FINDING 上ノ薗 正人, 高井 勇輝, 長島 絵未, 松永 篤 2020.11.18

たった一人の偏愛から生まれた物語。
NANDA会 受賞者インタビュー vol.3
「ナラティブ賞受賞」海遊館 特別展「海に住んでる夢を見る~魚と私のふしぎなおうち~」プロジェクト

2020年で創業20周年を迎えたロフトワーク。節目を迎え「ロフトワークのクリエイティブってなんなんだ」を考える「NANDA会」を、オンライン上で実施しました。今回は、全25プロジェクトがエントリー。そのうち受賞した6プロジェクトの実施担当者にインタビューし、クリエイティブを創るマインドと姿勢を探るシリーズです。

第3回目は、ナラティブ賞を受賞した海遊館 特別展「海に住んでる夢を見る~魚と私のふしぎなおうち~」プロジェクトを担当したクリエイティブディレクター上ノ薗正人に話を聞きました。


聞き手:ロフトワーク シニアクリエイティブディレクター 高井 勇輝
ロフトワーク クリエイティブディレクター 長島 絵未
執筆: 北川 由依
編集:loftwork.com 編集部

水族館への偏愛が生んだ、ナラティブな展示

高井:「ナラティブ賞」の受賞、おめでとうございます!

上ノ薗:ありがとうございます。受賞も嬉しいですが、ディレクター間でもなかなかお互いのプロジェクトについて話したり聞いたりする機会がないので、渋谷メンバーとの接点を持てて嬉しかったです(笑)。

高井:そう言ってもらえると僕たちもNANDA会を開催して良かったです。今回のプロジェクトはどういった経緯で始まったんですか?

上ノ薗:きっかけは、たった一人の偏愛からでした。一緒にプロジェクトを担当したプロデューサーの篠田栞(※1)は水族館が大好きで、子どもの頃から100回以上水族館へ行っていたらしくて。数年前に篠田と海遊館の担当者が知り合って、今回プロポーザルをするとのことでお声がけいただいたのがきっかけでした。

高井:そんなきっかけだったんですね。でも、プロジェクトがドライブするかどうかは個人の思いや熱量によるところも大きいから、いいプロジェクトになった理由が分かった気がします。

上ノ薗:プロデューサーかディレクターかに関わらず、案件に携わるなら、必ず自分ごと化しないといけないプロセスがありますよね。篠田さんの場合、最初から自分ごと化は完全にできていたから、提案の中身を詰めることに全力を傾けられたことも、採択された大きな要因だったんじゃないかなと思います。

※1提案時担当、2020年現在退職

チームの思考と試行をドキュメント化

高井:海遊館は、新しい展示のあり方を求めていたとはいえ、30年間に培ってきた展示の成功パターンがあったはず。ロフトワークが提案した体験型コンテンツを公開するまで、大変こともいっぱいあったんじゃないかと思うんですが、実際苦労はありましたか?

上ノ薗:クライアントの従来の社内マネジメントと制作プロセスに大きな改変を迫るものだったので、もちろん軋轢もありました。新しい考え方ややり方をクライアントに納得してもらえるようにコミュニケーションを取るところが大変でした。でも、そのプロセスの中で、本プロジェクトの一番の成果とも言える、議事録など「経過記録」のドキュメントが生まれたんです。

高井:経過記録が一番の成果ってどういうことですか?

上ノ薗:海遊館の人たちも、変わりたいと思っているけど、どう変えたらいいか分からず、あるいは、変わることをリスクに思ってしまったりして、すぐに変わることは難しい。僕たちとクリエイターは変わる後押しをする役割を持っていた。
ミーティングを重ねながら、その変化を促して行った。なかでも、大きなターニングポイントに5時間ミーティングっていうのがあった。

高井:それが5時間?

上ノ薗:ある日、ディスカッションが白熱して気がついたら5時間も経っていた(笑)。例えば、「なぜ魚の名前を掲示しないといけないのか?」「なんで生き物の名前をカタカナで書くのはいけないのか?」など根本的なところからすり合わせをし、展示する言葉を一行一行、議論しました。それだけやって、ようやく担当者も僕たちの意図を理解してくれたんです。彼らはそれを上司や他部署に伝えないといけないから、補助するために作ったのが議事録など「経過記録」のドキュメント。彼らの思いも含めてやりとりを残したことで、説得力のある材料になり、現場から上層部まで心から納得してもらえたんです。

高井:それはすごく大事なプロセスですね。クライアントから「こうしてほしい」と言われたことを、「わかりました」と直すのが一番簡単。でもそれによって失われてしまうことはたくさんあるから。粘り強く伝えて、お互い歩み寄って、納得したアウトプットを出すことで保たれた強度は、きっと展示を観た人にも伝わったと思います。

展示体験を3Dイメージで制作し、空間の雰囲気の検証と開業予告プレスリリースの宣材として活用

上ノ薗:そう言ってもらえると嬉しいです。
海遊館とロフトワークが、議論を繰り返して作り上げていったプロセスも結果としてひとつの「物語」のようだと思っています。だから、受賞の評価につながったんだと思います。

