予想外と不合理こそが、AI時代の価値をつくる。
“トーク”でたどる Loftwork Conference 2026
2026年6月23日から25日にかけて実施された、「Loftwork Conference 2026 『Re:Creation』」。
AIが最適解を容易に導き出す時代において、組織・地域・社会の未来をひらくヒントはどこにあるのか。人間らしい創造性の源泉とは何か。正解や効率の外側にある価値を求めて、全13のトークセッションを開催しました。3日間それぞれにDay1「テクノロジー・社会基盤と暮らし」、Day2「経営・アカデミアと創造性」、Day3「地域・都市・産業と未来構想」というテーマを掲げ、様々な実践者の方をお呼びし、議論を深めました。
本レポートでは、各セッションのポイントを振り返り、どんな兆しが見えたのか約1万字のレポートを通じて紐解いていきます。「正解や効率の外側にある不合理をどう価値に変えられるか?」という問いに向き合った3日間。鍵を握るのは「実践者であり続けること」と「当事者を増やすための仕掛け」という2つのポイントでした。
イベントのアーカイブも公開しておりますので、このレポートで気になるセッションをのぞいて、ぜひ本編をご視聴ください。
Day1|テクノロジー・社会基盤と暮らし ― 技術やビジネスを実装するための共創
Day1は、テクノロジーやビジネスにおける「基盤・仕組みづくり」が大きなテーマ。技術やビジネスの新たな可能性だけに着目するのではなく、その社会実装を支える仕組みやマインドセットといった俯瞰的な視点から「Re:Creation」の可能性を探っていきました。
【DAY1-A】フィジカルAIは「人の代替」ではなく、身体知をつなぐインターフェースになる

登壇者(写真右から)
- 田中 由浩(名古屋工業大学 大学院工学研究科 教授)
- 長島 絵未(株式会社ロフトワーク バイスMTRLマネージャー)
開幕を飾った、1-A「Physical AIが書き換える人間中心社会」では、Physical AIと人間の技能の関わりに焦点が当てられました。登壇した田中由浩さん(名古屋工業大学大学院 教授)は、実世界と物理的に相互作用するフィジカルAIの動向と人間の身体性研究の知見を重ね、人とAIの共生の形を提示しました。
田中さんが強調したのは、人間の知覚が身体に深く依存しているという事実です。例えば、「硬さ」の感じ方は、触れる側の指の硬さとの相対関係で変わります。さらに、触れ方や粗さの感じ方には大きな個人差もある。人は一人ひとり異なる「環世界*」を生きており、身体を持つフィジカルAIもまた、人とは異なる独自の環世界を獲得できるかもしれない、といいます。
その上で田中さんは、フィジカルAIを単なる「人の代替」ではなく「人の身体知や技、感性の多様性を接続するインターフェース」と捉え直すことを提案しました。職人とAIが動きを重ね合わせる「身体融合ロボットアバター」の研究では、言語化できない暗黙知を無意識の介入を通じてAIに伝え、逆に人がAIから学ぶ双方向の関係を目指しています。人からロボットへ、ロボットから人へ。技能が循環し、人間自身の可能性が広がる社会こそ、フィジカルAI時代の人間中心社会の姿だと締めくくりました。
*ドイツの生物学者のユクスキュルが提唱した、生物がそれぞれの感覚器官を通じて主体的に構築する世界のこと。
【DAY1-B】グレーゾーンを好機に。Airbnbと考える共創型のルールデザイン

登壇者(写真右から)
- 大屋 智浩(Airbnb Japan株式会社 執行役員 公共政策本部 本部長)
- 水野 祐(弁護士〈シティライツ法律事務所、東京弁護士会〉)
- 中圓尾 岳大(株式会社ロフトワーク プロデューサー)
この人間中心の発想は、社会実装のルール作りにも及びます。1-B「ビジョンを実現する、共創型のルールデザイン」では、水野祐さん(弁護士/シティライツ法律事務所)が、法律やルールを制約ではなく社会を望む方向へ導く「道具」と捉える「リーガルデザイン」の考え方を紹介しました。
