「所属」から「関与」に変わる時代、企業と個人はどう変わるのか?
Peatix Japan藤田祐司×AWRD浅見和彦トークセッションレポート
2026年6月26日、「個人の熱を価値に変えるプラットフォームとは - Peatixの実践から探る、関与と共創のインフラ」をテーマに、Peatix Japan株式会社の共同創業者・代表取締役であり、最高マーケティング責任者を務める藤田祐司さんと、株式会社ロフトワークでAWRDのプロデューサーを務める浅見和彦とのトークセッションがおこなわれました。

「Re:Creation(再創造)」をテーマに掲げ、6月26日から28日までの3日間開催された「Loftwork Conference 2026」内で実施された本トークセッション。タイトルにある通り、「個人の熱を価値に変えるプラットフォーム」として歩んできたAWRDとPeatixを運営するふたりの視点から交わされた議論のテーマは、副業、コミュニティ、推し活、二拠点生活など多岐にわたりました。本記事では、トークセッション当日の様子をレポートしていきます。
「所属」から「関与」へと変わるアイデンティティの行方
トークセッションの冒頭、ロフトワークの浅見は現在の社会状況を、「『所属』の力が弱まり、一人ひとりが『何に関わり続けていくのか』に拠り所を見いだす社会に変化しつつある」のではないか?と整理します。「所属の時代」と呼ばれる近代以降、会社や家族、自治会、趣味のコミュニティなど、人々はいくつかの「器」に属することで、居場所や役割といったアイデンティティを得ることができ、「何者」であるかどうかが、所属によって語られる時代が長く続きました。2018年に厚生労働省がそれまで原則禁止とされていた副業を容認する方向を示したことや終身雇用というシステムが弱まってきたなかで、所属こそが個人を社会につなぎとめる最も強固なインフラだった時代は変わり、徐々に「関与」の時代に移行しつつあると浅見は指摘します。
その上で、「人々の関与を支えるだけでなく、それを居場所や価値へと昇華させる仕組みはどのようにつくれるのか」と、プラットフォーム運営を担うふたりが語り合う本トークセッションの課題意識を観客に共有しました。
「現在はひとつの組織に所属するのではなく、複数の組織を横断する時代になってきているのではないかと思います。かつて所属という『名詞』で語られていたアイデンティティは、関与という『動詞』で語られるようになってきているのではないか考えています」

近年はSNSでの発信をはじめ、イベントの主催、noteでの記事執筆、Podcastといった音声コンテンツの配信など、自身が表現の主体となって発信する人もいれば、推し活のように、誰かを応援したりサポートしたりコミュニティに関与する人も増えています。こうした多様な関係性の中で、人は場や相手との関わりに応じて異なる「自分」を立ち上げながら生きています。つまり、誰もが一つの固定的な自己ではなく、複数の「自分」を持ちながら社会と関わる時代になっていると言えるでしょう。そうした浅見の問いかけにPeatix Japanの藤田さんは、今年で15周年を迎えたPeatixの歩みを振り返りながら、さまざまな「個人の熱」をサポートしてきた同社の活動について語りました。

「Peatixの15年間を振り返ってみても、人々のつながりや関与のあり方はどんどん変化していると思います。われわれがサービスを開始した2011年5月は、ご存知の通り震災のすぐ後で、イベントなどの活動は自粛せざるをえない状況でした。そんな中、復興のために何かできないだろうかとチャリティイベントを主催される方や、ご自身の旗を立てて活動される人たちなどが現れ、まさにそういった個人の熱によって生まれた活動をサポートしたいと考えていたんです」
それでも所属は手放せない?副業解禁後の現在地

