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松本 亮平 2020.08.25

これからオフィスに求められる役割とは
コンセプトづくりのポイントもご紹介

本記事は、企業で働くクリエイター向けのウェブマガジンCreatorZineにLayout Unit ディレクター松本亮平が寄稿した記事を一部編集して掲載しています。

[CreatorZine]
これからのクリエイターはどんな場所を大切にすべきか 企業や組織はどんな場所を提供すべきか

https://creatorzine.jp/article/detail/1239

世の中全体が大きく変わろうとしているいま、個々人の働き方、オフィスの役割はどう変わるのか――。

初回ではプロジェクトを成功に導くために必要な3つの脳について、vol.2ではロフトワーク空間プロデュースチーム「Layout Unit」で実践しているプロジェクトデザインのフレームワークをもとにしながら、これからを生き抜く自分らしい働きかたを見つけるための問いをご紹介しました。

最終回となるvol.3 では今後大切にすべき“場”とそれを提供するためのアプローチについてご紹介します。

COVID-19 によって揺さぶられた価値観

COVID-19感染拡大を受け生活スタイルが大きく変化するなかで「COVID-19の前後で人の価値観がどう変わるのか?」という問いは世の中の大きな関心ごとになりました。さまざまな仮説や予測が生まれていますがLayout Unit でも、有識者の見解、ウェブ上に投稿されている記事、未来予測をしている各種メディアなど包括的にリサーチを実施。都市圏でのライフスタイルにおいてという前提のうえで、

  • 働く場
  • オフィスが担う役割
  • 組織デザイン
  • 1人ひとりの働きかたのデザイン

の4つの視点で今後どのような変化が起こり得るか見解をまとめました。

1)働く場

ひとつのオフィスに集まって仕事をするのではなく、組織としてのありかたや個人の働きかたに合わせて、自宅勤務も含めた多拠点かつネットワーク型のオフィスのあるべき姿を模索する必要がある。企業の立地が多様になり、立地がアイデンティティにもなり得る。

2)オフィスが担う役割

オンラインミックスで場所にとらわれずに働けるウィズコロナ時代において、オフィスはアイディア発散や社員の帰属意識向上の役割を担う。またオフィスが企業ブランドを浸透させるためのランドマーク的機能、ショーケーシング的機能を果たすなどの変化が生じる。

3)組織のデザイン

これからは、ハードとしてのオフィスやそこに実装したいファニチャーやファシリティを考える前に、時代に即した “その企業らしい働きかたや活動”のビジョンやコンセプト、またそこに紐づく評価制度など、組織変革に関わる仕組みを定義し、構築することが求められる

4)1人ひとりの働きかたのデザイン

それぞれが時間や場所にとらわれず、複数の収入源を持ちながら仕事をするようになる。好きなこと、得意なこと、お金を稼げることなどを組み合わせてポートフォリオ化していき、安定した収入を得ながら、仕事が舞いこむネットワークを広げるための関係人口を増やすことも重要になる。

オフィスだからこそ果たせる機能とは

これら4つの視点を俯瞰してみると、いくつか見えてくるものがあります。ひとつは、「本社オフィスやワークプレイスの本拠地では、集まることの価値、多様な人がオフラインで交わることへの価値をより感じられる(場へ人の足を運ばせるための)活動が必要になる」ということです。

Layout Unitでは、オフラインでワーカーが場に集まる価値は「共創活動」だと考えています。

プロジェクトメンバーで一緒に顔を突き合わせて、同じものを目で見て、手で触り、耳で聞いて、鼻で嗅ぐ、舌で味わう時間をつくること。この時間だけは、決してひとりやオンラインではつくることができない活動です。

共創活動の中でも、ビジネスをブーストしていくためにワークプレイスにリアルに集まり行われるべき内容は何か整理し、3つにまとめたのが以下です。

1)スピーディなプロトタイピングと議論の機会

プロジェクトメンバーや共創活動をともにしている社外のメンバーと同じ場所で、プロトタイピングをしてみる。自分たちが世の中に届けようとしているサービスやプロダクトの試作品をスピーディに作成し、品質や機能アップのための議論やユーザーテストを行う。そういった活動は、価値あるアウトプットを開発するためには欠かせないプロセスです。

場に用意するファシリティは企業によってさまざまだと思いますが、レーザーカッター、3Dプリンター、3Dスキャナーなど、プロトタイピングを効果的に行うための機器で自分たちの活動に必要なものがあれば、それらを完備することも、リアルな場を持つ価値のひとつになるかもしれません。

2)偶発性の高い社内外の交流(ミートアップ)の機会

プロジェクトに関わる社内外の多様な属性の人たちを集めて、同じ釜の飯を食べたり、交流する機会を持つことも、重要な共創活動のひとつ。同じ時間をいろんな人たちと共有し会話することで、プロジェクトのコアメンバーだけでは思いつかなかった視点やアイディアを得られたり、それを世の中へ届ける方法や広く知ってもらうための手段など、プロジェクトの価値が高まる多くの気づきを獲得することができるでしょう。

3) ワークショップなどのディスカッションを通してひとつのアウトプットをつくる機会

アイディアの発散はひとりの時間もできますが、たくさん発散されたアイディアたちを収束させ、ひとつの成果物(アウトプット)として形にするためにはプロジェクトメンバーが同じ場に集い、濃厚に議論する必要があります。そのサービスやプロダクトの品質や価値を客観的に評価したり、ユーザーにそれを享受してもらうための機能は何かを考えたり、メンバー全員で共通言語にまとめるプロセスは、顔を突き合わせて実施したい共創活動です。

