FINDING
小島 和人(ハモ) 2022.06.14

“恐れ”を乗り越え、正直でいるためには?
はたらく人の、むきだし学。Vol.2

自分の意見や思想をありのままに伝える、「むきだし」のコミュニケーションができるようになれば、仕事はもちろん、生き方までうまく行く……らしい?

会社員でありながら、アーティスト(現代美術家)としても活躍している、ロフトワーク京都ブランチ所属プロデューサー 小島和人(愛称: ハモさん)。企業の新規事業の立ち上げやブランディングといったプロジェクトの設計を数多く手がけているハモさんですが、その仕事において常に「本音をぶつけ合える関係をつくること=互いに『むきだし』になること」に、熱い情熱を注いでいます。

本連載「はたらく人の、むきだし学」では、そんなハモさんが、すべてのはたらく人に伝えたい「むきだし」な自己表現の極意を解説していきます。今回は、仕事の場で「むきだし」を実践するために、どうやって“恐れ”という心理的ハードルを乗り越えていくかを語ります。

聞き手:後閑 裕太朗(loftwork.com編集部)
執筆・編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)
イラストレーション:死後くん

小島 和人(ハモ)

Author小島 和人(ハモ)(プロデューサー / FabCafe Osaka 準備室 )

大阪府守口市生まれ。建築、デザイン、プランニング、アートと多分野で活動を重ね、多様な視点と未来を見立てる力を培う。アーティスト名「ハモニズム」の理念は、社会状況や人々の価値観が調和した未来を仮説し、チームで実験・実行を通じて形にすることにある。大阪では、まちづくりやエリアマネジメントに注力し、地域の文化・歴史・環境を活かした持続可能な都市モデルを提案。行政・企業によるトップダウンの構想と生活者・クリエイターによるボトムアップの活動を接続している。2025年4月オープン予定のFabCafe Osakaを拠点に、大阪・天満や南森町エリアで「アンフォルム」をコンセプトに、「都市とローカルの融合」を模索し、新たな都市の未来像を描く。

Profile

「話しかけたくなる人」になれているか?

ハモさんが自身の写真をCG加工して制作したアートワーク

“自分自身の気配を、デザインする”
——ハモニズム(小島 和人)

——編集部(以下略) 前回のお話で、「自分に正直になった方が、同僚やクライアントとの関係がうまくいく」というのはわかりました。でも、実際に仕事の場で正直に振る舞うのは、恐いと思ってしまう人も多いのではないでしょうか。

ハモさん(以下略) 実は、よく社内の同僚たちから「社内の先輩や他部署の人たちとうまく会話できない」と相談されるんですよ。きっと、彼らも正直に振る舞うことを「恐い」と思っているんでしょうね。先輩・後輩と仕事の話はできても、孤独感を感じている人は多いと思います。

「話しかけ方」も大事だけれど、「話しかけられ方」にも意識が向いているかどうか。自分の行動によって、相手に「話しかける気持ち」を起こさせていくこと。これが苦手な人って、結構多いですよね。他の人間に対して意識が向いていないというか。出社しても周りに目を向けられずに今日やらないといけない仕事のことばかり気にかけていたり、あるいは、意識を向ける相手が同じチーム内の人だけに限定されていたり。

でもきっと、仕事に限らず趣味とか好きな人・物事に対する探究心って、本来誰もが持っているもののはず。ならば、それをもう少し他者にも向けてみたらいいんじゃないかと思うんです。

社内のメンバーと談笑するハモさん

仕事でも「わたし」であり続けること

——「どうすれば、クライアントと良好な関係になれるか」という相談も、多そうですね。

そうですね。前回も話していたことですが、クライアントとはお互いに「人」として接して欲しい。「お客さんの前だから、ちゃんとしなきゃ」とか「賢く見られたい」なんて、考えない方がいいです。相手から本音を引き出したいなら、自分から「弱み」や「隙」を見せるぐらいの素直さが必要ですよね。

最初から「私は、相手よりも知ってる」とか「私はプロだから」という高い目線から接しない。クライアントの方が自分たちの事業においてプロフェッショナルなんだから、全てをわかったふりせずに、わからないことは「わからないです」「教えてほしいです」と真摯に伝えること。

これに関しては、社内にいいお手本がいるんです。コミュニケーターとして活躍している人で、僕自身、彼女がいろんな企業の方々と話している姿から多くを学びました。

彼女はどんな相手とでも初対面で「ごく普通の対話」ができるんですよ。たとえば「昔、脚折ったことあるんだよね」のような、そんな私的な話題をクライアントからすぐに引き出してしまう。元々1時間のミーティングなのに、お客さんの方が話したくなって何時間でもしゃべり続けられるくらい。それだけ、自然に相手の懐に入り込んでしまう。

彼女は、全くと言っていいほど自分の組織や肩書きを背負っていないんです。あくまで素の「わたし個人」としてクライアントと話していて、取り繕わない。そんな彼女の振る舞いを、無意識ながらに真似していたような気がします。

「ビジネスマンらしく」きちんと話した時と、自分の隙や弱みを隠すことなく話した時とでは、相手が深層の言葉を話してくれる実感が全然違います。あくまでロフトワークではなく、僕個人に興味をもってもらえるかどうかで、引き出される言葉が大きく変わってくるんです。

——そんなことができるのは、ハモさんたちに「特別なコミュニケーション能力」があるからだとは言えませんか? 少なくとも、私には難しそうですが。

そんなことはないですよ! これは「自分がいかに普通でいられるか」を探求する行為なんです。確かにクライアントとの会議では、決められたアジェンダや確認・調整をしなければならないことがたくさんある。それでもなお、「”わたし”であり続けられるか」という戦いなんじゃないかな。

——とはいえ、ビジネス上のコミュニケーションって「型」に当てはめた方が、お互いが安心できるという考え方もありませんか?

