Panasonic Laboratory Tokyoリニューアルの全容公開!
パナソニックの新たなイノベーション拠点
「Wonder LAB Osaka」「100BANCH」と続くパナソニックとロフトワークのコラボレーション。2018年12月に新たなプロジェクト「Panasonic Laboratory Tokyo(パナソニックラボラトリー東京、以下、PLT)」の移転・リニューアルに伴う一部空間プロデュースを実施しました。今回は、「PLT2.0 Open House」と称して1月25日に開催したイベントをレポート。そのコンセプトと全容、プロジェクトの狙いに迫ります。
取材・テキスト=大矢幸世
クリエイティビティを生み出す「共創と集中」を両立した空間
PLTは2016年4月有明にオープンし、社内外とのコラボレーションを推進する共創研究施設として機能してきました。大阪、福岡にも同様の機能を擁するラボを持つパナソニックは、さらなるイノベーション創出と機能拡充を狙いPLTを浜離宮へ移転・リニューアル。オフィスエリア(6階)のコンセプト『共創と集中の両立』は予防医学者の石川善樹さん、世界一集中できるオフィス「Think Lab」を運営するJINSの井上一鷹さんの知見を活用してデザインされ、5階「Mitate HUB」の空間デザインはロフトワークが担当しました。
施設概要
- 名称
パナソニックラボラトリー東京(Panasonic Laboratory Tokyo) - 所在地
東京都中央区銀座8-21-1 (5階および6階)地図- 6階 オフィスエリア
Ideation Lounge:通勤などのストレスをリセットし、独創のインスピレーションを得る場
Launch HUB:アドホックなブレインストーミングからアイディアを具体化していく場
Kizashi HUB:社内外入り交じりで未来を洞察し、機会領域や未来のソリューションを議論する場
Deep Think Room:緊張とリラックスのバランスがとれた状態で深く集中する場 - 5階 工房エリア
Mitate HUB:未完成のプロトタイプで未来のソリューションを見立てる場
- 6階 オフィスエリア
- ロフトワークの支援内容
- 5階 Mitate HUBの空間プロデュース
- PLT Facebook 公式ページ
働くための“究極の空間”とはなにか
「オフィス空間を究極にまで自然に近づけることが、生理学的には理想だ」
「働くための“究極の空間”とはなにか、パナソニックとの協業にあたって空想した。PLTはその第一歩」と語る石川さんは、私たちがオフィスで働くゴールを「クリエイティブなものを生み出すこと」と定義し、それを生み出すにはオフィス空間を「究極にまで自然に近づけること」が、生理学的には理想だと言います。「朝夕で光の色が変わり、室温や香りも変化する……五感に『揺らぎ』を与えられるのが、人間にとって自然なあり方だと言えます」。
そして石川さんが紹介したのが、ハーバード大学による脳神経科学研究。クリエイティブな人は、「デフォルト・モード・ネットワーク(直感)」「実行機能ネットワーク(論理)」「顕著性ネットワーク(大局観)」という3つの脳のサブネットワークをスムーズに切り替えられる能力が高いというのです。
「空間として、この3つの思考を発揮しやすいような部屋を作り、それをうまく切り替えられる環境を作れば、クリエイティビティが生まれやすいオフィスになるのではと考えたのです」
「人は一日平均で4時間しか集中することができない」
センシングアイウェア「JINS MEME」で述べ1万人の生体行動データを集め、「人が集中できる環境と時間」を解析した結果を“世界一集中できるオフィス”として具現化したのが井上さんがプロデュースした「Think Lab」でした。
「人は一日平均で4時間しか集中できず、その集中状態に入るまで23分かかるにも関わらず、11分に1回はチャットやメールなどで話しかけられ、集中しづらい状況下にあるのです」。また、人が没頭する際の「フロー状態」を生み出すために、緊張とリラックスが入り混じる状況を人為的に生み出し、適切な温湿度、CO2濃度や光環境、緑化など、集中に必要な要素を揃え、オフィスエリアに配備しました。
オフィスエリアは、「Think Gradation」をコンセプトに、緊張とリラックスの度合いをチューニングし、「集中して作業する」ことから「人と対話してアイデアを生み出す」ことなど、それぞれの行動に適した空間構築がなされています。
「共創」に新たな価値をもたらす「未来を見立てる」ための空間
PLTにおける「共創」を担うのは、工房エリアである「Mitate HUB」です。空間構築を担ったロフトワークは、「KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)」(2014)を皮切りに、先述の「Wonder LAB Osaka」や「100BANCH」など、さまざまな共創空間の構築に取り組んできました。
「空間そのものを生み出すだけでなく、その先にある価値を生み出すことにチャレンジしている」
一貫してプロジェクトに携わってきたのが、Layout Unit CLO(Chief Layout Officer)の松井創です。「Layout Unitの根底にあるテーマは『Participatory Urbanism(参加型都市計画)』。コラボレーションによって空間そのものを生み出すだけでなく、その先にある価値を生み出すことにチャレンジしているのです」
共創空間をデザインするにあたって重要視しているのが、「Architecture」「Program」「Community」「Communication」「Tools」の5要素。また、空間構築の原則として松井は次の5つワードを挙げます。
ロフトワークの共創空間づくりに大切な5つのワード
- Diverse