その後、Loftwork Conference 2026のキャッチコピーである「10年後をつくりなおす出会いを、ここから始めよう。」と関連する議論を展開する上で、4つのトピックを浅見が提示しました。先の話題にもあがった「所属から関与へ」を掘り下げるトピックでは、「2018年に厚労省が副業を容認すると示してから約7年たって、それでも人はなぜ1社に留まるのか」という問いを投げかけられます。
パーソル研究所の2023年のリサーチとみらいワークスの2025年のリサーチ※1によると、副業を容認する企業は60.9%に増加したものの、正社員の副業実施率は7%に留まっている現状があります。副業意向率は40.8%ある一方で、大企業の44.8%は副業を禁止しており、これらの状況は社会の変化の遅さの現れなのか、1社に所属することの合理性を示しているのか。浅見は副業に踏み込めない知人の例を紹介しながら、副業に対する世の中のムードを指摘します。
※1…出典:パーソル総合研究所 https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/sidejob4/
株式会社みらいワークス https://mirai-works.co.jp/mwri/report/report-reskilling/6024/
「国内の大手企業に勤務している友人に『副業しないんですか?』と聞いたんです。そうしたら、『会社からはOKは出ているんだけど、申請書を出さなきゃいけなくて…』と。『だったら申請してやればいいじゃん』と返したんですが、その会社はあらゆる事業領域を展開しているので、なにをやっても利益相反になってしまうのでOKが出ないらしいんです。ある種それは企業としての防衛策かもしれませんが、世の中のムードの現れでもあるのかなと思います」
こうした状況について藤田さんは、「所属から関与へ」の動きは加速するものの、あくまで所属を手放せない人もいるのではないかと問いかけます。
「副業を容認している企業が60%あるのであれば、今後は副業によって新しい居場所を見つけたり、趣味のコミュニティをつくったりすることはどんどん加速すると思いますね。ただ、私のような40代やそれ以上の世代は、安心できるひとつの居場所として会社に何十年も所属しているので、所属を完全に手放すのは難しいような気がしています。若い世代の中には、関与からキャリアを始めている人もどんどん増えてきているので、10年経つとその比重が変わり、企業の働き方も変わるのかもしれません」
「推し」の自己表現化が新たな生きづらさを生む?

続くトピック「コミュニティは企業の外へ移るのか?」では、居場所としての企業のあり方が変化する中で、多くの人々が関与を深めている、推し活のコミュニティを取り上げました。推し活総研の2025年の調査結果によると、現在の推し活人口は日本の総人口の17%にあたる約1,400万人と言われており、市場規模は3.5兆円にも上ります。藤田さんは、Peatixにおける推し活イベントの人気の高まりを振り返りながら、企業がコミュニティの単位として機能していた時代は「むしろ特殊だったのではないか?」と投げかけます。
「Peatix上のイベントを見ていても、推し活系のイベントにはやはり人気があって、書店が実施している著者イベントや写真集の出版イベントにはものすごい数の申し込みがありますし、どんどん熱量が高まっているのを感じます。そんな中、今後のコミュニティが企業の外に移っていくことは自然な動きなのではないかと思います。そもそもコミュニティが企業の中に生まれたのは昭和の頃からで、もともと外にあったものを、経済発展のために企業の中につくることで、仕事にコミットしやすく、家族の理解も得やすい状況が生まれていったのではないかと。僕らの世代からすると、企業が居場所であるというのは理解できるんですが、数十年後に歴史を振り返った時、むしろ違和感のある状況だったのかもしれません」
次のトピックとして提示された「関与がアイデンティティになると何が起きるのか?」では、「推すことは自己表現か、それとも新しい拘束なのか」についての議論が交わされました。 推し活総研の2025年の調査によると、30代前半の女性の3人に1人が推し活をしており、そうした「関与」のあり方が当たり前になることが逆に「拘束」となり、新たな息苦しさを生むのではないか。「関与の時代」における息苦しさの原因について、藤田さんが考察します。
「所属から関与の時代になることで、所属している人たちが関与している人にネガティブな感情が生まれたり、何かに関与するために無理をしたりすることがあるかもしれないですね。本来は自分自身の思いで関与していくのが基本だと思いますが、『しなければならないもの』という空気が生まれると、息苦しくなってしまうかもしれない。その結果、所属への揺り戻しが生まれることもあるかもしれません。
とはいえ、推し活が好きな人の中には、推すだけではなく、自分自身のコミュニティをつくっていたり、何かを成し遂げるために活動していたりするかもしれないですよね。人間はひとつのタイプに決められるものではないですし、『この人はこういう人だ』とイメージが固まってしまうことが、生きづらさにつながるのではないかなと。逆に所属のスペシャリストのような人がいても問題ないですし、いろんな所属と関与のあり方があっていいんじゃないかなと思います」
自治体や企業に求められる、「関与」を促す制度設計

