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加藤 あん 2026.06.30

「この世に何か残したい」
個人の渇望を、ロフトワークでの実践で社会にひらく

「クリエイティブディレクターは、一見華やかそうで、すごく泥くさい仕事」。そう語るクリエイティブディレクターの加藤あんさん。クライアントの想い、クリエイターへのリスペクトを原動力に、独自の感性とロジックでプロジェクトを牽引しています。学生時代から実直に増やしてきた「引き出し」を開け、新たな価値を生み出す彼女の人となりと、尖った感性の裏側にある仕事論に迫ります。

社会にひらかれた場でアートに関わりたい。ビジネスとクリエイティブが交わる世界へ

学生時代、FabCafe Nagoyaでインターンをしていた加藤さん。知人から「インターンに1人空きがあるからやってみない?」と誘われたことが、ロフトワークへ入社したきっかけになったと語ります。

加藤 当時は名古屋芸術大学に在学中で「身体と衣服」をテーマに研究を進め、展覧会の企画やキャンパスの改装計画にも携わっていました。将来はファインアートのキュレーションを手掛けたいという想いがあり、2019年に国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」芸術大学連携プロジェクトの受講生として参加しました。しかし、ある展示への抗議や脅迫が現場に殺到したことで、心を痛めるスタッフさんの姿を見て言葉にし難い気持ちになりました。業界のごく一面しか見ていない中で「視野が狭い」と言えばそうなのですが、高尚かつ複雑な思惑が絡むアート業界で自分はやっていけないかもしれないと、恐れのようなものを感じてしまったんです。

もう少し社会にひらかれた場所で、アートに関わることはできないか。ビジネス視点があり、アートやデザインを広い意味で社会に成り立たせる場所はないだろうか……と思ったときに、企業とクリエイターをつなぐFabCafeやロフトワークの存在が刺さったと加藤さん。

加藤 FabCafeではイベントの企画運営などをしていました。その頃、アートディレクターの小川さんがかけてくれた「ディレクターって、想像より華やかな仕事じゃないよ。ものすごく泥くさい」という言葉が今も心に残っています。本当にその通りです。ディレクターは、クリエイターへの憧れとリスペクトを持って、地道に動くポジションだと実感しています。

リスペクトするクリエイターを巻き込み、チームの支えを基にアウトプットに邁進

最初の1年は、上司から与えられた仕事に必死で食らいつくだけだったが、2年目以降、自身の原点であるキュレーションやアパレルに関わる仕事がしたいと周囲に開示していったそう。

加藤 自己開示と同時に、専門外のプロジェクトであっても「尊敬するクリエイターをチームに巻き込んだりして、さらに楽しくすればいい!」と意識を転換したことでうまく回り始めました。最近は、良い意味で少し自己中心的に進めた方が、全体としてうまくいくなと感じています。ある企業の『未来価値洞察』というWebサイトを制作したときは、大好きな歌人の方に短歌を詠んでいただき、「未来人から届いた手紙」のように見せるディレクションをしました。尊敬するクリエイターとの協業をプロジェクトの中に構造化できた成功体験だったと感じています。


ご自身の「強み」について尋ねると、冷静に語ります。

加藤 学生時代からコツコツつくってきたアイデアの引き出しを開けてクリエイターと協働し、新たなものを生み出し、形にするところが強みかなと思います。プロジェクトの構想が固まってきて「アウトプットする段階」でアサインされることが多いので、ターゲットとコンセプトを明確にしてリファレンスを充実させ、クリエイターと協働するプロセスを評価いただけていたらうれしいです。

一方、私はやや感性で突っ走るタイプで、「これ、めっちゃ良くないですか?」と押し切ってしまいがち(苦笑)。ただ、それではクライアントの納得は得られません。クリエイティブディレクターの村上さんと一緒にプロジェクトを進めた際は、しっかりとしたロジックを立ててサポートしてくれました。元デザイナーという経歴を持つ村田さんにも、よくデザイン面についてアドバイスをもらっています。ロフトワークのメンバーには、何か迷うことがあったり、モヤモヤしたときはすぐに相談できてありがたいです。