もう一人登壇したのは大屋智浩さん(Airbnb Japan 公共政策本部)。同社が提唱する新たなビジネスモデルに対して、利用者や住民が安心して使える環境づくりに取り組んでいます。大屋さんは能登半島地震の際、既存の民泊ルールが二次避難所としての活用を想定していないために生じた、いくつかの障壁を指摘しました。被災者を受け入れたい事業者がいても、当時のルールでは「宿泊」とみなされ活用が難しかったため、行政に働きかけて「避難は宿泊ではない」との解釈を得た経緯を語っています。
お二人の議論のなかでは、行政を対立相手ではなく、ともに新しい仕組みを作る相手として捉える視点を共有しました。ルールの整備が技術の進化に追いつかない、いわゆるグレーゾーンは、避けるべき欠陥ではなく、社会課題に向き合うための機会にもなり得る、という視点が共有されました。
【DAY1-C】核融合技術が問う、無限エネルギー時代の暮らしと倫理

登壇者(写真右から)
- 武田 秀太郎(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 准教授/KMD研究所フュージョンインダストリー研究センター センター長/京都フュージョニアリング共同創業者/マルタ騎士団ナイト)
- 小原 和也(弁慶)(株式会社ロフトワーク MTRL事業責任者)
一方、1-C「未来のエネルギー技術が変える産業と暮らし」に登壇した武田秀太郎さん(慶應義塾大学KMD/京都フュージョニアリング)は、太陽と同じ核融合反応を地球上で再現する、核融合エネルギーの実現に取り組んでいます。水素を燃料とし、二酸化炭素を排出せず、事故のリスクも低い技術として、日本は2030年代の発電実証を国家目標に掲げているといいます。
核融合技術は、事実上の「無限のエネルギー」を現実にします。その前提に立つと、エネルギー不足から実用化が進んでいない、大気中から直接二酸化炭素を回収する「DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)」の技術も実用可能となり、これまで人類が排出し続けてきた二酸化炭素のサイクルを逆転させることすら可能になるかもしれません。
これだけの革命は、当然新たな社会課題も生み出すでしょう。武田さんが投げかけたのは、資源の制約が消えたとき、人類は際限なく活動できてしまうのではないか、という問題提起。つまり、無限のエネルギーを自滅的な消費や争いに使うのか、地球環境を修復することへ向けるのか。技術がもたらす自由の先で、社会全体の倫理観が問われることになるでしょう。
【DAY1-D】「所属」から「関与」へ。個人の熱量を活かすプラットフォームの条件

登壇者(写真右から)
- 藤田 祐司(Peatix Japan株式会社 共同創業者・代表取締役/Peatix Inc. CMO〈最高マーケティング責任者〉)
- 浅見 和彦(株式会社ロフトワーク AWRDプロデューサー)
1-D「個人の熱を価値に変えるプラットフォームとは」では、「所属」から「関与」へと社会が移行しつつあるという視点を起点に、これからのアイデンティティやコミュニティのあり方について議論が交わされました。終身雇用や企業中心の価値観が揺らぐなか、「どこに所属しているか」ではなく、「何に関わり続けているか」が、その人らしさを形づくる時代が訪れつつあります。一方で、登壇した藤田祐司さん(Peatix Japan 代表取締役社長)は、会社という居場所が持つ安心感や価値も依然として大きく、「所属」と「関与」は対立するものではなく、世代や価値観によって共存していくものではないかと語りました。
また、推し活や副業、地域活動など、多様なコミュニティへの参加が広がる一方で、「関与しなければならない」という新たな息苦しさが生まれる可能性にも言及。企業や自治体には、人々の多様な関わり方を支え、その経験を価値へとつなげる制度設計が求められると話しました。その意味で、公募やイベントは、人と社会が新たな関係を築く「最初の関与」を生み出す装置になり得ます。ロフトワークが運営する「AWRD」も、作品を集める場ではなく、多様な人や地域、企業が出会い、共創へとつながるきっかけを育むプラットフォームとして、新たな関与を生み出す役割を担っています。
