【後編】ゼロ・ウォーター・ビル Kurita Innovation Hub
眼に視える水、眼に視えない水を創造する
水は、私たちの暮らしや産業を根幹から支える、なくてはならないものです。水がなければ人は生きることができないのと同様に、水が途絶えてしまうと経済活動そのものが絶たれることになります。いわば、水は、私たちにとってのすべての生命線でもある。一方で、暮らし、産業はどのようにして水に支えられているのか?水はどこから来て、どこへどのようにして流れていくのか?実際に、水というインフラにどのように私たちがどれだけ支えられているのか、眼にすることが難しいからこそ、日頃から意識することもとても少ないという方々がきっとほとんどだと思います。
一方で、気候変動によって、水枯れの問題などが世界中で今非常に危機的状況にある中で、このまま、果たして、私たちは「蛇口をひねれば、いつでも潤沢な水を得ることができる」という認識のままで良いのでしょうか。産業面では特に、水は製造工程における洗浄等使用するものを取水するだけではなく、使用した水を再生し、綺麗に戻していくという観点とプロセスそのものが非常に重要になってきます。
本インタビューでは、半導体など電子部品の製造工程に不可欠な超純水の製造・供給をはじめ、産業の発展を支える水処理事業を展開する栗田工業株式会社の研究開発拠点である「Kurita Innovation Hub(クリタ・イノベーション・ハブ)」のセンター長 中山哲さんに、産業における水処理とはなにか、お話を伺いました。また、栗田工業株式会社が株式会社日建設計とコラボレーションし、日本初「ゼロ・ウォーター・ビル」を達成した「Kurita Innovation Hub」の構想やその背景について、日建設計エンジニアリング部門機械設備エンジニアリンググループアソシエイト青井 健史さんにも同席いただき、お二人からじっくりとお話を伺いました。インタビューは前編・後編に分けてお届けいたします。
聞き手・執筆・編集:小川敦子
インタビュー撮影:鈴木 孝尚(16-design)
話を聞いた人
中山 哲
栗田工業株式会社 アドバンスドイノベーション本部 管理部門長 兼 KIHセンター長
1993年に栗田工業へ入社後、一貫して研究開発領域に携わる。開発企画、新事業企画を経て、新事業推進やオープンイノベーションの推進を担当。船舶分野での新事業創出、宇宙分野での新規技術開発、国内外スタートアップとの協業など、多様なプロジェクトをリードしてきた。 現職では、技術開発および新規事業開発に関する業務管理に加え、研究開発拠点「Kurita Innovation Hub(KIH)」の運営を統括している。
青井 健史
株式会社日建設計 エンジニアリング部門 機械設備エンジニアリンググループ アソシエイト
大学では建築物の衛生設備に関わる研究を専攻し、日建設計に入社後はさまざまな用途の設備設計に携わる。衛生設備の専門家として、水の有効活用をテーマとしたZero Water Buildingや、自然循環機能を深掘りした環境建築の模索・実現に取り組んでいる。設備設計一級建築士。空気調和・衛生工学会 第34回篠原記念賞を受賞し、各種学会の委員会活動にも参画している。
小川 敦子
株式会社ロフトワーク アートディレクター
2020年ロフトワーク入社。コンセプトメイキング、組織デザイン、コーポレート・ブランディング、SX、都市戦略デザイン設計を主な得意領域とし、経産省中部経済産業局、大垣共立銀行との共同プロジェクト「東海サーキュラープロジェクト」(2021-2022)、「椙山女学園大学リブランディング設計」(2022)、文化と経済の好循環を創出する京都市都市戦略2050年都市構想案提唱(2023-2024)等。共にある社会の在り方を描くロフトワーク自社プロジェクト「AruSociety」(2024)を立ち上げる。「水/流域」を起点に自然・社会・産業の基盤価値再構築に挑むコンソーシアム「Water Commons」を今夏発足予定。
後編目次
3. 都市・建築の未来
4. 水の価値再構築とイノベーション
3 都市と建築の未来
自然のサブシステムのような環境システムは、どこまで建築によって再現できるのか

ロフトワークアートディレクター 小川 敦子(以下、小川) 先ほどまで施設内を一巡させていただいて、栗田工業さんの事業の全体像を理解させていただきました。水処理という基幹事業と宇宙などイノベーションに向けた動きが複合的に絡み合っている。おそらく、将来に向けたイノベーション的な展開のみを重視して伝えるのではなく、特に「水と事業の密接な関わり」というこれまでの軌跡と未来に向けたイノベーションの視点を結びつけることは、栗田工業さんとして絶対に外せないんだという、いわば思想・哲学的な発想を伝えることが全体のセンターとしての構成の意図や背景にありますよね。
