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手塚 太地, 榊原 理彩子 2026.09.03

いつもの思考の外へ出てみたら?
日立×ロフトワーク 未来洞察ワークショップが生んだ化学反応

未来洞察を通して新しいアイデアを生み出そうとするも、どこか既視感のあるアイデアに落ち着いてしまう。それはデザインやリサーチに携わる上で、誰もがぶつかる壁だといえます。もしも、「自分たちとは異なる思考プロセス」を体験することができたなら、そこにはどんな可能性が広がるのでしょうか?

2026年3月6日、私たちロフトワークのMVMNT Unitは、日立製作所 デジタルエンジニアリングビジネスユニット Data & Design, Design Studio(表記は当時の部署名。以下、日立)の皆さんと、「未来洞察ワークショップ」を共同で開催。

この記事は、二社が互いの思考や手法を共有し、共に未来洞察の可能性を探究した1日を追った記録です。普段はデザインやワークショップを「提供する」立場にある二社が、膝を突き合わせて未来洞察ワークショップの現在地を語り合い、この壁をどう乗り越えるかを考えました。そこで起きた化学反応と、見えてきた「ワークショップとAIの新しい関わり方」について綴っていきます。

執筆した人

榊原 理彩子

Author榊原 理彩子(プロデューサー)

東京都出身。早稲田大学文学部社会学コース卒業。幼少期から大学時代まで、生の舞台と音楽に影響を受けながら活動を続ける。舞台『建築家とアッシリア皇帝』を観て、建築・演劇・音楽が一体となって人の感情を揺さぶる瞬間に衝撃を受け、ジャンルを越えた表現の可能性に魅了される。前職の銀行では法人営業として多様な業界の課題に向き合い、ビジネス視点での課題解決力を磨く。ロフトワークでは、その経験を生かして、クリエイティブの力で演劇や音楽のエネルギーを社会や組織の中に循環させ、人がよりサステナブルに生きられる世界を目指している。

Profile
手塚 太地

Author手塚 太地(クリエイティブディレクター)

京都工芸繊維大学で、生活圏を飛び交うラジオの電波を集めて電力に変換する研究に従事。学部時代に、課題解決のために効率を求めすぎることに疑問を抱き、本質に向き合うデザインやアートに惹かれる。その後、東京工業大学大学院でデザイン思考を実践しながら、エンジニアがアーティストの思考法をトレースする方法について研究。プロジェクト単位で企業の挑戦を伴走し続けるロフトワークに魅力を感じ入社。趣味で“役に立たない”ものづくりを続けており、切実に仲間を募集中。

Profile

なぜ、日立とワークショップを共催することになったのか

「自社のやり方だけでは、どうしても視野が狭まってしまう」――そんな共通の危機感が、今回のコラボレーションの原点でした。

日立の持つ未来洞察手法は、日立のデザイナーが2010年から熱量を持って築き上げてきた手法です。プロジェクトの現場では、この手法を活用し、顧客とともに未来洞察をクイックに進めていく必要がありました。しかし、手法を開発していく中で得られる経験値をすべてのデザイナーが持てているわけではありませんでした。

そこで日立のDesignstudioに所属する金田さんが目指したのは、チームや専門領域を超えて集まり、あらためて未来洞察を学び直す場づくりです。いつもの思考の外に出るため「他社のやり方を体験してみたい」という声に、同じデザイン組織として共鳴したのがロフトワークでした。他社の手法をあえてインプットすることで、既存の枠組みを突破する。そんな純粋な探求心から、この特別な1日が動き出しました。

ロフトワークがこだわった、ワークショップにおける「問いの立て方」

日立と同様、ロフトワークもまた未来洞察のワークショップを数多く実践してきました。クライアントとのプロジェクトでは、テクノロジーの発展がもたらしうる世界を想像する「SFプロトタイピング」や、考古学の手法を未来へと応用する「アーキオロジカル・プロトタイピング」、AIを大胆に取り入れたワークショップなど、多様な手法やツールを取り入れています。

さらに、自社の活動として「imkp Lab. 」という未来構想サービス機関を立ち上げ、月に1回の頻度で未来洞察のワークショップを実施するなど、未来洞察の実践に積極的に取り組んでいます。

