FINDING 山田 麗音, 松永 篤, 松本 亮平, 松本 遼 2020.04.02

「ことば」という技術を磨こう
―阿部広太郎さん クリエイティブライティング勉強会・前編

「書く」手応えを実感する、120分

2020年1月、「ことばを磨く」をテーマに、ロフトワークでクリエイティブライティングの社内勉強会を開催しました。先生は、コピーライターで「企画でメシを食っていく」主宰・阿部広太郎さん。

ことばは誰もが使うもの。では、クリエイティブプロジェクトに求められる「ことば」の技術とは? 今回、2つのワークと対話を通じて、阿部さんからロフトワーカーに向けてクリエイティブな「ことばづくり」の視点やアプローチを共有していただきました。この勉強会の様子を前編・後編にわたってお届けします。

執筆・編集:loftwork.com編集部

コピーライター・阿部広太郎さんの仕事

山田 麗音(クリエイティブディレクター。以下、山田)プロジェクトデザインに携わるディレクターにとって、「ことば」は大切なスキルです。クライアントには、プロジェクトデザインの意図や立て付けをわかりやすく、適切に伝える。クリエイターには、わかりやすさ以上に世界観やビジョンを共有する。ディレクターの仕事をやればやるほど、「ことば」こそがわたしたちに残された最後の武器なのだと感じます。

しかし、「伝える」ことと「伝わる」ことは、必ずしも一緒ではありません。その「ことば」は、果たして相手に「伝わっている」でしょうか?

山田:今日は、改めて「ことば」に向き合うことをテーマに勉強会をやります。先生は、コピーライターとして活躍されている、電通の阿部広太郎さんです。

いかに「ことば」を磨き、人や社会にいい行動を促すか。広告から場作り、エンターテイメントなど幅広い領域から「ことば」によるコミュニケーションに向き合い続けている阿部さんにお越しいただきました。では、阿部さん、よろしくおねがいします。

会場:(拍手)

阿部 広太郎さん(以下、敬称略)ご紹介にあずかりました、コピーライターの阿部広太郎です。今日、話すことは「クリエイティブライティング」と呼ばれたりします。狙いは単純で、少しでも、「書く」ことに手応えを感じてもらえるような時間になればと思います。

山田:阿部さんのお仕事について、ご紹介いただけますか?

阿部:広告の企画をしてきました。みなさん、渋谷で働かれているので見たことがあるかもしれないですが、2015年、ロックバンド「クリープパイプ」の広告を企画しました。「真逆の気持ち」をテーマに、本当の思いとは、裏腹な気持ちを広告で表現しています。

山田:「会いたくない会いたくない…」が、逆さになっているんですね。

阿部:今は、コンテンツの企画を生業にしていて、番組を企画したり、場を作るプロデューサーとして活動したり。宣伝会議のコピーライター養成講座の講師もしています。音楽好きが高じて、作詞の活動もしています。

山田:阿部さん、ありがとうございました。では、ワークに入りましょう。文章のワークショップというと、フレームワークなどを使って学ぶことが多いと思うんですが。今日は、そういったフレームワークありきで考えるのではなくて、道場のような形でできたらと思っています。ロフトワークのみんながこの場で「ことば」をアウトプットし、そこに阿部さんからフィードバックをいただきます。

阿部:山田さんからは「忖度なしに厳しくフィードバックを!」と、言っていただいているのですが。僕自身、常々感じていることがあります。

ここにいるみなさんは、全員「感じるプロ」だと思うんです。たとえば映画を見たときに、「これはいいな」とか、「これはちがう」とか、「これはヒットするかもな」とか、たくさんのことを感じるプロです。今日のワークでは、みなさんそれぞれがコピーを書いて壁に貼り出し、それを全員で見て、それぞれ「いいな」と思うもの3つに投票します。それに対して、僕がフィードバックしていくという形でやっていきます。

山田:それでは、はじめましょう。

自分の魅力を伝える

山田:1つめのワークは、自分の中から出てくるものがテーマです。お題は「あなたの魅力をキャッチコピーにして、この会場内にファンを増やしてください」です。阿部さん、アドバイスありますか?

