FINDING 林 千晶 2020.11.11

#15 ダイバーシティとどう向き合う?
(ドーナツの穴 — 2020年代を生きるということ — )

ダイバーシティの実現。言葉にするのは簡単ですが、それを叶える道のりはけっしてたやすくありません。これからの20年、ロフトワークが向き合うべきダイバーシティについて、立候補してくれた3人の初々しいメンバーと語り合いました。(林千晶)

「心のタトゥーに、”ダイバーシティ”が刻まれている」

林千晶(以下、林):今日は、ちょっと珍しいメンバーが集まってくれました。3人とも入社して日が浅かったりして、私はまだ深く話したことがない。でも設立から20年が経って、これからの「ダイバーシティ」について考えるなら、なじみの顔ぶれじゃない方がいいと思って。新鮮な目で、どうやってダイバーシティを実現していこうとしているかを聞く方が、会社としては正しい在り方なんじゃないかな、と。

ではまず、それぞれ自己紹介をお願いしましょうか。

杜多美咲(以下、杜多):私はロフトワークの中で、空間プロジェクトを手掛けるLayout Unitに所属しています。現在、2019年11月に渋谷に誕生した共創施設「QWS」のコミュニティマネージャーを務めています。ロフトワークは4社目ですね。これまで大手家電メーカー、コンサルティングファーム、外資系スタートアップなどで働いてきました。

杜多 美咲(Toda Misaki)/早稲田大学商学部卒。大手メーカー、コンサルティングファームでダイバーシティ&インクルージョン等の人事業務を幅広く経験し、スタートアップを経てロフトワークに参画。言語や文化を超え、個々の違いを活かす対話型コミュニケーションに強みを持つ。>プロフィール

私はダイバーシティをとても大事にしていて、「心のタトゥーに“ダイバーシティ”が刻まれている」といっても過言ではないと思います。その言葉を知らなかった頃からずっと、一人ひとりの違いは本来とても面白く、価値あるものである、という考え方を大事にしてきたので、今回ぜひみなさんとお話したいと思い立候補しました。

:「心のタトゥーにダイバーシティが刻まれている」って、なかなか言える言葉じゃないよね。何歳くらいのときから意識していたの?

杜多:物心ついた頃からなので、5-6歳ですね。自分が周りの人と違うことを、当時からすごく感じていました。マジョリティである大多数の女の子は赤いランドセルを好んで使っていましたが、自分は黒が良かったし、周りの女の子がピンク系の色味やキャラクターを好む中、それらに全く興味が持てなくて。スカートも、小学校の入学式に我慢して履いたきりです。

なんで自分の好きなものを「好き」と言うだけで、変なものを見るような目で見られるんだろうと、小さい頃から疑問に感じていました。

その後、大学で「ダイバーシティ」という考え方と出会い、人の違いをネガティブに捉えるのではなく、違いをいい意味で活かしていく概念と、自分の生き方がそのままリンクしたんです。

:ちなみに、私たちは杜多さんの属性をどういう風に捉えたらいいかな? そもそもそういうことをあえて聞かれる方がいいのか、それとも聞かれたくないのか。

杜多:そうですね……私自身は、わざわざ「LGBTQです」と自称しなくてもいいと思っています。それは、あくまでもわかりやすい総称にすぎませんから。生きていく中で、自ら「男です」「女です」と宣言する必要なんて、そもそもありませんよね。

ただ考え方は本当に人それぞれで、100人いたら100通りの考え方・在り方があると思います。

戸籍上は女性に生まれたけど、男性として扱ってほしい人。自分は男女どっちでもないと思っている人。女性として生まれて、そのまま女性として見られたい人——それは人によって違うので、あえてカテゴライズする必要はないんじゃないかな、と。

私にとって自分のセクシュアリティは、「大分県出身」「レイアウト所属」「海と山が大好き」といったように、自分を構成するたくさんの要素のうちの一つにすぎません。私自身にあえて一つの言葉を当てはめるのなら、「中性」が1番しっくりきますね。0から100まで男女のグラデーションがあるとすると、「100%女性」でも「100%男性」でもないというか。

