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基 真理子 2026.09.08

本物の「ひと仕事」を、手探りのまま任せる。
新メンバーと組織がともにひらく、オンボーディングプログラムO!O(オー)

私は人事という立場で、新メンバーが「本物の仕事」を任されていく過程を、現場でずっと見てきた。最初は苦労していたメンバーが、あるタイミングから表情を変え、最後には心から楽しそうな顔で、その仕事をやり遂げていく。参加者の熱気が渦巻くあの景色は、何度立ち会っても感動する。

ロフトワークでは、入社したばかりの新メンバーが社外にも公開するイベントを自ら企画し、運営、実施、振り返りまで担うオンボーディングプログラム「O!O(オー)」を実施している

新メンバーに任せるのは、イベント当日の華やかな部分だけではない。会場を押さえる、予算を確認する、必要な手続きを調べる、社内の誰に聞けばいいかを探す。そうした地道な仕事も含めて、新メンバー自身がオーナーとなり、周囲の力を借りながら最初から最後まで引き受ける。

O!Oを続ける中で見えてきたのは、新メンバーが自分の力を発揮するために、丁寧なマニュアルや、特別な学習環境を用意する必要はなかった、ということだった。引き受けた仕事をやりきるための試行錯誤がメンバーを育て、同時に組織の新しい関係もひらく。
この記事では、O!Oが新メンバーと組織、両方の可能性をどうひらいてきたのかを振り返りたい

基 真理子

Author基 真理子(HRディレクター)

兵庫出身、京都在住。フリーター時代にWebの世界に魅了され、独学を開始。百貨店系クレジットカード会社でWeb担当を経て、2018年ロフトワーク入社。ディレクター・PMとして、大規模Webリニューアルやイベント企画運営に携わる。また、大学でPM特別授業の講師を務め、KJ法勉強会など「学び」のデザインにも従事。2021年、病をきっかけに「健やかに働くこと」を考え、HRディレクターに就任。採用から育成プログラム開発まで、人に関わる業務を担う。2024年、PMP®・PMI-ACP®取得。2025年ATDインストラクショナルデザイン認定コース修了。 合言葉は「ENJOY NOISE」。アカハライモリと暮らす。

Profile

「会社を教える」のではなく、会社を使ってもらう

多くのオンボーディングには、理念や制度、業務知識などを伝えるインプットの時間がある。O!Oでも、仕事をするうえで必要な基本情報はもちろん伝える。その上で、最も重要な体験として位置付けているのが、3か月から半年という期間で、実際に人を集める公開イベントを一つ、新メンバーに任せることだ。

ポイントは、仕事の一部分だけを切り出して経験してもらうのではなく、一つの仕事を最初から最後まで自分でやり切ることにある。自分の関心から問いを立て、企画を考え、必要な人に協力を求め、会場や予算を調整し、参加者を集め、本番を迎え、終わったあとに振り返る。途中でわからないことや、思い通りにいかないことが出てきても、それも含めて一つの仕事として引き受ける。

仕事を前に進めるために、新メンバーはロフトワークの人や知見、場所、これまで蓄積されてきたアセットを自分で探し、周囲の力を借りながら使っていく。そうすることで、会社についてただ一方的にインプットするのではなく、実際に会社を“使う”過程で、「誰が何を知っているのか」「この場所では何ができるのか」「ロフトワークはどんなやり方で仕事をしているのか」を、自分なりに理解していく。

それぞれの関心や探究を起点に、企画から実施までを自らやり切る

「ひと仕事(一仕事)」が、創造性をひらく

この「一つの仕事を最初から最後までやり切る」という考え方の背景にあるのが、社会人類学者・川喜田二郎氏が提唱した「ひと仕事」だ。それは、自分にとって、あまりやったことのない有意義な仕事を、自分の力で初めから終わりまでやってのける体験を持つこと。川喜田氏は、こうした「ひと仕事」をやり遂げることを、人間の創造的な行為と結びつけて考えていた。そして、創造的な行為が成立する条件として「自発性」「切実性」「モデルのなさ」の三つを挙げている。自分から取り組むこと、自分にとって取り組む必然性があること、そして、あらかじめ正解となる手本がないことだ。(参照元:川喜田二郎『創造性とは何か』祥伝社,2010年)

