未来を見据え、組織をデザインするために
——デザイン・フューチャリスト 岩渕正樹さんに訊く・前編
今アメリカで注目されている、デザイン・フューチャリストが果たす役割とは?
変化が激しく先行きが不確定なVUCA時代に加え、コロナ禍や国家間の紛争といった「不測の事態」が世界規模で経済や人々の暮らしを大きく揺るがしている昨今。過去の経験やデータの積み重ねだけで未来を見通すことが困難となっている中で、多くの企業がいかに経営の舵を切るべきなのか、判断を迫られています。
アメリカの先進企業の中には、自社の事業領域の今後の変化を明らかにするために、自社内でデザインリサーチ組織を組成したり、「Futurist(フューチャリスト)」と呼ばれる未来洞察の専門人材を集める企業も現れています。2021年、アメリカ最大の銀行であるJPモルガン・チェース銀行のデザインを通した未来洞察をリードする人材として、デザイナー/デザインリサーチャーの岩渕正樹(いわぶち・まさき)さんが、同銀行の「デザイン・フューチャリスト」に就任しました。
本記事では、岩渕さんにVUCA時代において企業が自社のパーパス(社会的存在意義)を軸に、未来を洞察しながら事業や組織をデザインしていく意義と、その中でデザイン・フューチャリストが担う役割について伺いました。その内容を、前後編にわたってお届けします。
企画:伊藤 望、谷 嘉偉(株式会社ロフトワーク)
執筆:中嶋 希実
写真:村上 大輔
編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)
話した人
岩渕 正樹
JPモルガン・チェース銀行 デザイン・フューチャリスト
谷 嘉偉
ロフトワーク クリエイティブ・ディレクター
伊藤 望
ロフトワーク クリエイティブDiv. シニアディレクター
現場での実践から、世界を変えていく
ロフトワーク 谷(以下、谷) 今日はよろしくお願いします。まずは岩渕さんがデザイン・フューチャリストになるまでの経緯をお聞かせいただけますか?
JPモルガン・チェース銀行 岩渕さん(以下、岩渕) 東京の浅草で生まれ、それからずっと日本で育ちました。大学では情報工学を専攻し、ヒューマンインタフェースの研究をしていました。インタフェースとは人間と機械の境界面を指し、私自身は新しい情報メディアや、テクノロジーとデザインとの関係性に関心を持って研究をしていました。
大学で学んだインタラクションデザインの知識や技術を使って、実社会で人間の生活を便利にするプロダクトやサービスをつくりたいと考え、大学院修了後に日本IBMに戦略コンサルタントとして就職しました。その後、デザイン思考や創造的なビジネス創出のニーズの高まりを受けて、2010年代中盤にIBMデザインという組織ができたんです。以降は、同組織のデザイナー・デザインコンサルタントとして、いろいろな業界のクライアントの新規事業やサービス創出に関わりました。クライアントのビジネスや中期戦略、そしてIBMのテクノロジー。これらを理解した上で、人間中心のサービスをデザインしていくこと。まさにビジネス、テクノロジー、デザインの交点で課題を解決することに取り組んでいました。
日本での社会人生活は非常にやり甲斐のあるものでしたが、一方で「目の前の問題」の解決に取り組むほどに「不確実な未来」に翻弄されるようにもなりました。課題解決に向けた新しいサービスを提案しても、社内外の状況が急に変わってしまい、日の目を見ることがなくなってしまうことも。例えば、東日本大震災の前後で、それまで進めていたプロジェクトの前提や顧客設定が全く変わってしまいました。
そういった状況の中で、現在の喫緊の問題に対する解決策だけではなく、想定外の社会変化にも耐えうるサービスをつくるにはどうしたらよいのか、また、気候変動や少子高齢化など、これから確実に起きる未来を見越した準備や対応をどう現在の文脈に組み込めばよいのかなど、目線が「現在」から、より「未来」へと向いていったんです。
当時は、デザインの分野でいうと、スペキュラティブ・デザイン*やトランジション・デザイン*など、デザインを通じて「今はありえないけど、もしかしたら将来ありえるかもしれないサービス」を探索的に提示したり、数十年先の長期的な視点で自分たちが生きたい社会像を考えるような領域が新たに出てきていた頃でした。社会人経験を積んだ上で、さらに世界の最前線のマインドセットを吸収したいと考え、アメリカに渡ったんです。
ニューヨークのパーソンズ美術大学で、いま話したような新しいデザイン領域について学んだあと、そのままニューヨークを拠点として、2021年からJPモルガン・チェース銀行(以下、チェース銀行)でデザイン・フューチャリストというポジションで働いています。
谷 ビジネスの領域から学術的な領域に移った後、就職先に銀行を選んだのはどのような経緯があったんですか?
