FINDING 林 千晶 2019.06.26

#08 その人にしかできない仕事を
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)

ロフトワーカーが目指すのは「七福神」

採用は、お互いがワクワクするような出会いがいい。例えば、面接開始5分でロフトワークで活躍する姿が目に浮かび、「うちに入ったら、何をする?」とお互いに盛り上がってしまうような。 逆に誰かが退職するときも、必ずしもすべてを引き継がなくてもいい。そんなスタンスでいる。 かつてのロフトワークでは、メンバーの成長につなげるため、スキルシートによる個人評価を行っていた。 でもあるとき、疑問を感じた。「すべての領域で、スキルが満点になることを求めるの? 本当に?」 それは、まったくロフトワークらしくないと思ったからだ。なにより私自身だって、完璧な人間ではないのだから。

「イラストが描ける」「料理が上手」「UXなら任せて」——みんなそれぞれ、「得意なこと」がある。不得意なことをもれなくカバーして能力をフラットにするのではなく、得意分野をぐんぐん伸ばしていこうよ。

そう考えたとき突然、腑に落ちたのだ。

「だから日本の神様は、昔から七福神なんだ!」

メンバーに目指してほしいのは、決して全知全能の神「ゼウス」ではない。一人ひとりが違った得意領域で力を発揮してくれればいい。

メンバーそれぞれが違った分野の「神様」となって、「七福神」を目指す。それが、私たちの会社の在り方になった。

「このために会社をつくった」と思えた出来事

数年前のこと、ある一人の女性を採用した。もともと演劇や舞台の制作の仕事をしていて、不器用だが素直な人。好印象を持ち、ロフトワークで働いてもらうことになった。 しかし1年後、彼女から、大きな劇場からオファーがきたことを打ち明けられる。彼女は「経験を積んで、また戻ってくるつもり」といってくれたけれど、そうならなかったとしても彼女の人生である。それはそれで仕方ないと思い、快く見送ることにした。 しかし、再会は思いがけない形で訪れる。1年後、突然の妊娠がわかった彼女が泣きながら電話をかけてきたのだ。これからどうすべきか、かなり混乱している様子だった。 私が確認したことは、一つだけだった。パートナーの同意が得られなくても、仕事を続けられなかったとしても、どんな障壁があろうと「その子を産みたいんでしょう?」。 「どんなことがあっても、産みたい」。その意思を確認した私がすることはもう決まっていた。彼女をもう一度、ロフトワークで雇おう。 幸い、私が気分で採用するのには、みんな(いい意味で?)慣れている。そこで私は、はじめて「ああ、こんなときのために会社をつくったんだ」と感じていた。

多様性が余白を生み、仕事をつくる基盤になる

現在、無事に出産を終えた彼女は、100年先の未来を目指す実験区「100BANCH」のプロジェクトを彩る重要な運営メンバーの一人になった。

非常に個性が強く、性格もてんでバラバラな若手の猛者(プロジェクトリーダー)たちを、フラットな感覚でやわらかく受け止めている姿が印象的だ。かたわらにいる1歳の娘と一緒に、ニコニコ笑いながら。いまの彼女だからこそ、できる仕事だと思う。

人には必ず、何かしらの「得意領域」がある。たとえ事業にわかりやすく貢献できたり、市場での競争力に直結したりするものではないとしても。じっくり付き合うほどに味が出てきて、その人にしかできない技を見せてくれる。

働くモチベーションが自己実現欲求にあるのか、承認欲求にあるのか、はたまた生存欲求にあるのか。その欲求の在りかが違うメンバーが在籍するのも、「多様性」の一つにほかならない。

会社の中にいくつもの多様性が重なったグラデーションが存在するからこそ、新しい仕事が生まれる余白も広がっていく。

その中で、メンバーが一人ひとり「自分にしかできない仕事」をつくっているのが、ロフトワークの面白さなのだ。

林 千晶

Author林 千晶(共同創業者 代表取締役)

早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材に向き合うクリエイティブ・ラウンジ「MTRL(マテリアル)」、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD(アワード)」などを運営。
MITメディアラボ所長補佐、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会 製造産業分科会委員も務める。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を岐阜県飛騨市に設立、代表取締役社長に就任。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017」(日経WOMAN)を受賞。

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#10 FabCafeのつくり方
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)

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