FINDING 山田 麗音, 松永 篤, 松本 遼, 松本 亮平 2020.04.13

人を動かす「ことば」のつくりかた
―阿部広太郎さん クリエイティブライティング勉強会・後編

人や社会にいい行動を促す、ワーディングの実践

ビジネス創出から社会課題の解決まで、さまざまな領域のプロジェクトデザインに携わるロフトワークのディレクター陣が改めて「ことば」に向き合うべく、コピーライティング(クリエイティブライティング)の社内勉強会を行いました。講師は、広告制作から場作り、エンターテイメントなど幅広い領域から「ことば」によるコミュニケーションに向き合い続けている阿部広太郎さん(電通)です。

勉強会の前半では、自己紹介を題材にしたことばづくりのワークを通じて、自分の中にある「ことば」を磨くための基本のアプローチをインプットしました。本レポートでは、より実践的なコピーライティングのワークを起点として、クリエイティブプロジェクトに求められる「ことばづくり」を掘り下げます。

執筆・編集:loftwork.com編集部

阿部 広太郎

コピーライター/「企画でメシを食っていく」主宰

1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。中学3年生からアメリカンフットボールをはじめ、高校・大学と計8年間続ける。慶應義塾大学経済学部卒業後の2008年、電通入社。人事局に配属されるも、クリエーティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。
「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」篇の制作に携わる。その他にも、尾崎世界観率いるクリープハイプがフリーマガジン「R25」とコラボしてつくったテーマソング「二十九、三十」の企画。松居大悟監督による映画「アイスと雨音」、「君が君で君だ」のプロデュース。ソーシャルエンターテインメントの「ダイアログ」シリーズのクリエーティブディレクション。作詞家として「向井太一」や「さくらしめじ」に詞を提供。
自らの仕事を「言葉の企画」と定義し、映画、テレビ、音楽、イベントなど、エンタメ領域からソーシャル領域まで越境しながら取り組んでいる。2015年より、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を主宰。著書に『待っていても、はじまらない。-潔く前に進め』(弘文堂)、「コピーライターじゃなくて知っておきたい 心をつかむ超言葉術」(ダイヤモンド社)。

「行ってみたい」と思わせる

阿部 広太郎さん(以下、敬称略)さて、次のワークは、みなさんにとって身近な場所をどう表現するか、ですね。

山田 麗音(ロフトワーク クリエイティブディレクター。以下、山田)お題は、ロフトワークが運営する、さまざまな素材を使ってものづくりができるコワーキングスペース『MTRL(マテリアル)』のサイトのコピーです。「Aboutページの見出しを、ターゲットがもっと『MTRLに行ってみたい』と思えるようなコピーにしてください」

山田:現在のコピーは、“Innovation Platform For MATERIAL and CREATOR”…英語ですね。スペース利用者のターゲットは企業とクリエイターですが、今回は主にクリエイターにむけたコピーを考えてください。

ひとつめのワークと比べると、難易度がぐっと上がると思います。もし、いいコピーができたら、サイトの見出しコピーが変わるかもしれませんね。クリエイターに「来てみたい」とわせるキャッチコピーを考えてみましょう。

5分経過。お題をもとに、ロフトワーカー全員が書いたコピーが貼り出されました。前回と同様、参加した全員でいいと思うコピーに投票します。

雰囲気やイメージを規定する

山田:では、また上位の作品を見ていきましょう。「なにして あそぶ」のコピーを書いた人に訊きます。松永 篤さん、お願いします。

松永 篤(クリエイティブディレクター)自分が利用する視点になると、「あそぶ」という言い方がいちばん気楽で想像力が働くのではないかと思いました。

阿部:僕もワークがはじまる前に2階のMTRLを見てきました。一般的なコワーキングスペースと比べても、さまざまな工作機械があることや、雰囲気のいい木製の机や本があるのが特徴的でした。

このコピーは、「あそぶ」ということばによって、「コワーキングスペース」という場所から「働く」という先入観を外してあげることで、ユーザーのマインドがワクワクするような感じがいいですね。

山田:一番人気だったのは、「マテリアルがマッテイル」でした。これを書いたのは、高井 勇輝さん。

高井 勇輝(クリエイティブディレクター)マテリアルに来ることのベネフィットを伝えたいと考えた結果、ボディコピーにつながるようなコピーにしました。

阿部:「マッテイル」の語感、リズムがいいですね。読んでいる人にとって、心地よさがあったのではないでしょうか。

コピーは、対象そのものの雰囲気やイメージを規定する役割もあります。元のコピー“Innovation Platform For MATERIAL and CREATOR”を見ると、クールな雰囲気にしたかったのだと思います。でも、英語であることで、ちょっと敷居を上げてしまう印象があります。

「マテリアルがマッテイル」ということばは、MTRLという場所自体が持っている「親しみやすさ」を、うまく纏っているように思いました。

山田:ほかに、阿部さんが気になったコピーはありますか?

