ふとした疑問や気づきが社会を変えるキッカケに繋がるのではないか。そんな問い同士がQWSに集まり、交差し、対話することで新たな価値が生まれるのではないか。施設スタッフは、そんな仮説を形にすべく様々なコミュニティツールやイベントをつくり価値作りに挑んでいます。

例えば、QWSでよく見かける「問いたて」も各々のプロジェクトが持つ「問い」を見える化し、会員同士が出会うためのコミュニケーションツールとして開発されました。机に問いたてを立てて、活動していただくのがQWS利用時のコミュ二ティマナーになっています。

他にも、様々なツールやイベントが開発されています。

  • Question Wall|問いに答えてもらう問いの掲示板
  • Question Gallery|会員の問いやプロトタイプを展示し、実証実験できる展示スペース
  • Want&GiveBoard|スキルとリソースをシェアするコミュニティボード
  • QWSラジオ|コミュニケーター企画の公開会員インタビュー
  • QWS MEET UP|会員区分を超えたリアルな交流会
  • Question Break|ちょっと一息、他の会員との雑談タイム

など

こんなに沢山やっているので、さぞや様々な人たちが出会い、コミュニケーションが盛んに行われているんだろうなと思われるかもしれませんが、そんなには容易くコトは進みません。ツールやイベントが複数あっても、本当にその人が困っていているときや助けを求めているときでないと、なかなか利用してもらえないのが現実です。

それでは、どうやったら良いのでしょうか。こんなときこそ、コミュニケーターの力の見せ所です。

QWSに来る会員さんは新しいことにチャレンジしている人たちが多いため、日々新しい困りごとに向き合っています。その困りごとを誰よりも早く見つけ、誰よりも早く助けること。これがコミュニケーターに必要な素養の1つであり、仕事になります。

日常の会話や雑談から、会員さんが何に困っているのかを知り、必要なタイミングで会員さんのお困りに寄り添った情報を提供することができたときに、初めてツールやイベントが生きたものになってくるのです。QWSには、年齢も国籍も立場も異なる様々な方々がいらっしゃるため、人生で出会えない人たちと会うことができます。

一方で、今まで知らなかった問いや価値観に向き合うため、1回お話ししただけでは分かり合えないことが多々起こります。コミュニケーターは、そんな人たちに向き合い、コミュニケーションを通してそれぞれの困りごとを察知し続けなくてはなりません。

「どうやったらその人の困りごとを知れるのか」
「私のコミュニケーションは正しいのか」
「私が繋げたマッチングは最適だったのか」

他人の心を知るのは本当に難しい仕事です。私がコミュニケーターにオススメしているのは、「まずは自分を知ること」。自分が同じ立場になったとき、何を感じ、何を考え、何を思うか、それが、他人を知る大きな足がかりになります。

こうやって内省しながらコミュニケーションをし、その時に最適な情報を提供していける「人」の存在が、共創施設のコミュニティをかき混ぜ、場を進化させていくのではないかと考えています。考える人がいなくなったら、コミュニティは成長を止めてしまうのではないか、とも感じるほど人の存在は欠かせません。

 

次回は人財に出会うための「採用」です!

以上、「コミュニティ運営の“中の人”が語る〜人財マネジメント術〜」の第1回目を終えたいと思います。次回は、採用をテーマにお話をしていきたいと思います。

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