株式会社ASNOVA PROJECT

CSV経営のスタート地点
若手人材と足場業界をつなぐメディア構築

Outline

仮設性をテーマに、若手人材と業界をつなぐメディアを構築

仮設足場のレンタルを柱に事業を展開する株式会社ASNOVA(以下、ASNOVA)は、多角化経営を目指し、新たな事業展開を模索しています。足場業界を盛り上げ、牽引していく覚悟で取り組むのは、年々深刻化する業界の若手人材不足です。顧客である施⼯会社の問題は、近い将来ASNOVAの経営にも直結する大きな課題の一つです。

しかし、すぐに人材不足を解決することはできません。ASNOVAとロフトワークは本プロジェクトを、長期的な目線で、業界全体の課題解決を目指す“CSV経営”のスタートと捉え、活動を開始しました。

外部との接点が少ない職人の世界を広く社会に開くこと。新たな人材や知見や技術を取り入れ、関係人口を増やすこと。業界の仕組みや働き方を変えるきっかけをつくること。
このような構想を見据え、まずは次世代を担う若者がゆるやかに業界へ興味を持ってくれる「場」としてのWebメディアを構築しました。

構築にあたり、ロフトワークはデザインリサーチの手法を用い、足場職人が増えない原因と足場職人の魅力の訴求方法を調査しました。すると若者はそもそも足場業界に無関心であり、魅力を伝える以前に、まずは関心を集め、関係人口を増やす活動が必要であるという気付きを得ました。

そこで、足場を「建築資材」ではなく「仮設物」と捉えることで枠組みを広げ、仮設性をテーマにWebマガジン「POP-UP SOCIETY」を構築。業界と若者の橋渡し役となりうる60名を超えるコラボレータと共に15本のコンテンツを制作しました。また、メディア構築にとどまらず、リアルタイム性を重視したラジオイベントやZINEを活用したPR施策を加え、複合的なコミュニケーションを設計。仮設性に関連する社会課題や新技術へ興味を持ってくれる若者と足場業界をなめらかにつなぐ「場」として機能させていくことを狙いました。

プロジェクト概要

支援内容:
デザインリサーチ、要件定義、情報設計、デザイン、コーディング、開発、コンテンツ制作

プロジェクト期間:
リサーチ・要件定義:2019年4月〜2019年6月
メディア構築:2019年10月〜2020年3月

Outputs

Webマガジン「 POP UP SOCIETY」

Webマガジン 「 POP UP SOCIETY」の公開は終了しております。

ZINE

PR施策として、ZINEを制作。メディアへのアプローチに用いるとともに、カンファレンスやイベントなどオフラインでのタッチポイントを作るための基盤とする狙いです。

カセツラジオ

Process

「そもそも誰も見ていない」事への気づき

足場職人が増えない原因を調査し、人材不足解消のヒントを探るためデザインリサーチを実施。足場業界周辺にいる方々のインタビューから人材不足の原因を紐解きました。

インタビューの様子
リサーチ結果の統合ワークの様子

リサーチ前の仮説では、職人が増えない理由は「3K(きつい、汚い、危険)」といったイメージよるものであり、そのイメージを払拭する必要があると考えていました。
しかし、リサーチを通じての一番の気付きは、3K以前に、足場業界と若者の間に大きく立ちはだかる「無関心の壁」の存在です。偏見のフィルターが働き、そもそも若者は業界に対して無関心であり、”足場”と聞いただけで「自分とは関係の無いもの」と、見向きもしないことがわかりました。つまり、直接的に足場業界の魅力を伝えたところで、彼らには届かないのです。
そこで、足場業界の魅力を伝える以前に、業界や仕事内容を「そもそも誰も知らない(興味がない)」という前提のもと、業界外の人々を巻き込み、関係人口を増やす活動から始めることにシフトしました。

足場業界と若者の間に立ちはだかる3つの壁

  • 無関心の壁:「そもそも知らない」「ただただキツそうなイメージ」など、偏見のフィルターにより、多くの人が自分とは関係ない世界と考えている。
  • 理解不足の壁:自分の身の回りに足場の情報が少し入ってきてる人でも、段取り力が試されることや、いろんな仕事の基盤になっている重要な仕事であることまでは知らない。
  • ギャップの壁:働き出したとしても、現実とのギャップに、途中離脱する人も多い。

次世代を担う若者の興味関心を誘い、業界に引き入れるコンテンツ

職人の定着率の引き上げには業界自体の変革が必要です。そのためには、新たなプレイヤーやパートナーの存在がかかせません。リサーチでは「人が集まるWebサイト」≒メディアサイトという仮説のもと、足場業界に留まらず幅広い新規層への訴求が見込めるメディアの方向性を探りました。

メディアのターゲットに定めたのは将来業界に必要になるであろう18〜35歳の若者、特に社会動向への感度が高く、一方で楽しさも大事にする層です。彼らの興味関心を誘うため、ニッチなテーマである足場の概念を広げ、“仮設性”をテーマに掲げました。