クリエイターを信じて、個々の自由と全体調和のバランスをとる

高井:ロフトワークは普段から多くのクリエイターとチームを組むけど、今回は特に建築家や劇作家、音楽家と幅広いジャンルのクリエイターと仕事をしていましたよね。

上ノ薗:意図的に普段は組まない領域のクリエイターをアサインしたんですが、想像以上にディレクションが大変でした。それぞれにお願いしているのは、言葉や音楽、空間デザインなど部分部分。だけど、全体を知ってもらわないと作れないものでもあるから、バランスの取り方が難しくて。かといって、バランスを取りすぎても凡庸になってしまう。今振り返ると、僕がどこまでクリエイターを信じ切って、クリエイティビティを100%発揮してもらえる環境をつくるかは、進行の肝でした。

クリエイターとのプロトタイピング、プロジェクターの効果・照度を議論

高井:プロのクリエイターに対して、どこまで自由度を持ってもらったら、最高のクリエイティビティが発揮できるのか、プロジェクトにとってベストなのかは毎回難しいですよね。

上ノ薗:そうですね、それは本当にいつも悩みます。チームで一つのものを作る上で、クリエイター同士のバランスとクライアントとのバランスは両方大事なポイントでした。
テクニックではないけれど、どれだけクリエイターに信頼してもらえるかは意識しました。依頼したクリエイターは、海遊館から指示されたわけではなく、僕たちが一緒にやりたかったからチームに入ってもらっている。僕たちが彼らを信頼して声をかけたところからスタートしているので、後は僕らがいかにクリエイターに信頼されるか。「上ノ薗さんが言うなら間違いない」って思ってもらえるように、伝え方や見え方は意識していました。

高井:確かに、ロフトワーク側の保身が見えた瞬間、クリエイターからは絶対信頼してもらえなくなる。僕も普段から自信を持って「成功のためにはこうすべき」と言えるようにどこまでも考え抜くことはしています。

上ノ薗:それって本当に難しいですよね。今回は、このプロジェクトに専念できたから、クライアント以上にプロジェクトを考える時間をつくれたのでそれができました。あともう一つ大事なのが、クライアントの立場で考えること。育ってきた環境も仕事のやり方も異なるから、彼らは彼らのロジックを持っている。彼らの目線に立ってみると、こういう風に考えるのは当然なんだってまず僕が気付かないと、押し付けになってしまう。

海遊館スタッフと共にダーティプロトタイプを制作。その場で議論とブラッシュアップを行い仕様を固めていった

高井:最初の話に戻るけど、そこまで没入できるのは、自分ごと化ができているからですよね。外部の立場である僕たちだからこそ、クライアント以上にプロジェクトへの思いを持つことが大事なんだと改めて思いました。

物語がプロフェッショナルの集まるチームを強くする

長島:「ナラティブ賞」は、海遊館の展示が物語性に富んだものだったからだけではなく、プロジェクトメンバーの姿勢やプロセスなど全体を包むような言葉として出たきたものでした。水族館が大好きな篠田さんをはじめ、一人ひとりの生き方や強さが表れていたと名付けられましたが、どう受け止めましたか?

上ノ薗:しっくりきています。見せ方も伝え方も、僕がこうしたいというよりも、クリエイターそれぞれから出てきたものが組み合わさった結果、「良い展示だった」と言ってもらえるものになったから。それができたのは、きっと、チームで同じ物語を共有していたからだと思います。僕一人だけのプロジェクトだったら思いだけでも進めるけど、今回は色んなバックグラウンドの人と一緒に一つのものを作り上げていくから、必要だったのは思いの上に乗る物語=ナラティブでした。

高井:多様な人を巻き込むプロジェクトを進めるには、物語が重要な要素だったってことですね。

上ノ薗:そうですね。思いだけだったらきっと、「上ノ薗くんが頑張っているのは分かるけどね……」「思いが変わったらどうするの?」と言われていたかもしれません。何がしたいのかを共有する時に、伝えられる物語があるとチームを強くしますね。

高井:最後に、NANDA会で他のプロジェクトのプレゼンを聞いて気付いたロフトワークのクリエイティビティがあれば教えてもらえますか?

上ノ薗:ロフトワークはプロジェクトマネージャーの集団だから、以前はプロジェクトマネジメントってもっと計画を大事にする固い概念だと思っていたんです。だけど、きっちり計画することで生まれる余白の時間があるからこそ、僕らが大切にしている遊び心でいかにジャンプするかを楽しめるんだなって気付けました。効率化や新しい仕組みづくりの中で、リスクを取りに行けるのは、プロジェクトマネジメントの基礎ができているから。みんなの話を聞いてカッコいいなと思ったし、同じディレクターとして尊敬しています。

長島:うんうん。私もそう思います!上ノ薗さん、今日はありがとうございました。

Next Contents

モビリティ、ヘルステック、Fintech…今の法律が足かせになって事業化が進まない…なら「規制のサンドボックス制度」を使ってみては?
活用事例と実践方法7つのステップ紹介

お困りですか?