同質的な集団の中では、価値観の多様性が生まれにくく、セレンディピティが起こりません。「個の時代」が加速するなか、多様な働き方に対応したさまざまな空間を、多様な人が交わる「玉手箱」として作ります - Flexible
昇降式テーブルやどこからも電源を取れるソケット、車輪のついた「動く家具」など、働き方を物理的に制約しない空間にすることで、そこにいる人が自由に発想して場を使いこなせるようにします - Lean
メイカースペースやツールを用意することで、プロトタイピングやアップデートを容易にし、時代のスピード感に対応できるようにします - Functional
機能性に優れながら、デザインとしてもユニークなものを作ります - Magic
以上を満たしながらも、「わぁ!」と人をワクワクさせ、そのマインドセットや行動変容を促すデザインに挑戦しています
これら5つの重要な要素と5つの原則をもとに今回設計されたのが、「Mitate HUB」です。設計を担当した古市淑乃は、自身の事務所を主宰しながら、ロフトワークの空間ディレクションにも取り組んでいます。
「実際に手を動かしながら、プロトタイピングして、ワクワクするような空間に」
「Mitate HUB」には各社の実験スペースが集約し、カンパニー間の連携を促すよう、共用スペースが設置されています。「各カンパニーのラボが連携できるよう、なるべくオープンにできればと考えましたが、一方でオープンにできない研究内容などもある。真ん中にある共有スペースを取り囲むように各ラボを配置し、それらがゆるやかに中心へ染み出していくようなイメージを考えました」
共用スペースは、その名にちなんで「見立てる」をコンセプトに、全体にスチールを配置し、櫓を組んだり、パネルを移動したり、可変性の高いフレキシブルな空間となっています。床には「50cm×50cm」のグリッドが引かれ、配置転換や距離の把握がしやすくなっているのです。また、必要なツールや資材も置かれ、共用スペースでもプロトタイピングが可能となっています。
「レイアウトを動かしたり、組み替えたり、実際に使うことで、『見立てる』を体感してもらいたい。実験施設というと、従来はクローズドな空間だったけれど、どんどん発信してもらえるように、“写真映え”するエッセンスを散りばめているんです。実際に手を動かしながら、プロトタイピングして、ワクワクするような空間にしていってもらえたらと思います」(古市)
また、「Mitate HUB」には、その活用方法を記した「トリセツ」が用意されています。複数種類のパネルやボード、スツールやクッションなどをどのように使うことができるか、その例がイラストで紹介されています。「PLTで行われるのは現業開発ではありません。『これから起こりうること』を空想し、見立てることで研究開発を進めなくてはなりません。『使い勝手はあなた次第』と任せるのは簡単だけど、それで活用できないのはもったいないから、どうぞトリセツを活用してください。そうやって、どんどん自由に使っていって、『未来を見立てる』ことで、それぞれの研究に波及し、広がっていけばいいなと思います」(松井)
プログラム後半では、「たまには自由に空想してみよう」と、「未来のタバコ部屋」をテーマにワークショップを実施。かつてそこで生まれたコミュニケーションをどう設計すべきか。各自で自由にアイデアを考え、いくつかの案が発表されました。
参加者からは様々な「未来のタバコ部屋」のアイデアが発表されました。
最後に松井は、「このワークショップをやってみて面白いのが、創造的な空間にはいくつか共通項があることがわかる点です。ひとつは『共通体験』、さらにその体験の中から『他人との差異を見つける』こと。『フラットな関係』をつくり出すことも大切です。また、ある一定期間『同じ空間に居させる』という強制力を働かせるための空間をデザインすることもポイントでしょう。今回みなさんからそのすべての要素が出たので驚きました。こんな感じで普段から妄想する、そして実際に手を動かしてアイデアを生み出し続けるということを大切にして欲しいです」とまとめイベントは大盛況のうちに閉会しました。
いまパナソニックがイノベーション拠点をつくる意味とは?
世の中でも活発になっている、企業によるイノベーションのための共創空間づくり。パナソニックはどんな狙いでPLTをつくり出したのでしょうか?PLT所長の井上あきのさんは、今回の移転・リニューアルのプロジェクトについて、有明での経験が、新たな課題意識を持つ契機になったと振り返ります。
「これからは、自らに深く問いかけ、世の中を知り、『未来を自分たちで作る』ことが必要」
「それまで社外の人をセキュリティで止めていたのを、『ふらっと立ち寄れるようになった』だけでも大きな変化でした。フリーアドレスを導入し、共創空間を作り、プロトタイプの段階で意見をもらうことが、開発に大きく影響を与えたのです。」
「今回、より都心部に移転するにあたって、有明のときから定期的に集約していた意見をもとに、『共創だけでなく集中できる空間』を作り、『人によって心地よい空間を選べる選択肢』を設けることにしました。かつては、社会の要請や国策などに則り、『何を開発すべきか』が明確でした。けれどもこれからは、自らに深く問いかけ、世の中を知り、『未来を自分たちで作る』ことが必要です。そのための拠点として、PLTが機能していってほしいと考えています」
パナソニックの各カンパニーで働く人が、あるときは思案し、独創し、あるときはアイデアをぶつけ、ふくらませて、あるときは社外と共創し、プロトタイピングする……。そんな、「共創と集中」の相互作用が、これからどんなプロダクトやサービスを生み出すのか──。PLTから発信されるさまざまな取り組みに要注目です。
ロフトワーク プロジェクトメンバー
高橋 卓
株式会社ロフトワーク
Layout Unit ディレクター
古市 淑乃
古市淑乃建築設計事務所
アーキテクト / Layout Unit ディレクター
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