:うん、それはすごくいいね。私も杜多さんをみていると、そんな気がしてくる。

「カテゴリで捉えるのではなく、その人自身の具体に触れたい」

:それでは次に黒沼くん、お願いします。

黒沼雄太(以下、黒沼):僕はロフトワークに入社して3年になります。大学と大学院では人類学を専攻し、主に自然資源に依拠する生活についての調査・研究をしていました。東北地方にある狩猟採集を営む人々が暮らす集落で、熊狩りの現場にお邪魔したり、戦後に湿地を開拓し、農耕牧畜を営んでいる人々から、まだ文字になっていない半世紀の地域史を聞き書きして歩いたりしていました。

黒沼 雄太(Kuronuma Yuta)/2017年入社。中央大学、東北芸術工科大学大学院で人類学を専攻。映像制作会社を経て、ロフトワークへ。主に映像や記事コンテンツの製作・制作、リサーチなどのプロジェクトを担当しつつ、新しい領域にも挑戦中。>プロフィール

ロフトワークに入社したのは、人類学的な関心があったからかもしれないです。転職活動をしていて一番、自分の未来が予測できなかったのがロフトワークだったんですよね。だからこの企業で、フィールドワークをしたいような気持ちもあったと思います。

:黒沼くんを採用したとき、「こういう人が働けるような会社になればいいな」と思ったことをよく覚えてる。ロフトワークに入って3年、今はどんな感じ?

黒沼:入社した当初は、ロフトワークの中で当たり前と思われていることと、今まで自分が仕事をする上で大事にしてきたこととの間に、文化的なギャップを感じていました。この切り株にタネをつけてはみたけど、さて、芽吹くかなあ? みたいな感じ。

でもロフトワークって、「話せばわかる」人しかいないんですよ。個性が立った人はいるけど、要は人のことを頭ごなしに否定する人がほとんどいない。お互いの間に違和感や主張の違いがあっても、それを伝えれば「じゃあ、どうするのがいいだろう?」と話し合いが始まり、「これからはひとまずこうしてみようか」と、行動のプロトタイピングまでできる。

入社から3年が過ぎた今も未来の予測はつかないけど、以前よりもワクワクできるようになりました。自分が仕事を通して、人や社会とどう付き合っていくのがいいのかを、より主体的に、楽しみながら考えられています。

:黒沼くんは今日、この3人の中ではダイバーシティを「受け止める」側の人かなと思っているんだよね。

黒沼:そうかもしれませんね。僕自身は、2人に比べたらきっと、自分が社会の中でめちゃくちゃマイノリティな存在だと感じるような経験はとても少なかったです。でも今までに接してきたさまざまな人たちのことを考えると、ダイバーシティっていつもかたわらにある言葉なんですよね。世の中、そもそもダイバーシティなことしかなさすぎるし(笑)。

だから今日も、LGBTQとか国籍とか、特定のカテゴリーの話をする気はあまりなくて。話していくプロセスの中で、例えば「杜多さんは杜多さんだよね」と、その人自身の具体に触れて、それを納得して見られるところにたどり着くのがとても好きなんです。

「自分自身を知るために、ダイバーシティと付き合っている」

:じゃあ最後に、銭くんお願いします。

銭宇飛(以下、銭):僕自身は、ダイバーシティに“されちゃった人”だと思うんですよ。心にじゃなくて、そもそも体に「ダイバーシティ」というタトゥーが入っている。

生まれは中国の南京。3歳のときに日本に来て、11歳まで横浜で過ごしました。そして再び南京に戻り、大学卒業前まで中国にいたんです。そして24歳でもう一度日本にきて、今度は東京に。ロフトワークには、大学院を出た後、新卒で入社しました。

だからいつも、少数派の位置にいて。ストレートに言うと、横浜にいた頃は「お前は中国人だ」と仲間外れにされ、中国に帰ると今度は「お前は日本人だ」仲間外れにされました。

銭 宇飛(Uhi Sen)/2019年、新卒入社。南京大学建築学部、武蔵野美術大学大学院基礎デザイン学科卒。日中バイリンガル。「モノ」から「コト」まで、領域横断的なデザイン力を日々研磨中。>プロフィール

:そうなんだね。私も小学校のときアブダビ(アラブ首長国連邦)にいて、すごくいじめられたからよくわかる。今日は、どうしてダイバーシティを考える回に立候補してくれたの?