栗田工業 Kurita Innovation Hub センター長 中山 哲さん(以下、中山) そうですね。やはり、私たちの軸が「水」にあることは、これからも変わらないと思います。実際、社員へのヒアリングでも、「水にこだわりたい」「水で社会に貢献していきたい」という声は、年代問わず多く聞かれました。クリタグループは、水と環境に関わる事業に魅力を感じ、そこに自分のやりたいことや使命感を重ねて集まっている人材の集団だと思います。一方で、これから重要になるのは、「水に求められる価値」や「水が必要とされる場所」の変化どう応えていくかだと思います。「産業の水」向けに、様々なお客様にソリューションを提供するという基本軸は変わりませんが、これまで培った技術や知見をもとに、社会課題の解決につながる新たな価値を創り提供していくことが必要であると考えています。
小川 外部との新たな接点が生まれることによって、水を介した事業の価値がどう変化していくのか、今後は、KIHというハブ機能の価値が発揮されていきそうですね。

小川 ゼロ・ウォーター・ビル全体構想の根幹について、これからの時代において、水の巡り、水循環をエンジニアリングによってデザインするということの意義がどう変わっていくのか、青井さん自身はどう捉えていますか。
日建設計 青井 健史さん(以下、青井) 最近の「環境配慮型建築」と呼ばれている建物は、エネルギーや脱炭素の削減だけに注力されている傾向にあり、その他の要素も含めて総合的に「ゼロ」にする思想で取り組んでいる事例が少ないことが前提としてあります。一方で、環境問題というのは、幅広い領域で起きていることで、それに対してエネルギーと脱炭素の分野だけ取り組んでいるだけでは、そういった複合的に起きている問題は解決できないという思いが根底にあって。加えて、私は水という領域に昔から関わっていて、水に関わる環境をより良くしていきたいという、最初から持っている重みと言いますか、自分自身の哲学のようなものがありました。今回は、栗田さんの案件に設計者側としてアサインされる直前に、水分野の設計者ということで、周囲の推薦と同時に立候補するような形で担当させていただきました。せっかく水をテーマにできそうな研究所を作るのであれば、何か一つ水に関わる要素を可視化できるような建物ができないかというところで考えたのが「ゼロ・ウォーター」というキーワードでした。設計が本格化した2019年~2020年ごろは、日本でそういった構想が考えられている物件は全くなく、アメリカで概念が普及し始めた時期でした。そこをどうやってわかりやすいワーディングで展開していこうかと考えながら、長年取り組んできた結果、ようやく認知していただけるようになってきたと思っています。
小川 自社の価値が可視化されるというか、これまでは視えなかったものをここまで可視化すること、オープンに公開していくことについて、栗田工業の皆さんはあまり想像されていなかったのかなと思うんですけれども。改めて、建物全体で自社の価値というもの、「水の巡り」という、いわば、眼に視えない領域を可視化して表現するということに関して、中山さんは、今はどう捉えていらっしゃいますか。
中山 個人的な、一社員としての意見ではありますが、KIHは今の時代にクリタグループが目指していることを、目に見える形で表現できている場所ではないかなと思っています。直接水処理に携わっていない方にとっては、水処理とは具体的に何をやっているかわかりにくいと思うんですよね。例えば、KIHでは、水処理に使われる配管をモチーフに、水の流れを表現したユニークな外観をデザインしていただいています。それをお客様にご説明すると、「ああ、なるほどね」「ああ、水だからね」などと感じていただけたり、建物そのものをきっかけに「あの建物の会社は何なんだろう」と関心を持っていただけることもあります。単に社名だけ掲げている建物よりは、発信力も印象も大きく異なると思います。館内には、クリタグループの事業や取り組みを紹介する展示があるほか、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)という新しい働き方も、実際の空間として体現されています。KIHは、クリタグループが何を大切にし、これから何を実現しようとしているのかを伝えるとともに、社内外のさまざまな方々とつながり、ともに新たな価値を創造していきたいという想いを具体化した場所だと思っています。

小川 栗田工業さんから日建設計さんへのもともとの依頼は、社内のクリエイティビティを高めること、働いている方々のイノベーションをどう巻き起こしていくかというところだったと、以前お二人からお伺いしたんですけれど、そうだとした場合に、なぜ、そのような創造性というテーマ設定において、日建設計さんがパートナーに選ばれたのだと思いますか?
