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小菅 奈穂子 2022.04.04

連載「コミュニティ運営の “中の人”が語る〜人財マネジメント術〜」
#4 個人も施設も成長する、循環型人事評価制度への挑戦

こんにちは。ロフトワークLayout Unit ディレクターの小菅です。

2019年6月に入社し、SHIBUYA QWSという共創施設のコミュニティマネージャーとして、入社してから今に至るまで施設で働くスタッフの採用と教育を担当しています。しかし、人事系の仕事は全くの初心者。前職は、ぬいぐるみデザイナー見習いや社会人向けWebデザイナーの学校スタッフと畑違い。「共創施設とはなにか?」「コミュニティとは何か?」「人を育てるとは何か?」右も左も分からないなかで試行錯誤しながら、運営や人材マネジメントに対するナレッジを溜めてきました。このたび、共創施設の運営を言語化をしてみたいと考え、連載記事を書くことにしました。タイトルは、ズバリ「コミュニティ運営の“中の人”が語る〜人財マネジメント術〜」です。

第4回目の最終回「人事評価」についてです。開業2年目、スタッフの人事評価の見直しをするタイミングを迎えました。採用も教育も初めての私にとって、人事評価制度づくりは未知の世界。さらに共創施設における人事評価制度を探しても参考になるものが見つからず、社員と対話を繰り返しながら約半年をかけてブラッシュアップを行ました。現在は、運用サイクルのフェーズに入り、PDCAを繰り返しながら血が通う人事評価になるよう試行錯誤しています。

初めて施設の人事評価制度をつくる担当者、施設のミッション実現に向けて人財の力を引き出したいスタッフ教育担当者に、何か1つでも参考になれば幸いです。

小菅 奈穂子

Author小菅 奈穂子(Layout Unit ディレクター / SHIBUYA QWS コミュニティマネージャー)

埼玉県生まれ。女子美術大学院デザイン専攻ヒーリングアート領域修了。アートやデザインを通して、人と関わりたいと考え、モノづくりに関わる仕事を目指す。ぬいぐるみメーカーのデザイナー兼営業事務を2年、Webデザイナーや動画クリエイターを育成する社会人向けのスクールにて4年働き、2019年6月にロフトワークへジョイン。スクール運営や営業経験を生かし、SHIBUYA QWSのコミュニティマネージャーとして場づくりをする仕事に従事。ヒト、モノ、コトをつなげる仕事にワクワクする毎日。

SHIUBYA QWSについて

2019年11月、渋谷駅直結・直上の大規模複合施設「渋谷スクランブルスクエア」の15階に開業した、多様な人たちが交差交流し、社会価値につながる種を生み出す会員制の共創施設「SHIUBYA QWS(以下、QWS)」。
コミュニティコンセプトを「スクランブルソサエティ」とし、多種多様な人が集うコミュニティでの交流や領域横断の取り組みから化学反応が生まれ、未来に向けた価値創造を生み出す新拠点として注目を集め続けています。

渋谷スクランブルスクエア株式会社とロフトワークは、QWSから持続的に新たな社会価値を生み出し続けるために共同の運営プロジェクトチームを発足し、開業準備フェーズから活動を開始。QWSの共創コミュニティを活性化させるべく、会員向けプログラムの設計、施設スタッフ採用・育成のほか、アカデミア(大学)やベンチャーキャピタル、NPOといった多彩なパートナーとのプログラム連携を進めています。

施設のミッション実現に向けて自ら考え、動ける人財開発の必要性

開業2年目の2021年、人事評価の見直しタイミングに解決したい課題がありました。

それは、コミュニケーター(QWSでは、スタッフをこのように呼んでます)自身が何をすれば施設のミッションに貢献でき、会員のサポートにつながるのかを実行できる行動指針を示すことでした。QWSのミッションは、『社会価値に繋がる未来の種』を生み出すこと。コミュニティ、プログラム、場を活用しながら、どうやって会員のプロジェクト活動をサポートできるか考え動けるコミュニケーターが必要でした。

しかし、当時の人事評価制度の中にはミッション実現のために「コミュニケーターに何を求め、何を評価するのか」が言語化されていなかったため、コミュニケーターの行動に対し、私たち社員からの適切なフィードバックがなされていませんでした。コミュニケーターも何をすべきかが分からず、もやもやしていたと思います。

そんな課題を人事評価制度を整備することで解決しようと考えました。施設のミッションが腑に落ちるまで社員同士でディスカッションを重ね、コミュニケーターの役割と評価ポイントがまとまり、やっと人事評価制度が刷新されました。

3つの改変ポイント

QWSの人事評価制度の改変ポイントを3つにまとめてご紹介します。

キャリアパス制度

まず、開業前に用意していたキャリアパス制度のアップデートをかけました。
施設の中でどのような仕事を経験し、どのようなスキル・能力を身に付け、どのようなレベルに到達すれば、昇給できるのか。こうした条件や基準を明確にしたことで、コミュニケーターが目標に向かって主体的に業務に向きあいやすい状況をつくりました。また、頑張りを評価できるので、コミュニケーターのモチベーションアップや優秀な人財確保にも繋がっています。