SFコミュニティ『#imkp lab』

imkp lab #3のイメージビジュアル。目を瞑った女性が、AI生成された花のドレスのようなものを纏っているイメージ

領域横断型で革新的な未来を語る実験場として、新たなSF思考を作り上げるSFコミュニティ「imkp Lab.(イマケピ ラボ)」を立ち上げ。未来ビジョンの創造・共有のための「SFプロトタイピング」の手法を紹介し、未来を考える視点やマインドセットを探求するべく、テーマの異なるワークショップイベントを多数開催。2026年8月からは第二期の成果展示となる「The NORM Living 人生をプロトタイプする展』を実施しています。

◾️ 新たなSF思考を作る領域横断型のSFコミュニティ「imkp Lab.(イマケピラボ)」

◾️ 2026年9月10日まで開催の『人生をプロトタイプする展』

東京・大阪で開催された未来洞察ワークショップ『Future in Hands』

未来洞察ワークショップ『Future in Hands』のメインビジュアル

ロフトワークが開発した共創型サービス『Future in Hands』を活用し、AIとの共創を通じて未来社会の兆しを捉え、自らの手で未来シナリオを描くワークショップを実施しました。

https://loftwork.com/jp/event/20250624_future-in-hands

今回の未来洞察ワークショップでは、ロフトワークがワークショップ手法と未来洞察のテーマを提供。そのテーマは、「あり得るかもしれない社会像の創造」でした。正解の提供を目指すという普段の“当たり前”の考え方から離れて、「What if ?(もし〜だとしたら? )」を問い続けるワークです。

ロフトワークがこだわったのは、「ポジティブな未来を描く前に、あえてディストピアを考える」というプロセス。「国家解体とDAO自治」や「プライバシーの公共財化」といった未来の兆しを起点に、あえて一度「滅びた未来」のシナリオを描き、そこからバックキャスティングで既存企業の救済策を考えるというワーク設計にしました。

ワークショップテーマを示すスライド。滅びた未来から私たちは何を学び取れるだろうか?と言うメッセージが書かれている
滅びのパターンが図示されたスライド

未来洞察において最初からポジティブな未来ばかりを議論していると、「これは机上の空論では?」というモヤモヤを内心に抱えたままワークが進んでしまうことがあります。けれど、ネガティブな未来や技術の悪用を一度すべて吐き出すことで、「未来の状況をどうにかしないといけない」という未来シナリオに対する当事者意識が芽生え、かえってアイデアが出やすくなる。そんな手応えがありました。

もうひとつ意識していたのが、漸進的な未来予測に陥らないこと。現状を肯定したまま議論を進めると、出てくるのは「改善」止まりのアイデアで、「改革」と呼べるほどのインパクトはなかなか生まれません。これは、イノベーションのジレンマとも通じる構造だと感じています。だからこそ、一度すべての前提や状況を壊してみる。その思い切りが、跳ねたアイデアを引き出す呼び水になりました。

そして、設計に仕込んだもうひとつの仕掛けが、ワークの最後の「振り返り」です。当日の議論の音声記録をAIに渡すことで、議論の流れを可視化するツールを用意しました。このツールでは、実際の議論の道筋だけでなく、「あり得たかもしれない議論の分岐」——あの場面で別の方向に進んでいたら、どんな展開があり得たか——も併せて提示します。発散した思考を俯瞰しながら、辿らなかった世界線にも目を向ける。これは、今回のテーマである「What if?」を問い続けるという姿勢を、振り返りの時間にまで貫くための仕掛けでした。

実際にツールを使ってみると、想像以上に良い反応が得られました。「AIが議論を思いのほかしっかり汲み取ってくれている」という声も上がり、私たち自身、その可能性を改めて感じる場面となりました。

音声記録をAIで可視化した、AIが描く選択の未来にまつわる図版
当日の議論の音声記録をAIで可視化したもの

日立チームの「発展力」と「解釈の多様さ」と交わることで起きた化学反応

ワークショップ中の様子、机を囲む人々に対して、一人の男性が立ち上がって話をしている

実際にワークショップが始まると、私たちロフトワークチームは、日立の皆さんのチームワークに驚かされることの連続でした。なかでも印象に残っているのが、日立チームの「発展力」と「解釈の多様さ」です。