Day2|経営・アカデミアと創造性 ― AI時代の価値は、余白とナンセンスから生まれる
Day2は、「創造性」というキーワードを、企業経営・アカデミア・そして個人という3つのレイヤーから捉え直していきました。経営者からアーティストまで、幅広いゲストの議論でも共通していたのは「管理しすぎないこと」で生まれかわる価値がある、というものでした。
【DAY2-A】今、アカデミアに必要な空間とは。大学を社会にひらく「未完の場」

登壇者
- 伊藤 亜紗(東京科学大学 未来社会創成研究院 DLab+ディレクター)【写真中央左】
- 小堀 哲夫(株式会社小堀哲夫建築設計事務所 代表、法政大学教授)【写真中央右】
- 宮本 明里(株式会社ロフトワーク Layout シニアディレクター)【写真左】
- 野島 稔喜(株式会社ロフトワーク Layout シニアディレクター)【写真右】
「未完の場がアカデミアを社会へひらく」では、大学教育と新たな空間のあり方について議論。伊藤亜紗さん(東京科学大学 未来社会創生研究院 DLab+ディレクター)は、学外スペース「もしも」の企画において、「いかにサービスをしないか」を意識したと語りました。あえて未完成な余白を残すことで、利用者が「自分が手を加えないと場が良くならない」と感じ、自発的に場を作り上げていく当事者意識が引き出されるといいます。
小堀哲夫さん(建築家/法政大学教授、小堀哲夫建築設計事務所)は、名古屋大学構内にある「ComoNe」を設計する際、多様な目的のエリアに加えて、あえて何もない広場を残したと述べました。「何もないことが価値を生む」という方針を貫き、公園のように整備された場所よりも、空き地や土手のような管理されすぎない「遊び場」の雰囲気を大切にしたといいます。議論は空間だけにとどまらず、大学や教育における「余白の力」にも言及し、いきなり社会で試す前に「安全に失敗できる時間/空間」を設けることの必要性が見えてきました。
【DAY2-B】デザインが紡ぐ組織戦略。弥生とコクヨが描く「余白」の経営とは

登壇者
- 武藤 健一郎(弥生株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO)【写真中央左】
- 安永 哲郎(コクヨ株式会社 経営企画本部 クリエイティブセンター クリエイティブ室/YOHAK DESIGN STUDIO クリエイティブディレクター)【写真中央右】
- 岩沢 エリ(株式会社ロフトワーク Culture Executive/マーケティング リーダー)【写真左】
- 諏訪 光洋(株式会社ロフトワーク 代表取締役社長)【写真右】
この余白の発想は、企業経営にも通じます。2-B「経営とデザインの10年戦略」で、武藤健一郎さん(弥生株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO)は、「会計業務は“正しさ”が最重要で、AIによる自動化の影響を最も受けやすい領域」と紹介。しかし、その上でデザイン組織を新設し、AIとデザインを組み合わせ、新たな価値創出に挑戦。あえて正解のない試行錯誤も経営に取り込んでいると語りました。
一方、安永哲郎さん(コクヨ株式会社 経営企画本部 クリエイティブセンター)は、自社のリブランディングを牽引し、創業120周年を機に自社を「好奇心を満たす会社」として再定義。そのために必要だったのは、徹底した対話と、製品や事業の多様さを武器にして表現や活動に落とし込むアプローチだったといいます。
会計と文具・オフィス空間という異なる事業領域で、経営者とデザイナーという異なる立場から「経営とデザイン」に取り組むお二人。AIが効率や正しさを担う時代だからこそ、デザインの視点をプロダクトに留めず、組織や体験などの人間らしい領域に活用していく可能性が示唆されました。
