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基 真理子 2020.08.03

仕事と人生の不測事態を楽しむための「プロジェクトマネジメント」

こんにちは。京都オフィスでディレクターをしている基(もとい)です。
今回は、京都メンバーを対象に実施した「プロジェクトマネジメント講座」で感じた「エモさ」をレポートしたいと思います。

基 真理子

Author基 真理子(HRディレクター )

兵庫出身、京都在住。フリーター時代にWebの世界に魅了され独学を始める。その後、百貨店系クレジットカード会社のWeb担当者として、サイトのフルリニューアルなどを推進。書籍『Webプロジェクトマネジメント標準』との出会いをきっかけに、2018年ロフトワークへディレクターとして入社。教育機関や企業の大規模Webリニューアルから、イベントの企画運営など幅広い領域に携わる。また芸大でのPM特別授業講師、KJ法勉強会など、多様な「学び」のデザインにも従事する。2021年に罹患した病をきっかけに「健やかに働くこと」をより深く考え、HRディレクターに就任。採用業務全般から、育成プログラム開発まで「人」に関わる業務を担っている。2024年米国PMI®認定PMP®取得。合言葉はENJOY NOISE。アカハライモリと暮らす。

Profile

そもそもプロジェクトマネジメントって何?なぜやるの?

私がロフトワークに入社したきっかけは、書籍「Webプロジェクトマネジメント標準」に出会ったことでした。入社して2年が過ぎ、今は「プロジェクトマネージャー」、つまり「プロジェクトの責任者」として社内外の人たちと、コミュニケーションをしながら働いています。

「プロジェクトマネジメント(以下PM)」という言葉は社内でも頻出するのですが、入社して間もないメンバーや、ディレクター以外のメンバーは実践する機会も多くありません。またディレクターである私自身も、絶対的な正解もないプロジェクトとの向き合い方について模索しつづけています。

そこで、ただPMの知識を学ぶのではなく、「そもそもPMって何?何のためにやるの?」から始めるオンライン勉強会を開催しました。PMに関する講義を50以上開発されている野村隆昌先生をお招きして、ディレクター以外のメンバーも含む総勢20名が参加し、3日間実施しました。

講座はオンラインで実施。オンラインホワイトボードツール「miro」を使ったグループワークも織り交ぜながら「考え、伝える」時間も盛り込んでいただきました。

プロジェクトマネジメントってエモい!

皆さんはPMという言葉に対して、どんな印象を持ちますか?
「マネジメント」という言葉から、何かもを理詰に計画、管理するというシステマチックな印象をもつ人も多いのではないでしょうか。多くの人にとって、ワクワクする言葉ではないと思います。

ところが講座を終えた参加メンバーの感想に、「PMって人生そのもの、エモい!!」という言葉がありました。
「PMと人生とエモさ」、この3つの言葉が結びつくことは少しイメージしづらいかと思います。もちろん私も講座を受けるまでは、PMとは仕事を円滑に進めるための手法であり、自分の生き方をつなげて考えることはありませんでした。

仕事でも人生でも、私たちは誰かに働きかけ続ける

ところが配布された資料の冒頭に「PMとは人が人に働きかけること」とありました。

「誰かに働きかける」場面は、仕事だけではなく、日常生活の中でもたくさんあります。友人や同僚との何気ない会話、コンビニでの買い物、子育てなど、私たちが日々生活するなかで、自分の小さな行動や感情は、少なからず誰かに影響を与えています。そして自分自身の考え方や、物事の捉え方、対応方法によって、与える影響は大きく変化していきます。しかし、影響を与えることを恐れているだけでは何の変化も生まれません。自己と向き合い、相手の心境や環境を考慮した上で働きかけることによって、はじめて前向きに進むことができるのです。

他者と共に未来に向きあうきっかけ作り

そしてロフトワークでは社内メンバーやクリエイターはもちろん、クライアントの方々も重要なチームメンバーになります。1人1人異なる環境や専門分野を持っているなかで、それぞれの頭の中が完全に一致していることはあり得ません。
またロフトワークのプロジェクトでは、新しい「何か」にチャレンジすること、新しい価値を生み出すことが求められる機会が多くあります。プロジェクト序盤には、誰にも見えていない「ゴール」をみんなで一緒に考えていくのです。そんな中、相手が頭の中に持つ「不安や懸念、期待」は自動的に表には出てきてくれません。

そこで大事なのは「どのようにして相手に働きかけるか」です。モヤモヤするグレーゾーンを、みんなで「可視化」し、一緒に計画することにより、見えないゴールに一歩ずつ近づいていくことができます。

人間らしい不完全さを受け入れる

また自分自身はもちろん、他者も含め、人間は機械のように完璧には行動できません。だからこそ、感情が揺らいだり、気が緩んでしまうこともあります。やるべきタスクを放置したまま、寝てしまうこともあるでしょう。

プロジェクトを成功に導くためには、人間らしい不完全さを否定するのではなく、不完全さを受けいれ、未来形で考えつづけることが重要です。

不完全さを受け入れ、未来に向きあうPMのエモさ

「エモい」という感想が生まれたのは、PMの本質である「人が人に前向きに働きかけること」が仕事だけでなく、人生そのものでも大事なことだからではないでしょうか。

1日目の講座を終えて、参加者がそれぞれ大事にしていきたいと考える「自分の原則」を書き出しました。

不測事態と向き合うためのPM

人に対して前向きに働きかける必要性と共に、私が特に感じたことは「PMとは変化と前向きに向き合う姿勢」であるということです。予測できない不測事態は仕事だけでなく、人生の中でも何度も発生します。