青井 もともとのきっかけは、この建物の一つ前に栗田工業のグループ会社であるクリタ分析センターの建物を日建設計が担当させていただき、さらに遡ると、約30年前にもクリタ分析センターの建物を担当させていただいた経緯からお話しをいただいたようです。当時は敷地選定を含めてご相談をいただき、昭島以外にも二箇所ほど候補がありました。用途が研究所となるため、危険物や薬品の管理といった面も大事な要素になり、そういった制約がまずクリアできて、その他の法的な制約をクリアする必要があり、あとは研究所としての機能とか平面的な大きさですね、これが叶えられる敷地がどれかみたいな要素から決まっていきます。一番大事なのは水なので、水がちゃんと扱える土地というところも含め、決まったのがここ昭島です。
中山 昭島市に建てようと、そういうところも含めて、そこから日建設計さんがね。
青井 そうですね、土地選定から実施設計まで、一連の流れを担当させていただくことになりました。土地の選定からというのは、なかなかレアケースかもしれないですね。
小川 自治体の昭島市さんの方から、例えばこういう施設を作るという時に、もともとの地下水の取り組みがある中で、「こういうふうにしてほしい」という協議もやはりされたのですか。水のまちである昭島市側としても「こうしてほしい」という思いが、他の自治体さん以上にあったのではないかと思い。自治体の重要なインフラにも関わってくるところだと思うので、どういうアプローチで今回の施設を考えられていったのかなというところの経緯としてお伺いさせてください。
中山 使う水の量が1日1,000トン、建物が道を挟んで2棟構造など水量のインパクトだけでなく昭島市さんにいろいろご相談しなければならない施設ですので、一つひとつ昭島市さんと協議をして作ってきたと聞いています。
青井 昭島市からは、栗田工業という企業が来られることに際して、まちの景観を阻害するようなものは当然作られないでしょうが、一方で、まちのシンボルになるようなデザインを期待していると仰っていましたね、当時は。
小川 そのような意味では、この建物はすでに昭島のシンボルの1つになっているのではないかと、私自身はそのように感じました。実は、初めて昭島駅を訪れたのですが、昭島市が掲げる「深層地下水のあきしま」の姿を眼で視るには、地下水という水脈を想像しないとならないのですよね、当たり前なのですが(笑)。隣の拝島駅の方まで移動していくと、玉川上水などや多摩川流域まで出向けば、美しい水の風景に出会うことができる。水の産業という独自の価値を表現する建物を栗田工業さんが昭島駅の近くに建てたということに対して、地域の人たちは、初めはちょっとびっくりされたかもしれないなと思いながらも、「昭島の水」を表現するシンボルの一つになっていく、いい意味でのインパクトがあるんじゃないかなと思いました。改めて、栗田工業さんの価値を可視化する研究施設を設計されたご自身の想いについて、青井さん、お話を聞かせてください。

青井 はい。当初は研究所として、いわゆる「閉じた」場所としてのご要望をいただいていました。ですが、お話を詳しく伺ってみると、イノベーションにつなげる場所であり、他者とのつながりを大事にしたい、協業を促進いきたいという考え方があり、一方で、閉じた空間に人を呼ぶというのは難しい面があると感じていました。そこで、敷地が2つに分かれていて道路に面しているという条件を活かし、道路に対して企業の顔を見せるというデザイン提案をしました。栗田工業さんのコア技術を全面的に見せてアピールして、まずは「何なんだろう」と知ってもらうきっかけを作るような機能を持たせた方がいいんじゃないかということで提案させていただき、採用いただいたという経緯になります。
小川 社内の皆さんの反応は今どのような感じですか。