【DAY2-C】真に自主性を育むとはどういうことか。マヤの人類学から問い直す教育の未来

登壇者(写真右から)
- 落合 一泰(学校法人明星学苑 理事長)
- 藤原 里美(株式会社ロフトワーク シニアプロデューサー)
議論は再び教育へ。2-C「マヤのフィールドから教育をつくりなおす」では、文化人類学者であり明星学苑理事長を務める落合一泰先生が登壇し、ロフトワークの藤原里美と共に「学びの未来」を紐解きました。
落合先生が、マヤのフィールドワークから得たのは、自らの常識が通じない世界で「当たり前」を疑い、異なる視点や矛盾を「面白がる」越境の視座です。この経験は、異なる分野の教員が同じ教壇に立って議論を交わす「クロッシング科目」として、実際の大学教育にも活かされています。
しかし、日本社会には「役に立つか」を優先する実利主義(プラグマティズム)が根強く、その評価軸が子どもたちの好奇心を抑圧し、本来自由であるはずの探求学習すらも「やらされ感」に変えてしまうジレンマがあると落合先生は指摘します。
現代は、AIがデータリソースに則った最適なパターン化を生み出し、ますます情報が溢れる複雑で混迷した社会です。そのなかで、既存の枠組みに「選ばされる」のではなく、自ら変化を面白がり「自由と責任(自在に生きる力)」を発揮していくためには何が必要なのでしょうか。人類学と学校経営の視点が交差する対話の詳細は、ぜひ個別レポートをご覧ください。
【DAY2-D】ナンセンスを排除せず、リソースに。AI時代の編集技術と創造性

登壇者(写真右から)
- 宇川 直宏(現“在”美術家・DOMMUNE主宰)
- 安藤 昭子(株式会社編集工学研究所 代表取締役社長)
- 原 亮介(株式会社ロフトワーク MVMNTユニットリーダー)
DAY2のトリとなる、2-D「ナンセンスを貫く知性が、世界を作りかえる」では宇川直宏さん(現”在”美術家/DOMMUNE主宰)が、安藤昭子さん(編集工学研究所 代表取締役社長)、ロフトワークの原亮介と共に、松岡正剛氏が確立した「編集工学」とAIをめぐる考察を展開しました。
従来の「編集」とは、人間自身が情報やモノの間にある文脈を捉え、センスや身体性を通じて取捨選択や再構成を行う営みです。しかし、AI時代においては、プロンプトさえ用意すれば誰でも作品を作れてしまう。そのなかで重要なのは、AIが提案する突拍子もないイメージや、予測不可能なバグといったナンセンスの塊を、あえて排除するのではなく編集リソースとして採用する意思を持つことではないか、と宇川さんは提案します。
安藤さんも、この提案を受け、松岡正剛氏が21世紀のキーワードとして掲げた「インタースコア」を紹介。これはまったく異なる文脈同士を交差させて新しい意味を見出す編集手法です。エジプト人がシリウス星の動きとナイル川の氾濫を結びつけて「時間」の概念を発見したように、一見無関係な領域を掛け合わせることが、新しい発想の源泉になるといいます。
未完成であること、正解がないこと、不合理であること。これらを排除せずに、むしろ面白がって受け入れる姿勢や技術こそが、未来を形作っていく。それは「AIに対する人間の創造性」であると同時に、「AIがあるからこそ磨かれる創造性」でもあります。AIのサポートがあるからこそ、本来人々が「面白がる」範囲は広げていけるはずです。
経営・教育・空間・編集という一見かけ離れた視点の議論がつながることで、「AI時代の創造性」という大きな問いに対する、表裏一体の筋道が見えてきました。
Day3|地域・都市・産業と未来構想 ― 曖昧な価値を捉える長期の営み
Day3のテーマは、地域や都市、産業といった、より長い時間軸での「Re:Creation」を考えること。自然・感性・身体などをキーワードに、大きな社会課題に対して、どこに目を向けるのかが鍵となりました。
【DAY3-A】変わらないために変えていく。10年後の地域らしさを紡ぐ物語のデザイン

登壇者