「完全な計画」は存在しない

グループに分かれて実施したディスカッションで、特に盛り上がったのが自分の感情を客観視し、物事を多角的に見つめ直すための「怒りの分析」でした。
ここでは、参加者が最近感じた怒りや不安で「心がざわざわした」場面と、「どのように対応したのか」を付箋に書き出しました。

仕事に関わらず、最近心が「ザワザワ」した場面と対応方法を書き出し。同僚の知らなかった性格も見えて、とても盛り上がりました。

分析を通じ、私の場合は「変化や想定外」のことに直面したときに、心がザワザワすることがわかりました。どちらかというと、私は保守的な性格で、何かを計画する際にも「完全な計画」を立てることを理想としていました。

例えば旅行に行く際も、「行く場所リスト」をきっちり作ることに快感を覚え、旅行先では起床時間や移動時間までカレンダーに登録しないと落ち着かない面倒な性格でした。
もちろん計画が、計画通りにいくことはありません。予測していなかった面白スポットに出会うこともあれば、道に迷って移動時間が倍以上かかることも多々あります。自分が計画通りに行動しても、同行者が体調を崩してしまうこともあります。

旅行であれば、「旅ならではの偶然」として楽しめても、仕事に関してはどうでしょうか?
思い返せば、いくら綿密に計画をして、リスクを洗い出し、対応方法を考えたとしても、予測できていないことは毎回発生していました。「計画が計画通りにいかない」ということは、誰もが直面することなのです。ただそこで行き詰まってしまうだけでは、プロジェクトは100%失敗します。

変化を受容するために計画する

講座の中で、プロジェクトとは「変化することが前提」という野村先生の言葉がありました。この前提を受け入れると、全てを完全に予測し決定するためではなく、変化を受け入れるために計画を立てるようになります。つまり「変化に対応するために余白をデザイン」できるようになるのです。

講義終了後は参加メンバー各自で「PMとは何なのか?何のためにやるのか?」を書き出し、合計1万字を超える熱い感想や意見が集まりました。

こんなプロジェクトマネージャーになっていきたい

私自身、苦手なことはたくさんあります。でも誰かに協力をしてもらったり、一緒に何かを作っていくことはできます。
講座を通じて、私は完全無欠のプロジェクトマネージャーではなく、働きかけ上手なプロジェクトマネージャーになっていきたいと感じました。一人で全てを計画、予想するのではなく、他者に対して「どう思う?」「どうすれば成功に近づく?」「これお願いできる?」と働きかけることが得意になりたいです。

私にとってPMとは単なる知識でも、仕事を円滑に進めるためだけのものではなく、不完全な自分や、不測事態を前向きに捉える姿勢です。そしてその前向きな姿勢は仕事だけでなく、私自身の生き方にも大事なことだと感じました。

そして今回のPM講座を通じ、自分自身の生き方にまで考えることができたのは、講師である野村先生のおかげです。本当にありがとうございました。

最後に社内メンバーからの感想を一部抜粋

  • PMの面白いところは「人の気持ちをなによりも尊重」しているところだ。
  • PMとは自分の周りの人たちを、もれなく最良の状態にするための手法。
  • PMを一言で言えば「やるならとことん皆で楽しもう」だと感じています。
  • 私はまだ入社して7ヶ月です。PMBOKの本をひたすら読むだけではなく、目の前の人やプロジェクトに目を向けることで、もっともっとPMとは何か、を深く考えられるようになるのではないかと感じます。
  • PMの知識体系は、クリエイティブな思考のための「問い」の集積であり、これらの問いに真摯に向き合い続けることが、プロジェクトマネージャーに基礎的に求められる《原則》となる。
  • PMは人生設計にも通じる点が多くあり、改めてコミュニケーションの取り方や、自分と謙虚に向き合うことの大切さを学びました。
  •  面白かったのは「牽引するタイプのPMでなくてもいい」という話。ロフトワークにも色々なタイプのPMがいて「牽引タイプ」「黒子タイプ」「参謀タイプ」など。どれも正解なんだなと思いました。
  • それぞれの人の立場や考え方を否定するのではなく、肯定する。それは、一人一人を「活かす」ということに繋がっていく。突き詰めれば、「人を活かす」ことなのではないか、というのが、私なりに捉えた「PMの本質」です。

野村先生からの感想

今回は、コース開発中に、世界的パンデミックが発生し、社会環境が劇的に変化している期間が重なりました。【楽しさとクリエイティブさを失わず、どのような環境変化にも前向きに、かつ、きちんとすべきところはきちんとする、でも、人として正しいコトを行おう】、そんな全くオリジナルな、新たなプロジェクトマネジメント入門コースとなりました。皆さんが一歩踏み出すきっかけになれば幸いです。
これまで多くのコースを開発してきましたが、「エモい」と評されたのは今回が初めてです。皆さんと充実した時間を過ごし、多くを学ばせて頂きました。本当にありがとうございました。お互い成長して、また、共に学びましょう!

有限会社システムマネジメントアンドコントロール 取締役社長 野村 隆昌

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