中山 今、皆さんとお話しさせていただいている会議室があるこちら棟はお客様にクリタグループの事業や技術をご説明する展示があります。昨年度は6,000名弱の方々にお越しいただき、来訪者は年々増えています。一方、研究棟についても機密保持の観点からすべてを公開しているわけではありませんが、一部で見学を受け入れています。研究棟にお客様が来る状況に、KIHのメンバーは最初はびっくりしたと思いますね。私もびっくりしました。今日ご覧いただいた通り、多い日には3組ほどのお客様が研究棟にも来られる場合があり、30人規模のグループで視察に来られることもあります。ここのコンセプトとか建屋そのものに関心をもち、新しく研究所を建設する際の参考にさせてもらいたいという要望で来られる方がいるんですよね。KIHが様々なステークホルダーとつながるHubを目指しています。そのため、できるだけ多くのお客様をお迎えしたいことをメンバーに説明しつづけています。今では、この建物を起点に、多様なつながりが生まれ、そこから新しい動きが広がっていることを、メンバー一人ひとりが実感しています。お客様が訪れる光景も日常の一部となり、「今日もお客様が来ているな」と自然に受け止められるようになっています。
4 水の価値再構築とイノベーション

ゼロ設定を短期思考で捉えるのか、百年という長期思考のスパンで考えるのか
小川 「ゼロ・ウォーター・ビル」のコンセプトが出来上がった背景として、青井さん含めて日建設計チームで協議して、栗田工業さんへ発案されたということがその始まりなのでしょうか。
青井 私の方から、まず日建設計社内に発案し、その後栗田工業の関係者に発案しました。発想の背景は、先ほどご説明したように水に関わる環境問題に取り組みたいという思いが前提にありながら、そもそも、栗田工業さんの技術はすごい技術なのだけれども、それを一般の方々、特に、建築分野の方々に対して、どのようにインパクトや意義を持って伝えられるかを考えて。発案に約一年かかっています。実際に打ち出したことで、建築業界の中で「ゼロ・ウォーター・ビル」という言葉が普及し、学会の研究テーマにも選択されるレベルになってきたので、ゼロ・ウォーター・ビルというワーディングを使って展開していったのは、非常に効果があったと思っています。
小川 このKIHは日本初のゼロ・ウォーターを達成した場所でもある、と。
青井 日本初というか、日本では正式な評価法がないので、正確に言うと日本に一つもないんです、ゼロ・ウォーター・ビルというのが。アメリカの認証評価法を参考として日本で初めて評価した、「日本初のゼロ・ウォーター・ビルです」という言い方になります。
小川 日建設計さんの中で、こういうコンセプトを軸にして立てるべきだと青井さんが独自の哲学を持って提示した時に、日建の方々の反応はどうだったんですか。
青井 なかなか色々な反応が(笑)。ですが、社内を説得し終えるより先に、まず栗田工業さんを説得しました。日建の社内は、各自がいろんなことに取り組んでいる会社なので、ああだこうだ言う人は少ない会社だと思っています。
小川 何か、また新しいことにトライするんだね、という反応ですね。
青井 そうそう、そんな感じです(笑)。
小川 「ゼロ・ウォーター・ビル」というワーディングを聞いた時の栗田工業の経営層の方々は、どういう反応だったんでしょうか。
中山 当時は、おそらく「え?!何それ?!」というのが率直な反応だったと思います(笑)。そもそも「ゼロ・ウォーター」という考え方が、水処理分野と建物では全然違いますから。栗田で言う「ゼロ・ウォーター」は、水を100%再生し、循環利用を目指す考え方ですが、この建物は80%の水再生を目指しなおかつ、雨水などの浸透、水循環を建物全体で考えている。意味は理解できても実施する意味を見出すのは少し時間がかかったと思います。
小川 外部の視点としては、水のリーディングカンパニーという存在意義を示すのに、この建築の設計はすごく辻褄が合っているんじゃないかなと思いました。
青井 考える領域や視点が違うと、最初は皆さんそんな感じのリアクションでした。最初に学会の論文案持って、こんな感じで発表して、「ゼロ・ウォーター」で打ち出したいんですよという相談をしたら、「何それ?!」というリアクションだったんですけども、何度か考え方や予想される反響についてご説明したところ、「日建さんがやりたいならやってみれば」というリアクションに変わっていただけたというか、諦められたのか(笑)、良しとされたのかは分かっていませんが。