岩渕 自分の関心は現在のユーザーの問題解決ではなく、未来のあるべき社会像を夢想するような壮大な領域に向いており、これを職業にするとなると、もはや従来のキャリアであった「UXデザイナー」や「デザインコンサルタント」という領域を超えているな、と感じました。自分が本当にフィットする職種はなんだろうと考えていたとき、たまたまチェース銀行で「デザイン・フューチャリスト」という、アメリカでも新しいポジションを募集しているのを見つけて、「これだ!」と。
デザインという領域は人間と相互に関連し合うものなので、最先端の方法論から人間が使うモノに落とし込み、実践のなかでフィードバックを受けながら探求していくことが重要だと考えています。アカデミックなまなざしでデザイン自体を探求・研究することを大切にしながらも、ビジネスの場で実践していくことにも挑戦したかったんです。
もともとIBMにいたので、テクノロジーが人間の生活や社会を変える力を信じているし、アメリカでGAFAのようなテック企業に再び入るというキャリアも選択できたと思います。ただ、アメリカのデザインスクールで興味を持ったのは、より人文学系の分野というか、人々の価値観や国民性、個人の人生哲学といった、より長い時間をかけて育まれてきた、人間のよりディープなレベルに影響を与えるにはどうすればいいのか。価値観レベルでの根本的な行動変革を起こせるようなデザインを生み出すにはどうすればいいのか、ということでした。
そこで、あえてノンテック領域に踏み出していくことをアメリカでの新たなチャレンジに据えて、チェース銀行でのキャリアをスタートしたんです。お金は、ほぼ全ての人が毎日使い、動向を注視しているもので、社会の血管として人々の生活を支えているインフラです。お金の使い方や概念を変えられれば、人間の行動が変わっていき、究極的には社会全体に良い影響を与えられるのではないかと考えました。
*スペキュラティブ・デザイン….科学技術が超高度に進んだ未来など、もしかしたら起こるかもしれない、望ましい(あるいは望ましくない)未来の世界観を想像・妄想し、その世界で使われているモノや道具を可視化するためにデザインの力を利用する領域。それにより一般市民が未来について想像したり、その未来の是非について議論したりする機会を創出することを目的とするデザインの新しい分野。
*トランジション・デザイン… 気候変動や資源枯渇など、21世紀の社会が直面する、複雑性が高く地球規模の課題に対して、国家や行政がトップダウンで一元的な解決策を提示することはもはや不可能という前提に立ち、デザイナーが地域住民や身近なコミュニティと共に、ローカルな場所から持続可能で望ましいビジョンを思い描き、ボトムアップの様々な活動を結集することで大きな変革を促すための学際的なデザインのアプローチ。
未来を見据えるためのデザイン
谷 デザイン・フューチャリストという職種は、日本ではまだ聞き慣れない言葉だと思います。デザイン・フューチャリストとは、どのような職種として捉えられていますか?
岩渕 イメージとしては、リサーチやデータをもとに数年から数十年先の未来を予見し、ビジネスやプロダクトの今後の方針を提示する、シンクタンク的な働きかたの延長線上にあると思います。加えて、「デザイン」の名を冠しているポジションなので、リサーチで「こんな未来がありえるかもしれない」と複数の仮説やシナリオを探索したあとに、実際に「その未来から来たような」プロダクトやサービスをプロトタイプに落とし込むところまで関わっていきます。
1年先、5年先、10年以上先と、さまざまな射程で未来を洞察しつつも、目指したい未来に向けた第一歩となるようなサービスのプロトタイプを実際に形にして、可視化してみる。ファクトをベースに遠い未来をマクロな視点で想像・妄想する能力と、そこで得た洞察から、将来存在するかもしれない具体的なオブジェクトとして結晶化させる能力の双方を駆使しています。
現在のユーザーの課題に着目するわけではないので、いわゆるUXデザイナーとは役割が異なります。ただ、デザイン・フューチャリストもジャーニーマップなどのUXデザインのツールを使ったりするので、UXデザイナーとしての経験は間違いなく活きています。
谷 どのようなスキルを活用しているんですか?