ロフトワークの仕事では、必ずクライアントと一緒にチームを組んでプロジェクトを進めますよね。こういった場合、先のことを考えれば考えるほど、建前や型にはまったコミュニケーションからクライアントとの関係を始めてしまうのは、プロジェクトのリスクを高めてしまうと思うんですよ。

プロジェクトには、クライアントの社内からも僕たちの社内からも、いろんな人たちが関わる。その時に、立場の異なるメンバー全員が気持ちよくコミュニケーションができる場を作らないといけない。そのために、クライアントも僕たちも互いが本音で話せる心理的安全圏のようなものが必要になるんです。

それに、本当にクライアントの未来につながるプロジェクトをやるためには、僕たちも相手に都合のいいことばかりを言っていられない。時にはNOと言ったり、相手が聞きたくないようなことを伝える必要もあるんです。真摯に対話を深めていくためには、お互いが本音を言い合える関係を目指すことが、とても重要だと考えています。

3年越しで共にプロジェクトを推進しているクライアントと

対話相手を自分の鏡にする

——なるほど、確かに本音で話せる関係の方がプロジェクトが円滑に進みそうです。ただ、ビジネスの場で「いち人間として」話をするのは、まだ恐い気がします。恐さを乗り越えるコツがあったら、教えて欲しいです。

「相手が何を考えているかわからないから恐い」という状態から抜け出すには、まず自分自身の「思想」を持っている必要があると思います。思想がなければ、対話するための自分の仮説を立てられませんから。ただ、そのためには訓練が必要かもしれないですね。

まず、日頃から「自分が何者なのか」ということに意識的になるということ。多くの人は「私はこういう人間だ」という自己認識と、周囲が認識している自分像との間にズレが生じてしまっている。その自己認識のズレを補正するところから始めてみるといいかもしれない。

一番おすすめのやり方は、なんでもいいので日頃から自分の思想やアイデアを同僚や友人などといった「身近な他者」にぶつけてフィードバックをもらうという、ラリーのような短い対話を続けていくことです。

これは、アーティストとしての自分がよくやる方法なのですが、自分がどういう価値観を持っていて、個人として何を考えているのかを言葉にすることで、頭の中でもやもやしていることが結晶化されていきます。それを他者にぶつけてみて、相手からのフィードバックを受けながら言葉を調整していく。すると、自分の思想や想いの強度が増していくんです。自分を磨く鏡のようなイメージ

——まずは対話の訓練から始めよう、ということですね。

鶏が先か卵が先か、みたいなところはありますけど。他者と対話を続けなければ、強い思想を持つことは難しい。それをやらずして、「自分はまだまだ……」と言いながら自信を持てずにいるのは勿体無いことですよね。

あとは、ここ2年くらいでクライアントとオンラインで話すことが増えた人が多いと思いますが、会議で発言するのが難しい人はチャット欄に意見やアイデアを書いてみることから始めるのも良いかもしれません。

僕は最近、会議中はあまり発言せずに、その場で大事だと思ったことをチャットに書いているんですよ。会議はアジェンダ通りに進んでいくものですが、その流れとは違うところで重要なことに気づく場合もあります。そういう「気づき」をチャットで共有すると、会議の腰を折ることなくみんなに共有できるし、会議自体の流れも良い方向に変わったりする。僕は、それを「副音声効果」と呼んでます。これをちゃんとやると、普通に会議をしたときと比べて会議の効果が2倍くらいになりますよ。

それに、自分のアイデアや気づきをチャットに投稿してみたら「意外と面白いこと考えてるじゃん」みたいな感じで、誰かに拾ってもらえるかもしれない。そうなったら、嬉しいし自信が持てますよね。

オンラインミーティングは、「むきだし」実践のチャンス

——確かに、声に出さなくても意見を届けられるチャットは、会議で発言する第一歩にちょうど良いかもしれない。

ちょっと上級者向けかもしれませんが、ぜひ試してみてほしいのが「会議中に未来の妄想を言ってみる」。僕は、よく会議中に「今から妄想を言います」と言って、中長期的な展望と今進行しているプロジェクトを、一本のロジックで繋げた未来のストーリーを話しています。

よく会議って、ずっと平均的で凹凸のない言葉が語られがちですよね。「コミュニケーションを活性化しましょう」とか「もっとPDCA回していきましょう」みたいな応酬が続いて、なかなかそのプロジェクト“ならでは”の言葉に落ちていかない。そこに、突如「未来の妄想」を置いてみると、ぐっと会議の空気が変わるんです。