:僕自身は、ダイバーシティそのものに興味がある・ないでいえば、「ない」方だと思うんです。でも自分を知るために、ダイバーシティと付き合っている。どうしたら自分がロフトワークでもっと価値を提供できるのか、僕自身の背景を踏まえて、会社の未来と向き合う良い機会だと思いました。

そしてもう一つ、僕の周りには、僕のようにどちらの国籍にも当てはまらず、アイデンティティを切り捨てようと努力している人たちがいます。完全に日本人になり切ろうとして、偏ったナショナリズムに走ってしまうような……。マイノリティの中で、自分と同類の人を傷つけてしまう人ってたくさんいるんですよね。

僕も一時期、そうなりそうになったことがあります。日本人が大嫌いだったことも、中国人が大嫌いだったこともある。ダイバーシティが許されない環境で育って、他の人を貶めるしか生きる手段がなくなってくるというか。

僕も結局、どうするべきか答えを出せていません。その問いと向き合うことが、僕の人生の課題だと思っています。

ダイバーシティのためのルールを考える

:ありがとう。今の3人の話の中でも出てきたけれど、ついわかりやすいラベルで物事を判断しちゃう人間の悪いクセは確かにあって、しかもそれが本人も意識していないところで作動していることもあるから、すごく難しいよね。

それでも私は、さっき黒沼くんが言ってくれたように、国籍がどう、LGBTQだからどうと捉えるのではなく、「黒沼くん」「杜多さん」「銭くん」という一人ひとりと向き合って、人をカテゴリで判断することのない会社、そして社会にしていけたらいいなと思っています。

今日はその前提を踏まえて、ロフトワークにおけるダイバーシティのルールを考えてみてほしい。自分がいるディビジョンに関する小さなルールでもいいし、政府に対して提言するような大きなものでもいい。それぞれ、まずは書いてみましょう。

それぞれの提案——ロフトワークが向き合う次の課題は?

杜多:私は、一人ひとりオリジナルのハッシュタグをつけられたらいいな、と思っています。人をみるとき、国籍や性別はどうしても前に出やすいですよね。自分の場合は、「最近入社したLGBTQの人」とラベリングされてしまうことが多くて。そんなとき「いやいや、自分を表現する要素ってそれだけじゃないから!」と思ってしまうんです。

「これまでこういう仕事をしてきた」「こんなものが好き」など、いくつものハッシュタグの中の一つにすぎない部分だけを取り上げて、人に対してラベリングする時代ではなくなってきていると思います。

たくさんのハッシュタグでその人を理解し、それらがどんどん混ざり合っていく中で、個人のクリエイティビティが発揮されるようになるんじゃないかな、と。

:実は以前、そんな感じの名刺を作ろうとしたことはあったんだよね。ただ会社として役割の管理がしやすいから、それぞれ肩書きがついているだけで。自分のハッシュタグで名刺を作るのは、すごくいいことじゃないかな。20周年だし、名刺、作り直そうか。

黒沼:早速、採用されましたね(笑)

:銭くんはどう?

