FINDING
2026.07.01

“チームのアイデンティティ”をどうやって形にする?
Creative Division が探った富士吉田合宿1泊2日レポート

クリエイティブの力を通して、誰かの困りごとや、理想とする社会のあり方に向き合うこと。その実践のためにプロジェクトを作り続けていると、時折「私たちらしいクリエイティブとは何か?」を問う機会が来ます。

株式会社ロフトワークにおいて最も歴史があるチーム「Creative Division(以下、Creative div.)」。プロジェクトを手掛けるディレクターたちのコアチームとして、多様なプロジェクトを実現してきました。

後にCreative div.から派生する形で、専門領域に特化した数々のチームが誕生。素材開発・研究開発支援を得意とする「MTRL」、空間に特化した「LAYOUT」、「MVMNT」、「ゆえん」などさまざまなユニットや事業部が生まれました。

Creative div.は依然として、合計30名弱のディレクターを擁する大規模なチームとして、WEB領域から地域に関わる活動に至るまで幅広いプロジェクトを担い続けています。多面的な“ロフトワークらしさ”を体現し続けているチームだからこそ、アイデンティティが見えづらい現状がありました。

そこで、2025年下半期から「Creative div.のらしさ探求活動」を行ってきた彼ら。プロジェクトによって変化し続ける自分たちの特性を、あえて探求しようとしてきました。その集大成として、半年間考え続けた思考を形にするための合宿を実施しました。

ロフトワークともゆかりの深い富士吉田のまちを訪れ、1泊2日のなかで「ZINE(手作りの小冊子)」として思考を形にする。そんなCreative div.の探求活動をレポートします。

富士山を臨むまちで、2日間の制作合宿がはじまる

富士吉田を訪れる前に、Creative div.の面々は半年間に渡る探求活動を行ってきました。その問いとは、「unlock potencialを、どう実現できるのか?」というもの。unlock potencialが起こる状態を生み出すために、Creative div.の強みや得意なアプローチを個々人が探求してきた。そうしていい仕事をつくっていくには、どうすればいいのか。どうすれば、いい仕事が生まれるのか?そして、Creative div.とは何のプロフェッショナルなのか。

そんな大きな問いに向き合うため、23名のメンバーが4つのチームに分かれ、それぞれのチームに与えられたテーマを軸足にして、議論を深めてきました。そうした議論は、「ZINE」へと集約されます。

ワークショップを体験する面々。「再定義」「挑戦」「誘発」「共創」という4つのチームに別れ、それぞれのテーマに関する議論を深めてきた

ZINEとは、個人や小規模グループが自由に形式やテーマを決めて制作する小冊子のこと。商業出版とは異なる、ごく個人的な表現方法や情報発信の手段としても用いられています。そうした成果物を、4チームがそれぞれの進め方で完成させる。その大詰めの作業を行う場として、選ばれた合宿の場所が富士吉田でした。

商店街の奥に富士山を臨む不思議な風景を目指して、国内外からも観光客が訪れる富士吉田のまち。「FabCafe Fuji」があるほか、ロフトワークも運営に関わってきた「FUJI TEXTILE WEEK」が開催されるなど、私たちのチームにとってもゆかりのあるまちです。

到着した4チームは早速、それぞれの作業に取り掛かります。FabCafe Fujiに集まってさらに議論を深めるチームもいれば、ZINE作りの素材集めをするために商店街へフィールドワークに出るチームも。「1日目はしっかりまちの観光をする」と決めて、散策をするチームもありました。ここから、長い2日間の合宿がはじまります。

富士山麓の森林と、山から生まれる食に触れる

富士吉田を訪れたチームのメンバーにはもうひとつ、ZINEづくり以外の特別な体験が用意されていました。

それは、多様な動植物が生きる富士北麓地域の森林探索ツアー。

案内をしてくれたのは、富士北麓を拠点に、全国各地の草根木皮を扱う「HERBSTAND 」代表の平野さん。彼らはハーブを自家栽培するほか、山林管理を兼ねた自生植物の採取も行うなど、植物の可能性を探求しています。
林道を歩きながら、周囲に自生する植物についての解説を受ける。植物の樹皮や枝が持つ香りや味わいは、どれも都市で暮らしていては知るよしもないものばかりでした。

アカマツ、クロモジ、コゴミなど、目に映る樹木1つ1つに触れ、食材や素材としての可能性について語ってくれるハーブスタンドチーム。葉の落ちた、静かな冬の森林を見て「私たちにとっては、この枝や木々が宝の山に見えるんです」と話す彼らの姿が印象的でした。

