常識を覆すアイデアの引き出し方
#1 アイデアはどこからやってくる?
どうしたら、イノベーティブな発想ができるだろう?
新規サービスや新規事業を立ち上げるプロジェクトで、クライアントとともにアイデアを模索する機会は多い。一方でクライアントからは、「アイデアを出すのは苦手」「いつも似たようなアイデアしか生まれない」という声をよく聞く。
僕は、クリエイティブなアイデアを生み出すことは一握りのクリエイターのみに与えられた特別な能力ではないと考えている。正しいフォームを身に着けトレーニングを重ねれば、誰しも速くてまっすぐな球が投げられるのと同じ。
このコラムでは、全3回で非クリエイターがクリエイティブな発想をするためのプロセスについて考察しながら、実際に開発したアイデア発想ワークショップについて紹介する。
テキスト:伊藤 望(クリエイティブディレクター) 編集:岩崎 諒子(loftwork.com 編集部)
そもそも、良いアイデアとはなにか
スタンフォード大学経営大学院教授のチップ・ハースの著書『アイデアのちから(原題:Made to Stick)』によれば、世の中に広まる素晴らしいアイデアやストーリーには「SUCCESs」の法則があるという。
Simple―単純明快である
Unexpected―意外性がある
Concrete―具体的である
Credible―信頼性がある
Emotional―感情に訴える
Story―物語性がある
これら6つの特徴を備えたアイデアこそが、人々の記憶に残り、行動を駆り立てるということだ。特にイノベーションという観点からは「Unexpected(意外性がある)」が最も重要かつ再現が難しい要素だと思う。誰もが思いつくアイデアから新しいサービスや新規事業を立ち上げても、市場で成功をおさめることはできないからだ。
たとえば、Airbnbは「他人を家に泊める」という斬新なアイデアで、時価総額310億ドル(2018年当時)の企業に成長した。かつて創業者のブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアはサンフランシスコに住んでおり、アパートの家賃を稼がなければならなかった。すぐ近くでは国際的なデザインカンファレンスが開催されており、周辺のホテルは満室。この気付きがAirbnbのサービスにつながったそうだ。
前提を軽やかに越えていくアイデアを発想をするのは、クリエイターが得意とする仕事だ。実際、Airbnbを創業したふたりは美術大学出身のデザイナーだ。クリエイターはテーマを様々な角度から分解し、ユニークな解釈を加えてリフレーミングしていく。わたしたちも彼らのように発想することはできないのだろうか。
テーマの分解 × テーマ外のインプット × 発想の筋力
アイデア発想が得意な人とそうでない人には、どのような違いがあるだろう?
まず、アイデア発想のプロセスから紐解いていきたい。アイデアは、以下の3つを掛け合わせることで生まれる。「エアコン」をテーマに具体的な例を出してみよう。
- テーマの分解 … エアコンの構造、価値、使用方法、体験.etc
- テーマ外のインプット… 刺身の鮮度に関する知識
- 組み合わせ、思いつく筋力 … 部屋の空気の湿度でなく鮮度を管理してくれるエアコン
新しいアイデアの多くは全くのゼロから生まれるものではなく、「テーマの分解 × テーマ外のインプット」の組み合わせによって生まれる。優れたクリエイターは上記3つの力に長けているため、ユニークなアイデアをどんどん生み出すことができる。
理論的には、テーマを完全に分解し、そこにあらゆる情報を総当たりで組み合わせていけばいずれ「良いアイデア」は生まれる。しかし、良い組み合わせを選びだすこと、さらにいうと、組み合わせの前段階である「テーマの分解」の精度こそがアイデアの質に関わってくる。
2つのハードル
では、逆に「アイデア出すのが苦手」という状態はどういうことだろうか。思うに、そこには越えるべき2つのハードルがある。
- いかに「当たり前」とされている認識をくずせるのか
- 特定のテーマに対して、いかに人と違う視点を持てるか
アイデアを出すのが苦手だと言う人は、この2つのハードルで躓いているのではないか。
まず、「いかに『当たり前』とされている認識をくずせるのか」について。ここで言う「『当たり前』とされている認識」は、自身の「思い込み」と言い換えることができる。一方で、この「思い込み」はうまく使えば新しい視点やアプローチを獲得することにもつながる。次回は「思い込み」の正体について掘り下げる。
また、課題の2つ目「特定のテーマに対して、いかに他人と違う視点を持てるのか」については、当コラムの第3回目で、最近実践したアプローチを紹介する。
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