クリエイターのアイデアから、予想外の機会領域を探索する
プロトタイピングのその前に vol.3
新規事業開発における必須プロセスである、リサーチとプロトタイピング。しかし、新規事業をまったく新しい、まさに「想像の外側」へと導くには、闇雲にこれらを実行しても効果は期待できません。
そこで、本連載ではリサーチやプロトタイピングに手をつけるその前に、担当者が取るべき設計のメソッドを紹介しています。前回までの記事で、リサーチとプロトタイピングの設計のメソッドについて紹介してきました。
前回までに紹介したアプローチは、計画的に新規性に辿り着く、いわばロジカルな設計手段といえます。しかし、これらと別の切り口で新規事業を想像の外側に導くアプローチがあります。それが第3回である今回のテーマ、「クリエイターとのオープンコラボレーション」です。
ロフトワーク プロデューサーの井上龍貴は、自身が担当したプロジェクト、「WOOD CHANGE CHALLANGE」を振り返りながら、こう語っています。
「プロトタイピングの段階からオープンコラボレーションを通してクリエイターと協働したことで、既存のマーケットの枠組みを超え、新しい市場を見据えたプロダクトを提示できました。」
ロフトワークが得意とするクリエイター・コラボレーションは、門戸を広く開いて多様なクリエイターたちのアイデアを募り、そのうえで最終的なゴールに向けて照準を外さないプロジェクト設計で、新たなアイデアや機会領域を高い精度で発見するアプローチです。
では、実際のプロジェクトの中でどのようにクリエイターとの協働を設計していったのでしょうか。
企画:岩沢 エリ
語り手:井上 龍貴
執筆・編集:後閑 裕太朗
固定概念を疑うことで、ゴールが見える
クライアントである、一般社団法人 全国木材組合連合会(以下、全木連)は、林業・木材産業の再生に向けて、国産材の需要拡大を目指しています。この目標を実現するため、国産材を活用したこれまでにないアプローチや、新しいマーケットへの展開を求めていました。
プロジェクトメンバーが最初に行ったのは、まず「前提を疑う」こと。前提とは、林野庁が奨励する、持続可能な社会へのチャレンジとして、木を取り入れた暮らしや建築物の木質化等を推進する「WOOD CHANGE」というテーマのこと。このテーマをあえて一度「疑った」と言います。
「扱うテーマが『WOOD CHANGE』のままではむしろ固定概念が生まれ、新規マーケットに展開するというゴールに届かないのではないかと考え、新たなテーマを打ち立てるべきかメンバー間で協議を重ねました。」と井上は言います。
「どんなプロジェクトにしたいか、どういう人に関わってもらいたいか、どういうアウトプットが出てくるべきか、と逆算して考えました。そして、『WOOD CHANGE』から派生する形で、木のイメージ・価値を抜本的に変えることを目的とするプロジェクト、『WOULD CHANGE』というもう一つのテーマに辿り着いたのです。」
「革新性」と「実現可能性」の両方を実現する、アワード設計のポイントとは
本プロジェクトの基幹となっているのは、国産材と人との出会いを生み出すようなアイデアを募集する、「WOOD CHANGE AWARD」です。アワードのねらいは、発想を広げるために、広くアイデアやプレイヤーを募ることで、これまで想像していなかったサービスやプロダクトにつなげていくこと。
しかし、実はここがつまずきやすいポイント。アワードを開催しても、想像を超えるような作品が集まらなかったり、そもそも応募数が伸び悩んだりといった結果に陥りやすいのです。さらには、募集したアイデアが一見画期的であっても、どこか目的とずれてしまっていたり、実現可能性が低いというケースもあります。
アワードはただ開催するだけでは機能しません。明確かつ訴求度の高いコンセプトやメッセージを打ち出すことはもちろん、全体のプロセスから応募要項、受賞のインセンティブやゴール設定、さらにはプロモーション施策といった設計を適切に行わければ、画期的なアイデアや、実装までを見据えることのできる確度の高いプランは出てこないのです。
このように、アワードを通して想像していなかった機会領域の発見や製品の開発を目指すには、さまざまなハードルがあります。井上は、WOOD CHANGE AWARDではこれらのハードルを超えるために以下の4つのポイントを実施したと言います。
- 固定観念を外すことに主眼をおいたアワード設計
- クリエイターコミュニティを巻き込む
- 良質なインプットを行う
- より確度の高いアイデアの検証を行う
固定概念を外すためのアワード設計
プロジェクトが掲げた、既存の木のイメージを変える「WOOD (WOULD) CHANGE」というコンセプトは、アワードの応募要項にも貫かれています。
提出形式はコンセプトスケッチからプロトタイプまで幅広く募り、サブテーマとして以下の3項目を設定。有形のプロダクトのみでなく、無形のサービスやコミュニケーションも募集対象としました。
- 「STORYTELLING」…木を使うことへのイメージをチェンジするコミュニケーション手法
- 「MATERIALITY」…木の特性の活かし方をチェンジしたプロダクト
- 「ACTIVITY」…木と人との関係をチェンジするサービス・仕組みに関するアイデア
また審査員について、建築家だけでなく、アートディレクターやソーシャルデザイナーをアサインするなど、応募作品を多角的な視点から評価できる審査体制をつくりました。