今後より求められるのは、ワークスタイルのコンセプトメイキング

もうひとつ見えてくることは、「自分が在籍するオフィスの自席で、朝から晩までPCに向かって仕事をしている姿を上司に見てもらうことで評価を受けるスタイルが通じなくなる」ということです。 

COVID-19などの感染対策の面もあと押しとなり、ワーカーのライフスタイルに合った場で働くことが尊重される動きが高まっています。これからは、働く場の多様化が進み、上司と部下が同じ場で働くというシーンが減っていくでしょう。そうなっていけば、上司が部下の仕事を見守る(悪くいうと、ちゃんと働いているかを見張る)ことができなくなっていきます。そうなると、ワーカーに対する評価方法にも変化が生まれるでしょう。

どれだけの時間働いたかではなく、どんなもの(アウトプット)をつくりあげ、それによってどんな成果(アウトカム)を組織や社会に与えたのか、で評価される時代に突入しているのです。日本の企業で、しっかりとアウトカムでワーカーを評価できているところはまだそれほど多くないかもしれませんが、今後重要視されていく評価軸だと私たちは考えています。

このように評価軸が移り変わっていく時代において、ワーカーを評価する、ワーカーに働く場を提供するマネジメントや経営層のメンバーは、どんなことから取り組む必要があるのでしょうか。

それはズバリ、自分たちらしいワークスタイルを言語化し、ビジョンやコンセプトとして掲げる(社内外に発信する)ことです。

COVID-19やこれまでの働き方改革をひとつのきっかけに、自分たちが理想とする、もしくは実現したいと考えている「自分たちらしいワークスタイル」を整理し、言葉とビジュアルに落とし込むのです。

それをつくることにより、ワーカーが自分のワークスタイルを考える際に、社内改革の旗振りアイテムとしての機能を果たす「よりどころ」をつくることができます。さらにそのコンセプトが社内で浸透すれば、ワーカー自身が能動的に、仕事においてどんなもの(アウトプット)をつくりあげていきたいか、どんな成果(アウトカム)を組織や社会に与えていきたいのかを見つめ直すきっかけをも与えることができるのです。

自分たちらしいワークスタイルを整理していくには、複数拠点間の役割、経営者の視点、ワーカーの働きかたに対しての評価方法、人材育成の視点など、あらゆる側面で考えていく必要があります。

では、そういったワークスタイルを築くためのコンセプトは、どのように考えていけばいいのでしょうか。今回は、私たちがオススメするアプローチの切り口を3つご紹介したいと思います。

1)組織のありかたから考える

ひとつめは、「組織のありかたから考える」ものです。まさに先に触れた、ワーカーの評価方法から改めて考え、コンセプトに落とし込んでいくパターンです。ハードとしてのオフィスやそこで行われる活動を考える前に、時代に即した“その企業らしい働きかた“の定義や、そこに紐づく評価制度など、組織変革に関わる仕組みを合わせて定義・構築していく方法です。

2)オフィスがあるべき場所から考える

ふたつめは「オフィスがあるべき場所から考える」です。企業が解決したい課題へのアプローチにオフィスを構える場所が大きく関わってくる場合、このアプローチ方法を用いるとよいでしょう。
たとえば、自分たちのサービスユーザーが多く集まる場所にオフィスを構えることで、ユーザー中心のフィードバックをダイレクトに得ることができる。そしてそれらをもとに、さらにスピード感をもって企業内外の活動やプロジェクトを進めることを狙う、というものです。創業の地を守りたい、盛り上げていきたいといった思いから、オフィスの場所が決まることもあるかもしれません。このアプローチでは、場所に強力に結びついた企業アイデンティティを醸成することも可能です。

3)オンライン/オフラインMIXな視点で考える

最後は、「オンライン/オフラインMIXな視点で考える」というアプローチです。多様な働きかたを受け入れながら、拠点横断型のコミュニケーションを促進するために、オンラインに関する施策を同時に整理・検討する。これにより、自分たちの新しいワークスタイルのコンセプトをまとめていく進めかたです。

いかがでしたでしょうか。

Vol.1から今回まで、個人としての働き方、オフィスの役割はどう変わるのか、これからの企業のありかたについてなど、領域を横断しながらお話をしてきました。

働く個人にとっても、場を提供する側の企業や組織にとっても新しいワークスタイルを模索し、実現するためのヒントになれば幸いです。

私たちにお手伝いできること、プロジェクトで支援できることがあればお気軽に是非ご相談ください。

松本 亮平

Author松本 亮平(Layout Unit シニアディレクター)

関西学院大学卒。学生時代には途上国開発や国際問題を学びながら、アメリカのNGOの海外住居建設プログラムに参加し東南アジアを歴訪。卒業後は大手オフィス家具メーカーに就職し、オフィスワーカーの働く環境改善や提案に奮闘。クリエイティブが生まれる環境を自ら創造していきたいと、2014年ロフトワークに入社。Webディレクションで培ったプロジェクトマネージメントの力を基盤に、共創空間、クリエイティブ空間のプロデュースに従事。国内外問わず、あだ名は「へいへい」。

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対話を重ねる、外の世界に触れる。
空間に魂を吹き込む、オフィスリニューアルの軌跡