- 岡田 弘太郎(一般社団法人デサイロ 代表理事)【写真中央右】
- 黒江 美穂(ディアンドデパートメント株式会社 副社長/ショップ事業部ディレクター)【写真中央左】
- 二本栁 友彦(株式会社ロフトワーク ゆえんユニットリーダー)【写真右】
- 日髙 拓海(株式会社ロフトワーク ゆえんユニットプロデューサー)【写真左】
3-A「10年後の地域らしさを問い直す」では、地域の営みとブランド価値がテーマ。本セッションでは「地域らしさ」について、問いの視点を重視し、登壇者も参加者も共に考えながら、それぞれの「地域らしさとは何か」を持ち帰ってもらうことを目指しました。
冒頭は、登壇者がそれぞれが思う「地域らしさ」の事例を紹介。黒江美穂さん(D&DEPARTMENT株式会社 副社長)は、富山県井波町の木彫り職人が、技術を残すために「樽を彫り、みんなでビールをつくる」ことに挑んだ事例を挙げました。一方で、岡田弘太郎さん(一般社団法人デサイロ 代表理事)は、拠点「Unknown Unknown」をオープンした東京・神保町について、「古いまま変わらなかった結果、いつの間にか時代の最先端のまちになった」と紹介。それぞれ、地域伝統と新たな要素・プレイヤーが掛け合わされることで、地域らしさが「その土地の物語」として育まれていくケースとして語られました。
ロフトワークの二本栁友彦は、「世田谷パン祭り」の活動を紹介。「世田谷に産業を起こすためには何ができるだろう」という問いを考える中で「世田谷にはパン屋が多い」という事実から、住民や子どもたちを巻き込み10年以上の時間をかけて「パンの街・世田谷」という新しい地域らしさとして定着した経緯を語りました。
さらに参加者の皆さんの感想や質問も交えながら、対話形式でセッションは進行。「地域らしさは、誰か一人が定義するものではなく、歴史や事実を起点に、そこに生きる人々の営みや対話が重なり合い、長い時間の蓄積の中から生まれてくるもの」という示唆も見えてきました。
しかし、これもあくまで見方の一つ。「これが地域らしさ」をあえて定義せず、会場にいる一人一人が自分の胸に問い直す。そんな時間になりました。
【DAY3-B】曖昧な感性を評価する仕組みが、都市の可能性をひらく。読売広告社・大林組の挑戦

登壇者(写真右から)
- 船橋 俊一(株式会社大林組 理事 本社営業総本部 担任副本部長 スマートシティ推進室長 一級建築士)
- 小関 美南(株式会社読売広告社 コミュニティクリエイションビジネス局 都市生活研究所/CIVIC PRIDE®ポータルサイト編集長)
- 小島 和人(ハモ)(株式会社ロフトワーク プロデューサー/FabCafe Osaka 事業責任者)
この長期的な視点の意義を、都市の評価基準から紐解いていったのが、セッション3-B「市民の感性が、都市の価値に変わるとき」です。読売広告社の小関美南さん、大林組 スマートシティ推進室の船橋俊一さんと共に、ロフトワークの小島 和人(ハモ)が、感性データをまちの評価指標として活用するプロセスについて議論しました。
小関さんは、住民がまちに対して感じる愛着や誇り、まちをより良い場所にするために関わっているという当事者意識を伴う、ある種の当事者意識に基づく自負心を指す言葉である「シビックプライド®」に関する発信活動や市民がまちに求めることと実態、理想とニーズのずれを可視化し、まちづくりの戦略策定へ繋げる取り組みを紹介。船橋さんも、大林組が推進する『みんまちⓇプロジェクト』の実践を引用しながら生活者の課題やニーズを客観的なデータで把握し、全体最適と個別最適を両立させる「生活者視点のスマートシティ」の可能性に言及しました。
船橋さんは、まちづくりを効率主義のKPIで考えるのではなく、歩道や広場といったパブリック空間に自由なアクティビティを許容する「余白」を残すことが重要だと提唱。ただ、その余白を「なんとなくいいもの」に留めるのではなく、具体的なイメージを明示する必要があるという議論も生まれました。余白に代表されるような「曖昧なもの」の解像度を高め、評価する仕組みを作ること。それがAI時代のまちづくりの鍵になるのではないでしょうか。