小川 青井さんの粘り勝ちと言いますか、日建設計さんという専門家集団に共通する独特の気概というものがありますよね(笑)。
産業と地域との豊かな接続の在り方について考える

小川 栗田工業さんは、創業以降、実に多様な領域の産業界のあらゆる水を再生させ、地域へ再び巡らせることに対してクライアント企業の方々と共に挑み続けて来られていて。企業の方々からは、工場などの施設と地域とのつながりをどう設計していくかということについて相談を受けることも多いのでしょうか。工場で働いている方々の多くは、その地域で暮らしている方が一定数いらっしゃいますよね。産業とは、本来的には地域に深く根差しているものなのだろうなと思い。一方で、「水」は無限ではなく、有限で、本来は一日に使用できる水の総量というのは決まっていて、産業側が搾取し続けるのではなく、水を巡らせることを前提とした工場の設計などが、これからより一層重要になってきますよね。
中山 工場の立地に合わせた問題や課題があるので、必ずといって良いほどそういうご相談を受けます。建設してから何年も経っている工場の対策や、これから建てるけれども水が足りないといった話など、いろんなパターンがあって、本当に現場ごとに対応が変わってきます。
小川 栗田工業さんが担われている役割は、まさに産業と地域をつなぐ循環の要を設計することでもありますよね。一方で、日建設計さんは、最近ではリジェネラティブ型の建築を構想していくことなど、自然環境の課題に対して、数多くの取り組みに挑戦し続けてこられていると思います。青井さんご自身は、都市や地域に果たすべき建築の役割について、どのように捉えられていますか。
青井 今、建物を建てる意味をみんなが考え直し始めている時期にきていると思います。そもそも建物があることで消費だけが起きているという状態ではなく、先ほど説明した還元のように、ビルがある意味、地域に貢献する考え方や流れができていないと、ビルを建てる意味がなくなってきて難しくなってくる。人がいる意味は何か? 人が消費し続けるだけでなく、糞でも尿でもいいのですが、そういった人がいることで発生する副産物を還元することで、逆に街や地域が良くなっていくという切り口で解いていかないと、大都市の建築・拡張は難しいのではないか?と考えています。
実際、これだけ工事のコストが上がって、色々な工事に影響が出ている状況で、ビルをどうやって建てていこうかという停滞感があるように感じます。そうなると、どういう循環をうまく組み込んでいけばビルの価値が定義できるかという手法の思考に進むか、単純にスペックダウンするか規模が縮小するか、どっちかなのかな?というところです。私は循環側を推進したいので、コストの話が前提ではありますが、もう少しうまくそういった機能を落とし込んだ建物や人の流れを作っていかないと、建設の意味を見いだせず、なかなか厳しいかな?というところです。実際そうしていかないと、世界にも通じなくなっていくのでは?と思います。。世界的に地域循環や地域還元するような建物が考えられるようになってきているので、そういうところが大事なんじゃないかなと思いながら、こういう取り組みをしています。
今は地域で言うと一部の取組みに過ぎないですが、もう少し進んだ考え方ができると、さらに良いと思っています。水だけでなく、エネルギーやゴミ、資源といったところですね。特にそういった要素の全てがうまく回るように循環の考え方を改めないと、資源のない日本は厳しい状況に追い込まれると思っています。今までのように建設段階の収益予測を中心に据えて建築を考えていくことが、本当に将来的に日本を良くすることにつながるか?という疑問もあります。

小川 建築の在り方も時代に応じて再構築し続けていかないとならないということですよね。水事業を事業の根幹とされる栗田工業さんとしては、水の価値をこれから未来に向けて、どのように再構築していけるとお考えですか。
中山 難しいですね。「水の価値の再構築」という表現が適切であるかどうか別として、水に新たな価値を見いだし、社会に提供していくことは必要ですし、クリタにはそれができると思っています。