コンテンツ制作では、自己分析のフレームワークであるジョハリの窓を下敷きに企画方針を決定。足場業界を自分、業界外を他者とし、どちらも知らない未知の領域の記事から、少しずつ足場の話を盛り込んでいく形とりました。一見足場とは関係ないが、可能性を拡張しうる「未知の窓」領域のコンテンツから流入させ、徐々に足場業界への興味を誘う狙いです。(図-1 参照)

15本の記事をISSUE 0としてまとめた不定期刊行の「雑誌」形式で、一巻ごと終わらせる設計を採用しました。日々のサイト更新を必要とせず、運用負荷がありません。また、記事中の様々な要素が時間を経てどのような影響を与えたか検証を行い、また新たな文脈の記事に繋げる設計としています。

図-1:ジョハリの窓を下敷きに、足場の魅力を整理してコンテンツの企画方針を定めました。

人気コンテンツ

ゾンビ映画で学ぶ日用品サバイバル術
夏限定の水上の学び場、Floatig Berlin

複合的なコミュニケーションを生む「実験の場」づくり

Webマガジンの訴求力を高め、広く社会へこの活動を伝えていくために、ラジオ形式のイベントを実施。足場が持つ「仮設性」に着目し、社会に対して軽やかに実験しているゲストの方々と4時間の生配信を行いました。

リスナーの方々に楽しんでもらうことを最優先に、ゆるやかに足場業界への興味関心を誘いながら、ASNOVAのメッセージを発信する三方よしのクリエイティブ目指しました。100〜150人が常時接続し、配信終了直後で1700回再生されるなど、社会とのあらたな接点を産みました。

67名のコラボレーターを媒介者に関係人口を増やす

本プロジェクトにご協力いただいたコラボレーターは67名。まずは関係人口を増やすことを念頭に、足場業界と一般の関係をつなぐ媒介者となりうる方々をアサイン。クローズドな職人の世界を広く社会に開くため、業界の枠組みを超えたメンバーを集めることに拘りました。コラボレータが架け橋となり、今まで足場に関心のなかった層への認知が広がりつつあります。

67名のコラボレーター

  • 企画協力:榊原 充大(リサーチャー)、龍崎 翔子(ホテルプロデューサー)
  • コラボレーター:杉田 真理子(アーバニスト)、Florian Stirnemann(建築家)、大山 顕(土木ライター)、泉 ひかり(パルクールアスリート)、森下 哲(営業部長/ASNOVA)、酒井 優衣(写真家)、今井 雄紀(編集者)、TNL(宇宙建築学サークル)、堀井 柊我(宇宙建築ベンチャーCDO)、座二郎(通勤漫画家)、株式会社渕上(丸太足場職人)、土門 蘭(小説家)、塩谷 敦(写真家)、ノーマン・イングランド(ゾンビ研究者)、岡本健(ゾンビ学者)、稲田 ズイキ(僧侶/ライター)、元木 大輔(建築家)、吉澤 瑠美(ライター)、斎藤 菜々子(写真家)、吉川 然(写真家)、YOSHIKO(モデル)、前田 瑶介(COO/WOTA)、中村 健太郎(プログラマ/建築・デザイン理論研究者)、垂水 佳菜(写真家)、矢野 直子(生活雑貨部企画デザイン担当部長/良品計画)、斎藤 勇一(ソーシャルグッド事業課長/良品計画)、霍野 廣由(僧侶)、釋 大智(僧侶)、杉本 恭子(ライター)、岡安 いつ美(写真家)、Emily Wang(台湾文化・創造開発財団)、Tim Wong(LOFTWORK台湾ファウンダー)、甲斐 貴大(建築家)、Cindy Wu(写真家)、近藤 弥生子(ライター)、タケウマ(イラストレーター)、社領 エミ(ライター)、山田 貴仁(建築家)、下寺 孝典(屋台研究家)、仁科 桐也(写真家)、番匠 カンナ(バーチャル建築家)、平塚 桂(ライター)
  • Web:PANORAMA(デザイン)、坂田 一馬(コーディング)、ネクストページ(開発)
  • ZINE:畑 ユリエ(デザイン)
  • 取材協力:Sensible4、古風小白屋、京都府文化財保護課、横浜市文化観光局観光振興課&建築局公共建築部施設整備課、日建設計、日建設計コンストラクションマネジメント、渡辺組、良品計画、THE VR ROOM KYOTO
  • ラジオ出演:赤松 悠実(ラジオDJ/女優)、はましゃか(フリーランサー)、藤村 昌平(ビジネスインキュベーション部長/ライオン株式会社)、徳田 博丸(喜劇作家、脚本家)、番匠 カンナ(バーチャル建築家)、小西 亮(サブスクBar どこでもマガリ管理人)、榊原 充大(リサーチャー)、中村 健太郎(プログラマ/建築・デザイン理論研究者)、 龍崎 翔子(ホテルプロデューサー)、鈴木 綜真(Placy代表/都市研究家)、井路 端健一(俳優)、中尾 周統(俳優)、藤原 麻友美 (女優)、海徳 桃代(女優)