「植物も外敵要因によって、その特性を変えることがあります。高く育つ針葉樹同士は、浴びられる日光を減らさないように、互いの成長を阻害しないようにと、ある程度の高さでその成長を止めることもある。植物もまわりの空気を読みながら、森林の社会を構成しているのかもしれませんね」

日々暮らしている都市の環境とは全く異なる森林に触れたロフトワークの面々は、木々の持つ個性を通してさまざまな示唆を得たようでした。

夕食は、FabCafe Fujiに全員が集まっての食事会。森林ツアーで触れた樹木を使ったハーブ塩や、富士吉田に暮らす猟師の方が獲ったジビエをいただくことに。食事に舌鼓を打ちながら、各チームが入り混ざったテーブルで賑やかに交流する時間になりました。

森林ツアーで教えてもらった樹皮や枝を粉砕し、塩に混ぜたハーブ塩。アカマツやクロモジなど、木々の香りがグリルした野菜の風味を豊かにする

グリル野菜と、ジビエ料理。しっとりとジューシーに火の通されたジビエは、風味豊かな味わい

ゲストとしてお呼びしたFabCafe Fujiの八木さん、編集者の山口さんとも共に食卓を囲みます

同じテーブルを囲み、食事をしながらゆっくりと話す時間も、チームの関係性を豊かにする大切な時間です

夕食を終え、ZINEづくりに向けたフィールドワークに出るチームも

早めに宿に戻り、ZINE作りの作業を進めるチームも。それぞれの夜が更けていきます。

プロジェクトデザインの可能性を、ZINEに込める2日目

合宿最終日、2日目の朝。この日の15時から行われるZINEの最終発表会に向けて、各チームが最終的な詰めの作業に入っていきます。「unlock potencialの実現」という大きな問いに対して、異なるテーマを与えられた4つのチーム。それぞれに全く異なる形で、アウトプットに向けて進んでいきます。

Team Discovery(再定義) – 可能性を提示する

現実から感じ取る違和感や変化の兆しを丁寧に捉える 本質的な「問い」を立て、新たな可能性を映し出す

Team Synergy(共創) – 共創を極める

異なる専門性や立場を超えて、未知の中間領域で交わり そこから新しい表現や価値が生まれ、共に未来を形づくる

Team Experiment(挑戦) – 進化を続ける

小さな実験に挑戦すること、そこからの学びを活かし さらなる進化へとつなげていく循環をつくる

Team Catalyst(誘発) – 創造を連鎖させる

活動を閉じたまま終わらせずに、社内外へひらいていき 誰かの次の創造や行動を呼び起こし、新たな波を生み出す

“富士吉田のまちを知ること”そのものをプロジェクトと捉え、視点の違いから多面的な富士吉田の像を探ろうとする“再定義(discovery)”チーム。富士山を撮影しようと集まる海外からの観光客や、地域で長く商売をしている店主さんなどに話を聞き、その答えを通してまちの魅力の再定義を目指します。

それぞれの“挑戦”をおせちの食べ物にたとえ、紙粘土の立体物として表現することに決めた“挑戦(Experiment)”チーム。一般的なZINEの形式にとらわれないアウトプットを企画し、ひたすら造形物の制作に時間をかけます。

人の行動を呼び起こす“誘発”の仕組みを整理し、仕掛け絵本として表現することに決めた“誘発(Catalist)”チーム。合宿前から初日にかけて議論し続けた「どうすれば誘発が起こるのか?」をわかりやすく伝えるため、ページづくりを進めていきます。

異なる専門性や立場の人々と共につくるためにはどうすればいいのか?を探求する“共創(Synergy)”チーム。「共創を極めるためには、共創が起こる空気を読み解くことが必要だ」と考えた彼らは、これまでのプロジェクト実践を通して気づいた「共創が生まれる16の空気」を誌面に落としこみ、万全のプレゼンテーションを行うためにギリギリまで準備を進めます。

途中、業務のために合宿初日に参加できなかったメンバーも合流。メンバーのラストスパートを見守ります。

制作期間、ほぼ2日間という短い時間で行われたZINE制作のための合宿。最後の時間までクオリティをあげようと奮闘するディレクターたちの姿が印象的です。

最終発表と講評を終えて

ZINEの最終発表を受け止め、講評をしてくれるのは2名のゲスト。ブックディレクター・編集者である山口博之さん(good and son代表)と、FabCafe Fujiを立ち上げ、運営する八木毅さん(株式会社DOSO)。山口さんは編集者としての情報設計やページづくりの視点から、八木さんは自身のプロジェクトマネジメントの経験値と、富士吉田の土地を知る人として、4チームが手がけた多種多様なZINEの評価をしてくれました。