【DAY3-C】250年先の社会を見据えて。パナソニック・栗田工業・日建設計と考える、企業に問われる想像力

登壇者(写真右から)
- 青井 健史(株式会社日建設計 エンジニアリング部門 機械設備エンジニアリンググループ アソシエイト)
- 中山 哲(栗田工業株式会社 アドバンスドイノベーション本部 管理部門長 兼 KIHセンター長)
- 臼井 重雄(パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員グループCCO〈兼〉ブランド・コミュニケーション戦略グループ長)
- 小川 敦子(株式会社ロフトワーク アートディレクター)
3-C「水のめぐりと価値の再構築」では、「水」をキーワードに、エンジニアリング、建築、そしてデザイン経営の視点から、これからの企業に求められる長期的な価値創造と「イマジネーション力」について議論しました。
中山哲さん(栗田工業株式会社)と青井健史さん(株式会社日建設計)からは、建物内で可能な限り節水と排水再利用を行い、水資源の消費を実質ゼロに近づける、日本初のゼロウォータービル「Kurita Innovation Hub」の機能や実践を紹介。つづけて、臼井重雄さん(パナソニック ホールディングス株式会社)は、創業者の松下幸之助氏が掲げた「250年計画」を引き合いに、事業の責任者が「ありたい未来」を描き、バックキャストで現在の行動を変革する、パナソニック流のデザイン経営の考え方を語りました。
臼井さんは、AIが効率化を加速させる時代において、短期的な財務指標や生産性だけを追いかけると「仕込めないしジャンプできない」といいます。「250年計画」に代表されるような、世代をも超える長期視点と、内発的な思いから未来を描く「イマジネーション力」こそが重要だと提唱しました。中山さん、青井さんも「水の価値」「建築の価値」はそれぞれ変わりゆくものであり、長期目線で分析・評価していく重要性に言及。3社それぞれの視点に立ち、長期視点での企業のあり方を問い直すセッションとなりました。
【DAY3-D】100年後の都市へ。人と自然の営みが共生する、都市環境のかたち
登壇者
- 小山田 徹(公立大学法人京都市立芸術大学 理事長・学長)【写真中央】
- 柏井 一成(独立行政法人都市再生機構 西日本支社 都市再生業務部 事業推進課)【写真右】
- 浦野 奈美(株式会社ロフトワーク SPCSオーガナイザー)【写真左】
3-D「生き続けるための都市環境とは」では、、小山田徹さん(京都市立芸術大学 理事長・学長)と、柏井一成さん(都市再生機構〈UR都市機構〉西日本支社)が登壇。小山田さんは、大学の移転が地域の再開発を後押ししてしまうことへの危機感から、京都駅前に人間がコントロールできない自然を配置する「100年の森」構想を語りました。柏井さんは、大阪・森之宮の拠点「ほとりで」を紹介。オフィスビルを改修し、多世代の地域住民が古着のリメイクやカフェの運営など、自らの関心で「暮らしのイノベーション」を実践し交流できる場を提供しています。
一般に都市開発は「経済的な賑わい」を目的とします。その中で両者の実践は、都市における「誰のものでもあって誰のものでもない共有地」を、資本主義的な所有の概念から切り離し、市民あるいは自然の生態系と共有していけるか、というものでした。小山田さんは100年の森構想を、あえて「現代の感覚で見れば”無価値”なもの」と語ります。100年・1000年後の都市を作るために、「都市環境に適度に快適なグリーンを入れよう」ではなく、都市と野生がどう共存できるか、あるいは、自然と人間の営みが本質的に共生する未来をどう描けるのか。これから我々がしなやかに生き伸びるために、自然に向き合う力を都市においてももっと養う場所が必要なのではないか。痛快でしなやかな都市環境のあり方を構想するセッションでした。
【DAY3-E】AIが導けない価値を求めて。身体で未来をリサーチするという実践
