FINDING 林 千晶 2019.07.23

#09 きっかけは他者にある
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)

自分の社会的な価値=職業?

「あなたの仕事は何ですか?」と聞かれたとき、何と答えるだろうか。

デザイナー、経営者、教師、エンジニア、医者、シェフ、会社員。おそらくほとんどの人が、「対価を得ていること」の「職業・職種」を口にすると思う。

そしてみんな、それを「社会的な価値」と認識しているのではないか。

でも「毎日、何をして過ごしていますか?」と聞かれたら、どうだろう。

会社ではWebのプロデュースをメインにしていたとしても、チームの雰囲気を和やかにしたり、庭の花をキレイに咲かせたり、人と人のご縁をつないだり、子どもと筋トレを一緒にしたり、得意のロールキャベツを作ったり。

私たちが日常の中で、当たり前のように自分の価値だとして認識していることは、ごくわずかな部分でしかない。

自分では見えない価値「HIDDEN ABILITIES」

以前、ロフトワークで行った高齢者を対象としたデザインリサーチ(※)で、面白い発見があった。

人生の大半を会社員として過ごしてきた60代以上の日本人男性の多くは、自分の社会的な価値を、会社での「職業」として捉えていた。でもキャリアを重ねるほど給与も高くなり、仕事を依頼するハードルが上がってしまう。

定年退職後に同等の仕事をしようとしても、若い人と比較されるとどうしても不利になる。だからほとんどの人が仕事をすることなく、2時間かけて散歩をしたり図書館に通ったりして時間をつぶしていた。

一方、女性は歳を重ねても活発な人が多かった。過去の経験にこだわらず、周囲の人から「これ、やってくれないかな?」と頼まれたことを引き受け、やっているうちに面白さを覚え、だんだんと自分のやりがいある“活動”になっている、と。

このリサーチ結果には、妙に納得感があった。

特別だと思っていなかったこと、自分では認識していなかった能力が、他者からのはたらきかけによって開花していく。「あら、そんなことに価値があるなんて」、そんなセリフと共に。

ロフトワークでは、人が自分自身では気づかないその価値を「HIDDEN ABILITIES」と呼ぶことにした。

アクティブフルムーン

他者から発見される力「HIDDEN ABILITIES」は、太陽の光を反射して輝く月面のようなものだ。いつもは一部しか見えていないけれど、人とのさまざまな交わりの中で違う角度から光を受け、自分では思いもよらなかった能力が見つかり、それが新しい価値になっていく。

「仕事」から、人生をより豊かに彩る「活動」へ。

「HIDDEN ABILITIES」に光が当たることで、一人ひとりの活動はさらに連鎖していく。するとこれまで私たちが想像もしていなかった生き方、人の在り方が可能になるのではないだろうか。

実は、それは高齢者だけに限らない。今のロフトワークを形づくり、支えてくれているのも、ここに集ったメンバーの「HIDDEN ABILITIES」によるところが大きい。一見すると点でバラバラなメンバーが、意外なところで手をつないでいる。

関連リンク

※「HIDDEN ABILITIES(見えざる可能性) – ビンテージ社会における、高齢者の『働き方』調査報告書」(2017)
https://loftwork.com/jp/news/2018/06/18_vintagesociety

林 千晶

Author林 千晶(共同創業者 代表取締役)

早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材に向き合うクリエイティブ・ラウンジ「MTRL(マテリアル)」、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD(アワード)」などを運営。
MITメディアラボ所長補佐、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会 製造産業分科会委員も務める。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を岐阜県飛騨市に設立、代表取締役社長に就任。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」(日経WOMAN)を受賞。

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