これは僕の持論ですが、チームの中で使われる言葉使いにそのプロジェクト“ならでは”の世界観が宿ると、プロジェクト自体がドライブします。プロジェクトメンバー同士で、「この言い方、○○(プロジェクト名)っぽいね」なんて会話が自然と出てくるようなイメージです。僕が言う「未来の妄想」は、プロジェクト独自の世界観が形成されるのをリードするための、いわば呼び水です。僕自身が芸術家として舞台を作っていたこともあって、このやり方がすごく役に立っています。

ただ、初めて試す人は、やはり恐いと感じてしまうかもしれませんね。自分が語る「未来の妄想」を聞いたクライアントがどう考えてどう動くのか、やってみないとわからないので。でも、これこそ自身の思想の強度を試す絶好の機会。慣れてくれば、クライアントに「この人と面白い未来を一緒に作ってみたい」と思ってもらえる流れを仕掛けられるかもしれません。

——日々の訓練によって思想を鍛えたら、本番でそれを試してみる。「むきだし」への道はなかなか険しそうです。他に、何かいいやり方があったら教えてください!

あとは、「自分で自分に思い込ませる」というやり方もありますね。そもそも、この企画のテーマである「むきだし」についても、以前まであまり意識していなかったんです。でも、こうして記事にするために言語化していくことで、改めて自分の仕事の中で「むきだし」のコミュニケーションを強く意識するようになりました。多分、今後は積極的に「むきだし」という言葉を使っていくと思います(笑)。

そういう意味では、これまで「なんとなく」で身につけていた仮面を脱ぎ捨てて、なりたい自分になるための新しい仮面を身につける、ということも必要かもしれませんね。

むきだしのわたしを、デザインする

——今日は、役に立ちそうなお話を聞けた気がします! ちなみに、ハモさん自身は、いつから「むきだし」のコミュニケーションをするようになったんですか?

自分の意思を前面に出すコミュニケーションをするようになったのは、アーティスト活動を始めてからですね。元々は建築の仕事をしていたんですが、建物自体よりも人の活動を作りたくてデザイナーに転身しました。でも、デザイナーはあくまで「クライアントのやりたいこと」を表現する仕事。それはそれで大切だけど、その一方で「自分がやりたいこと」も表現したいと思い、本業と並行するかたちでアーティストになりました。

分岐点になったのは、デザイナーとして働くなかでお客さんから「こういうものを売りたい」とオーダーされた商品について、掲げられたそもそもの問いが間違っていると感じたときです。これでは本質的なものは作れないなと感じた僕は、「なぜその商品やサービスをはじめとした事業をやるのか」という問いそのものをデザインしたいと考え、ロフトワークでプロデューサーになりました。

ハモさん、デザイナー時代

これまでの仕事や活動は一見するとバラバラなものですが、実は結果として、そのすべてが今の仕事に活きているんですよ。

「なぜその商品やサービスをはじめとした事業をやるのか」という問いをデザインすることは、言い換えれば「未来の価値をつくる」という誰も正解がわからない仕事に挑むこと。僕たちロフトワークはクライアントと共にそのゴールへの道筋を描き、価値づくりのプロセスを伴走する役割を担っています。未来を志向するには、クライアント自身の先入観や固定化された価値観を外して、この仕事に向き合ってもらわなければならない。つまり、彼らをひとりの人として「むきだし」にする必要があるんです。

プロデューサーとしての僕の仕事は、相手が「むきだし」になるためのキッカケを渡すこと。そのキッカケをコミュニケーションの中に忍ばせるときには、必ず「僕自身の思想」が試されます。ここで、僕のアーティストをはじめとした色んな経歴と磨き続けてきた思想が生きてくるんです。

この記事を読んでいる人で「自分には思想や意思が弱い・ない」と感じている人には、先にお伝えした通り、まずは日々の小さな対話から実践してみて欲しいです。僕自身、本来は引っ込み思案な性格だったし喋るのも苦手だったけれど、周りのお手本となる人たちから良いやり方を学んだり、あるいは「自分はこういう人間だ」と自身に思い込ませてきたことで、今に至ります。

人の性質は塗り替えられます。もう僕、今年で40歳になりますしね。それでもまだまだ変わりたい。変われるはずです。

あるべき・ありたい姿に向けて、何度でも自分をアップデートしていくこと。自分自身が「変化すること」への恐れを乗り越えて「むきだしのわたし」をデザインするためには、それが大事なんじゃないかと思います。

——最後は、ちょっといいお話でした……ありがとうございました。

「むきだし学」では、以下のようなテーマについて解説します。

1.ポジティブに働くための“自己表現”のススメ
2.“恐れ”を乗り越え、正直でいるためには?(この記事)
3.人を動かすための“むきだし術”
4.本音炸裂! ハモさん×クライアント むきだし対談

どうぞお楽しみに!

ご意見・ご感想をお待ちしています!

小島和人へメッセージを送る

Keywords

Next Contents

対話を重ねる、外の世界に触れる。
空間に魂を吹き込む、オフィスリニューアルの軌跡