4つ目のトピック「企業や自治体は何を設計すべきか」では、企業や推し活コミュニティだけではなく、所属や関与の対象としての自治体について議論が及びました。人口戦略会議の2024年の調査では、全国の市区町村の4割にあたる740の自治体が「消滅可能性自治体」となると推計されています。人口減少が進む日本においては、そういった自治体が関係人口を増やすために、ひとつの街に「所属」する時代から、いくつかの街に「関与」する時代への移行が必要になるかもしれません。一方で、住民票や税金、就学や就業における制度が、関与の幅を狭めてしまう可能性もあります。現在はロフトワークの渋谷オフィスで働く浅見ですが、昨年3月までロフトワーク京都に所属しており、1年半の間続いた二拠点生活の実践から、関与の時代における自治体の今後について語りました。
「子どもを含めて家族で二拠点生活ができればと思ったんですが、やっぱりルール的に子どもをどこかひとつの小学校に所属させなくてはならず、週の数日を京都の小学校に通い、残りを東京の小学校に通うといったことは出来なかったんです。仕事の内容的に多拠点生活が出来る親はたくさんいると思うのですが、就学のルールなどからひとつの街に住んでいるケースも多いと思います。人口や税収の減少で今後消滅してしまう自治体が増えるのだとしたら、関係人口を増やすために、就学や税金等の制度を変えざるを得ないということもあるかもしれません」
トークセッションの締めくくりに、藤田さんは社員たちの副業を認めているというPeatix社の実践を紹介しました。
「われわれの場合、さまざまな団体のコミュニティマネージャーや大型フェスの主催などを副業としてやっているメンバーもいるんですが、仕事上のお付き合いがある方から、『ちょっとこの仕事もお願いできる?』と頼まれたことが、副業をスタートするきっかけとなるケースが多いです。 おそらく大企業では、そういった仕事は会社として受けるべきだと、NGとしてしまうことが多いと思いますが、Peatix社ではまずは会社の案件として受けるかどうかを確認し、会社で対応できないものに関しては、副業として受けることをOKとしています。
私としては、社外での経験をお客様にも還元することができるので、副業はやってほしいと考えています。われわれのような小さい会社の場合、社外に出て活動する価値を企業がしっかりと認識し、積極的に取り組めるようにしないと、若い世代が離れて行ってしまうのではないかと。そういった会社の制度設計は、企業の存続や成長においても重要なのではないかと思います」

「所属から関与へ」という変化は、「どこに所属しているか」ではなく、「何に関わり続けているか」が、その人らしさや社会との接点を形づくる時代への移行を示しています。一方で、所属がもたらす安心感や居場所としての価値も依然として大きく、重要なのは「所属か、関与か」という二項対立ではありません。多様な関わり方を支え、一人ひとりが自分らしい関与を育んでいける社会やプラットフォームを、いかに設計していくか。そのことこそが、本セッションを通して浮かび上がった問いでした。
その意味で、公募やイベントは、単なる募集や集客の手段ではなく、人々が社会と新たな関係を結ぶ「最初の関与」を生み出す装置になり得ます。ロフトワークが運営するAWRDもまた、作品を集めるためだけの公募プラットフォームではなく、多様な個人や企業、地域が出会い、関わり合い、新たなプロジェクトやコミュニティが生まれるきっかけを育むプラットフォームを目指しています。
アイデアや作品を募ることがゴールではなく、その先にある共創や実践へとつなげていくこと。所属の境界を越えて、多様な人々の熱量が交わり、新たな関与が連鎖していく場をどう生み出すのか。本セッションは、その問いに向き合うための重要な視点を示してくれました。
執筆:堀合 俊博
撮影:川島 彩水
編集:AWRD編集部
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