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二本栁 友彦 2022.06.07

地域産業の変革へ、デザイン経営をインストールするには?
「導入と育成」の2つの視点からポイントを解説

ロフトワークでは、さまざまな企業の経営課題を解決するために、経営の上流からデザインを取り入れる「デザイン経営」の導入を支援してきました。なかでも、地方の中小企業においては、その効果を発揮しやすいと考えています。

そこで今回は、これまで数々のデザイン経営導入支援プロジェクトを牽引してきたロフトワーク 二本栁友彦が登壇したイベント「地方企業に変革を起こす、デザイン経営のはじめ方」の内容をもとに、「中小企業へのデザイン経営導入」と「地方自治体によるデザイン人材育成」について、大切にしたいポイントを解説します。

二本栁 友彦

Author二本栁 友彦(ユニットリーダー)

1977年大阪府岸和田生まれ。千葉大学工学部デザイン工学科卒。大学在学中から様々なアートイベントの運営に携わり、建築設計事務所勤務を経てIID世田谷ものづくり学校を運営する株式会社ものづくり学校に入社。企画ディレクション、企画室長・広報を担当。姉妹校「隠岐の島ものづくり学校」「三条ものづくり学校」の立ち上げにも関わる。
2014年にロフトワークに入社。「経済産業省 JAPANブランドプロデュース支援事業 MORE THAN プロジェクト(2014-2016)」のプロデュース・ディレクションをはじめ、「SUWAデザインプロジェクト」「Hokkaido to Go」「ふるさとデザインアカデミー ichi」「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」などを手がけている。官公庁や自治体のプロジェクトを中心に、場所を問わず、クリエイティブコラボレーションを軸に展開している。

Profile

語り手:二本栁 友彦(株式会社ロフトワーク)
企画:岩沢 エリ(株式会社ロフトワーク)
執筆:野本 纏花
編集:後閑 裕太朗(loftwork.com編集部)

デザイン経営とは何か

デザイン経営のはじめ方の話に入る前に、まずは私なりのデザイン経営の解釈を簡単にご紹介したいと思います。

そもそも、なぜ経営にデザインのアプローチが必要なのかといえば、外部環境の変化が激しい中で、答えの明確でない問題や状況への対処が求められているからです。デザインの対象領域は、いまやグラフィックやプロダクトにとどまりません。ビジネスモデルや経営そのものすら、デザインする時代になっています。

そんな「デザイン経営」の肝は、「ブランディング」と「イノベーション」です。パーパス(社会的存在意義)を見定め、組織文化を構築し、新たな価値を創造し続けることで、企業価値を引き上げていくところにあります。

そんなデザイン経営を実践するには、従来の経営戦略にデザイン人材を加えて、デザイン経営のチームをつくる必要があります。重要なのは、いかにこのチームを作るか、という点です。私がこれまで支援してきたデザイン経営のプロジェクトは、アプローチとして、中小企業のみなさんの強さを引き出す「導入支援」と、デザイン人材に経営の素養をインプットする「人材育成」の2パターンに分けることができます。

 

デザイン経営の実践企業に共通する5つの特徴

まず、企業に直接デザイン経営を「導入する」パターンから解説すると、
『中小企業のデザイン経営』のなかで、デザイン経営を実践する中小企業には、次の5つの特徴があると考えられています。

  1. ビジョンを更新する
  2. 経営にデザイナーを巻き込む
  3. 組織の変革をデザインする
  4. 共創のコミュニティをつくる
  5. 文化を生み出す

まず自社の価値を見つめ直し、ビジョンを更新します。この過程で自分たちの強みを整理することができるため、次に経営にデザイナーを巻き込む際に、デザイナーが自分のスキルをどう活かせるのかイメージしやすくなり、企業とデザイン人材のマッチングがスムーズになります。そしてデザイナーとともに組織を変革しながら、自社の強みをどんどん引き出し、それをさらに強化するための共創のコミュニティをつくっていく。そうして企業が持続的に発展することで新しい企業文化を生み出すことにつながっていくわけです。

上記の5つの特徴を含む、中小企業のデザイン経営のポイントをまとめた調査報告書 『中小企業のデザイン経営』は、以下のページからダウンロードいただけます。

中小企業におけるデザイン経営調査報告書「中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」

予算課題をどう乗り越えるか

デザイン経営が提唱され始めた当初は、「(失敗してもいいから)まずは小さくても何かやってみましょう」という話が多かったと思います。しかし、コロナ禍以降、生き残り戦略のひとつとしてデザイン経営を選択する企業が増えてきました。