展示の手法や、企画のアイデアはどういったところからインプットされるのでしょうか。

加藤 美術館や博物館によく足を運ぶようにしています。ある展示では会場のゾーニングや作品の説明パネルが「ターポリン(防水性の布幕)」で制作されていて、「これは使える!」と、マクセルさんのプロジェクトでそのアイデアを拝借しています。どんな展示に行っても「これどうやって設営しているんだろう」と、つい裏側を見ちゃいますね。

プロジェクトの共創に欠かせないクリエイターの方々とは、どのようにして出会っているのでしょうか。

加藤 ネットやInstagramはもちろんチェックしていますが、今でも雑誌からのインプットは大きいです。あと、展示を見に行ったときに、キャプションやクレジットを必ずチェックします。「面白い」と思ったらお名前をメモ。「一緒に仕事がしたい」と感じたクリエイターさんのリストをつくっていて、大ベテランのデザイナーさん、自分より若いクリエイターさんにお願いすることもあります。

アニメ制作で直面した「未完成」の危機と、泥くさく形づくられた最高の作品

加藤さんが手がけてきたプロジェクトは多岐にわたります。その一つが、2025年大阪・関西万博における「豪雨制御プロジェクト」の展示企画で、そのメインコンテンツは3Dアニメーション作品。加藤さんはもちろん、ロフトワークとしても、アニメーションを一から制作するのは初の試みでした。

加藤 研究者の「想い」を社会に伝え、鑑賞者に当事者意識を持ってもらう手段として、アニメがベストだと提案しました。SFファンタジー的というよりどこか懐かしい空気感を出したいと思い、アニメのトーンは岩井俊二監督の『花とアリス』という映画を意識しています。アニメーターさんとは、リファレンス(参考資料)を互いに出し合いながら、イメージを固めていきました。

ただ、当初はアニメーションではなく「展示空間をつくる」という方向性も模索していたそう。2019年の「ベネチア・ビエンナーレ」の資料をめくりながら、加藤さんは続けます。

加藤 日本館のキュレーション担当だった服部浩之さんには大きな影響を受けていて、この写真のような立体的な造形物とインタラクティブな展示ができたらというアイデアを持っていました。ただ、制作フローやオペレーションがどうしても条件に合わず、アニメーションに落ち着いたという経緯があります。

その制作過程における「胃が痛む時間」についても、率直に明かしてくれました。

加藤 研究者サイドから「このシーンは現実的にあり得ない」と指摘をいただき、技術的な正しさと物語の表現の両立を模索した結果、アニメーターさんに修正をお願いしました。結果、修正が難しいフェーズだったためか、「集中したいので連絡を控えたい」と連絡が。進捗の確認ができず、アニメが上がってくるかもわからない、展示できないかもしれない……。不安で潰れそうになりながらも次善策を立てて待ち続けたところ、ある日深夜に映像が届いたんです。ドキドキしながらオフィスで再生したら、想像をはるかに超える素晴らしい完成度。その瞬間、うれしさと安堵でポロポロと涙がこぼれたのを覚えています。現場に足を運び、時には謝り……プロジェクトを通じて、真に信頼し合えるチームになれたと思います。

思い出深い大企業との共創プロジェクトと、互いの成長につながる自主プロジェクト

また、大企業との先進的な取り組みとして、マクセル(クセがあるスタジオ)でのプロジェクトがあります。

加藤 『クセがあるスタジオ』という施設にまつわるプロジェクトです。施設のネーミングを決めるときは、社内でめちゃくちゃ揉めました(笑)。スタイリッシュな建物なので、周囲から「マクセルさんに失礼にあたらないか」と心配されましたが、コピーライターさんと私は自信を持っていたので率直に推したところ、すんなり決まったんです。デザイナーさんも「くすっと笑えるいいネーミング。それを活かした案を考えるのが楽しい」と喜んでくれて、素敵なデザインに仕上がりました。空間とネーミング、デザインがそれぞれ影響し合ってプロジェクトが育っていく中で、キュレーション的な相互作用が生み出せた実感があります。