阿部:「化学反応の玉手箱」が、気になりました。ただ、「玉手箱」のような強いことばを使うときには、ことば本来のイメージが、本当にその場所にそぐうのか気をつけたいです。「開いたときにお宝がある」という「玉手箱」のイメージと、実際の場所での体験との間にズレや距離感がないかどうか。ほかに、もっと奥の方に「らしさ」を感じさせることばを選ぶといいですね。

山田:なるほど。やはり、ことば選びは重要ですね。

阿部:「デザイン・ドリブン・イノベーションからマテリアル・ドリブン・イノベーションへ」というコピーについて、現在地としての「デザイン・ドリブン・イノベーション」は、多くの人がぱっと何かをイメージできることばではないかもしれませんね。「AからBへ」はコピーの基本フォーマット。ただ、その背景にある「AではなくB」の意図が受け取りやすいことばを選ぶ必要がありますね

ことばづくりの思考フレーム―3つの接続詞

阿部:コピーライティングの思考フレームは、この3つの接続詞でできると思っています。

阿部:「そもそも」は、「そもそも、それは何なのか?」という問いを立てて、深めていくこと。

「たとえば」は、発想を広げていくこと。「たとえば」という接続詞を使いながら、自分の人生経験の中からイメージの円を広げていきます。お題が「恋愛」であれば、「そもそも恋愛とは何だろう?」からスタートして、「たとえば、十代の頃って?」と思い出していく。その時に、枕詞を疑うことも意識したいです。「恋愛といえば告白」でも本当にそうか?と。そこから、あえてその期待を裏切るなど、展開を広げていきます。

最後に「つまり」。広げたイメージの中から、自分が「ここに向かうべきだ!」と思うという本質に絞り込んでいく作業です。

「そもそも」「たとえば」「つまり」―この3つの接続詞を行き来しながら、ことばづくりをしていくというやりかたを覚えてもらえたらと思います。

ものさしをどこに置くか

2つのワークのあと、ロフトワーカーと阿部さんのオープンディスカッションを行いました。

原 亮介(クリエイティブDiv. シニアディレクター)プロジェクトでコピーを決めるときに、複数案を集めていざ投票、というケースがありますよね。そのような場合、どうやって一番いい形で最終案を決定しますか。

阿部:そうですね。それは「世界一美味いラーメンはなにか」という問いと同じかもしれません。売れているラーメンが美味いはずだから「日清のカップヌードルだ」という人もるでしょう。同時に、「車で一時間かけて食べに行くラーメンがいい」という人もいます。

人によって「いい」のものさしは違います。プロジェクトごとにものさしをどこに置くか、まず議論して決める必要があります。プロジェクトとして「何を信じたいのか」、あるいは「どこをいちばん拠り所にするか」を決めるんです。たとえば、「世の中で、こういうことに困っている人がいるはずだ」「◯◯な人たちの役に立ちたい」とか。そこをすり合わせていくことが何より大切だと感じています。

覚悟のある肯定

松永:ディレクターとしてコピーライティングを依頼したいときに、ライターにどこまで何を伝えたらいいでしょうか? 普段から、クリエイターにプロジェクトの背景やターゲットなどを伝えていますが、阿部さんの経験の中で「こういうパートナーといいものをつくれた」ということがあれば、教えてください。

阿部:一番大切なのは、お互いにとって「いいゴール」を目指していることを忘れないことです。向かい合って座ってるのではなく、並走しているというイメージを共有する。

僕はプロジェクトにプロデューサーとして関わることもあれば、ライターとして関わることも両方ありますが、「いやいやいや!」って言いたくなることはありますよね。そういうときは、まず「相手がなにをやりたいのか」をきちんと確認するように心がけています。

僕は「覚悟のある肯定」と呼んでいますが、一般的には「敬意」と同じ意味ですね。そういう感覚をもちながら、パートナーとなるライターと同じゴールを目指して、一緒に並走できるといいですね。

才能でなく、「これからの自分」を評価する

山田:今日は、非常にお忙しい時期にもかかわらず、勉強会を引き受けていただき、ありがとうございました。コピーライティングの技術のお話にとどまらず、ディレクターにとって必要な視点をたくさんいただけました。

阿部:こちらこそ、呼んでいただきありがとうございました。こんなにたくさんのことばが、みなさんの中に眠っていたんだなあと思います。

最後に、僕は「クリエイション」とは、表現を生業にしている人たちだけじゃなく、みんなができることだと思っています。どうしたら、受け取ってもらえるか?メールひとつでもコピーライティングです。今日感じたことは、ぜひ日頃から意識してもらえたらうれしいです。

コピーライティングや企画に取り組もうとするとき、つい「才能」ということばに振り回されてしまいます。「才能」ということばは「これまでの自分」を評価するものですが、「これからの自分」を評価できるのは自分自身だけです。今日の会が、ことばを使って何かを伝えたい、行動したいというみなさんの背中を押すことにつながればと思います。今日はおつかれさまでした。

会場:(拍手)

企画:山田 麗音(ロフトワーク クリエイティブディレクター) ワークショップ監修:阿部 広太郎(電通) ワークショップ設計:松本 遼、松永 篤、松本 亮平 (いずれも、ロフトワーク クリエイティブディレクター)

阿部さんの「ことば」の実践を、もっと深く学ぶ

『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』

阿部さんがコピーライター養成講座や企画講座などを通じて伝え・実践してきたことが、一冊の本になりました。言葉とはなにか、自己紹介やネーミングのこと、企画書を作って自分から送ることなど―クリエイティブライティングの実践的が詰まった一冊です。お仕事のメール1本から「ことば」を磨きたい人、必見です。

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