また、生き残りをかけるという意味では、「事業再構築補助金」のような国の補助金を活用してデザイン経営に取り組むのも有効です。グローバル進出を狙うのであれば、「JAPANブランド育成支援等事業費補助金」が使えるでしょう。補助金を活用することで、中小企業の予算課題を乗り越えられるだけでなく、申請に必要な書類を用意する過程で、自社のことを見つめ直す機会を得ることもできます。

あるいは、何かひとつの軸によって組合をつくり、デザイン人材をシェアするという手もあります。兵庫県では播州刃物を軸に組合をつくり、組合員で費用を出し合って、デザイン人材をシェアしています。こうしてデザイン経営にかかる費用を分担することで、予算課題をクリアしていけるのです。

導入支援から見えた3つの視点

私がデザイン経営の「導入支援」を通じて見えたものとして、次の3つの視点が挙げられます。

 

中小企業にこそ効く仕組みである

デザイン経営は大企業向けの概念だと言われることもあるのですが、実際にやってみると中小企業にこそ効く仕組みであると感じます。大企業では決裁に時間がかかったり、導入過程に経営層を入れられなかったりして、デザイン経営の良さが発揮しにくいケースも多くなります。しかし、中小企業では経営層自らプロジェクトに参画して一緒に挑戦する流れになりやすいため、どんどん挑戦を重ねながらスピーディに改善することができ、デザイン経営で得られるメリットを享受しやすくなると考えています。

 

役割を明確にし、共創を促進させている

デザイン経営で外せないのは、多様な視点をチームに持ち込むこと。そのため、経営者や社内のコアメンバーだけでなく、外部パートナーの視点を取り入れることが大切です。そして、多様性のあるチームを機能させるには、多様な人材をひとつの目的に向かって交流させる場づくりが欠かせません。フェーズごとにメンバーの役割を明確にし、共通言語をもちながら、学び合える関係性を築き、共創を促進させていく。そんな共創の旗印としてデザイン経営を活用するのです。

推進する際には順番が重要

過去のプロジェクトの中で、ミテモ株式会社の澤田哲也さんからお聞きしたことなのですが、デザイン経営は、「ブランドデザイン(ブランドビジョンの言語化)→デザインをベースにしたイノベーション(デザイン思考による商品開発)→ブランドコミュニケーション(ブランドの姿勢を示し、ビジネスに昇華させる)」の順に進めていきます。この順番を入れ替えることはできません。最初のブランディングができてなければ、イノベーションは起こしづらいし、定着もしない。そしてイノベーションがないのにブランドコミュニケーションをしても、意味がありません。この順番を守り、真摯に向き合うことがデザイン経営では求められます。

 

スキームを使ってみる、事例を見てみる

デザイン経営に取り組んでみたいが、何から始めるべきかわからないという方は、手始めに「ビジネスフレームワーク」と検索し、どれか一つテンプレートを入手して、それを埋めながら自社のビジネスモデルに向き合ってみてください。実際に手を動かしてみると、自社に足りないところが見えてくるはずです。

そして、デザイン経営を実践している企業の事例を見てみることも有効です。ロフトワークでも、デザイン経営を実践する企業の事例記事をたくさん公開しています。事例を見る意義は、「具体性」が見えてくることにあります。

たとえば、中小企業のデザイン経営実践に向けて講座とハンズオンプログラムで支援を行った「Dcraft デザイン経営リーダーズゼミ」では、「付加価値額+3%」「給与支給総額+1.5%」「事業場内最低賃金≥地域別最低賃金+30円」という目標を満たす3~5年の事業計画の策定に取り組みました。

このように、具体的な目標数値を持ってデザイン経営に挑戦することで、自分たちが何に向かっていきたいのかが明確になりますし、そのために付加価値を付けていくことに対する意識を高めることができます。その参考として、事例を見ることは非常に有効なのです。

なお、ロフトワークではそのほかにも「そもそもデザイン経営とは」という意義から咀嚼するための「デザイン経営 GUIDEBOOK」も公開しています。こちらも一読されますと、デザイン経営への理解が深まるはずです。

「中小企業に対する導入支援」と「デザイン人材の育成支援」の違い

私がこれまで支援してきたプロジェクトは、中小企業のみなさんの強さを引き出す「導入支援」と、デザイン人材に経営の素養をインプットする「人材育成」の2つに分けられるとお伝えしました。では、それぞれどのような特徴・利点があるのでしょうか。特に「デザイン人材の育成」は強みを想像しにくいかもしれません。そこで、両者の違いを「プロセス」「アウトカム」がどうなるのか、「共創パートナー」「専門家」との関係性にどのような傾向が見られるのか、という4つの視点でまとめてみました。

 