岩渕 組織内の社内コンサルのような立ち位置で、様々なメンバーと協業しながら、現在ではなく3〜5年後のことを一緒に考えるワークショップを実施したり、今あるプロダクトやサービスが目指すべき北極星となるようなビジョンを創出するプロジェクトを行っています。
そこで、私は未来のトレンドに注目しています。一般的な例で言うと、現在、アメリカでは経済的に自立しながら早期退職を目指す「FIRE(Financial Independence, Retire Early)ムーブメント」というトレンドがあります。そこで、私たちは「もし、今後ますますFIREが常識になったら?」という「もしも」を社会・技術・政治など、さまざまな角度から妄想し、そのような未来で人々がどんな暮らしをしていて、リタイア後の生活について何を不安に感じているのか、社会や行政に求めることがどう変わっているか……といったことを、まるで小説や物語をつくるように考えたりします。
そうした妄想から「もしかしたらありえるかもしれない」サービスをプロトタイプし、会議のテーブルに並べてみることもあります。例えば、日本と違い「省エネ」という概念がほとんど無いアメリカにおいて、今後の気候変動を見据えてピークタイムに家庭のエネルギーをセーブすれば、新しいインセンティブを与えることで、ソーシャル・グッドを促進する、というようなアイデアが浮かぶでしょう。このような場合に、未来のコンセプトをプロトタイプして実際の形にするのは有効です。
もちろん、こうした「もしも」から生まれたコンセプトはすぐにサービス化されるわけではありません。しかし、効果がありそうか・なさそうか、実現できないなら何故できないのか、誰とパートナーシップを組む必要があるのかなど、アウトプットを起点に新しい議論がはじまっていきます。デザイン・フューチャリストの仕事とは、私たちが生きたい未来と現在との間に橋を掛け、プロダクトに新しい可能性を示すことなんです。
岩渕 さらに、組織の中にいる人たちの考え方を21世紀型にアップデートしていくことも、期待されている大きな役割です。近年、仮想通貨やクリエイターエコノミーなど、技術や経済に関する新しい概念が次々に登場しています。しかし、それらがどう私たちの暮らし方やお金の稼ぎ方、貯め方に影響を与えるのか、各業界にとって新しいサービスの種があり得るのかを長期的・包括的に考えられる人がいません。
そのような状況下で、デザイン・フューチャリストには新規事業創出に近い立場から、未来の予見や妄想から、ビジョンや新たなビジネスをつくり出すことが求められているのです。
そして、私がたったひとりでそれを実践し続けるのではなく、他の社員にもこうした態度をインストールして未来志向で仕事ができるメンバーを増やせば、組織にとって大きなパワーになるはずです。100年以上の歴史がある企業も多いですが、時代はデジタル化している昨今、次の100年は古典的なマインドセットを超えていく必要があるように思います。未来やビジョンを作り出すというと、イーロン・マスクのような、強烈なビジョンを持つ一部のカリスマ的な経営者だけが実践できることのように思いますが、未来を想像することは誰もが生まれながらに持つスキルです。そして動物やAIにはできない、とても人間らしい行為です。誰しもが持つ想像力を包摂し、組織のビジョン作りに貢献できるように門戸を広げ、未来への態度をより多くの人にインストールできたら、組織を内部のDNAから変えていけるはずです。
そのために、ひとりで手を動かしてプレゼン資料をつくるような仕事ではなく、どんどん周りの人を自分の世界観に巻き込むようにしています。会社のなかで未来学のトレーニングをしたり、ビジョン創出ワークショップを開催したり、一緒に未来のトレンドを集めたり。
デザイン・フューチャリストの仕事は、机の前に座ってずっと未来についてリサーチすることではなく、どんどん動いて多くの一般社員も未来世界の議論の渦に巻き込み、社内全体を変えていくことなんです。
谷 なぜ今、業界でデザイン・フューチャリストのような人材が必要とされているのでしょうか。