登壇者
- 水野 大二郎(京都工芸繊維大学 未来デザイン工学機構 教授)【写真中央】
- 大川内 直子(株式会社アイデアファンド 代表取締役)【写真左】
- 丸山 翔哉(株式会社ロフトワーク MVMNTプロデューサー/サウンドアーティスト/imkp Lab.所長)【写真右】
最後を飾ったのは、セッション3-E「未来を演じ、身体でリサーチする」。水野大二郎さん(京都工芸繊維大学 教授)からは、想定される未来のシナリオに実際に入り込み、参加者が他者になりきって即興的に演じる「LARP」という手法を紹介。演じて終わるのではなく、体験後の振り返りを通じて新しい気づきを議論することが重視されているといいます。
文化人類学の視点をビジネスリサーチに応用する、大川内直子さん(株式会社アイデアファンド 代表取締役)も、フィールドワークで得た知見を組織に浸透させる際、頭で理解するだけでなく身体を使って体得していくことが重要だと語りました。AIが二次情報を瞬時に処理する時代ほど、時間をかけて現場に浸る調査の価値が高まっているのです。
人類学のようにミクロな視点で対象を「観察する」行為と、デザインのようにプロトタイプを作って現場に「介入する」行為、そしてLARPという身体的な没入体験。いずれも身体性をキーワードに、まだ見たことのない未来を具現化し、意味や価値を作り直すためのリサーチの可能性が示唆されました。
未来を構想する力の重要性は、これまでも何度も議論されてきました。しかし、それは「思考」に限った話ではありません。3日目の議論で語られたのは、まだ見ぬ価値を「今、ここにいる私の感性や身体性」につなげることでした。最適解は、誰もが納得するけれど、誰の心も動かさない。だからこそ、N=1の偏愛を起点に、多様な人々を巻き込み「私たち」相互の主観へと広げていくこと。そして、次世代や人間以外の言葉を持たない存在も含めて、豊かな営みを続けていくこと。そのためにこそ、私たちの技術と想像力が試されている、と言えるのではないでしょうか。
予期せぬ何かを巻き込むことと、これからの創造性
3日間のトークセッションでは、価値の再創造を問う実践者たちによる議論が展開されました。実はその裏で、イベントの中で「アソビ企画」と呼ばれるアクティビティも並走していました。これは「余白や遊びこそが、AI時代の創造性の源泉になる」という狙いから、トークセッションとは対をなす、いわば「二面性」として企画されたものでした。
アソビ企画のレポートはこちら
面白いのは、あくまで別の面として想定されていたはずのこの2つの企画が、蓋を開けてみれば「正解や効率の先にある不合理を、どう楽しみ価値に変えるか」という同じ問いに辿り着いていたことです。
そして、改めてセッションを振り返ると、この問いへの回答の一つとして「当事者を増やす仕掛けと仕組み」が重要になることが見えてきました。
- 未完成要素をあえて残し、誰かが手を加えたくなる場をつくる
- ルールのグレーゾーンを好機として、行政・民間が新しい価値づくりに挑む
- 教える側と学ぶ側を分けず、人とAIが共に技を磨き合う
- 住民をまちの評価者ではなく参加者として巻き込む
- 身体性を持って、複数名で未来の構想に没入する
AIの答えや効率性を否定するわけではありません。ただ、その先の想像もしえない答えには、一人では辿り着けない。予期せぬ誰かを巻き込み続ける必要があります。それは、まだ組んだことのないアーティストや、市民や子どもたちかもしれない。さらに言えば、人間以外の生物や自然環境、あるいはAIが起こした一つのエラーかもしれない。それらを排除せず巻き込み続ける姿勢と技術が、これからいっそう重要になるはずです。
簡単に答えの出るものではありませんが、カンファレンスを通じて見えてきたAI時代の「Re:Creation」の兆しを、私たちロフトワークも探り続けていきたいと思います。このレポートを読んでくださったあなたも、ぜひ小さな「Re:Creation」から実践してみてください。