O!Oにも、この三つの条件と重なる設計がある。

企画のテーマは会社から与えず、新メンバー自身の関心や違和感、問いのなかから探していく。その問いを自分の中だけで終わらせず、周囲の力を借りながらも、実際に外部の参加者を迎える公開イベントへと形にするところまでやり切る。そこに完成形を示すマニュアルはない。O!Oが新メンバーに経験してもらいたいのも、まさにこの「ひと仕事」だ。

ちなみに「O!O」という名前自体にも、この思想が埋め込まれている。0(ゼロ)から「!」を見つけ、ひと仕事(○)をやり切る。左右の「O」を目、中央の「!」を驚きの表情と見立てると、発見して驚いている顔にも見える。自分自身の発見、参加者の発見、ロフトワークにとっての発見——3つの「O!」がつながる瞬間を、名前そのものが表している。

本プログラムの社内向けイメージロゴ。O!Oという名称には、「0からひと仕事をやりきる」という意味をこめた。

答えがすぐ出る時代だからこそ、あえて探索してもらう

O!Oが新メンバーに渡しているのは、答えではなく、探索するプロセスだ。

AIを使えば、会社についての情報も、わからないことへの答えも、以前よりずっと早く手に入るようになった。情報を探すこと自体は、どんどん効率化していい。O!Oで体験してもらう、何を問うのか、誰に会うのか、得た情報をどう捉え、次の行動につなげるのかという「探索するプロセス」は、あえて省略しない。

その最初の実践となるステップが、入社2日目に取り組む「ロフトワーク自身のリサーチ」だ。ロフトワークはなぜ生まれたのか、何を強みとしているのか、どんな課題を抱えているのかを、「なぜ」を重ねながら新メンバー自身の手でもう一度調べ直す。数日後には、同じようにロフトワークがもつアセットを掘り下げる宿題が続く。

ここで求めているのは、「ロフトワークとはこういう会社です」という用意された答えを覚えることではない。自分で問いを立て、必要な情報を探し、ときには人に話しかけながら、自分なりの理解をつくっていくことだ。誰に聞けばいいのかも、自分で考えてもらう。

重要なのは、この探索を「会社を知る」ためだけで終わらせないことだ。会社を掘り下げるために使った「なぜ」の型を、次は自分自身の関心や違和感、前職で培った専門性、個人的なこだわりへと向けていく。自分は何に引っかかっているのか。なぜそれが気になるのか。調べ、人に会い、対話するなかで見えてきた自分固有の問いを、今度はロフトワークの人や知見、FabCafeという場、これまでの企画資産と結びつけていく。そして最後に、他の誰かも参加できる一つの公開イベントへと翻訳する

オンボーディングを“口実”に、普段は接点のない先輩メンバーに話しかけるきっかけにもなる

成功だけが、「ひと仕事」の成果ではない

O!Oが目指すのは「完全無欠の大成功イベント」ではない。即座に満員になり大幅増員した企画もあれば、集客に苦戦した企画もある。社外から評価された一方で、運営に課題を残した企画もある。

ただ、どのひと仕事でも、新メンバーは自分の問いを実際の場に変えていく過程で、判断を迫られていた。誰を頼るのか。誰に届けるのか。どこまで準備すれば本番に出せるのか。想定外が起きたときにどうするのか。そこには、あらかじめ用意された正解はない。

だからこそ、「ひと仕事」はきれいに成功することだけを目的にしていない。うまくいかなかったこととも含めた試行錯誤の経験そのものが、O!Oで新メンバーに渡したいものなのだ。