岩渕 コロナ禍によるパンデミックのなかで、これから世界はどうなっていくんだという不安が一気に噴出したことが、大きな要因だと感じます。特に貧富の差が激しいアメリカの経済において、多くの人が失業したり、それまで健康で無保険だった人がコロナに感染し莫大な治療費を請求されたり。3ヶ月後の生活はどうなるのか、この状況が1年続いても安心して暮らせるのか。こうした不安を抱える人々をいかにサポートしてあげられるかが、多くの業界で大きなミッションとなりました。そのため、パンデミック後の世界のシナリオを予見して、未来を見据えたデザインを提案できる人材が必要になったんです。
私の組織に限らず、パンデミックを経て多くの企業がデザイン・ストラテジスト、デザイン・リサーチャーといった職種を募集するようになってきています。
ロフトワーク 伊藤(以下、伊藤) デザイン・フューチャリストは全く新しい役割なんですね。ただ、岩渕さんのような仕事の成果を、組織が定量的に評価するのは難しいんじゃないかと思います。
岩渕 そうですね。多くの企業の組織構成はまだまだ古典的で、基本的には縦割りの組織で構成されています。
そのため、多くの企業では評価指標や目標があらかじめ設定されているわけではありません。デザイン・フューチャリストは「何によって自分が評価されるべきか」自体をつくる必要があります。これまでになかったアクティビティやプロジェクトをどれだけ生み出し、どれだけの人を巻き込んだのか。未来からのインサイトをどれだけ現場の各部署のビジネスに組み込み、橋渡しすることができたかなど、自分が創出した「価値」が現時点での評価のポイントになっています。
アジャイル的にビジョンを更新していく
谷 未来について考えることについて、どのような方法で行っていますか。
岩渕 未来を考えるアプローチには、現在観測できるファクトやトレンドから前方向に未来を考えるフォアキャスティングと、現在とは異なる飛躍した未来から、そこに向かうために現在何をすればよいのかを後方向に遡って考えるバックキャスティングの2種類があります。前者は分析的推察、後者は妄想的想像がより重要になります。どちらが良い悪いの議論になりがちですが、私は両方とも必要だと思っています。
今の常識とはかけ離れた、オルタナティブな世界観を考えることもアート的な刺激としては大切。けれど、ビジネスの場でやる場合には、現在からのフォアキャスティング、未来からのバックキャスティング双方向から、ちょうどいい着地点を見出すことが求められます。
バックキャスティングのために飛躍した未来のシナリオをつくるといっても、個人の想像力には限界があるし、頑張って想像したことも大概、すでに考えている人やスタートアップの事業をやっている人がいたりするんです。その状況を「すでに誰かがやっているから、もっととんでもない未来を考えなければ」と捉えるのではなく、「その人たちも巻き込んで、どう一緒にこの望ましい未来に向かっていけるか」と捉える。自分たちしか思いつけない未来を想像して、自分たちだけで向かっていくのではなくて、すでに活動している人たちとパートナーシップを組んで、パワーを増幅しながら一緒に未来へ向かっていく。それが、フォアキャスティングとバックキャスティングが交わる瞬間です。
本来、企業で働いている人たちはみんな未来に向けて活動をしているはずです。経営者やマネジメントはバックキャスティング的思考、すなわちどこを目指すかを考えており、現場の社員は目の前のタスクをこなすことで未来を拓いていく、フォアキャスティング的思考をしていることが多いように思います。一方で、組織の中で両者の世界観が接続していないことも多いように感じます。社員は自分たちが今やっていることがどこに向かっているのかを理解できておらず、逆に経営者は、現場で感度高くビジョナリーに動いている社員の活動を知らないことも。
デザイン・フューチャリストの役割は、そうした状況を客観的に見つめ、フォアキャストの未来とバックキャストの未来をつなぎながら、誰もが同じ方向を向いて進んでいけるように、未来の目的地への地図をつくることだと言えるでしょう。
谷 私たちが生きる社会や環境は常に変化し続けていますよね。不測な変化をどのようにとらえると、未来に向けて予測が可能になるのでしょうか?