阿部:ひとつだけコツがあります。照れを超えていこう、ということです。恥ずかしさをポケットに閉まって、数多くのボツ案を経て、ようやくひとつのコピーが決まっていく、そんな仕事なんです。

山田:恥ずかしがらないのがコツ、なんですね。とはいっても、自分の魅力を自分でことばにするのは、けっこう難しいですよね。

阿部:そうですね。他人から褒めてもらった経験を思い出すといいと思います。発想というのは、思い出すことだと思うんです。とにかく、今から思い出してみてください。

山田:お題にある「ファンを増やす」は、あえて狙ったほうがいいのでしょうか。

阿部:もちろん、狙うのもいいのですが…まずは、自分が思う、自分の良いところを書きはじめてもらうのがいいと思います。

5分経過。お題をもとに、ロフトワーカーが書いたコピーが壁に貼り出されました。誰が書いたかによって評価が変わらないように、記名はしません。それぞれ、いいと思ったコピーに投票しました。

阿部:講評に入る前に、いくつかアドバイスを。まず、こういうワークショップでこういった付箋や紙にコピーを書くときに「横に書かなきゃ」という意識が働くと思うんですが、あえて縦に書いてみるという手があります。書くことばも、日本語でなくてもいいし、絵でもいい。「言葉」の意味を辞書で引くと、身振りや手振り、ボディランゲージだって含まれます。要は、受け取ってもらうことを目指せばいい。

そして、内容について。だれもが日頃から、ことばを使ってキャッチボールをすると思います。では、コピーライターの仕事との違いは何でしょうか。

コピーを考えるということは、ことばの中に読み手の心を動かす「矢印」を込めること。よいキャッチコピーをつくるには、自分自身の「意志」を込める必要があります。僕は、コピーライティングは、「現在地A」から未来の「幸福B」に向かうということを、ことばによって企むことだと考えています。自分が向かいたいところ、みんながいる場所よりもちょっと先の場所、目指すべきゴールに向かってボールを投げるようなイメージです。

出口じゃなく、入口をつくる

山田:それでは、得票が多かった作品を3つ見ていきましょう。3番目に投票が多かったのは、「好奇心の奴隷」。これを書いたのは…東郷りんさんですね。「好奇心」ということばと、「奴隷」という単語の組み合わせが化学反応を生んでいますね。どういう意図で書きましたか。

東郷りん(クリエイティブディレクター)自分の中のには好奇心がたくさんあって、色んな方向に向かっている。身体はそれに従うしかない…そうやって人生を歩んできた、ということをコピーにしました。実は、けっこう前からポートフォリオなどで使っていることばです。

阿部:そうなんですね。今回は5分という短時間でしたが、「ここぞ」というタイミングで自分の全体重が乗っかったことばを引き出すのは、なかなか難しいことです。東郷さんのように、日頃からことばを考えておくのはいいですね。

同じ内容を伝えるにしても、「好奇心に素直」じゃなくて「奴隷」ということばを選んだのも、パンチが効いてます。コピーを作る上で、どういう単語をチョイスするのかは大切なポイントです。それに、「好奇心」の「好」の字と、「奴隷」の「奴」の字が似ているのもおもしろいですね。

東郷さん、ありがとうございました。次に得票が多かったのは「プロの素人」ですね。書いたのは…林 千晶さん。

林 千晶(株式会社ロフトワーク 共同創業者、取締役。以下、林)えーっ、嫌だなあ(笑)。

阿部:ぜひ、意図を教えてください(笑)。

林:自分は本当に、何ごとにおいても専門家じゃないなあと感じています。では、何も役割がないかというと、そうとも思わない。UIのプロや企画のプロなど、さまざまなプロたちが提案してくれたものに「これすごいね、かっこいいね」と、フィードバックすることに価値があるんじゃないかなと。

私は永遠に素人かもしれない。ならば、「プロの素人」になろうと。この5分で考えたことばではあるけれど、ずっと考え続けてきたことでもあります。

阿部:林さんは、広く横断的に「受け取ることのプロ」なのだと思います。世の中では「プロ」というと、スキルを縦に育てていくイメージがありますよね。「プロ」と「素人」というのは反対の意味ですが、このような対局にあることばを並べると、ことばどうしが引っ張り合いをします。それが熱を生み、読み手に「どういうことだろう?気になる!」と感じてもらえます。いいコピーだと思いました。

山田:いちばん票が入っていたのは「第一印象が、いちばんいい」ですね。このコピーを書いたのは、伊藤 澪奈子さん。

伊藤 澪奈子(クリエイティブディレクター)高校の時、友達に「第一印象が一番よくて、詐欺だ」って言われたんですよね。その友達いわく、第一印象以降はずっと右肩下がりだって。そう言いながらもずっと付き合いがあります。