それは水そのものだけでなく、水処理で培った技術が実はここでも使えますといったことも含みます。例えば、紙おむつのリサイクル技術に取り組んでいるのですが、それには水処理で培ってきた技術や知見が活用されています。これは、社会課題に対してクリタが何を提供できるかを考えた結果だと思いますし、水処理だけやっていれば良いという発想からは決して生まれなかったものだと思います。社会課題、お客様の課題に対して我々が培ってきた技術を生かして新たな価値を創る、こういった事例を増やすためにもKIHを起点に様々な方々と繋がり、協創することが重要と考えています。
「再構築」というお話に引き寄せるなら、ちょっと突拍子もないことを申しますと、水はさまざまなものを溶かす溶媒です。溶けてしまったものを取り出すのには、ものすごいエネルギーが要ります。だから水処理にはエネルギーが必要です。そういったエネルギーを減らすためにはどうすればよいだろう、という発想をするならば、極論を言うと、水を使わないことを考えることになるかもしれません。水を使わない世界を作るのも、水処理屋だからできるかもしれないといった考え方もできるかもしれません。また、水は、超臨界状態といって、気体・液体・固体とは違う状態になると全然違う機能を持ったりします。従来の発想から広げるには、我々だけでなく、いろんな人の知恵をいただきながら、というところに繋がっていくので、KIHが起点となってやれることはたくさんあるはずだと思っています。
小川 とても面白い視点ですね! 「水と未来」というテーマで、もう少しお話を伺いたいのですが、今日見せていただいた宇宙分野への事業展開というところも含めて、これから水を起点にどのような新しい未来の社会インフラが生まれてきそうか、社内ではどのような議論がなされていますか。
中山 これもまた難しいご質問ですね。水が新たなインフラに関係するという点では、例えば水から水素を作る取組みが挙げられると思います。ただ、ただ、それを世界中で一律に展開できるかといえば、そうではなく、地域の環境や必要な条件が整った場所での活用になると思います。
ある程度、分散化というか局所最適化にとっての水というものがどういう役割をもつかがポイントと思います。社会インフラ全般というよりも、社会インフラがこうなっていくから、水はこの役割だよねというように、ある意味、後からついていくものかもしれません。国や地域によってそれぞれ事情、状況が違う中でどう対応していくか、その中で新たなインフラが生まれるかもしれませんし、宇宙はまさに取り組むべき分野だと思っています。
小川 青井さんはいかがですか。
青井 少し難しいですね。すでに小規模なシステムで、過疎地とか離島とかで、個別で水循環できるようなシステムは売られ始めています。一方で、水の安全性の観点では若干課題があり、現時点ではコストでペイしないケースが多いと予想していますが、上下水道インフラがもう限界が来ています。都市側からの観点で言うと、そもそも敷設するスペース、更新するスペース自体が無い場所が多いです。道路の下に様々な設備が埋設されすぎていて、限定的な範囲しか工事ができないことが多いです。そんな状況でどんどんインフラが劣化していった時に、周囲の建物の機能は維持したまま工事するため、更新工事のスピードも追い付かず、どうしようもなくなってしまうようなエリア、ビルが当然出てくると思うんです。
そういったケースに対して、バックアップ的に対応できるような水処理装置なのか、システムみたいなものを考えていかないと、たくさんのビルが維持できなくなってしまう可能性があるんじゃないか?というのが一つ考えているポイントです。そういったビルに対してアサインできるようなシステムが未来のシステム・インフラを担うものなんじゃないか?みたいなことは考え始めてはいますけれど、そんなにすぐにはできるものでもありません。とはいえ、都市部でインフラの維持管理が破綻するエリアが出てくるのは近い将来すぐ来てしまう予想を立てているので、そこの葛藤がありますね。いや、もう10年~、20年で来るんじゃないかと思っているんですけど、建物の中にその水処理装置をいきなり入れると言っても絶対無理なので、建物が使えなくなっちゃいました、トイレが全フロア使えません、そしたらどうしましょう?みたいな話になってしまうじゃないですか。そうならないように、いろいろな対策案を考えています。上下水道のインフラもバックアップを取っているケースが多いですが、実際に八潮の事故が起きた時は、なかなかそういうのも機能しなかったわけじゃないですか。緊急的な放流で、川に汚染された水をどんどん流していく。それじゃいかんだろうっていう気持ちがあって、何かできないかっていうのは考え始めています、というのが答えです。