:僕は、役割についての提案です。僕は今、ロフトワークでPMをしていますが、日本のクライアントワークを遂行していくうえで、一部、日本語のネイティブじゃないメンバーにとってはどうしても超えられないカルチャーの壁があると感じていて。

例えばどんなに日本語を勉強しても、遠回しに表現されたメールの文脈を汲み取れないとか、ビジネスの文化や習慣までクリアするのはなかなか難しい。だからその人の文化的な背景も踏まえ、PM以外にも進めるコースを分けて、環境を整えたらいいんじゃないかな、と。

:なるほど。でもね、今は日本のクライアントが海外に出ていくための仕事をしているけれど、これからは世界中の企業がロフトワークのクライアントになると考えると、日本語ではなく英語や他の言語を使うようになると思うよ。それに、どんなに“グローバル”といっても、お客さんはどこかの国に属しているわけだから。

:……それは頭になかったです。あくまでも、日本で仕事をしていくための環境について考えていて。

:うーん。もしかすると今、銭くんはすごく日本が好きでもあり嫌いでもあって、ある意味、日本との関係に囚われているんじゃないかな。

:その通りかもしれません。

:同じような悩みを抱えている友だちが、私にも少なからずいるんだよね。だからこれは、世界中共通の問題だと思います。銭くんが今回、提示してくれた国籍に関するダイバーシティの課題は、ロフトワークの次の課題そのもの。

その壁を超えたら、きっと銭くんが銭くんのまま、すごく気持ちよく生きられるようになる。だから今はまだ具体的な解決方法がわからないけれど、そのきっかけをロフトワークでうまく作っていきたいね。

最後に、ダイバーシティを“受け止める側”の黒沼くんはどう?

黒沼:そうですね。会社の中でルールを作るとしたら、「受け止めベースのコミュ二ケーション」をすることかなと思っています。

僕は「受け入れる」と「受け止める」という言葉を、分けて使っているんですよね。「受け入れる」は、相手の考えを自分の中に取り入れることだけど、「受け止める」は、「あなたはそうなんだね」と、その人と自分の間に“保留関係”を作ること。すぐに解決しよう、考えを無理やり混ぜ合わせようとしない態度です。

林:なるほどね。

黒沼:もう一つ。人類学のリサーチ方法の歴史を考えると、IT技術を使って、一人ひとりが自由に情報を発信したり、誰かの情報を受け取ったりできるって、すごくびっくりな時代なんですよ。これまでは、遠く離れた場所で暮らす人たちに自ら会いに行って、ときには暮らしを共にしないと、知ったり、触れたりできなかったことがたくさんありました。当然、ダイバーシティについての気づきもその中に含まれます。

でも今の僕たちはSNSなどを通じて、以前よりも日常的に多様な人たちの情報を得ることができる。なので、身の回りの多様性に触れると同時に、私たち人間が持っている「人類としての性(さが)」を探しやすい時代に生きているんだと思います。

ホモ・サピエンス・サピエンス(現生人類)が誕生してから、周辺環境や技術、社会制度はどんどん変わってきたけれど、人類という生き物のメカニズム自体はめちゃくちゃアナログな原初の特徴を積んだままで、実は、僕らの類としての性(さが)はあんまり変わっていないんじゃないかな、と。

だから性別や国籍などの、わかりやすい属性の違いを見つけて分断するのではなく、「人類としての性(さが)探し」をするクセをつけたら、人のさまざまなありようを、受け止めたり受け入れたりしながら面白がれると思うんです。そんなプロジェクトや、勉強会などができたらいいですね。

:それも面白いかもね。

黒沼くんが言っているように、「受け入れる」と「受け止める」の違いを意識したいよね。一人ひとりがすべての人のことを理解できるわけではないし、誰のことでも無条件に受け入れるのは、はっきりいって難しいと思う。

でも、例えば家族のように、あるいは近所のお姉ちゃん・お兄ちゃんのような距離感で、毎日顔を合わせて「おはよう」と言い合うくらいの関係もあるじゃない? 深く理解し合っているわけではないけれど、お互いそこにいることが当たり前になっている人たち。それを仮に、お互いを受け止めている“保留関係”だと考えると、それはずっと昔から続いてきた人と人の関わりでもあり、新しいダイバーシティでもあるのかなと思います。

ダイバーシティは正解がないテーマの一つだと思うから、3人はもちろん、他のメンバーも含めてこれからもみんなで考えていこうね。

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