たとえばあるグループでは、社会的評価における「信用スコアの導入」という未来像が、未来洞察ワークの起点となりました。しかし日立チームは、そのユニークなアイデアを出すだけで終わりません。さまざまなステークホルダーの目線からこの信用スコア社会を捉え直すことで、議論は思いもよらない方向へ発展していきました。「マナー違反の通報で小銭を稼ぐ“賞金稼ぎ”が現れるのではないか」、「犯罪情報の収集経路として、ゴシップ誌が新たなビジネスパートナーになるかもしれない」、「動画配信サービス企業にとって過去の犯罪データが資産となり、“犯罪体験コンテンツ”が人気を博す未来まであり得るのでは」。ありきたりな起点から跳躍し、次々と予測される未来の姿に思わず唸らされました。

もうひとつ興味深かったのが、ワークの進め方そのものに表れたグループごとの個性です。今回はあえて手順を細かく限定せず、未来洞察ワークの進め方に自由な余白を残していました。すると、3つのグループはそれぞれまったく異なるアプローチを選びました。提示したやり方をさらに発展させたグループ。時系列とステークホルダーを軸に、システム図のように関係性を整理したグループ。ユーザーの気持ちを描写することで、時代の流れを捉えようとしたグループ。同じワークでもここまで解釈が分かれ、アウトプットの形も大きく変わる。その展開の多様さ自体が、見応えのある光景でした。

AIとの距離の取り方は、もっと自由でいいのかもしれない

ワーク設計にあえて残した「解釈の余白」は、ワークの進め方だけでなく、AIとの付き合い方にも影響を与え、チームごとの個性を引き出していました。

実際、AIの使い方はグループごとに実に多彩でした。ある企業が崩壊するシナリオを描かせる。そもそも“崩壊しそうな業種”を洗い出す。未来の大枠を予想させる。問いそのものを出してもらう。さまざまなAI活用が思考の踏み台となり、最終的に人の視点が加わることで、「AIだけでは出てこないだろう」と思える具体的なアウトプットへと結実していきました。

一方で、各グループに共通する使い方の傾向もありました。画像生成AIの活用と、AIと人との役割分担です。

ワークショップでは、生まれたアイデアを考え直すために、引いた目線から全体を見渡すという場面がよくあります。そのとき、“AIが生成したイメージ”がアイデアの一覧性を生み、議論の足場として機能していました。

AIと人の役割分担も興味深いものでした。大きな社会変化を捉えることはAIが担い、個別具体的な部分や情緒的な価値観を掘り下げることは人間が担う、という棲み分けが自然と成立していたように思います。考えてみれば、大きな社会変化はある程度予測の積み重ねで捉えられるため、AIによる整理に向いている。逆に、細かな変化や、ある視点に立った主観的な変化は、人間の方が捉えやすい。理にかなった分担だったと感じます。

そして、一日の終わりに日立の皆さんからいただいたのが、「AIの使い方やファシリテーションは、もっと自由なスタイルでいいのかもしれない。かしこまりすぎなくてもいいのかも」という言葉でした。

ワークの設計に余白を残したからこそ、3つのグループはそれぞれの進め方を生み出し、AIの使い方もグループごとに自由に進化していきました。それでいて、AIをツールとして扱う共通の感覚が日立の皆さんの中にあったからこそ、AIに頼り切りで人間が介在しないワークにはならなかった。

つまり、AIと人の棲み分けという土台さえ参加者と共有できていれば、「正しい使い方」を決めて渡す必要はない。ワークの余白ごと受け止めてもらい、参加者自身がAIとの距離の取り方を見つけていく方が、むしろ豊かな体験になる——この一日が教えてくれた、大きな発見でした。

日立の皆さんから返ってきたもの

ワークショップを終えて約1ヶ月。日立の皆さんに、率直な感想を伺いました。

「同じテーマでも、カラーがこんなに違うのか」

「同じ未来洞察というテーマでも、カラーがこんなに違うのかと新鮮でした」「ダイナミックな未来を洞察するための問いやプロセスの設計が秀逸だった」——そんな言葉が印象的でした。

特に評価いただいたのが、一度対象の組織や体制を「滅ぼす」シナリオを置いたこと。「一見ネガティブな問いかけですが、それに備えるための議論はむしろポジティブでした」「グレートリセットの状況を議論でき、それが案外起きても不思議ではないと気づける道筋はクリエイティブそのものだった」。狙いがしっかり伝わっていたことに、ほっとしました。