価値を常に再構築し続ける、その連続性の中にイノベーションの種が宿る
小川 ここからは、少し話題を変えて。創造性ということをテーマにお話を伺っていきたいと思います。AI時代だからこそ、A Iを超える、凌駕する人間のイマジネーション力とは一体どういうものだと捉えていらっしゃいますか。中山さんはいかがでしょう。
中山 新たな価値を生み出すためにイマジネーション力は欠かせないと思いますが、何をやるにしても、開発に限らず、生活するとか、人とコミュニケーションを取るとか、そういう仕事においてもイマジネーションはすごく重要だと思っています。すごく狭い捉え方かもしれませんが、自分目線ではなくて、客観的に、相手目線で考える、想像するということはすごく重要なことだと思うんですよ。でも、人間は自分の見たい世界しか見ないので、「相手の立場になってます」とか「価値を提供してます」と言う割には、相手の事情やその背景を知らずに何かをおこなっていることが意外と多いと思います。価値を生み出すにはイマジネーションは非常に重要で、それはデザインされる方とか、創造的な仕事をする人に限らず、全ての仕事に言えることではないかなと思っています。
小川 確かにそうですよね。自分以外のことに眼を向けて、その状況や背景からフラットに想像することによって本当のイノベーションが始まるというのは、まさに真意ですね。では、青井さん自身は、創造性について、また、価値を再構築していくということに対して、どのように捉えていますか? 以前、お話をさせていただいた際には「価値はいつも再構築し続けるものでしょう」と仰っていましたよね。
青井 そういう話になりましたね。日建設計は、いろんな建物をオーダーメイドで設計する会社で、実に様々な分野の方と接する機会があり、計画する建物をどうやって良くしていこうかとか、どううまく使ってもらえるようにしていこうかみたいなところ、今回掲げた「ゼロ・ウォーター・ビル」みたいな新しい価値を付加して、より広義的なものに建物ができないか?みたいなことを常に考えている環境にいるので、それが当たり前になっています。じゃあ、そういった想像力を掻き立てる仕組みを構築するにはどうしたらいいかというと、色々な考え方に触れる機会を創出することだと思います。私は、仕事柄色々な方と接する機会があるので、自ら勉強する意識がなくても色々なことを知れる、割といい環境にいて想像しやすい環境にいると思っています。逆にそういった環境にいない方は、新しい人と接する機会や、新しい情報に触れる機会みたいなものが無いと、なかなか同じ環境にいて同じような仕事をするだけでは難しいですよね、当たり前ですけど。そういった何かきっかけになる機能なのか、機構なのか、場所なのか、何でもいいんですけど、そういったものに触れる機会を作っていかないと難しいのかなと。ネットの環境から与えられる情報だけでは圧倒的に不足していて、やはり直接会話することや、体験して得られる情報でないと、ネットの情報なんてものすごく小さい情報量のもので、不確かな情報が多いので。色々な考え方に触れてもらいたいなというところで、若手には特にそういった機会が出来るように接してはいます。
小川 そうですね、人との出会いや新しい環境と出会うこと、またそこに自ら出向くことで生まれてくる変容という機会をより大切にしていきたいですね。若い方に限らないかもしれませんが、真の情報に触れていく機会がとても減ってきていますよね。それは待っているだけではだめで、自分から取りに行かないと出会うことはできないものだから。
本日は、お二人とも、大変ありがとうございました。