コンセプトがそれぞれ異なるのはもちろんのこと、表現方法や形式まで多様となった4チームの成果物。時にコメントに悩む場面もありながら、講評を行ってくださいました。そのなかにはただの「ZINEの品質に対するコメント」ではなく、プロジェクト推進における姿勢や、表現された「unlock potencialの実現方法」におけるロフトワークの立ち位置はどこにあるべきなのか?など、ディレクターたちが向き合った問いに対する示唆も多く含まれていました。

チームのなかに生まれた「対話」の時間と、らしさの探求

数ヶ月の準備期間を経て開催されたZINEづくりの合宿。unlock potencialとそれぞれのアプローチの魅力をZINEに込めるべく、多くの時間が対話に費やされました。

「共創を極めるとはどういうことなのか?」「誘発を起こすための方法とは?」「再定義によってプロジェクトの価値を高めるには」「私たちは何に、どのように挑戦するのか?」

そうした4つの領域を元に、Creative div.のメンバーは自身のアイデンティティを語り合った2日間。その成果について、チームリーダーである3名のディレクターに話を聞いた。

言語化と表現を行き来する「ZINEづくり」という仕掛け(山田麗音)

ディレクターたちに与えられたZINEづくりの課題は、「unlock potencialをどう実現することができるのか?」。それは同時に、「プロジェクトのなかで、ロフトワークのディレクターが発揮できる魅力とはなんなのか?」を言語化するための道のりでもありました。

合宿中、何名かのディレクターに「印象的な議論はありましたか?」と聞くと、多くのメンバーが言葉を詰まらせます。口を開いた彼らが一様に話すのは、意外なことに「新しい議論というよりも、大事なことを確認する時間だった」という言葉。

「今回の合宿は、これまでプロジェクトで経験してきたディレクターたちの実践知を言語化するためのものだったと思います。増えた共通言語こそあれど、“全く未知の言葉”があったわけじゃない」。そう語るのは、今回の合宿を企画したシニアディレクターの山田麗音。

「『ロフトワークのディレクターの魅力を伝えてください』というお題であれば、数十ページの資料にまとめることもできたかもしれない。そうせずにZINEづくりというアプローチを選んだのは、その方がひとりひとりにとって自分ごと化できると考えたから。実践知を言語化する過程と、外部の専門家にも伝えるために表現方法を見つける責任。伝わる見せ方まで求められる議論のなかで、『自分にとっての問いと答え』を探れると思ったんです」

「今回得た共通言語は、これからのプロジェクトでも扱えるものだと思う。『これってもっといい再定義があるんじゃないかな?』とか。対話するための新しい土台を得た2日間だったんじゃないでしょうか」

合宿を通じて、生まれた変化(寺本修造)

彼らの姿をみて、シニアディレクターのひとりは「安易にアイデアを飲み込むことがなくなった」と語ります。

「ページをどうするか、ZINEをどうするかのアイデアを話しあっているときでも、安易に誰かが出したアイデアに乗っかるようなことをせず、『それってどうなんだろう』と議論を深めている姿が印象的でした。そうやって培った対話の素地は、今後のプロジェクトの現場でも活かされていくと思う」。

Creative div.の「これから」(多田麻央)

Creative div.のリーダーとして全体を統括する多田麻央もまた、この2日間をとても有意義なものだったと振り返ります。「合宿までの過程も、制作の過程も見てきました。葛藤やチームの折り合いもあって生まれた成果物だと思うけど、そのプロセス自体がみんなの経験になったと思う」。

今回生まれたZINEを社外へと発信していきたいと話す多田。「代表一人の言葉よりも、みんながこうやって声を出しながら、形にしてくれたことの方が、多くの人の心を動かしてくれると思う。Creative div.と仕事をしてみたい、と思ってもらえる人たちもいるだろうし、いま一緒に仕事をしている人たちにも、『こういう人たちだったんですね!』と改めて知ってもらう機会になるはず。自信を持って、伝えていきましょう」

23名のチームメンバーが、2日間かけて対話を続け、4つのZINEを生み出した今回の合宿。

「いい仕事をするには?」という問いに向き合った自主制作でもあり、そうした魅力的なプロジェクトの再現性を高めるための、議論と検討の時間でもありました。合宿での時間はディレクターたちの糧となり、これからはじまるあらゆるプロジェクトへと還元されていくことでしょう。