※順不同・敬称略

impact

成果とこれから

公開後のWebマガジンは、新規構築にも関わらず、月平均5,000UU、10,000PVのペースで閲覧され、そのうち約60%が25-34歳の若年層。また、SNSにて「仮設性というテーマが非常に良い」「仮設足場会社が運営しているのがチャーミング」など、建築やデザイン業界の若年層から良い反応も多く、当初の狙いだった足場業界外の新規開拓層へのリーチはまずまずの滑り出しです。とはいえ、足場業界の人材不足に貢献できうるコラボレーションはまだ生まれていません。これから、継続的に活動を続けながら、少しずつ良い変化をもたらすプロジェクトを生み出していきたいと考えています。

Member

小野 真

小野 真

株式会社ASNOVA
事業企画室 室長

榊原 充大

榊原 充大

株式会社都市機能計画室代表
RAD / 建築家 / リサーチャー

龍崎 翔子

龍崎 翔子

L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表 / ホテルプロデューサー

国広 信哉

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター / なはれ

Profile

小島 和人(ハモ)

株式会社ロフトワーク
プロデューサー / FabCafe Osaka 準備室

Profile

基 真理子

株式会社ロフトワーク
HRディレクター

Profile

安藤 大海

安藤 大海

株式会社ロフトワーク
テクニカルディレクター

原 亮介

株式会社ロフトワーク
MVMNTユニットリーダー

Profile

松永 篤

株式会社ロフトワーク
シニアディレクター

Profile

䂖井 誠

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

メンバーズボイス

“建設仮設業界の「職人不足」を大きな課題と捉え、なぜ人材が不足するかを改めてリサーチした結果、建設仮設業界外に対してどれだけ魅力を訴求しても自分自身には関係がないという無意識の判断が働く「無関心の壁」の存在が判明しました。まずは、この「無関心の壁」を取り除くために、当社の事業である「足場」に関連性があり、社会からの興味を抱きやすく、且つ社会の役に立つテーマとして、コンセプトを「仮設性」としています。「仮設×〇〇」、このように社会にある様々な仮設的なモノと何かを掛け合わせることで、新たな価値を創造し社会への実装を模索するとともに、「考える場」の提供により、「仮設性を活かす社会」の実現を目指します。”

株式会社ASNOVA 事業企画室 室長 小野 真

“「仮設」というと、完成より劣るもの、あるいは途中のもの、という、わりとマイナスのイメージがあるかもしれません。ですが、現在これほど多様な人の多彩なニーズが可視化される時代(悪く言えば一億総レビュワー時代)において、建築物であれそれを動かす仕組みであれ、仮設性こそ重要です。「完成」の耐えがたい重さ。留めること(temporality)、それを柔軟に変えること(plasticity)。これができるかどうかが未来の鍵だと思います。”

株式会社都市機能計画室代表、建築家/リサーチャ 榊原 充大

“今、社会が轟音を立てながら形を変えている。世界で同時多発的にスクラップアンドビルドが行われている時に、いち早く需要を捉え、社会に新しいインフラやサービスを作っていくためには、短期間で骨格を作り上げることができ、不必要になればまた解体してやり直せる、そんな『仮設性』のあるサービス開発が必要なのだろうと痛感します。迅速で柔軟に社会に適応していくために、今まで以上に世の中に『仮設性』が必要になっていくのではないのでしょうか。”

L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表、ホテルプロデューサー 龍崎 翔子

“私たちの生活を支えてくれる足場業界。人材不足に悩むこの業界に、少しでも目を向けてほしい。その一心で、足場が持つ「仮設性」に絞ったWebマガジンを作ることにしました。当たり前が覆るこの時代。軽やかな仮設性という切り口は、奇しくもこれからの生き方を示唆するキーワードのひとつだと思います。正座して読むもの、ゴロ寝して読むもの。世界を舞台に、未来をつくるユニークな取り組みをされている人たちの姿を見ていくことで、読んでくださった方の「ひらめきを助けたり」「目の前の壁を壊す」きっかけになるとうれしいです。”

株式会社ロフトワーク 国広 信哉、基 真理子、小島 和人

Activity

Service

未来を起点組織・事業の 変革を推進する『デザイン経営導入プログラム』

企業 の「ありたい未来」を描きながら、現状の課題に応じて デザインの力を活かした複数のアプローチを掛け合わせ、
施策をくりかえしめぐらせていくことで、組織・事業を未来に向けて変革します。

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NECが挑む、新たな事業領域の探索