マクセルとのプロジェクトでは、チームの絆を感じられた出来事も。

加藤 マクセルさんとアートアワードを開催すると決まってから、マクセルの社員の方がアートについて学び始めてくださったんです。アワードを自分ごとと意識してもらえていることに感動しました。また、ある日の夜、その方が突然京都ブランチに立ち寄って「自分たちのアートアワードに、こんなに素晴らしいアーティストが応募してくれてうれしい」と報告してくれました。当社のメンバーと喜びを分かち合いたいという想いでわざわざ来てくれたと思うと、今でも忘れがたいシーンです。単なる発注者と受注者という関係ではなく、チームとして協業できていると実感できてうれしかったですね。

さらに、ロフトワーク京都のプロジェクトスタジオ「なはれ」での『TALK NONSENSE 編み図アーカイブ・プロジェクト』についても語ってくれました。学生時代の研究や関心事が活かされた取り組みです。

加藤 「TALK NONSENSE」のファンだったことから、「なはれ」で一緒に何かできないかと声をかけました。服飾の歴史において、高級布地でできた洋服は世界中に残っているのですが、ニットの古着や編み図は日本では少ないそうです。だからこそ、彼らが集めてきたアメリカ・イギリス・カナダの古い編み図をアーカイブ化して、誰でも持ち帰れるようにすることに意味があると考えました。

本企画後、「TALK NONSENSE」はさらに活躍の場を広げています。「なはれ」でのプロジェクトが少しでも力になれていたなら、ともにチャレンジしてよかったなと感じます。私自身も「なはれ」のロゴディレクションを通して新たなクリエイターとの出会いがあり、クライアントワークの充実にもつながっています。

「この世に何か残したい」海外のクリエイティブに刺激を受け、自分の手でものづくりを

「クリエイティブディレクターは、新しい扉を開く役割ではあるものの、プロジェクトを完成させるには、多方面から力をお借りします。関わってくださる皆さんに感謝ですね」

そう穏やかに語る加藤さんは、近々、ロンドンへ渡航する予定があるそう。今後の展望についても語ってくれました。

加藤 最大の目的は、「セントラル・セント・マーチンズ(CSM)」と「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)」という美大の卒業制作展を見に行くことです。以前から、海外の大学でアートを学ぶことに興味があり、留学も憧れてはいるのですが……物価が高くてなかなか難しいですね(笑)。いつか海外のクリエイターともプロジェクトを進めたいです。

加藤 ロフトワークに入って数年が経ち、「この世に何かを残したい」という意欲が強まっています。素晴らしいアートブックや作品を見ていると、「明日世界が終わるとして、自分は何か残せたと言えるのか」と考えていたり、そういえば、学生時代、『QUOTATION』という雑誌を見ては「いつかこの誌面に載るような仕事がしたい」と考えていたなと、ふと思い出すことがあって。

今、仕事ではキュレーション的な動きをさせてもらっているので、将来的にはリサーチの知見を自分の作品に昇華し、インテリアや衣服、彫刻といったジャンルにとらわれず、自分の手で何かを生み出したいなと思っています。最近は、プロトタイプを大量につくるデザイナー フェイ・トゥーグッド(Faye Toogood)に影響を受け、小ぶりな織機を買って、小さな織物をつくったりしています。ロンドンでの経験も、未来への刺激になったらうれしいですね。

取材・執筆:岡島 梓
撮影:八杉 和興

編集:國米 翼(株式会社ロフトワーク)

クリエイティブディレクターという仕事にもっと触れてみたい方へ。

7月10日(木)、FabCafe Kyotoにて採用イベントを開催します。本記事に登場した加藤あんと、クリエイティブディレクター・矢後さんによるクロストークを中心に、後半には他メンバーも交えてロフトワークの仕事をより深掘りしていく予定です。カジュアルな会ですので、ぜひお気軽に参加ください。

【採用説明会】Beyondー探究心を起点に、視座を広げる仕事ー
日時:2026年7月10日(木)18:30〜21:00
場所:FabCafe Kyoto
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