日立では、多様な人を巻き込むために、テーマを「比較的ポジティブで、抽象的に幅広く」設定することが多いそうです。だからこそ、あえてテーマを先鋭化させる設計が新鮮に映ったのかもしれません。「マイナスの未来を想像させるワークショップは、顧客案件で実施しづらい。でも、目的が『一般的な新サービス構想とは違うアウトプットを得る』ことなら、こうした先鋭化は非常に効果的。手法の引き出しとして持っておきたい」という声もいただきました。

AIの組み込み方への気づき

AIの活用についても、多くの気づきを共有していただきました。

「参加者に負担をかけず、議論の流れや内容を可視化していくAIの組み込み方が秀逸だった」。これは、普段ワークショップでツールを使う際に「使いこなし」を参加者に求めないよう心がけている、というプロの視点ならではの評価でした。

さらに、「『あり得たかもしれない別の議論の展開』を途中で提示したり、振り返りで確認したりする使い方は、より深い議論を誘発する強力なエンジンになりそう」「複雑な社会課題を解くには各ドメインエキスパートの参画が欠かせないが、毎回集まるのは難しい。そこをAIが補完する意義は大きい」といった、一歩先を見据えたコメントも。ツールのプロトタイプをAIで素早く開発・適用していくスピード感にも刺激を受けた、と言っていただきました。

デザイン組織同士で交わる意義

「それぞれの会社だからできるやり方や良さがある。デザイン組織同士で想いや悩みを共有することで、それを再確認できる」。

デザイナーは、言語だけでなくレイアウトや色使いなど、多様な手法を組み合わせて幅広いアウトプットを出せる職種です。日立のデザイナーはノンデザイナーと協業する機会も多く、自分の考えを言語化して伝えるプロセスを日々繰り返しているといいます。だからこそ、デザインチーム同士なら多次元的なアウトプットを素早く立ち上げられるし、そこに込めた意図や想いも即座に共有できる。「より深く、スピーディに議論を進められる点に大きな意義を感じた」という言葉が、デザイン組織同士の交流の可能性を物語っていました。

ワークショップ後には、こんな変化もあったそうです。「ロフトワークのオフィスで素材やプロダクトを紹介してもらい、『新しいことができそうだ』とワクワクさせる空間づくりにも色々なやり方があると学んだ。社内で『日頃のワークショップをもっとブラッシュアップできないか』という議論が盛り上がっている」。手の内を見せ合った時間が、確かに次へと動き出していることを感じました。

ワークショップとAI、これからの関わり方

今回の実践を通して、ワークショップにおけるAIの「新しい関わり方」が、はっきりと輪郭を持ち始めました。

大きな社会変化の整理や極端なシナリオの生成はAIに任せ、個別具体的な掘り下げや人間の価値観にまつわる部分は人が担う。この棲み分けを参加者が自然と見つけられたことは、今回のワークショップで確かに手応えを得られた部分でした。「正しい使い方」を規定せずとも、AIは議論のパートナーとして機能する——これは、クライアントを交えたワークショップにAIを組み込んでいくうえでも、大きな示唆だと感じています。

一方で、課題も見えてきました。それは、対話のプロセスをどう記録し、分析するかです。今回試みた音声記録の可視化は想像以上に好評でしたが、ここはまだ試行錯誤の段階にあります。そもそも、後から見返して何を得たいのかを明確にする必要があるでしょう。示唆されたインサイトを記録するためなのか、流れのなかで拾いきれなかったインサイトを後から掘り起こすためなのか。あるいは、「あり得たかもしれない別の議論」を提示したように、もっとクリエイティブに活用するためなのか。目的によって、AIに託す役割は大きく変わってきます。

結び:思考の外へ踏み出し、自らの輪郭を捉え直す

ワークショップ中の様子。一人の男性が参加者に向けて発表をしている

「他社のやり方を体験し、いつもの思考の外へ出る」という試みは、単なる手法の学び合いを超え、「アイデアの探求の仕方と、その進め方」を鮮やかに捉え直す時間となりました。同じテーブルで未来を探索するなかで見えてきたのは、日立の皆さんの物事を面白がる力やスピード感など、ロフトワークにとっても刺激になることばかりでした。

自分たちだけでは視野が狭まってしまうからこそ、他者という鏡を通じて自らの強みや課題に気づかされる。専門性が異なるデザイナー同士も一丸となって試行錯誤を重ねたこの一日は、世代や組織の垣根を越えた「共創」の確かな一歩となりました。未来を構想し、前に進めるための挑戦は続きます。これからも互いの手法を交わしながら、新たな可能性を探り続けていきます。

 

 

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