キャッチコピーは一言で伝えるものかもしれませんが、逆に「その先はどうなんだろう?」と感じてもらえるようなことばでもいいんじゃないかなと思い、このことばにしました。

阿部:出口じゃなくて、入口を作るということですね。みなさん、このコピーを読んだときに、心の中で突っ込んだと思うんですよ。「じゃあ、第二、第三印象はどうなるの?」って。答え合わせをしたくなる。そういう入口の設計が効いていたのだと思います。

限られたスペースや限られた文字数の中に、すべてを込めることは難しいですから。入口を上手に作った、とてもいいコピーでした。

コピーは短く、強く

阿部:みなさん、“Less is more.”ということばを聞いたことがありませんか?「少ないほうが豊かである」という意味ですが、プレゼンテーションにおいても同じことが言えます。

情報が多すぎると読み手が受け取りきれなかったり、心が拒絶してしまったり。僕は、ことばにおいても Less is more でありたいなと思っています。コピーは短く強く。いつも、一文字でも削れないかと思っています。

広告の世界では、よく「ワンキャッチ・ワンビジュアル」といいます。ワーディングを考えるとき、受け取りやすさがそこにあるかどうかを、いつも考えたいと思っています。

山田:短く強く、意識したいですね。ちなみに1つ目のワーク、実は阿部さんもやったことがあるんですよね?

阿部:はい。僕は初任配属が人事だったのですが、そこから異動して、コピーライター1年目のときに、新人コピーライターに向けて「自分の広告を作りなさい」というお題が出されました。自己紹介を兼ねて、社内のフロアで掲示されるというものでした。当時、いろいろ書いてみたコピーがこれです。

阿部:コピーを見てくれたクリエイティブディレクターが選んだのが「阿部広告太郎」でした。

その方からは、「まず名前を覚えてもらうことが大事。君は名前に広告の『広』があるんだから、『阿部広告太郎』っていうのがいちばん気になるよ」と言ってもらえました。広告をつくる人がたくさんいる場所において、広告太郎ってなんだ?となるよね、と。これも、入口と出口の設計ですね。

阿部:試験に合格した後、このポスターを電通の社内に掲示してもらいましたが、何年か後もこのコピーを覚えてくれていた人がいました。今回のワークも、実は、この場でおなじロフトワークで働くみなさんに向けて書いて見せることに意味があったのだと思います。

後編へ、つづきます。

 

企画:山田 麗音(ロフトワーク クリエイティブディレクター) ワークショップ監修:阿部 広太郎(電通) ワークショップ設計:松本 遼、松永 篤、松本 亮平 (いずれも、ロフトワーク クリエイティブディレクター)

阿部さんの「ことば」の実践を、もっと深く学ぶ

『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』

阿部さんがコピーライター養成講座や企画講座などを通じて伝え・実践してきたことが、一冊の本になりました。言葉とはなにか、自己紹介やネーミングのこと、企画書を作って自分から送ることなど―クリエイティブライティングの実践的が詰まった一冊です。お仕事のメール1本から企画書まで、「ことば」を磨きたい方は必見です。

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阿部 広太郎

コピーライター/「企画でメシを食っていく」主宰

1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。中学3年生からアメリカンフットボールをはじめ、高校・大学と計8年間続ける。慶應義塾大学経済学部卒業後の2008年、電通入社。人事局に配属されるも、クリエーティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。
「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」篇の制作に携わる。その他にも、尾崎世界観率いるクリープハイプがフリーマガジン「R25」とコラボしてつくったテーマソング「二十九、三十」の企画。松居大悟監督による映画「アイスと雨音」、「君が君で君だ」のプロデュース。ソーシャルエンターテインメントの「ダイアログ」シリーズのクリエーティブディレクション。作詞家として「向井太一」や「さくらしめじ」に詞を提供。
自らの仕事を「言葉の企画」と定義し、映画、テレビ、音楽、イベントなど、エンタメ領域からソーシャル領域まで越境しながら取り組んでいる。2015年より、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を主宰。著書に『待っていても、はじまらない。-潔く前に進め』(弘文堂)、「コピーライターじゃなくて知っておきたい 心をつかむ超言葉術」(ダイヤモンド社)。

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