岩渕 昨今、ビジョン・ミッション・パーパスという言葉をよく見かけるようになりました。個人的には、未来に向かうための北極星としてビジョンやパーパスを掲げると言っても、それは未来永劫変わらず続くものはないと思っています。プロダクトやサービスが柔軟に形が変わっていくのがあたり前になってきたように、ビジョンもアジャイル的であるべきというか。
企業が普遍的に大切にする、超抽象的なレベルのパーパスは変わらないものかもしれません。しかし、自分の経験からも、天災やパンデミック、戦争などの不測の事態が起きた際にはより人道的なビジョンが求められたり、これまでとは異なる方向を模索しなければならない、ということは起こり得ます。ですから、ビジョンやパーパスもどこかで一度策定したら終わりということではなく、見直したり、社員を包摂しながら議論したり、必要に応じて更新したりするといった、ビジョンデザインを「継続する」仕組みが必要だと思っています。
未来は文字通り、何が起こるか分かりません。未来を「予測」するとか、美麗美句が並んだ美しいビジョンを策定するという態度ではなく、未来に対してオープンであり、ビジョンのプロトタイピングが常に起こり続けているという状況を大きな組織の中でつくっていく。これが、まさに私がデザイン・フューチャリストとしてチャレンジしていることです。こうした仕事を外部からのコンサルティングによって提供することは難しく、今後ビジョンやパーパスが関わるデザインの領域が広がっていくにつれて、より多くの組織の内部で必要とされる役割だと思います。
体感・共感できる未来を提示する
伊藤 リサーチを重ねてプロジェクトの方向性を提示する役割は、外部のシンクタンクやコンサルタントが担うことが多いと思います。社内にいるからこそ感じる可能性は、どのようなところにありますか。
岩渕 私もIBM時代にはコンサルタントとして、クライアントの外部から示唆を提供する仕事をしてきました。提案内容がおもしろくても、クライアントが社内でその熱を伝えられなかったり、後続案件の予算の目処が立たなかったり、クライアント内の重要な人が異動し、話が続かず終わってしまったりすることなどを経験し、もどかしさを感じていたんです。
組織の中にいれば予算や組織の構造も知っていますから、まず次の1ヶ月、いや1週間で紙のプロトタイプをつくってみますとか、柔軟に次のアクションを提示しやすい。未来の話をするときにデザインチームの中だけで盛り上がるのではなく、関連部署やマネジメントクラスとも対話することで、誰を巻き込むとよいなどのアドバイスをもらったり、自分から積極的に動いて予算を確保することもできます。外から刺激を与えるのでなく、中から刺激を生み出していくことの可能性を感じています。
谷 新しい役割を開拓している中で、課題感や難しさを感じることはありますか。
岩渕 いくら新しい考え方や未来的なコンセプトを組織に提案しても、最終的に現在の世界のプロダクトに落とし込まなければ意味がありません。また、それは自分ひとりではできないことです。具体的なプロジェクトやプロダクトにしていくために、いかに人を動かすか、味方を増やすか、どうやって共感してもらうかという点は、まだまだこれからのチャレンジです。「来るかどうかも分からない未来を夢想したって、何の意味があるんだ」と言ってくる人もいます。
具体的に試していることとしては、「未来のビジョンやロードマップを、スライドを超えて語っていく」ということです。古典的なプレゼン形式、すなわち経営陣の前でスクリーンに映し出した、テキストびっしりの資料に対してフィードバックをもらうのではなく、ペーパープロトタイプでもいいから目に見えるカタチでテーブルに置き、経営陣やオーディエンスに自分ごととして体感してもらうこと。トラディショナルな組織において、トラディショナルではないやり方で、組織のマインド自体を変えていくことが大事だと考えています。
谷 体感することで、抽象的になりがちな未来のことに対して共感を得られるようにしているんですね。ほかにはどんなことを工夫していますか?
岩渕 未来志向のプロジェクトを実践する際に重要だと思っているのが、どのくらいのスパンのことを「未来」と呼ぶのか、プロジェクトごとに最初にちゃんと定義することです。あらゆる事業部が、数ヶ月先にリリースする「未来の」プロダクトをつくっているわけで。そのリリースに確信を持つためのリサーチをするのか、もうちょっと先の3-5年後のビジョンをつくるのか、もしくは、例えば平均気温が5度以上上がっているような10年、20年の単位で、今とは異なる仮想のシナリオから何かを議論したいのか。
ビジネスのプロジェクトとしてやる以上、どういうタイムスパンの話なのかを明らかにしなければ、期待するアウトプットは出ません。あまりにも現在からかけ離れたプロジェクトだと具体的に動いていくのがなかなか難しいので、まずは3年後から5年後の未来を考えるということが実践の場では多くなっています。こうしたデザイン・フューチャリストの実践は、デザインリサーチ、さらにその中のサブカテゴリであるデザインを通した研究(RtD:Research through Design)とも呼ばれています。
VUCAな時代に、未来を見通すViewを提供する「VU(ヴュー)」
このインタビューを企画した「VU(ヴュー)」チームは、ロフトワークの中で未来洞察や機会発見に特化したチームです。
クリエイターや生活者と共創し、あらゆる領域における「次に何が来るのか=What’s Next?」を探索し、企業が次につくるべき製品/サービス/事業を明らかにすることで、企業のイノベーション創出を支援します。
Next Contents