<キャリアマップのイメージ>

QWSでは4つのステップを用意しています。それぞれのステップごとに役割と業務内容を明言化し、段階的にスキルを磨きながらキャリアを積み上げるスキルアップ研修の整備も進めています。

評価項目

次に、評価項目を設定しました。施設のミッションや価値観をもとに、評価項目をつくり、QWSが重視している基準を言語化しました。これによって、コミュニケーターも努力する方向が定まりやすくなりました。

  • 情意評価
    職務に対する姿勢やチームへの貢献などを評価。
  • 能力評価
    会員のプロジェクトを支援するスキルを磨き、会員の活動を前に進めるサポートができることを評価。

あわせて、誰が評価しても評価基準に合わせて公平に評価ができるように、曖昧な表現や客観的に評価できる指標づくりも、運用しながら整備しています。

自己評価シート

3ヶ月に1回、1on1ミーティングを行い、社員からの評価・フィードバック・進捗の確認を行っていますが、新たに自己評価シートを追加しました。

評価サイクル

目標設定 ▷ 自己評価シート ▷ フィードバック

導入の大きな目的は、コミュニケーター自身の成長を可視化し、自信につなげてもらうことにあります。前の自己評価で設定した目標に対して、「何ができたのか」「何ができなかったのか」「できなかったことができるようになるためにはどうすれば良いか」を評価シートに記入しながら内省することができます。

<自己評価シート>
各ランク別に自己評価シートを用意しています。評価は自身の達成度合いを3段階で記入できる形になっており、社員との1on1ミーティングの際に頑張りをアピールするツールになっています。

<フィードバック>
個々が用意した目標に対して良かった点、改善点を伝えながら、仕事に向き合う姿勢や身につけて欲しいスキルを伝えます。キャリアパスを土台にランクに合わせてフィードバックをしているので、QWSがコミュニケーターに期待していること、身につけて欲しいスキルを具体的に示せるようになってきました。

人事評価のこだわりポイント「共育サイクル」の導入

ランクにかかわらず、全てのスタッフが必ず教える立場に回り、さらには改善する「共育サイクル」を導入しました。

共育サイクル

教えることで定着する個人の成長循環

人は誰かに教えることで、はじめて仕事を覚えるのではないかと考えています。先輩に教えてもらったことを、今度は指導する立場になることで「なぜ、それをするのか」を自ら考えることが習慣化されます。教えることで業務内容が定着し、個人の成長に拍車がかかります。

ノウハウをチームで蓄積し施設の成長循環を促す

業務ができるようになるとノウハウの個人化、経験の個人化が進んでいきます。こうなると個人の生産性は上がっても、チームの生産性は上がりづらくなります。
「個人の経験や勘に頼っていた業務を仕組み化する」ためにも共育サイクル内に改善するフェーズを追加しました。個人のノウハウをマニュアルや指導改善に組み込むことで、チーム全体で成長することができるようになりました。

<QWSの事例>
ノウハウを蓄積するやり方として、QWSの事例を一部紹介します。オペレーションや会員プロジェクトを理解し、会員サポートにつなげるためのノウハウとして検定やドリルをスタッフ全員で作る仕組みを取り入れています。

▷ QWS検定

  • 目的:オペレーションや会員プロジェクトを楽しく覚える
  • 頻度:毎月1回
  • 内容:毎月開催するコミュニケーター定例にコミュニケーターが作成したQWS検定を持参。他コミュニケーターに問題を出題。
    • Q、QWS入会には審査があります。審査期間はどのくらいでしょうか。
    • Q、このプロジェクトの問いの背景を説明してください。etc

▷ プロジェクト検定

  • 目的:初めてQWSに訪れた人に会員プロジェクトを分かりやすく説明する
  • 頻度:3ヶ月に1回
  • 内容:1on1ミーティングの際に社員に対してコミュニケーターが会員プロジェクトの紹介を行う。
    • Q、QWSで活動するプロジェクトを1つ教えてください。
      Q、このプロジェクト(社員がランダムで選んだプロジェクト)が何をやっているのか、なぜやっているのかを教えてください。etc

まだまだ、人事評価制度はブラッシュアップを重ねています。施設の成長、環境の変化、個人のスキルや能力に合わせて柔軟に改変する必要があることを考えると、人事評価は永遠に完成しないものなのかもしれません。
人に対する投資はなかなか目に見えず、思うようにいかないのが常ですが、丁寧に向き合い実直に向き合い続ければ、必ず、その成果は施設に財産となって返ってくると思います。

 

 

おわりに

以上、
「コミュニティ運営の“中の人”が語る〜人財マネジメント術〜」の第4回目を終えたいと思います。

本記事をもって連載を終了です。
共創施設の運営の言語化にチャレンジしたことで、イキイキとした場づくりには、施設で働くメディエーターの存在が欠かせないことを実感できました。今後も実験的な共創施設が展開していく中で、新規施設を作ろうとしている人や、場の運営を担う“中の人”にとって、連載記事が少しでも役に立つことができたら幸いです。

最後に、SHIUBYA QWSにご興味ある方は、ぜひ、お気軽にご来館ください。イキイキとした場づくりのヒントが満載です。ご来館お待ちしております!

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