ぶやぶや渋谷

感性を手がかりに、渋谷の見方をひろげてみるまちあるきイベント

親密圏イベント

「これからの親密圏を考える」と題し、さまざまな背景を持つ参加者と、新しいつながりのあり方を考えた

もくもく茶会

疲弊しがちな現代に対する自分自身の問いから始め、薬草茶を飲みながら黙々と作業する場を立ち上げた

素材meetup

クリエイターと素材メーカーの方を繋げ、新たな素材の魅力を考えたワークショップ

まちをなめる

普段見過ごしていることを、ゆっくり歩きながら再発見するイベント「まちをなめる」

正解は渡さない。でも足場は渡す

ここまで書くと、O!Oは新メンバーをいきなり正解のない仕事に放り出すプログラムのように見えるかもしれない。もちろん、そうではない。

O!Oには、進め方を細かく規定した完璧なマニュアルはない。一方で、PMP®資格保有者によるプロジェクトマネジメント講座によって企画運営の基本を伝える。企画書や進行管理の雛型を用意し、伴走者が必要なタイミングでフィードバックする。メンターとの1on1や、上長を含めた面談の機会も設けている。

すべてを教えないことと、何も支援しないことは違う。自分で考え、判断できる余白は残す。でも、困ったときに立ち戻れる型や、相談できる人は用意しておく。O!Oで意識しているのは、その塩梅だ。

一方で、誰に相談するのか、どう協力を求めるのか、意見が違ったときにどう調整するのか。そうした人との関係のなかで仕事を前に進めるプロセスまでは、ショートカットしない。

正解は渡さない。でも、足場は渡す。その間に残された余白のなかで、新メンバー自身が考え、周囲を頼り、判断していくのだ。

イベント運営前にはプロジェクトマネジメントの講義も実施、実行力の基礎を伝える
人事や上長だけでなく、頼れる人をいかに多く見つけていくかを重要視している

人を育てることが、会社を育てることになる

O!Oを続けるなかで、もう一つ見えてきたことがある。ひと仕事によって変わるのは、新メンバーだけではない。一人の新メンバーがひと仕事をやり切るたびに、会社の側にも新しいものが残っていく。

新メンバーが「誰が何に詳しいのか」を探し、人に会い、自分の問いと社内の知見をつないでいく。その過程で、これまで接点のなかった人同士がつながったり、眠っていた知見が掘り起こされたり、FabCafeをはじめとする既存のアセットに新しい使い方が見つかったりする。さらにイベントを外部にひらくことで、新しいパートナーや参加者との関係、新しいテーマや問いも会社の中に持ち込まれる。

つまり、新メンバーは会社にあるものを使って学ぶだけではない。自分の問いを会社に持ち込み、そこにある人・知見・場所と組み合わせることで、入社した時点にはなかった新しい関係や知識、活動をつくっていく。

実際、あるメンバーの企画したイベントは、今後も継続して開催するという話が生まれている。社外活動へとつながり始めているイベントもある。新メンバーの学習のために始まった一つの問いが、本人のひと仕事を越えて会社に残り、別の人を巻き込みながら次の活動へと育っている。ここに、O!Oをオンボーディングだけで終わらせない面白さがある。

オンボーディングは本来、会社にある知識や文化、人とのつながりを新メンバーへ渡していく営みだ。O!Oは、そこで終わらない。会社から受け取ったものを使って新メンバーがひと仕事をし、そこで生まれた問いや関係、知見が、今度は会社へと返ってくる。その循環が起きるたびに、新しいつながりや知見が蓄積され、会社にとっての次の活動の種が生まれていく。言ってしまえば、O!Oは、新メンバーがロフトワークを使ってロフトワーク自身を更新していく仕組みでもある

O!Oを続けるなかで見えてきたのは、人を育てることと、会社を育てることは、別々の営みではないということだった。それを私たちは、入社したばかりの彼らが手がけた数々の「ひと仕事」から教わったのだ。

新メンバーの創造性がひらかれるたびに、組織にも、それまでなかった可能性がひらかれていく。

執筆:基 真理子(株式会社ロフトワーク)
編集:乾 隼人(株式会社ロフトワーク)

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