結果として、木材を身近に扱う建築家やプロダクトデザイナーのみならず、グラフィックデザイナー、映像作家、さらには主婦まで、多様な層がアワードに応募しました。
ロフトワークが接続するコミュニティを巻き込む
「木のイメージを変える」アワードを実現するには、建築家や木工作家だけでなく、多様な領域のクリエイターからアイデアを募ることが不可欠でした。しかし、リーチしたい領域が広がるほど、どこに向けてどれだけのプロモーションを打つべきか見定めづらくなります。
そこでWOOD CHANGE AWARDでは、ロフトワークが運営するオンラインアワードプラットフォーム、「AWRD」を通して作品募集とプロモーションを実施。「AWRD」では、常時さまざまなアワードが開催されており、デザイナーやアーティストなど世界から様々な領域のクリエイターが集まっています。こうしたプラットフォームを通じて応募を促すことで、国内外を問わず幅広いクリエイターからの認知を得ることができました。
また、グローバルなクリエイターコミュニティと接続するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」を通じて、クリエイターたちのインスピレーションを掻き立てるような作品展示「WOOD CHANGE Exhibition」を開催。東京、台北、香港、バンコクにあるFabCafeで、各地域ごとに特色ある展示を実施することで、ローカルなコミュニティにもアプローチしました。
インプットとプロモーションを兼ねたミートアップイベントの開催
アワード企画の参加者を増やすためのさらなる施策として、「木への視点を変える」をテーマに第一線で活躍するクリエイターらが参加するトークイベント「WOOD CHANGE Meetup」も開催しています。
クリエイターたちに「WOOD CHANGE AWARD」に触れ、同時に良質なインプットを行う機会を設定していました。
プロトタイピング企画で、より確度を高めた検証を行う
また、アワードを通じて幅広いアイデアを集めることに加え、より確度の高い機会領域を発見していく別軸の施策として「WOOD CHANGE CAMP」を実施しています。
この取り組みは、木材利用と飛騨地域の体験価値を提供する「株式会社 飛騨の森でクマは踊る」(通称 ヒダクマ)との共同企画。公募の中から選定されたクリエイターが、ヒダクマの「木の専門家」らとともに国産木材の課題感をインプットし、合宿形式でアイデアのプロトタイプを制作。少人数、短期集中型、地域産業と密着した形でアイデアの検証を行っています。この検証を通して、より確度が高く、製品化を視野にいれたプロダクトを制作できました。
さらに、これらのプロトタイプの中から、一般投票による評価で受賞作を決定。消費者となりうる一般層にプロトタイプの評価をしてもらうことで、「新しいマーケットへの展開」という最終的な目標に一歩近づくためのアイデア検証を目指しました。
アワードやキャンプを通して生まれた作品が、次の展開に繋がりつつあります。詳細はこちらから。
アイデア創発とプロトタイピングで国産材の可能性を開拓・更新 WOOD CHANGE CHALLENGE
https://loftwork.com/jp/project/woodchangechallenge
クリエイターとともに、予想外の機会領域を発見するには
このように、本プロジェクトではオープンコラボレーションの設計のポイントを押さえることで、機会領域を発見し、国産木材を新しいマーケットへ展開させるきっかけを生みました。そしてこうした設計には、数多くのクリエイターとの共創や価値検証を繰り返してきたロフトワークが持つノウハウが集約されています。
さて、改めてその要点をまとめると、以下のように整理できます。
- オープンコラボレーションは設計が肝要。コンセプトからプロセス、コミュニケーションまで「固定概念を壊す」を貫いた結果、クリエイターが本領を発揮でき、新しい機会領域の発見やアイデア創出につながった。
- クリエイターに向けたプロモーション施策として、ローカルコミュニティやプラットフォームを通じてアワードの認知を広げた。また、展示やミートアップイベントを通じて彼らにインスピレーションを与えたことで、結果として数多くのクリエイターからアイデアを集めた。
- 公募だけでなく、木の専門知識を持ったパートナーとともに短期間のプロトタイピングを行ったことで、斬新であると同時に確度が高いアウトプットができた。
これまでの連載記事の中で、リサーチとプロトタイピングの3つのアプローチを解説してきました。ただし、プロジェクトの目的・課題によって、適切なリサーチやプロトタイピングの手法は異なってきます。重要なことは、着手の前に全体設計を見直し、さまざまな要因を鑑みながら「いま必要なアプローチ」を見出すことです。
ロフトワークでは、ロジカルなリサーチ・プロトタイピングの設計や、クリエイター・クライアントとの効果的な共創関係を駆使し、新規事業開発プロジェクトを進めています。読者の皆様も、自身の課題フェーズに合わせながら、ぜひ今回ご紹介したメソッドを活用してみてください。
最適なプロトタイピングは「急がば回れ」を徹底することで生まれる
プロトタイピングのその前に vol.2
https://loftwork.com/jp/finding/before_prototyping_vol2
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