中小企業に対する導入支援

  • プロセス…導入フェーズから時間をかけて企業の内面を深掘りできるので、ビジョンの更新にたどり着きやすく、事業後の展開にも発展しやすい側面がある。
  • 共創パートナー…プロジェクトの成功確率を高めるために、課題や属性に合わせたデザイン人材を柔軟にアサインすることができる。
  • 専門家…役割を相談しながらアサインできるので、適材適所で配置してチームの強度を高めやすい。また、専門家側にも継続的な関わりを通じてメリットを提供しやすい。
  • アウトカム(成果)…パートナーとして関わるデザイン人材によって、結果は大きく変わる。デザイン人材をコーチングしながら最後まで伴走できる立場の人がいると、成果を出しやすくなる。

デザイン人材の育成支援

  • プロセス…デザイン人材に対する学習プログラムの提供がメインになるため、プログラム内で出題する課題を企業の実態に沿ったものにすることで、育成と同時に具体的な解決プランを得られる。
  • 共創パートナー…デザイン人材を育成したい企業が主体となり、課題の難易度を適切に設定できれば、後のビジネスにつながる有意義なマッチングにつなげられる。
  • 専門家…中間発表会や相談会など、デザイン人材に対するレビューを行なう役割を担う。主催企業との関係も考慮する必要があるため、人選が難しくなることも。
  • アウトカム(成果)…最終的な成果の品質は、プログラムに参加したデザイン人材の力量によって左右される部分が大きい。

デザイン人材の育成支援に地方自治体が参画する意義

では、そんなデザイン経営の「人材育成支援」のプロジェクトは、どのような形式で実践されるのでしょうか。もっとも典型的なものが、地方自治体が主導するケースです。

日本企業の99.7%を占め、各地域に拠点を持つ中小企業・小規模事業者にデザイン経営を導入していくことは、地域の未来を描いていくうえでも欠かせないものとなっています。地方自治体が「地域のデザイン人材の育成支援」を行うことで、地元企業がもつ可能性を広げうる「デザイン人材」を地域内で発掘・育成し、さらには共創を促すことによって、地場産業の活力を生み、魅力を高め、持続可能性を向上させることができるのです。

自治体の皆さんの参考になる「人材育成」の一事例として、「ふるさとデザインアカデミー ichi」をご紹介します。

「ふるさとデザインアカデミー ichi」は、経済産業省・中小企業庁の「令和元年度ローカルデザイナー育成支援に関する委託事業」として、中小企業・小規模事業者やその支援者を対象に、全国20エリアで開催。デザインと経営の両面から地域課題を解決する人材を育成し、地域の事業者によるデザイン経営や効果的なデザイン活用を促すことで、地域経済の活性化や地域課題の解決につなげることを目的として実施しました。

以下の実施報告書では、地方自治体などで実施する際の参考情報として、プログラム実施概要とその成果をはじめ、運営体制、協力いただいた専門家、費用規模まで、具体的にご紹介していますので、ぜひこちらもあわせてご参照ください。

デザイン経営は魔法の薬ではない

ここまで、デザイン経営実践のポイントを紹介してきましたが、そもそもデザイン経営は万能の魔法薬ではないため、もちろん欠点もあります。絶対にやらなければいけない、というものでもない。

ただ、デザイン経営に取り組むことで、「自社の内面に向き合える」という大きなメリットが得られるのは確かです。一度立ち止まって自社を見つめ直した結果、デザイン経営をやらないという決断に至ったとしても、そこまでに得られたものは価値として残るはずだからです

そして「デザイン経営は中小企業にこそ効く仕組みである」とお伝えしましたが、リソース面で制約のある中小企業が個社で取り組むには、確かに大変な面も多々あります。デザイン経営がより浸透しやすい環境を生み出すためにも、行政の皆さんにご協力いただきたいと考えています。

今後、ロフトワークではデザイン経営を学び合えるプラットフォームを作っていきたいと考えていますし、中小企業にデザイン経営を組み込みながら新規事業開発を行い、地方銀行から投資を受けられるような事業スキームを作っていけたらとも考えています。

これまでにたくさんの事例や参考文献を公開していますので、気になるものを以下よりご覧いただき、自分たちも何かやってみたいと思われた方は、ぜひお気軽にロフトワークにお問い合わせいただけるとうれしいです。

ロフトワークは、経営におけるデザイン戦略・実践パートナーとして、あなたの会社のデザイン経営導入を支援します。

デザイン経営は、デザインの力を活用して、会社のブランド構築やイノベーションを創出していく経営手法と示されています。「これまでとちがう経営手法」と聞くと、なんだか魔法の杖のように聞こえるかもしれません。しかし、実際のところはこんがらがった課題の山をひとつずつほぐし、ありたい会社像へと編み直す、地道で道のりの長い変革活動です。

わたしたちは、そんな活動の始まりから伴走し、最終的にはわたしたちがいなくても活動が広がっていくための、道具と仕組みをデザインしていきます。

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